◆高得点句に寄せて

 

善人のふりして並ぶ初詣  岩田溢平

「善人のふり」が、この句を読む人のさまざまなことにリンクしていく。初詣、我が家では大きな寺社には行かず、氏神に家族で行く。御初穂は前日に届けてある。この句のように〝善人〟の列ができている。

今年は、め組の頭が列の整理役だ。みな善人になりきっている。新年の挨拶があちこちで続く。善人ばかり、ふりしていない。以上が私の善人のふり。いやいや、「ふり」は、いい姿格好の意。さらっと詠んでいるようで素敵な一句だ。読む人が主人公になる。(柳沼宝海)

 

幾何学に雪吊の庭支配さる  池永一生

 

 〝雪吊〟は雪の多い東北や北陸地方の庭園などで、樹木保護のために用いられる。樹冠上部に立てた柱の一点から各枝へと放射状に張った多くの縄によって降る雪の重みから枝が折れないように守る仕組み。冬の風物詩として特に金沢の兼六園の雪吊が有名だ。

 一生さんはこの冬、兼六園を訪れたのだろうか、いくつもの雪吊が織りなす幾何学模様によって庭と空が分割されて現れた風景への率直な驚きが句から伝わってくる。庭園や雪吊といった優雅で情緒的な背景に対して〝幾何学〟〝支配〟という無機的かつ非情な措辞がとても効いていて、句の中に新しい風景を創り出したことに感心した。(板見耕人)

 

<全出句・得点順>

5 善人のふりして並ぶ初詣 溢平

5 幾何学に雪吊の庭支配さる 一生

3 凍てし能登明けの明星見ゆるらむ 一生

3 鏡中に生涯見たり年男 耕人

2 倒裂し孤立無援の冬芽かな たけし

2 初夢に亡母装い高島田 社会

2 今日四日遺影の妻とふたりきり 宝海

2 妻病みて三寒四温の時を待つ 青眠

2 小豆粥人には人の隠し味 はつ音

2 日輪の眞っ向に来る初御空 うらら

2 列島に正月のなえ突き刺さる はつ音

2 山雀の骸一羽ややま凍てり をさむ

1 闊歩するブーツ軽快冬うらら うらら

1 南極の氷のロック太鼓の香 をさむ

1 ラジオ付けベッドの中の夜長かな 亜紀

1 戦火冬街瓦礫命赤ん坊 宝海

1 凍てついた光溶けだす御来光 をさむ

1 なゐの魔手なすすべも無き松の内 社会

1 横時雨若きふたりに傘貰ふ 宝海

1 初日記ぞぞぞ空白恐怖症 耕人

1 震度七令和六年元日の 亜紀  

  約束は神様だけの寝正月 耕人

  未明より豪雪警報被災地に 溢平

  寒椿江戸のしぐさに宙返り たけし

  義援金振り込み寒さ分かち合う 亜紀

  浮かぶまま寒中見舞いに便りのせ 青眠

  もぐやいな朝の香放つレモンの果 溢平

  師に仲間手放すあすや去年今年 はつ音

  新年会裏金以っておもてなし 社会

  鬱金香に球根も売る三代目 一生

  大寒や海賊の海避けてゆく 青眠

  蝋梅の香気さそふも耽美かな たけし

  さまざまな行事始まる五日かな うらら

 

 

次回2月27日(火)は中原道夫先生による新橋句会です。午後2時~5時。会場は新橋・港区生涯学習センター204号室です

なお申し訳ありませんが耕人は当日どうしても仕事で出られませんので、欠席投句は前日までに一生さん(ike.photo@outlook.jp)までメールでご送付ください。