テレビ用レコーダーに五つハードディスクを接続し、たくさん番組を録画してあるのだが、たしか合計で18TB(テラバイト)ほどあつた容量も疾うの昔に一杯だ。新しくハードディスクを追加するときりがないので、もう買はない。したがつて新しく録画するためには、録画番組を消さなくてはならない。

 
英語や仏語の学習用に、映画が二、三百録画してあるのでこれを逐一見ては不要なものを削除する。番組表の映画タイトルと説明を一応は検討した上で録画予約してゐるので、実際は残したいものが多く、削除率は50パーセントぐらゐか。
 
ウィキペディアやアマゾンを参考に、評価の低いつまらない映画なら即、消さうと思ひつつも、絵画や小説とは比べものにならない資金がつぎ込まれてゐるので、その出来不出来は実際の処、見ないと分からない。他人の評価と自分の基準がずれてゐることも多いのである。
 
放映されるのはテレビ東京がダントツに多いので、ここ30年以内のアメリカ映画が主体である。歴史的な名作は少ない。たまにやるフジテレビや日テレの方に名作が多いやうだ。
 
かうして、昨年末からかなり集中して映画を見始めた。おかげで最近やつと、ブラッド・ピット、ジョニー・デップ、キアヌ・リーヴス、マット・デイモン、ロバート・ダウニーの区別がつくやうになつた。
 
黒人ではウィル・スミス、ウェズリー・スナイプス、サミュエル・ジャクソン、フォレスト・ウィテカー、テレンス・ハワード、アンソニー・マッキー、モーガン・フリーマンと云ふ、覚えにくい名前も口を衝いて出るやうになつた。
 

 

さて、このやうなわけで、昨晩見たのは、「7セカンズ(7 Seconds)」(2005年)と云ふイギリス映画だつた。
 
 
舞台はルーマニア。元軍人タリバー(ウエズリー・スナイプス)らがカジノの売上金強奪を企てるが、謎の集団に襲はれ失敗。仲間は死亡、愛人は捕へられ、タリバーはからうじてトランク一つを奪ふ。
 
偶然出会つたNATOの女性憲兵アンダース(タムジン・オースウェイト)を巻き込んで、彼女の車で逃走。警察を振り切ると一人で、誘拐された愛人の救出を図るが、殺された仲間の兄が地元を取り仕切るヤクザで、タリバーの裏切りを疑つてゐた。
 
一方、解放されたアンダース軍曹は警察から関与を疑はれ、潔白を証明しなければならなかつた。上官の尽力を得て、単独でタリバーと事件の背景を調べる為、タリバーの殺された仲間の身内に会ひに行く。
 
トランクの中身は実はゴッホの名画で、謎の集団とは、これを奪ひ返さうとするロシアン・マフィアだつた…。
 
 
以上、この映画を紹介することは今回のブログの目的ではない。この映画に端役で出てゐた女性が気になつたのである。アンダース軍曹はかなりの美人であつたが、その彼女が、タリバーの仲間で殺された男の自宅を尋ねて、あひ対した悲し気な未亡人が、此れ又劣らぬ美女であつた。
 
この女優を調べようとしたが、この映画自体がマイナーな為、ウイキペディア日本語版はなく、英語版を見ても、その外の映画紹介サイトを見ても「タリバーの仲間で殺された男の妻」の女優の名は出てゐない。「7セカンズ キャスト」でグーグル検索して、写真を全部表示させたときに初めて彼女は現れた。
 
リサ・ロヴブランド/Lisa Lövbrand。1978年ストックホルム生まれ。父はスエーデン人、母はフィンランド人。映画にはスティーヴン・セガールの「沈黙の激突(Attack Force)」(2006年)など4本ほど出演してゐるやうだが、女優としてよりも、歌の方が検索にヒットする。歌手だつたのだ。
 
 
 
 

 

そこで、YouTube検索して、最初に出た "Lisa Lövbrand - I Will Wait For You (Live Nyhetsmorgon 2011)" を聞いてみたところ、これにはまつてしまつたのである。

 

 

 

 

このメロディーは聞いたことがあるなと思ひつつ、映画「シェルブールの雨傘」のテーマ曲であることが分かつた。私はこの映画を見てゐないのだが、なぜか日本語の歌詞が口をついて出てくるのが不思議。以前に、さう、岩崎宏美の「シェルブールの雨傘」を聞いてゐたからなんだ。

 

フランスのミュージカル映画 "Les Parapluies de Cherbourg シェルブールの雨傘"(1964年)の挿入歌 "Devant le garage ガレージの前で" は、 Michel Legrand ミシェル・ルグラン (1932-2019) 作曲、Jacque Demy ジャック・ドゥミ (1931-90) 作詞である。

 

この映画の英語版 "The Umbrellas of Cherbourg" では同じ曲が、 "I Will Wait For You" と云ふタイトルで、Norman Gimbel ノーマン・ギムベル (1927-2018) によつて作詞された。

 

 

下段にリサ・ロヴブランドが歌ふ "I Will Wait For You" へのリンクを貼つたので、是非聞いてほしい。訳も以下に挿入した。

 

ライブ映像でノイズのため鮮明ではない。舌足らずで大変癖のある歌ひ方だが、せつなく胸に迫る。かうまで自分のものにしてゐるのは、ジャズ歌手ゆゑか。

 

 

 

I Will Wait For You (Music by Michel Legrand/Lylics by Norman Gimbel)

 

If it takes forever, I will wait for you
For a thousand summers, I will wait for you
'Til you're back beside me
'Til long touching you
'Til I hear you sigh
Here, in my arms

永遠にならうとも 待つわあなたを
幾千の夏が過ぎても あなたを待つわ
私のもとに戻つてくるまで

あなたに触れるまで
私の腕の中に あなたの

息づかひを感じるまで

Anywhere you wander, anywhere you go
Every day remember how I love you so

In your heart believe
What in my heart I know
That forevermore

I'm gonna wait for you

どこにゐようとも どこに行かうとも
いつも忘れないでね 私がこんなにあなたを愛してることを

心の中で信じてね

私が誓つてゐることを

いつまでもずつと

あなたを待ち続けると

The clock tick away the hours go, one-by-one
And then the time come all the waiting's done
The time you return, find me here, and run
Straight to my waiting arms

時計がチクタク、時を一つづつ刻んで

待ち時間が過ぎて願ひが叶ふ時が来る
あなたが戻り 私を見つけて、まつすぐ腕の中に
飛びこんで来る日がきつと来る

If it takes forever, I'll wait for you
For a thousand summers, I stay right here I wait for you
'Til you're back beside me
'Til I'm holding you
'Til I hear you sigh
Here, in my arms

永遠にならうとも 待つわあなたを
幾千の夏が過ぎても じつとここであなたを待つわ
私のそばにあなたが戻つて来て
私があなたを抱きしめるまで

私の腕の中に あなたの

息づかひを感じるまで

 

 

※オリジナルの歌詞は、リサ・ロヴブランドの歌に合はせて多少変へてゐる。

日本語歌詞は、以下のサイトの和訳を参考にした。
Matt Monro - I Will Wait For You シェルブールの雨傘

 
 
 
 
 

 

最後に、岩崎宏美版のリンクを追記した。彼女の歌い方はフランス語のオリジナル曲直伝だが、リサを聞いて仕舞ふと、没個性的と云ふか平板に聞こえる。愛する人がアルジェリアに出征してゆき逢へなくなる、と云ふ悲しみが強く感じられない。

 

 

 

 

 

 

リサ・ロヴブランドやタムジン・オースウェイトなどはこの先テレビ映画で見ることはないであらう。天は惜しげもなく二物を与へる。また録画を削除できなくなつて困つたことだ。