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時計のエネルギー

篠原康冶(時の作家)


 前回は脱進機についてお話をしてきました。


 今日は、機械式時計にとってもう一つ必要不可欠な要素、これを動かすパワー、つまり時計を動作させるためのエネルギーについてお話したいと思います。


 日時計の様に太陽の陰などで時刻を認識するものと違って、機械式時計などでは必ず歯車や針を廻すためのパワーが必要なのは云うまでもありません。


 一般の時計を大別すると、機械式時計と、クォーツ時計のようなエレクトロニクス時計の2種類に大別されるわけですが、どちらにしてもこれを動作させるためのエネルギーは必要です。デジタル時計の様に、物理的に針を動かす必要の無い時計でも、ICを動作させ、液晶に時刻を表示させる為には、やっぱり電流というエネルギーが必要なんです。


 さて、機械式の時計にとってのパワーで、代表的なのは、ゼンマイと錘の2種類です。99%の機械式時計はゼンマイか錘で動作させます。


 ちょっと話がわき道にそれますが、99%と云ったのは、残りの1%くらい、というか、ごくわずかですが、歴史的にはきわめてユニークな変り種の時計があるんですよ。中には思わず笑っちゃうような時計があります。


 へんてこな時計では、蒸気で時計を動かそうとした人もいますし、熱エネルギーで、つまりスターリング・エンジンの原理を利用して動かそうと試みた時計もあります。 これなんかは、機械式時計というより、どちらかというと現在のエレクトロニクス時計に近いと云えそうですね。面白そうですけどね。


 そうそう、水車の動力で動かそうとした時計もあります。でも川の水が干上がってしまったら動かないし、あまりにも水量が増えすぎたら問題ありそうですよね。でも、ある程度は使えそうな気もするんですけど。

 

 さすがに風力を利用した時計なんてのは見たことありませんね・・・・・


 また、砂時計の様に上から砂や水を滝の様に落としながら、歯車を廻そうと試みた時計もあるんです。これなんか、普通の水時計や砂時計のほうが、よっぽどいいんじゃないかと思うんですけど・・・・・・・・世の中には、実に突飛な発想をする人がいるもんですね

 

 いずれにしても、これらのユニークな時計は、決して成功とは云えないでしょう。でも僕は嫌いじゃないです。誰もやったことの無いものに挑戦するって実にワクワクしますし、なんていうかユーモアさえ感じます。でも作っている本人はきわめて真面目なんですけどね。私には分かるような気がするんです。


 まずまずの実用性があるユニーク時計の一つに、ローリングボール時計というのがあります。パチンコ玉のようなけっこう質量のある玉が滑り台を落ちてきて毎回歯車を1歯だけ進めるとかで、時間を表示させるのです。でもこれもいちいち、しかも正確なタイミングでローリング玉を上部に運んでいかなければならず、そのためのリフトを動作させる動力が結局は必要なんです。もちろん機械式時計とはいえないですけど、まァ、見ていて楽しいですよね。


 かくいう私も、幾つかのユニークな時計を試みてみました。(笑わないで・・・・・いえ、笑って下さい!)


 まずは、水槽の中で、熱帯魚でも眺めながら時間を認識するという、いわば水中時計です。本体はもう壊してしまったので画像は無いんですけど、下記がその仕掛けを示した図です。


 水槽の中にエアーを送り、水泡をなるべく一定に出す。一方スプーン型の風車のような回転の仕掛けを作り、水泡を受け、これが右回りに回転する。そして、歯車を回転させ、針で時間を表示する仕掛けです。


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 なんとも変な時計でしょ?!

 

 といっても、この時計、成功とは云えませんでした。回転する水車の回転速度がどうも一定せず、時間の精度に問題があります。


 まァ、それにエアーを一定に送るには結局、エアーポンプで送り込まねばならず、当然ですけど機械式というものではないですね。


 でも水槽の中で時計を廻すなんて、ちょっとロマンティックじゃないですか? 失敗ではあったけど、わりと気に入っていたものです。もうちょっと工夫すれば、もっと精度が上がったかもしれません・・・・・


 もしかして、どこかの泉とかで自然と湧き水が一定に出るとか、水疱が自然に一定に出るところが見つかれば、電源など使わず、機械式時計のような、自然時計が作れるかもしれません。しかも、うまく工夫すれば、水面で時間を表示するとか、かなりロマンティックな時計になるかもしれません・・・・・?


 もう一つ私の作った時計で、一応の成功、というか実際に製品化した時計は、「世界初の手巻き式クォーツ時計」です。手巻き式なのにクォーツ時計とはこれいかに??


 これは、クォーツのムーブメントに、バッテリーではなく大容量のコンデンサを仕込み、手回し式の充電器で、充電させる時計です。


 フル充電させれば、もちろん一日は(約30時間)は動いてます。つまり一日一回巻いてもらえれば、電池交換不

要で、使用できるクォーツ時計です。


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 正に、手巻き式クォーツ時計でしょ!


 当時、十数台を作りましたが、あっという間に売れてしまいました。 時々お店にいらっしゃるお客様で、この時計を今でも愛用して下さっている方もいらっしゃいます。


 成功ではあったけど、若干問題もありました。というのは、充電器を廻す際、例えば比較的力の強い男性では強く早く廻しすぎて電圧が上がり過ぎる場合がある。(一応保護回路もあるのですが) 一方女性などでは、力が弱いため、電圧が充分に上がらず、かなりの回数廻さないと、フル充電できない、という欠点です。


 十数台で製作をやめてしまったのは、かなり手間がかかりすぎるのと、上記の欠点があったので、色々と問題が解決したら、また製作しようと思いながら、ずいぶんと時間が経ってしまいましたが・・・・


 いずれにしろ、近い将来、またチャレンジしてみようと思ってます。今度は、パソコンのUSBから充電する時計を考えてます。そのうちに作ってみようと思ってます。これなら電圧など一定ですし、何より手軽に充電できますからね。


 おっと、ちょっとわき道にそれる、と云ってずいぶん長くなってしまいました。


 次回は、機械式時計のエネルギーについて、もっと具体的にお話してみたいと思ってます。