◆高得点句に寄せて

 

面影は旧姓のまま春日傘  嶋村春旭

 

 日傘を差す女性に対する憧れは男性には特に強いものだと思うが、女性にも優雅な雰囲気を感じさせてくれる。それも、春に差す日傘とは。身だしなみに気を遣って暮らしてきた人柄が想像できる。春旭さんはフェミニストと感じる句が多いと感じていたが、この句は学生時代に思いを寄せた女性に再会し、その変わらぬ姿を懐かしむことに留まらず、更に魅力的になった女性に賛美を送っていると感じる。特選にしたのもそんな女性に称賛を送りたい気持ちと「男性って!」とすっかり現実派の自分を再確認したからに他ならない。(清水千舟)

 

絹莢のパリッと今日の悔いを断つ  清水千舟

 

 俳句には、家事や子育てをしている時に感じた事を詠む「台所俳句」というジャンルがある。女性特有の視点で詠まれた俳句ワールドで、特に杉田久女の句が代表句として取り上げられます。実は、千舟さんも「台所俳句」を多く詠まれていて、佳句も多いのです。

今回の高得点のお句も、そんな作者の真骨頂を発揮した一句でした。使われた季語「絹莢」の鮮やかな緑色、独特な匂いや苦み、そしてその歯触りまで読み手に感じさせます。何よりも中七の「パリッと」のオノマトペが効いていて、絹莢の食感だけでなく下五の「悔いを断つ」心にも掛かっています。悔いをズルズルといつまでも引きずらない、ある種の爽快感さえも感じさせます。千舟さんの、妻として母としての嫋(たお)やかさだけでなく、故郷会津の女性としての決断力や意志の強さが凝縮された佳句でした。(嶋村春旭)

 

<全出句・得点順>

5 面影は旧姓のまま春日傘  春旭

4 絹莢のパリッと今日の悔いを断つ  千舟

3 通帳に利子の僅かやペンペン草  千舟

3 三月の街角ベンチ人を待つ  はつ音

3 流し雛流さず帰る女の子  宝海

3 男(お)の子らは結界を知る雛(ひいな)の間  春旭

3 大川に小糠雨なり春の月  をさむ

3 「戀」読めず「恋」も書けぬに浮かれ猫  春旭

2 春眠の夢に面影置いて来し  耕人

2 風強し春の海あり市場飯  一生

2 橋梁のリベットの罅春日さす  をさむ

2 流し雛くるくる回り沈みけり  溢平 

2 盆梅をひそと豆腐屋店先に  千舟

1 遠からじ赤子泣く声夜半の春  亜紀

1 石段の途中ふりむくおぼろ月  宝海

1 春下田お吉参りの人絶へず  一生

1 鳥帰る透きとほる空昼の月  うらら

1 永き日や買い忘れては又もどり  はつ音

1 風光る丘を蹴り出しテイクオフ  耕人

1 耳遠し目鼻肩腰老いの春  宝海

1 コルティナと白馬を結ぶ雪の宙(そら)  青眠

1 春愁ひ忘れしままのパスワード  耕人

1 何かしら春昼音のしたやうな  うらら

1 いまだ朝歯にしむ水の春浅し  溢平

1 無機質の山手通りの桜かな  亜紀

  茜空の紫の富士つる帰る  をさむ

  彼岸寺慶應義塾に並び立つ  うらら

  花花に埋もる棺や極楽図  溢平

  ボケボケの税申告の春終わる  青眠

  東京ドーム狭しと白球春うらら  亜紀

  かの人と半世紀振りや初ダンス  青眠

  両の手や板前薦む鯥(むつ)煮付  一生

  鉢をでて根を張るばかり土佐みづき  はつ音

                                                       

◾️次回の4月21日(火)は中原道夫先生の句会です。こぞってご参加下さい。会場は新橋・港区生涯学習センター205号室。

【講評】特選五句について 中原道夫 選・評  [兼題]当季雑詠

 

 

おでん囲む白髪同士の青春譚  板見耕人

 

 俳句は極力「説明」を排する形式だとすると〝囲む〟という動作は切り捨て、おでん酒、おでん鍋と名詞形にする方が良い場合もある。青春譚(若かりし頃の話)から、何十年も昔、学生の頃一緒に勉学、スポーツなどやり合った仲間なのだろう。すっかり頭髪も白くなってしまったが気持ちは往時のままであるのだ。

 

粥杖や三代続く婿養子  嶋村春旭 

 

 粥杖を繙く必要がありそう。新年の季語で、小正月に小豆粥などを炊く折、燃えさしの棒で掻き回すのだが、これを粥箸と呼び、これで女の尻を叩くと子が授かると言われる。箸とか棒を男性器に見立てた呪術的行事と出ている。ここでは子供を授かっても女の子ばかり生まれ跡継ぎは婿を迎える―と、それも三代続くとなると所謂〝女腹〟の家系のよう。現代ではもう余り使われない季語の発掘のような句である。

 

探梅や一句の駄句に一万歩  嶋村春旭 

 

 探梅では相当歩くこともある。この作者は自虐的に「駄句」と言っているが、そこまで貶めずとも〝一句を成すに〟か〝一句を得るに〟一万歩とすらりと言ってのけたほうがスッキリする。

 

梅匂う手水舎までの砂利の道  清水千舟 

 

 手水舎と書けばこれは神社境内と判るから、砂利、玉砂利の敷いてある―とまで書く必要もないくらい。俳句は引き算、削れるだけ削った方が瞬発力が出る。この場合は手水舎の設え、ディテールに目を向けた方がいい。

 

暁光の中氷瀑攀る鉄爪で  木下をさむ 

 

 凍瀧をよじ登るという、これも愛好者にとっては達成感のあるスポーツ。それも暁光=朝日が昇り来る時間、足にはアイゼンを付け、手には氷に食い込ませるための〝鉄爪〟。万全の体制でも緊張が伴う。こういう句は実際にやっていないと、机上では出来ない句である。

 

〈全出句・得点順〉

 

入7 補聴器が春一番に吹かれたり  宝海

入6 いないよりいるが幸せ初介護  青眠

入5 春雨や傘をはみ出す肩と肩  溢平

特4 おでん囲む白髪同士の青春譚  耕人

入4 姦しや草餅の数消えながら  うらら

 4 東京のあちこち小さき雪だるま  一生

特3 粥杖(かゆづえ)や三代続く婿養子  春旭

特3 探梅や一句の駄句に一万歩  春旭

入3 雪の夜は独り泣菫読みふける  耕人

入3 老夫婦の連れの放屁や日脚伸ぶ  をさむ

 3 おでんダネ大根あればそれでよし  一生

 3 皸(あかぎれ)もちちんぷいぷい昭和の子  春旭

入2 冬晴れの富士を左右につづら折り  はつ音

 2 千鳥足照らしてくれぬ朧月  溢平

 2 雪灯り城下に藏の影の濃く  千舟

 2 亀鳴くや聞き役となる闇の恋  うらら

 2 雪女郎コルティナへ飛び旗を振れ  千舟

特1 梅匂う手水舎までの砂利の道  千舟

特1 暁光の中氷瀑攀(よじ)る鉄爪で  をさむ

入1 天草や踏絵の足で青き踏む  うらら

入1 黄水仙土手の日だまり指定席  亜紀

 1 バレンタイン品さだめする米寿の春  亜紀

 1 民意とは今朝も変わらぬ百千鳥  一生

 1 空重し屈伸始む雪女郎  をさむ

 1 衆院選足もと危し春の雪  亜紀

 1 淡雪を融かす琥珀のお小水  溢平

 1 初吟行一日一句誓いけり  青眠

 1 失敗の成果もありて春隣  はつ音

   新年の集会写真幸不幸  宝海

   白銀の白馬武田菱や初スキー  青眠  

   雪深々童に戻る選挙かな  耕人

   一本の冬の向日葵(ひまわり)立ち往生  宝海

   園服の顔あからめて春浅し  はつ音

 

■次回3月17日(第3火)は互選句会です。午後2時から新橋・生涯学習センターの202号室。

◆高得点句に寄せて

 口中の海鼠最期の自己主張  嶋村春旭

淺井愼平氏の写真俳句集『二十世紀最終汽笛』中に「生涯は夢の数だけ海鼠くう」「雪月のいのちの片(へん)や海鼠くう」の二句が。どちらも浅井流の洒落たスナップフォトと響き合いながら、前者は〝夢〟後者は〝雪月のいのち〟と、その食感は儚く詠われる。海鼠という珍妙な海洋生物を季題に、人生の感慨を詠むか口中リアリズムに徹するか…つくづく俳句の掌は広い、と嬉しくさせる句である。(板見耕人)

 

胸突坂ワイワイ昇る子等の春  青木青眠

 江戸川橋から細川庭園までの遊歩道は、ここが東京?と思うような冬の裸木が聳え、神田川の治水の由来の案内板があちらこちら。吟行には最適の所でした。都心に坂が案外多いとは聞いていましたが、胸突坂とは…そこを保育園児たちが賑やかにお散歩。歴史深い地に未来の希望が感じられる素晴らしい句です。(清水千舟)

 

新妻に白梅和して祝いけり  青木青眠

 小春日の庭園では婚礼写真の前撮りが行われていた。中七の「白梅和して」が効いている。私が見た時の新婦は色ものの打掛だった。この句の衣装は白無垢だったのかもしれない。(池永一生)

 

神田川の川底あらは春隣  木下をさむ

 江戸川橋から神田川沿いに歩き、都電荒川線の終点、早稲田駅近くでは神田川の川底が見えた。川底は砂地かと思いきや石畳のようで印象に残った。この句の良いのは、春隣という季語が効いて句を引き締め、川の水は枯れたけれどもうすぐ春だよと言っているところ。季語の大切さを感じた一句だ。(青木青眠)

 

年明けぬ眼鏡のままで友逝きぬ  柳沼宝海

 新年という吉と、死という凶の取り合わせの巧さが際立っている句である。それを「眼鏡のままで」という作者の写真家としてのリアリティある観察表現が補完している。「明けぬ」「ゆきぬ」と「ぬ」の脚韻を踏んでいるのも面白い。(木下をさむ)

 

<全出句・得点順>

5 口中の海鼠最期の自己主張  春旭

4 胸突坂ワイワイ昇る子等の春  青眠

4 新妻に白梅和して祝いけり  青眠

4 神田川の川底あらは春隣  をさむ

4 年明けぬ眼鏡のままで友逝きぬ  宝海

3 ここが芭蕉庵紅白梅は凛として  亜紀

3 今生を梅の香りと疾走す  耕人

3 冬の梅肥後の殿様いずくにや  千舟

3 焼芋を食らい練る句の香ばしさ  溢平

3 雪吊りの連なる先や芭蕉庵  をさむ

2 転がりて丸く愛でたし実南天  ナデシコ

2 師は今も後に座すや初句会  をさむ

2 小春日や休庵の扉時の跡  一生

2 国会はもぬけの殻に冬の月  溢平

2 亀鳴くや庵のほとり神田川  一生

2 去年今年一つ一つの余生かな  亜紀

2 腕時計儘よと外す女正月  春旭

2 白梅のそよと揺れれば鳥の立つ  千舟

2 むめが香や細川庭園行きのバス  うらら

1 マフラーと岩波文庫蕪村の句  宝海

1 神田川治水の跡に黄水仙  千舟 

1 記念日を人それぞれの冬深し  はつ音

1 葱さげて診察室へ向かひける  耕人

1 冬麗やビルの真中の庭閑  うらら

1 長閑(しずか)なる手賀を翔るや百合鴎  たけし

1 菊膾はなびらほどく大晦日  ナデシコ

1 枯芒丘へ抜ければ頬から血  宝海

1 黄泉路へと母を呼ぶ声虎落笛  春旭

  四股ふむや未来を担ふ初稽古  たけし

  温蕎麦を鼻水共にすすります  溢平

  梅咲いて望むばかりかパンダの日  たけし

  寒波きぬ日本列島ゆき場なく  はつ音

  冬木立色も得難き風情あり  うらら

  ほら花嫁ゆびさすひとや春隣  耕人

  元旦の日差しふところあおによし  亜紀

  さやかさんホームに見つけ小春風  はつ音

  芭蕉掘る川の紅梅歴史知る  青眠

  大晦日深く植えるよチューリップ  ナデシコ

  山茶花の蜜吸ふ目白鼻の先  一生

 

■今年2月から一滴句会は〝第3火曜〟に変更します。次回の2月17日(火)は中原先生の句会です。会場は新橋・港区生涯学習センター205号室。

特選五句について 中原道夫 選・評  [兼題]当季雑詠

 

冬至湯や四肢の閂外れゆく  木下をさむ 

 

冬至湯と断わらなくとも寒い日の風呂は〝極楽極楽〟気持ちの良いもの。揚句の〝眼目〟は〝四肢〟それも「閂(かんぬき)」という日本の伝統的な屋敷の門や戸をしっかり閉めるための太い横木、その閂を身体の節々の弛緩と見立て❘外れゆくとした妙。可成りの巧者の作と思った次第。

 

八人で足跡二つ雪の峰  木下をさむ  

 

足し算が出来ない訳ではない。八人で雪山に登ったら足跡は十六ではないか?と思う人は読みが浅い。雪の峰、となるとその積雪の量を思う。そう、ずっと先に行った人の〝足跡〟を辿るかのように、その穴に足を踏み入れ逸脱しないように進む。足跡は二つで足りる、という訳だ。

 

半数は未亡人なり忘年会  清水千舟  

 

会社員でなくとも、ジャンルを越えて忘年会くらいやる。未亡人、と断ると男女そろった同級会、同窓会であるかも。ここでも男性(酷使され先に逝くということか)より一般的に女性が残るよう。旦那がそこそこの遺産を残してくれ、急に元気になる未亡人が多いと仄聞する。忘年会に出てくるような人達は言ってみれば〝人生の勝ち組〟なのだ。

 

阿蘇連山かこむ谷間に霧大河  青木青眠  

 

旅吟であろうか? 人事句の多いなかで風景句、それも広い視野、遠景を詠う気持ち良さ。大パノラマを眼前にする。世界でも有数の外輪山を持つ阿蘇。カルデラの中に沢山の町村が生き付く。一望できる場所からの眺め。午前早朝に限らず霧が発生する時期は正に雄大、見事で脅威さえ覚える。

 

箇条書きして大晦日まで二十日  片桐うらら  

 

誰も身に覚えがあり、共感する。季語でいえば〝数え日〟〝年つまる〟辺りの人もいよう。が、この作者は少し早めの二十日。忘れないよう箇条書きにする辺りも用意周到な性格と思われる。気忙しさはまた新年を迎える愉しさ、待ち遠しさでもあるようだ。

 

〈全出句・得点順〉

特7 冬至湯や四肢の閂外れゆく  をさむ

特6 八人で足跡二つ雪の峰  をさむ

特6 半数は未亡人なり忘年会  千舟

入6 高千穂や神楽の抱擁冬ぬるむ  青眠

特5 阿蘇連山かこむ谷間に霧大河  青眠

入5 淑気満つ巫女舞(みかんこまい)の柾目床  風写

 5 デザートを鮟鱇ほどに口開けて  うらら

 4 短日や水平を射る龍馬の眼  風写

特3 箇条書きして大晦日まで二十日  うらら

入3 息白し手負獣追ふ村田銃  春旭

 3 道訊かれ手袋で指す風の街  耕人

 3 身の丈をどうにか合わせ年の暮  はつ音

 3 銀杏散る軍靴のひびきかすかなり  宝海

 3 冬服に遮二無二押され快速に  耕人

入2 海老芋や知らぬ間にヤヤッ緑の芽  ナデシコ

入2 焼芋屋声に纏わる暮れの色  をさむ

 2 ただいまの声待つ窓に冬灯り  千舟

 2 人肌にちろり冷めけりおでん鍋  溢平

 2 富士の山ロマンスグレーに冬来る  溢平

 2 パイプ椅子慣れたる席におでん酒  千舟

 2 鬼火出づ本牧亭の跡辺り  春旭

 2 越後路や山河彩る冬紅葉  亜紀

 2 シクラメンひと目で決めし妻の笑み  一生

入1 甘酒や変わらぬ茶屋の柚子一片  一生

入1 身をせせる人ら黙黙松葉かに  溢平

 1 息止めてCTスキャン老いの冬  宝海  

 1 イルミネーション真実(まこと)は闇の中にだけ  耕人

 1 不忍池枯蓮しずか鯉の口  宝海

 1 始発駅北風の列ながながと  はつ音

 1 日めくりの残り薄きや師走かな  ナデシコ

 1 温石(おんじゃく)とは校門までの縁かな  春旭

   冬の朝花束生ける米寿かな  亜紀 

   落葉風窓をたたいて胸さわぐ  はつ音

   飲み干して御積もりにする忘年会  うらら

   黒川郷凍てる車窓や出羽三山  風写

   山茶花の生垣長し咲くテンポ  一生

   寒暁に夢ちぎれけるあとは謎  ナデシコ

   金色の越後平野の冬の空  亜紀

   天草や十字かすみて船遥か  青眠  

    

■次回1月27日(火)の互選句会は、文京区の『肥後細川庭園内「松聲閣」集会室B』)にて、午前中=周辺自由吟行、午後1時半~5時=集会室で句会。急な変更となりますが、久々の吟行句会を楽しむ機会となりますので、宜しくご参加下さい。

吟行に参加されない方はいつものように「当季雑詠」で出句も可。欠席投句の場合は、耕人のメールもしくはFAXで前日までにご送付下さい。

◆高得点句に寄せて

 

冬ぬくし今も屋号で呼び呼ばれ  嶋村春旭

 

「冬ぬくし」いいなあ。この季語はほっとする句が多いね。「山々に坂が寝そべり冬ぬくし」(佐藤和江)なんて句があり。「冬ぬくし今も屋号で」ということは、もう商売やめているが屋号で呼ばれてる。「ある、ある」と思って読む。この句に会ってよかったです。(柳沼宝海)

 

手の甲の老いの血脈秋深し  柳沼宝海

 

手はその人の個性を強く表すものです。年齢を重ねるにつれ、人生が手によって明らかになるといっても過言ではありません。またこの句の「血脈」という言葉には、経年の変化だけでなく先祖から続く血の繋がりのことも含まれていると感じます。スケール感のある句ですが「秋深し」でグッと身近に引き寄せられました。大切な手、これからの冬に向けて皆様もどうぞお手入れ怠りなきように。(清水千舟)

 

別れ際ふり向くまでの冬の月  青野はつ音

 

なんとロマンチックな句なのでしょう。この句は月の存在が大きいです。別れ際に後ろ姿を見送りつつ、振り向いてほしいと願う作者。彼氏の方角には傾いた冬の月が見える印象的なシーンです。「振り向くまでの冬の月」がいい表現だと思いました。さて彼氏は振り向いたのでしょうか。きっと振り向いたに違いありません。別れを惜しめばきっと。はつ音さん日く「ひとりで居ると月が近い」と、これは名言だと思いました。(池永一生)

 

<全出句・得点順>

6 冬ぬくし今も屋号で呼び呼ばれ  春旭

5 手の甲の老いの血脈秋深し  宝海

5 別れ際ふり向くまでの冬の月  はつ音

4 醤油の香ながるる街や一の酉  をさむ

4 冬蝗(ふゆいなご)真似て終日動かざる  耕人

3 鰹節削る音した冬の朝  溢平

3 忙殺の合間勤労感謝の日  はつ音

3 小春日や卵サンドのふわっふわ  千舟

3 革靴の皺硬くなり冬に入る  うらら

3 諦観も処世の一つ冬支度  春旭

3 稲妻に生死の話途切れたり  宝海

2 冬うらら幾千年の間氷期  耕人

2 漁火のいくつか寄りて冬ぬくし  はつ音

2 コーヒーに渦巻くミルク秋深し  亜紀

2 トンネルをいくつ冬めく岬へと  千舟

2 仏壇に野菊の二本泣いている  宝海

2 二日目のおでん沁み沁み語る父子  溢平

2 何かしら抱へ込むもの神の留守  うらら

2 枯葉とて輝き満つる角度あり  たけし

2 木枯らしや焼き場への道踏みしめる  溢平

2 冬枯の無用の用と思いきや  たけし

2 桐一葉自問自答す吾が余生  一生

1 離れ去る気配かもすや柿落葉  をさむ

1 木枯や秋の背中を追い越せり  をさむ

1 米澤を歯が思ひ出す菊膾  耕人

1 満了の保険の記入小六月  うらら

1 桜紅葉わたしのことももっと見て  青眠

1 昭和見下ろす像にも銀杏の香  青眠

  新米や疾うに食べたり新嘗祭  ナデシコ

  餅搗になくてはならぬ母の餡  一生

  旅立ちに紅葉踏みつつ語らいぬ  青眠

  暮れ早し来ぬかもしれぬ人を待つ  春旭

  いちょうの葉ひらりぴらぴらひらひらり  たけし  

  餅搗は愉し塊り血の騒ぐ  一生

  葱刻み青散らしてぞ蜆汁  ナデシコ

  数えれば半目勝負暮れる秋  亜紀

  冬うらら防災グッズ揃えつる  ナデシコ

  秋日和また一歳(ひとつ)ふへ米寿かな  亜紀

  帰り花変わらぬ暮しこそ平和  千舟

 

 

■次回12月16日(火)は中原句会です。会場は新橋・港区生涯学習センター204号室。句会開始は午後2時~午後5時。句会終了後、会場近くのニュー新橋ビルB1「ひでや」にて忘年会(席数制限あり。申込み頂いた方のみ)を開きます。

特選五句について 中原道夫 選・評  [兼題]当季雑詠

 

訓練の担架に寝たり秋の空  柳沼宝海

 

防災訓練とかで担架で運ばれる役が当たったとしよう。まさかの出来事だが、しばしの間、真上を向いて運ばれるしかない―秋の空をじっくり見ることに。良き経験。

 

秋旅やアサギマダラが来る島へ  池永一生

 

この句は確かに秋でないとダメか? 沖縄で放蝶して2000㎞は飛ぶと言われる。逆のコースはあるのかな?ともかく大分県国東半島の沖にある「姫島」にはフジバカマが沢山咲いているので何千頭と毎年寄っていくのだとか。新聞に出ると知人が切り抜いて送ってくれる。

 

祖母と寝る枕もとには無花果煮  青野はつ音

 

この作者、お婆ちゃん子だったよう。そのお婆ちゃんは歯が無くて柔らかく煮たイチジクが大好物のよう。作者もイチジク煮が好きで、その思い出を詠んだものか。

 

曼殊沙華お七の火刑いま佳境  嶋村春旭

 

八百屋お七が火あぶりの景にされる(昔話)からのイメージを広げるという作り方。死人花とも呼ばれる曼殊沙華―まるで火のよう―という訳で今を盛りに燃え盛っている状態を佳境とした。

 

案の定路地抜けられず鰯雲  木下をさむ

 

案の定―で、やっぱり言ったとおりでしょ、と玉ノ井とか辺りをうろついていたイラストレーターの滝田ゆうさんあたりが出てきそう。戻ってくるしかない訳だが―天をうらめしく見あげると―鰯雲というのが何とも…。草の花とか―まだありそうだが、ここでは秋天を。

 

〈全出句・得点順〉

特6 訓練の担架に寝たり秋の空  宝海

入5 一本の草になりたし大花野  宝海

入4 秋風と荒野をゆけば平家塚  宝海

入4 秋まつり小鉤(こはぜ)外すや帰り道  をさむ

 4 六オンスグラスに宿る秋の夜半  うらら

 4 栗ご飯見舞いの品となる明日  はつ音

 4 別府湾秋陽映して凪極む  一生

特3 秋旅やアサギマダラが来る島へ  一生

特3 祖母と寝る枕もとには無花果煮  はつ音

入3 徳利を振りて確かめ暮れの秋  溢平

入3 穭田(ひつぢだ)や富士の頂白くなり  をさむ

入3 同衾の朝起きがたし冬どなり  溢平

入3 採れたての松茸雨の香りして  はつ音

入3 聳えしは太宰手植えし夾竹桃  一生

入3 通学の子らゆく銀杏踏まぬやう  耕人

 3 ほととぎす小さき喀血に似て咲けり  耕人

特2 曼殊沙華お七の火刑いま佳境  春旭

特2 案の定路地抜けられず鰯雲  をさむ

 2 身に入むや手に受く瓶の化粧水  千舟

 2 晩秋や古きジャズ聴く純喫茶  千舟

 2 天高く禍福あざなふ競馬場  溢平

 1 冬隣ため息で折る千羽鶴  春旭

 1 廃校の机に残る木の実独楽  春旭

   紅葉冷え山菜ソバで旅なかば  亜紀

   秋薔薇(さうび)ひめやか色もはなびらも  耕人

   秋の星誘導路の灯入る頃  うらら

   女子会に新米メニュー暮る今日  亜紀

   畑一面蕎麦の白花ハミングす  千舟

   天高し米軍基地のドッグラン  うらら

   霜降あら満席ね始発バス  亜紀

 

次回11月25日(火)は互選句会です。午後2時から新橋・生涯学習センター

202号室。12月16日(火)は中原先生による句会です。句会終了後5時からは忘年会を開催しますので、是非ご参加下さい。

◆高得点句に寄せて

 

あの世へは着の身着のまま星月夜  板見耕人

  

 あの世は地位も名誉も財産も持っていけない。この世の執着の一切合切がはぎ取られ「着のみ着のまま」になる。その事実にいまさらながら気づかされる。冥途(あの世への道)は真っ暗闇ではなく、月はなくても明るい星月夜。執着からの魂の解放を感じた。(岩田溢平)

 

鳴く鳴かぬ秋虫誰ぞタクト振る  岩田溢平

 

 おそらく作者の庭であろう、秋の虫が鳴いている。それは一斉に鳴いているのではなく、所どころで鳴いており時間も不規則なのである。それを「鳴く鳴かぬ秋虫」と詠んであるのは俳句表現の醍醐味である。鳴いているさまを「誰ぞタクト振る」と願望も含めて締めくくっている。おそらくそのあとは、虫の声も協奏曲のように響きあったのであろう。(木下をさむ)

 

病む我に新米の粥炊きあがる  片桐うらら

 

 誰が炊いてくれた粥なのか・・・というところをあえて不明にしたことで、読者の目の前にも湯気を立てた粥がいきなり登場する仕掛け。すっきりと省略の利いた句でありながら、この情景の奥行きは読み手の想像によってそれぞれに広がる。一時の病を得て弱気になった作者の心を、一椀の温かい粥が滋養とともに回復させてゆく様が、しみじみと伝わってきて心温まる。(板見耕人)

 

補聴器に秋風の音草の音  柳沼宝海

 

 齢を重ねて必要なのがまずは老眼鏡。誰しも自前で過ごしてゆきたいもの。積極的に自身を支えるには補聴器の出番となるが、周りの環境音が強く入り、聞きたい話声は曖昧になって悩ましい。しかるに野に出れば、秋の風音に触れ、乾いた草の音が心地よい。瑞々しい悦びが伝わる。(青野はつ音)

 

<全出句・得点順>

4 あの世へは着の身着のまま星月夜  耕人

4 鳴く鳴かぬ秋虫誰ぞタクト振る  溢平

4 病む我に新米の粥炊きあがる  うらら

4 補聴器に秋風の音草の音  宝海

3 九月来るたましひ気負ふ弱法師  うらら

3 小娘に追い抜かるるや夕立傘  耕人

3 願はくは会津の酒に菊膾  一生

3 沢筋の小屋は近しとナナカマド  はつ音

3 氏神は坂のまんなか秋祭  耕人

2 嘴の黄色き秋刀魚目も清ら  溢平

2 秋場所や花道長し敗け力士  宝海

2 ヒマラヤを雁越してゆき茜空  をさむ

2 グラマンに狙はれし母夏十五  一生

2 神楽坂ジャズの流れて蔦紅葉  をさむ

2 咳き込みて胸が軋むや秋の風邪  ナデシコ

1 朝顔の撮(つま)む眩しさ風のなか  たけし

1 昭和消ゆ精米二代逝きて夏  一生

1 十六夜や皆既月食二度寝なり  ナデシコ

1 ビル地下の能楽堂や秋の声  をさむ

1 人は逝く九月になりてなお猛暑  亜紀

1 喪服着てセブンイレブン秋の夕  宝海

  日常へ巻き戻しつつ仲秋に  はつ音

  秋刀魚の塩焼きメインディッシュの一人飯  亜紀

  雨ふって秋とわかりし石畳  はつ音

  蜩のかなかなの声暮れる今日  亜紀

  秋分や旗日はたはた菊あずき  ナデシコ

  蜩の聞こへてこない世のリズム  たけし

  木の実落つ二科展会の道標  うらら

  萩触るる構図切りかふ陰と陽  たけし

  芭蕉ふと葉音奏でし目覚め時  溢平

 

■次回10月28日(火)は中原道句会の予定でしたが、先生のご都合により互選句会に変更、後日選と講評を頂きます。会場は新橋・港区生涯学習センター204号室です。

【講評】特選五句について 中原道夫 選・評  [兼題]当季雑詠

 

亡き人ら手練れあざやか盆踊  柳沼宝海  

 

 盆踊は亡き人等の供養のためにやるもの(一遍上人が広めたものといわれる)。秋田の西馬音内(にしもない)の盆踊にはまさしく黒頭巾を被った亡者姿の踊り手も編笠の女性に混じって踊る。〝手練れ〟とは熟練の意。生前能(よ)く踊っていた人だったのだろう。彼の世から踊りたくて舞い戻った〝たましい〟と穿ってみた

 

家系図に不詳と載りし魂迎ふ  嶋村春旭

 

 家系図となると広範囲になるが、寺などで法事何回忌―など調べて貰う場合(または寺から〇〇回忌の知らせが来る場合)、過去帳=点鬼簿(てんきぼ)を見ると直系の忌日が判ることになっている。中には子供として生まれても生死の記載のないものもいる。不詳とありぬ―の場合は助詞形〝魂迎ふ〟でなく名詞〝魂迎へ〟の方が。

 

盆の入り御霊忙しく身の支度  清水千舟

 

 盆の入り=迎え火を家の前で焚いたりするわけだが、現世にすむ者、家族もその準備に追われる。彼岸=あの世から茄子の馬でやってくる御霊達は、戻ってくる身支度でこの時ばかりは忙しいと言うのだ。そして送り盆で後ろ髪を引かれる思いで帰って行くのだ。

 

片蔭や俗名戒名より小さき  板見耕人

 

 木蔭の場合は(植物の影ということで〝蔭〟の字)、建物などの日の当たらない側の片陰は〝陰〟の字となる。院号の付く戒名は、ふつうは俗名より長いことが多い(寺に付けてもらうときにも大枚を払うことになるとか)。実際の墓石の表記によるのかもしれないが「小さき」は「短か」としても良いかもしれない。

 

ままごとになくてはならぬ赤まんま  小平春草

 

 子供が「ままごと」をするときに必ず登場するのが、赤まんま=イヌタデの実。ちょうどピンク色をしていて、お茶碗に盛ると〝赤飯〟に見える。ちょっとした空き地などにも生えているので探すという面倒もない。ままごと=飯事、炊事食事の〝まねごと〟の意でもある。

 

〈全出句・得点順〉

特7 亡き人ら手練れあざやか盆踊  宝海

入7 青田波我が血脈の蒙古斑  春旭

入7 終戦日勝者と敗者そして死者  春旭

 6 土偶なべて女の姿盆の月  千舟

特4 家系図に不詳と載りし魂迎ふ 春旭

入4 鈴虫を残してすし屋旅立ちぬ  宝海

 4 盆棚をはなれず泣きて妻の友  宝海

 4 朝顔や命の限り手をかさん  青眠

 4 ひとりにも蚊の一匹がつきまとい  はつ音

特3 盆の入り御霊忙(せわ)しく身の支度  千舟

入3 月照るや郡上踊りの哀一切  ナデシコ

入3 揚羽来る指の感触目覚めても  一生

入3 狭き路地神輿の屋根や削りゆき  をさむ

入3 旱星じろりと里を睥睨す   耕人

入3 秋蟬の声の死に物狂ひかな  うらら

入3 終活や滂沱の汗と塵の山  春草

 3 枝豆を剥き夫の愚痴言える仲  千舟

 3 八十年鬼哭く島の敗戦忌  溢平

特2 片蔭や俗名戒名より小さき  耕人

特2 ままごとになくてはならぬ赤まんま  春草

入2 抜けるにも手掛かりのない酷暑かな  はつ音

入2 同朋と唱え往生蝉しぐれ  溢平

入2 雨夜来線香煙る施餓鬼寺  一生

 2 シーシーと何を隠すや蝉しぐれ  ナデシコ

 2 演じ切るブラスの響き孫の夏  一生

 2 父母逝きて盆に帰省の里もなし  社会

 2 あら怖やざくろ割れにし鬼子母神  ナデシコ

 2 アロハシャツは浅井慎平あらまほし  耕人

 1 秋蝶の胸にドクツドク鼓動あり  春草

 1 前期試験べトコン率いしカンニング  社会

 1 柴犬のしっぽは垂れし稲光  溢平

 1 秋立つや吹く風柔らかき気配  うらら

 1 あきあかね腹部や淡し空の皺  をさむ

 1 四尺玉腹わた震うドンを待つ  社会

 1 炎天下白球追って延長戦  亜紀

   愛受けて路傍に咲くや玉すだれ  青眠

   蛤や全て出揃う夏会席  亜紀

   解放の喜びひとつ麦茶汲む  はつ音

   あえかなる錦の裳裾竜田姫  をさむ

   万緑や一族揃ひ病去る  青眠

   百発の花火フィナーレ動画来る  うらら

   シュミレーション机上プランと夾竹桃  亜紀

    

次回9月23日(火・祝)は互選句会です。午後2時から新橋・生涯学習センター204号室。

◆高得点句に寄せて

 

前掛けは母の分身冷そうめん  清水千舟    

 

 作者は一枚の布切れを見つけたのであろう。その布は、おそらく今はなき母が長年使用していた前掛けである。前掛けは長く使用されていてくたびれており、繕っている個所もあるかもしれない。それを見た時、作者には、前掛けの紐を結び台所で料理をしていた母の姿が眼前に現れ,さらに、母の作った料理や家事などをしている姿が走馬灯のように思い出されたのだ。そのことが母の分身という言葉で見事に表現されている。作者には冷やそうめんが母に強く結びついており、他の料理では置き換えられないのであろう。母に対する愛情と哀惜が込められている句である。(木下をさむ)

 

鰹切るザルツブルクの塩はらり  池永一生

 

 日本の夏の季語「鰹」と、オーストリアの都市名との取り合わせ。〝二物衝突〟の面白さにあふれる句だ。食通の一生さんならではの季題の選択と、句の「料理の仕方」が、読者の心と舌を句に強く引きつけて心にくい。都市の名の由来はsalz(塩)burg(城)=塩の城の意。もちろんオーストリアは海に接しておらず有数な山岳を要する国であるから、昔から良質な〝岩塩〟の産地として有名なのだそう。

作者ご本人によるとこの塩は「ふわふわとした雪の結晶のような」形態とのことで、なるほど日本の塩のような「パラリ」ではなく「はらり」というリアルなオノマトペにも頷ける。句の作り方が実に手際よく、構成もシンプルなところが素材の特長を際立たせる。上五にいきなり赤味魚の鮮烈な色彩が飛び込んできて、中七、「ザクリ」と魚を捌く音感にも似た異国の都市名と旬の鰹が快く衝突する。

…ああ、ここまで書いてきてカツオ食べたくなってきた…(笑)。ちなみに本句のザルツブルク産ではないかもしれぬが「バート・イシュル」「ブレッツエルザルツ」といったアルプス山系の岩塩をネットでも買えるようだ。(板見耕人)

 

<全出句・得点順>

5 前掛けは母の分身冷そうめん  千舟

5 鰹切るザルツブルクの塩はらり  一生

4 梅干すや三日三晩のせめぎあい  ナデシコ

4 香水を言ひ当て過去を語るはめ  春旭

4 葉桜や亡き妻とゐる風やさし  宝海

4 ねぢ花の心待ちする出逢いかな  はつ音

4 生ビール幸せ連れて喉通る  をさむ

3 うきうきと日傘くるくる待ち合わせ  溢平

3 清々と余光に浮かぶ合歓の花  たけし

2 富士の影夏野にかかり小さき湖  をさむ

2 太陽がすぐそこにある暑さかな  亜紀

2 緑陰に寄りて作業のヘルメット  うらら

2 夏暖炉三つ目小僧の隠れ場所  をさむ

2 炎帝に踏まれて呻く餓鬼のごと  溢平

2 バッカスに禁酒の勧め蟻地獄  春旭

2 明易や脈拍聞いて寝返りぬ  うらら

2 日盛りに下校する子等闊歩する  亜紀

2 制服に慣れ少年の大き夏  千舟

1 炎天の天秤にかけ家籠り  はつ音

1 異国人冷房車両犇(ひし)めける  耕人

1 初蜻蛉肩にとまりぬビルの谷  宝海

1 父母今日は天におわすか喜雨優し  耕人

1 見はるかす富良野るり色ラベンダー  うらら

1 朝焼けや化粧せぬまま飛び出せり  一生

1 夏空へ向かう一歩の靴重し  はつ音

1 ピーポーがひっきりなしの大暑かな  ナデシコ

1 眼科帰路遠き日傘の沁みにけり  耕人

  撫子のギザギザ涼し夏日影  ナデシコ

  無花果会席主役脇役全て盛る  亜紀

  主の庭幾年かけて合歓の花  一生

  南風の凪し頃より島灯る  千舟

  赤い実の飾りたてるや山法師  たけし

  野茨の無垢で連れ立つ香りかな  たけし

  かけつけにビール飲み干し泡の髭  溢平

  汚染水どろろどろどろ夏の海  宝海

  病窓を叩くは誰ぞ夏夜雨  春旭

 

 

■次回8月19日(火)は中原道夫先生の句会です。当月も第3火曜日ですのでご注意下さい。会場は新橋・港区生涯学習センター205号室です。

 

【講評】特選五句について 中原道夫 選・評  [兼題]当季雑詠

 

 

折檻の押入れ深き五月闇  嶋村春旭  

 

 子供の折檻によく使われたのが押入れ。暗くて夏には蒸し蒸しとして厭な場所だった。親の口癖は「悪さをすると〝押入れ〟だからね」の時代。押入れの中「に」なのか「の」の五月闇なのか双方に考えることが出来る。中にはその押入れに好んで入って遊び、親の裏をかく風変わりな子もいたものだ。 

 

亡き妻がとなりに居たり昼寝覚  柳沼宝海

 

 昼寝から覚めたばかりの朦朧とした頭、からの妄想。とっくに亡くなっている妻が隣に寝ていたらいいなあとずっと思っているとこういうことになるのだが、誰もそのことを笑えない。そのくらい妻を愛していたという証拠に、涙さえ禁じ得ない。妄想の中でいいから、今一度添い寝をさせてやって欲しい。

 

紅残る吸殻二本梅雨の夜に  柳沼宝海

 

 吸殻(煙草)の吸い口に着く〝口紅〟が少々艶っぽいではないか。昔、吸い口が空洞でつぶして吸うタバコがあった。粋筋のお姐さんが好んで吸うところから芸者タバコと呼んでいた。梅雨の夜から逆説的に読むと、知り合い(お客か?)がなかなかやって来ず、二本も燻らせてしまったようだ。少々の苛立ちも感じられ、それに着目した口紅が印象的。

 

初鰹四の五言はせず厚く切る  池永一生

 

 四の五のを言う=なんのかのと文句を言う、口を挟むこと。初鰹を土佐作りにするのか、もっと薄く、それじゃ厚過ぎる―と外野がうるさいのだ。作者はそんなことに耳を貸さず自分の思う厚さで捌いてゆく。正しくは「四の五の」だが字余りになるので揚句のように改めた。

 

借り手なき居抜きの店舗水中花  嶋村春旭

 

 店舗/水中花と、名詞と名詞がブツかった方が俳句的。「居抜き店舗の」だと上五―中七―下五とベタベタ付いた形で瞬発力に欠ける。内容は物価高騰で採算が取れず潰れた店か。居ぬきでどうぞといっても借り手の付かない状況。水中花からちょっと洒落た洋風の店を想像する。

 

〈全出句・得点順〉

入7 万緑やカラス乗っ取る秘密基地  春草

特5 折檻の押入れ深き五月闇   春旭

特5 亡き妻がとなりに居たり昼寝覚  宝海

入4 梅雨空に灯すがごとく山法師  亜紀

入4 梅雨空に放蕩猫も帰館せり  溢平

 4 黙黙と憂き世に空豆喰うてをる  耕人

特3 紅残る吸殻二本梅雨の夜に  宝海

入3 青臭きままに老いたり蕃茄植ゆ  耕人

入3 ちちははの未だ子で居し草若葉  耕人

入3 土用芽や埋もれる友の遭難碑  をさむ

 3 君想ふ接吻(くちづけ)のごとさくらんぼ  うらら

 3 夜気迫り香水せまる銀座かな  うらら 

 3 父の日や切り切り注ぐコップ酒  溢平

特2 初鰹四の五言はせず厚く切る  一生

入2 姫女苑為せるがままの空家かな  春草

入2 何事もやめてころあい梅漬ける  はつ音

入2 晩年や坂道下る合歓の花  宝海

入2 山藤は勢いあまり折り返す  亜紀 

入2 ふるさとを植田に映す山河かな  亜紀

入2 吹き出でて子らと遊べやシャボン玉  青眠

 2 冷房やエンドロールに席立てり  うらら

 2 ざっぶざぶ洗うラッキョウ手倍速  ナデシコ

 2 干せや干せ梅雨の晴れ間に白タオル  ナデシコ

 2 桜桃忌慕い続ける八十路翁  春草

 2 胃瘻入れ紫陽花まぶし新世界  青眠

特1 借り手なき居抜きの店舗水中花  春旭

入1 朝摘みし甲斐路の土産さくらんぼ  一生

 1 予報士の異例づくめと梅雨もよう  はつ音

 1 お気に入りそのままにして更衣  はつ音

 1 泣き売の身の上話梅雨湿り  春旭

 1 越すミサイル向日葵畑オアシスや  をさむ

 1 梅ジャム酸いも甘いもこき混ぜて  溢平

   袖とおす父の羅(うすもの)移る癖  をさむ

   梅雨間近とぼとぼ狐振り返る  一生

   花南天必ず熟(な)れや赤き実に  ナデシコ

   蟻地獄キングはいらぬ民の手で  青眠  

  

次回7月22日(火)は互選句会です。午後2時から新橋・生涯学習センター204号室。