この季節に自宅と実家を頻繁に往復すると,新幹線の車窓から一面に広がるみずみずしい水田風景に 心がなごみます.

(C) tallboy723 さん

 

この水田風景は,ほとんどの日本人にとっては,『日本の自然』そのものであると認識されているでしょう.

私の故郷にはまさに この里山と水田の風景があるので,都会から来た観光客には『わあ,自然ってすばらしい』と言ってもらえるのですが,それを聞くと いつも苦笑します.

 

なぜなら,米作り農家にとっては『水田が自然そのもの』なんて とんでもない,それどころか おそろしく人手をかけた,いわば『人工物』であることをよく知っているからです.

 

水田の水管理

 

田植えの時には,水田の全面に水を張りますね.

 

(C) 夏男 さん

 

 で,田植えが終わればあとはそのままで,稲刈りの時になってはじめて水を抜いて田んぼを乾かすのだろうと思っている人は多いようです.泥田のままでは 足をとられて稲刈りができませんから.

 

(C) ACworks さん

 

[余談] 現在ではコンバインを使って 稲刈りから脱穀まで一気にできますが,私の子供の頃は手作業での稲刈りを手伝わされました. しかも私は左利きなので,自分専用に鎌の刃の向きを左利き用に研ぎ直したものを使っていました.

 

ですが,それは完全に間違いです. 水田の水位は もっときめ細かく 上げたり下げたりするのです.つまり 水を抜いたり また水を張り直したり,これを頻繁に繰り返します. そうしないと コメが 期待通りの収穫量になりません.

 

 

 

 

これらの記事に解説されているように,ほとんどの人が想像するよりは ずっと頻繁に,田んぼの水位は上げ下げしているのです.

(C) 田中農場 『田んぼの水管理とは?』より改変

 

この水管理の巧拙によって,秋のコメの収穫量と品質は大きく変わります.

水こそ我が命

 

これだけ頻繁に田んぼの水を抜いたり張ったりすると,当然ですが 多量の水が必要です. 一旦抜いた水は下流に流れ去ってしまうので 新たに水を張る時は 上流から流し込まねばなりません. つまり 水田とは,膨大な水を要求するのです. (なお,このように水田はいつも新鮮な水で『洗って』いるので,水田で 毎年コメを栽培しても連作障害 がないのです)

ここが畑とは決定的に違うところです. 畑は 作物が枯れない程度に時々 散水していればいいだけなのですから,水田よりは圧倒的に農業用水が少なくて済みます.

実際に水田には どれくらいの水が必要なのかを推定してみると,10アール当たり2,000~3,000トンだそうです。 お米の平年収量(玄米)は、10アール当たり530kg なので;

 

(C) 公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構

 

なんと 茶碗1杯分のコメを作るのには,一升瓶 250本もの水が必要なのです[注].これほどの水を使えるのは 温帯モンスーン気候で雨量の多い日本ならではでしょう.

 

実際 日本ほどの多雨な気候ではない米国カリフォルニア州では,日本向けに輸出しようとコメが栽培されていますが,小麦畑よりは圧倒的に多量の農業用水が必要なので しばしば作付け不良に陥っています

 

[注] 水の所要量が少ない,畑のようにコメを栽培する 陸稲(おかぼ)という方法もありますが,その収穫量は 10アールあたり216kg と,水田の半分以下になってしまいます.

 

水田とは これほどにも多量の水を要求するものなのです.