前回記事の続きです.

 

 

 

糖尿病性神経根症(Diabetic Radiculopathy)は,しばしば 糖尿病性筋萎縮症と同列に扱われます.
それは 両者が原因と結果の関係にあるからです.

 

糖尿病性神経根症とは

 

糖尿病性神経根症の『根』とは神経の根元のことです. 脊椎からでた神経の束は背骨の隙間を通過して全身に伸びていきます.この脊椎から出たばかりの神経束が『神経根』であり,そこから枝分かれしながらもっとも伸びた先端が『末梢神経』です.

神経根 (C) Johns Hopkins Medicine

 

神経根障害でよく見られるのが椎間板ヘルニアなどで圧迫されたために発生する神経痛です.しかし,(CTなどで検査して)物理的には全然圧迫されていないはずなのに,糖尿病による血行不良などで神経根から痛みが発生する,これが『糖尿病性神経根症』です.

神経根症 (C) Johns Hopkins Medicine

 

末梢神経障害と異なり,神経の大本から障害されるので,その痛みは神経に沿って広範囲にかつ長く広がります.
第4腰椎からの神経が障害された場合,神経に沿って大腿部から脛の内側にかけて神経損傷と痛みが発生し,これが長期的には当該部の筋肉萎縮を引き起こします.そのため,糖尿病性神経根障害と糖尿病性筋萎縮症は 同じものとみなされます.

 

胸の痛みも

 

また糖尿病性神経根症では,この図の通り;
 

Callaghan 2012

 

大腿部と胸部(肋骨部)に同時に疼痛が生ずることもあります.

胸部脊椎神経根障害 症例 (C) 日本糖尿病学会

 

足腰の痛みというと,まず 椎間板ヘルニアなどの整形外科的な原因が調べられます.

 

ところが糖尿病性神経根障害では,X線/CTで見ても なんら異常がないので,神経障害が発生していることを見落とされる可能性があり,注意が必要です.
 

 

解糖系の先頭打者であるヘキソキナーゼとグルコキナーゼは,どちらもグルコース(=ブドウ糖)にリン酸基をくっつける酵素です.同じ動作をする酵素なのに,どうしてグルコキナーゼだけは肝臓と膵臓にしか存在しないのでしょうか?

 

 

ご興味のある方はご覧ください.

 

 

本館でも この別館でも,糖尿病の病理に関する記事はあまり人気がなくてw,通常 アクセスは少ないのですが,この記事だけは大きな反響がありました.たしかに深刻な症状ですので,『自分は大丈夫だろうか』と不安になった方が多いと思います. この記事について,いくつかお問い合わせもいただいております.

それらは順不同に;

  • (1) これ(=筋萎縮症)は,サルコペニア(又は フレイル)のことか?
  • (2) 最近 足が衰えたが,自分も筋萎縮症なのだろうか?
  • (3) HbA1cがどれくらいになると筋萎縮が起こるのか?
  • (4) 糖尿病罹病期間が長くなると 必ず筋萎縮症になるのか?


などです.(いただいたご質問をパターン別にまとめています)

ご質問(1)(2)は 重要なことですので,最初に結論を お答えします. 筋委縮症サルコペニア(or フレイル)は 本質的には別物です.


筋萎縮症サルコペニア

まず この画像をご覧ください.

Andersen 1997

 

同年齢の 筋萎縮症患者[左]と,健常者[右]の大腿部断面MRI画像です.
筋肉部全体の断面積にはそれほどの差がない点に注目願います.

このMRI画像は T1強調測定ですので,水分(=血液)の多い部分は黒く,少ない部分は白く映ります.
筋肉は血管の塊のようなものですから黒く,逆に脂肪や骨は白くなります.
右の健常者では,筋肉組織は全体に黒く均一で充実しています.
一方 左の筋萎縮症患者では,本来筋肉で埋め尽くされているはずの領域で『霜降り』状に白い部分が多いことがわかります.この部分はもはや筋肉ではないわけで,筋肉組織は崩壊しているのです.

この状態では 触診してもはっきりと差がわかるはずです.
健常者の筋肉はゴムまりをつかんだように張りがあり弾力に富みます.
しかし筋萎縮を起こしていると,大腿部をつかんでも グズグズとしており 反発がありません.

では,サルコペニア,すなわち加齢・低栄養により筋肉がやせ細ってしまった人はどうなのでしょうか?
そのMRI画像がこれです.

(C) 広島市立 広島市民病院

 

左がサルコペニアの63歳男性で,右が25歳の健常 男性です(掲載の都合上 原文画像を左右反転しています).
右の健常男性の大腿部筋肉は,全体が均一できれいに黒く映っています.若いってすばらしいですね.
一方 左のサルコペニア男性の大腿部は,たしかに筋肉が著しく細くなっています. しかし細いながらも やはり全体が黒いので,筋肉組織としての均一性は保たれているといえます. つまり筋肉は細くなってはいるが,崩壊はしていません.

2つのMRI画像を見比べれば,筋萎縮症サルコペニアとは明瞭に区別できることがわかります.
サルコペニアでは筋肉は細くはなっていても,筋萎縮症のように崩壊はしていないのです.

ただし 『足の衰え』という症状だけでは,この両者を区別するのは難しいでしょう.よって 画像診断がもっとも正確な診断法です.(なお CTや 超音波エコーでは,画像の解像度がMRIほど高くないのでやはり診断が困難と思います)

また筋萎縮症サルコペニアは,『足の衰え』という意味では 似た症状ですが,治療法は異なると思います.

サルコペニアの場合は,筋肉は崩れているわけではなく,ただやせ細っただけですので,良質な蛋白質を十分にとり,無理のない範囲で レジスタンス運動,つまりリハビリを根気よく続けていけば 快方に向かいます.すなわち 治療法・対処法は明確です.

一方 糖尿病性筋萎縮症の方はやっかいです.
医学文献の書庫として もっとも信頼性の高いコクランライブラリーを見ますと;

 

『糖尿病性筋萎縮症の免疫系に作用する治療法』

 

糖尿病性筋萎縮症は、神経根を含む広範囲な腰仙髄領域の糖尿病性末梢神経・根障害[※]、大腿部における糖尿病性神経障害、ブルンス・ガーランド(Bruns‐Garland)症候群などとも知られており、糖尿病患者に見られる珍しい末梢神経(脳や脊髄以外の神経)の障害である。この疾患は、足、主に太ももの前面の筋肉に痛みと筋力の低下を引き起こす。研究者の中には、血管が炎症を起こし、それが神経への血液供給を妨げていると指摘する人もいる。
 

 

とあります. つまり発症原因・メカニズムが未だ不明なのです. よって治療法も手探りとなります. 血糖コントロールが悪ければ,もちろんそれは治療対象の一つとなるでしょうが,それだけでOKとはならないかもしれません.

 

[※] 上記で『神経根障害』とありますが,これは 糖尿病の合併症ではよくみられる『末梢神経障害』とは別物です.これについては 別途記事にします.

 

HbA1c/罹病期間との関係

 

ご質問(3)(4)についてです.

すべての糖尿病合併症がそうであるように,HbA1cが高ければ,また罹病期間が長ければ筋萎縮症のリスクは高まるようです.
しかし,HbA1cがいくつから,あるいは罹病期間何年から,という線引きは不可能のようです.

この辺がはっきりしないのは,糖尿病性筋萎縮症の発症頻度が低いことが原因です.つまり十分なデータがないのです.

関連文献も少ないのですが,この海外の文献を見ると

O'Hare JA

 

糖尿病筋萎縮症の発症者は,糖尿病患者の 0.8%であったと報告されています. ただ この報告が調べたのは わずか800人の糖尿病患者だけですから,この数字が真に 全体の筋萎縮症発症率を表しているかどうかは疑問です. ただ言えることは,『それほど発症率は高くない.比較的 稀である』ぐらいでしょう.

以上をまとめますと,糖尿病,特に高齢の糖尿病患者では,誰にでも起こる加齢による筋肉の衰えに加えて,フレイルサルコペニアのリスクは常に存在しますから,治療の中断などは論外で,医師による継続的な診断は必須不可欠です.

また筋萎縮症については,単なる足の衰え・歩行障害だけでなく,痛み・痺れなどの神経障害を伴うものであれば,MRIなどで筋萎縮症ではないか診断してもらうことも必要だと思います.

『炭水化物1gは 4kcalのエネルギー(=カロリー)』とは,栄養指導ではよく言われます.

しかし,それは炭水化物を完全に燃焼させた場合,つまり有酸素運動により消費させた場合であって,無酸素運動ではそこまでのエネルギーになりません.

 

炭水化物を分解するのは,解糖系とミトコンドリア呼吸系ですが,前者だけでは 炭水化物からごく一部のエネルギーを取り出すだけなのです.

 

ご興味のある方はご覧ください.

 

この季節,暑さもさることながら ウンザリするのはジメジメとした湿気です.
 

(C) wordあそび さん

 

我が家ではどの室内もだいたい30℃.
しかし 肌はサラッと快適です.

除湿器を総動員して 温度 30℃/湿度 50%以下に保っているからです(除湿器だけでは 温度が30℃を越えるので弱くエアコン冷房を入れています).

 

室温30℃という数字だけを聞くと,『暑い!』と思われるかもしれませんが,湿度が50%以下であれば すごく快適です.むしろ冷房が効きすぎて 低温/高湿度の方が よほど蒸し暑く感じます.

実際 計算してみると;

 

室温 27℃/湿度 70%

 不快指数: 73.9
 暑さ指数: 25.4℃

室温 30℃/湿度 43%

 不快指数: 77.3
 暑さ指数: 24.8℃

と,温度を重視する「不快指数」では暑くてたまらないはずですが,湿度を重視する「暑さ指数」の方が むしろ体感に近いです.

 

[27℃/70%] というのは,布団をかぶると暑いし 布団をはねれば寒いという具合で 寝付けません.

しかし [30℃/40%]は,布団無しで寝ていても 寒くも暑くもありません.
汗はかいているはずですが,低湿度のため汗をかくそばから すぐ蒸発してしまうので 皮膚はサラサラです.

ただし,人間の干物を作っているようなものなので,脱水症にならないよう 常に水分を補給している必要はありますw

 

 


 

 

グルコキナーゼとは,ブドウ糖(=グルコース)にリン酸基をくっつける酵素(=キナーゼ)です.
細胞にグルコースが取り込まれると,直ちにこの酵素が働いてリン酸基を付加させてしまいます.
それはなぜなのでしょうか.

 

 

ご興味のある方はご覧ください.

 

 

 

昔 買ったこの本を読み直してみました.

(C) KADOKAWA

 

著者の渡邊先生は 自分の異常に気付いたできごとをこう記しています.

私が「糖尿病」と医師に宣告されたのは,忘れもしません10年前,53歳の夏のことでした.
京都で学会があったときに蹴上のホテルに泊まっていたのですが,風呂上がりに何気なく体重計に乗ってみたら,いつも77kgあった体重が,72kgしかなかったのです.
最初は「あれ,どうしたのかな,この体重計壊れているのかな?」と思ったのですが,その時ふと,胸の筋肉に手をやってみると,何だか筋肉の張りがなくなり,ぐずぐずになっている感じがしました. また,お尻に手をやってみるとどうもお尻の筋肉も張りがなくて,何だか筋肉が崩れていくような妙な感じでした.

渡邊昌 『糖尿病は薬なしで治せる』 p.16 角川Oneテーマ21新書

当時 渡邊先生は,国立がんセンター研究所の部長でしたから,『蹴上のホテル』とは,現在の「ウェスティン都ホテル京都」のことでしょうね.

渡邊先生は,医師,それも日本のガン研究の最高峰の医師なのですが,医師というものは(この著書の中でもご自身で述べているように),自分の専門外の知識はゼロで,糖尿病については何も知らなかったそうです.

早速 東京に帰って診察を受けると,空腹時血糖値 260mg/dl,HbA1cは 12.8%だったそうです.

この本は,ここから渡邊先生が『薬なしで』糖尿病に挑んだ記録なのですが,それは本を読んでいただくとして,糖尿病では,あまりにも長期間 血糖コントロールが悪いと,渡邊先生のように筋委縮・筋崩壊[※]まで起こります.

 

[※] 『筋委縮・筋崩壊』とは,必ずしも 足が細くなっているとは限りません. MRI/CTではじめて確認できる場合もあります. 下記参照.


血糖コントロール不良に起因する顕著な筋委縮の症状は,この文献に詳しいです.

 

(C) 日本糖尿病学会

 

72歳の男性です.60歳の時に糖尿病を指摘されたものの,その後 治療を受けず12年間放置していました.ところが 最近 歩行が困難になり,病院を受診したところ,空腹時血糖値=325mg/dl,HbA1c=10.5%でした.おそらくこの状態が長期間続いていたものとみられます.
 

(C) 日本糖尿病学会

 

上のMRI写真の通り,両大腿部とも筋肉組織が細くなって 隙間だらけになっています.まさに『筋肉が崩れて』いるのです.

 

これは 下図の若い男性の正常な大腿筋画像と比較するとよくわかります.筋肉は均一で充実しています.

 

Trappe J Appl Physiol 90: 2070-2074, 2001

 

患者はこれに加えて大腿部痛・歩行困難を訴えていました.

この症例は緩徐進行1型糖尿病1(SPIDDM)であったため,直ちにインスリン治療を開始し(12単位→40単位),1年ほどで歩行障害は軽快したようです.

大腿筋は 人体では心臓の筋肉に次いで重要な筋肉です.

 

通常の糖尿病治療を行っていれば,長期間血糖コントロール不良が続くことはないでしょう.血糖コントロールが悪ければ 治療を強化するからです.

 

しかし 治療せずに放置していると,これほどまでに筋委縮が進行するという例でした.もちろん この段階では もはや運動でどうにかなるものでもありません(そもそも運動することすら不可能).まず血糖値を下げるしかないのです.

 

 

 

グルコキナーゼとは,食事から消化・吸収したブドウ糖[=グルコース]を細胞に取り込んでエネルギーにする【解糖系】において,真っ先に働く酵素の名前です.

しかしグルコキナーゼの役割はそれだけでなく,糖尿病にとってもっとも重要な『人体の血糖値コントロール』を司っているとも言われています.

そこで,このグルコキナーゼについて腰を据えて調べてみることにしました.

 

 

ご興味のある方はご覧ください.

 

前回記事で, 腎機能評価の指標eGFRは,血清クレアチニン値と年齢から数式により算出されると書きました.

で,下の図は,日本腎臓学会がWEBで公開している,eGFRの男女別・年齢別の一覧表です.

 

(C) 日本腎臓学会

 

この図は男性用の一部です.縦軸下にいくほどクレアチニンが高く,横軸は年齢です.
クレアチニンが高くなるほど(図では下にいくほど) eGFRは低くなっていきます. たしかにクレアチニン値が1.2を越えることは通常はありませんから,どの年齢においても このあたりから腎機能低下に要注意であることがわかります. ボディビルダーでもない限り,ここまでクレアチニンが高くなることは稀だからです.

ただし,今回 この図を出したのは そこではなくて,この図の左上の部分( 囲み)です.
若くて健康な人なら eGFRが100を越えることもあります. これは結構なことですが,もしも 高齢者(65歳以上)で,eGFRが100を大きく越えている人がいたらどうでしょうか?

たとえば 70歳の男性が,20歳と肩を並べる eGFR=143.6 を出そうと思ったら,前回記事の式から逆算して,クレアチニンは 0.432でなければいけません.しかしながら,これは;

 

『どうだ,俺は 20歳並の若さだ』

 

などと喜んでいる場合ではありません.

男性のクレアチニンの基準範囲は(検査機関で多少異なりますが),おおむね 0.6~1.1が正常とされています. つまり 0.432という値は男性としては 異常低値であり筋肉量不足を意味するのです.

なぜこれを問題にするかといえば

 

糖尿病性サルコペニア

糖尿病とサルコペニアは,悪循環することが知られています.

 

糖尿病の人は筋肉が低下しやすい

 

糖尿病では筋量低下,それも いちばん太い大腿筋が委縮し,サルコペニアのリスクが健常人よりも3倍高くなります. 筋肉が減ると,それだけ血糖の受け皿が少なくなるので血糖値が上がる,それがまた筋量の低下に...と悪循環です.

 

(C) Ruriiさん

 

両手を使わないと椅子から立ち上がれない or 何ということはない階段や石段を上るのに難渋している,こういう状態で しかも eGFRが100をはるかに越える値だったら,それは腎機能が優秀なのではなくて,糖尿病性サルコペニアがもはや引き返せないところまで来ているのかもしれません.

 

eGFRを計算してくれるネットサイトでは,高齢者が100を大きく越えていても『正常です』とほめてくれるだけで,危険性を警告してくれるのを見たことがありません.
eGFRは 低すぎても高すぎても 要注意ですね.


 

 

 

 

5月に神戸で開催された日本糖尿病学会の感想をまとめました.
『日本糖尿病学会の食事療法に対する考え方』は ここ10年以上ウォッチし続けていますが,今回はそれに加えて運動療法をどうとらえているのかも探ってみました.

また大型新薬と期待されるイメグリミンの実臨床での投与症例も興味深いものでした.

そして先端技術では,まったく実験を行わずに,スパコン上の計算だけで 新しい薬を創ってしまう In Silico には本当にビックリ!

 

 

 

ご興味のある方はご覧ください.