◆高得点句に寄せて
片陰に行列崩れ友の葬 柳沼宝海
景の明瞭な句である。真夏の炎天下の中、葬儀の黒い喪服の列が通りかかっている。道の反対側に沿って黒さが際立っている日の当たらない涼しそうな蔭がある。列はそこを目指し方向を変え崩れているのである。列を上から俯瞰し、葬儀を客観視している。その中で友の死に対する深い悲しみと哀悼が伝わってくる句である。(木下をさむ)
夜もすがら妻を看し春遠くなり 柳沼宝海
この句の作者はすぐに分かる。最近のことだが、小坂泰子(島華)さんと話す機会があった。奥様の句を詠まれた宝海さんのことをよく覚えていた。小坂さんが句会をお辞めになって十年以上になる。宝海さんの奥様の看病が如何に長かったかが分かる。奥様を一晩中看病した春の日々が遠くなったと言っている。時間は過ぎて確かに遠くなるかもしれないが、一晩中看病をした時のことを思い出している。上五の「夜もすがら」は寝付けずに一晩中思い起こしている今のことでもある。時間という薬があるが、そう簡単なものではない。誠に深い愛情を感じる句だ。それから小坂さんに句会にまた来ませんかと誘ってみた。(池永一生)
この国を叱っているか時鳥 木下をさむ
野鳥の〝聞き做(な)し〟で良く知られているのがホトトギスの「トッキョキョカキョク(特許許可局)」。言葉の内容はともかく、その甲高く連続して鳴き続ける調子は、確かに誰かを叱りまわっているかのよう。心にそう聞こえるのは、紛れもないこの国の不甲斐ない現状が背景にあるからだ。日本という悠久の国の、民と歴史と大倭豊八島たる郷土に、誇りの欠片も持たぬ〝政治屋〟の跳梁跋扈はもうたくさん。そんな輩の不実のみならず本邦を覆い尽くす命粗末の風潮と拝金主義…こんな時世を嘆き叱るのは作者だけではないだろう。憂国の人々の心を代弁するかのように、今日も時鳥が鋭い警鐘を発しながら野山を飛びまわる。(板見耕人)
<全出句・得点順>
5 片陰に行列崩れ友の葬 宝海
4 夜もすがら妻を看し春遠くなり 宝海
4 この国を叱っているか時鳥 をさむ
3 八十年(やそとし)を経てなお汗臭きホロコーストの牢 溢平
2 夏めきて今日念入りに髪洗ふ はつ音
2 特売のチラシ見る今朝梅雨に入る 亜紀
2 半身のみ青葉生やせし古桜 溢平
2 何時となく充電遅し夕薄暑 うらら
2 万緑や我が身を染めてくれにけり 亜紀
2 ユニフォームホームにあふれ風薫る をさむ
2 善き人とまみへし過去や伊那に春 耕人
2 夏の夢戦車のみちに穴を掘る 宝海
2 友は風露店で喰らふ五月の夜 一生
1 花弁にも聖なる愛の時計草 たけし
1 草むしり種をこぼして鳥の庭 はつ音
1 里に大崩落の跡風光る 耕人
1 村長が幕開けを告ぐ春歌舞伎 耕人
1 Tシャツを脱ぎ素肌のままで眠る うらら
1 街外れ少し値上げしかき氷 一生
1 新茶汲みひそひそ話や老夫婦 溢平
1 終活や先ず本棚を風薫る 亜紀
変容の伝播する時山笑ふ をさむ
丘に立ちスマホ動画の麗春花 たけし
街頭のライブステージ五月来る はつ音
梅雨近し矢切の渡し休みをり 一生
泡たてる物使はずに汗流れ うらら
いつ来ても水琴窟の一滴 たけし
■次回6月25日(火)は中原道夫先生による新橋句会です。午後2時~5時。会場は新橋・港区生涯学習センター204号室です。