時計を作るということは2
篠原康治(時の作家)
さて、私が始めて時計のメカニズムを意識した時のことを、今でも良く覚えています。中学生の頃だったと思います。
今ではあまり見られませんが、当時はまだ機械式(ゼンマイ動力の)柱時計などを、良く見かけました。 昔はよく「ボンボン時計」などと呼んでいました。
こういった時計には当然、「振り子」が付いています。チクタク、チクタクと左右に動いているやつです。もちろん今でも、振り子付きの時計を良く見かけますが、それは殆どクォーツの時計です。クォーツ時計で振り子は、本来必要はありません。時計部の動力はステッピングモータで動き、発信は当然クォーツですから、振り子はあくで、見せかけの、飾りの意味しかありません。つまり、なんちゃって振り子、なわけです。
でも、昔のボンボン時計にとって、振り子はもちろん必要不可欠のものだったのは、云うまでもありません。 これが無ければ、ちゃんと動いてくれません。
私は、これを、不思議に、というか奇妙な感覚を持ちました。
それは、振り子は、左右に動く往復運動なのに、なぜ時計の針は一定方向に進むのか・・・・です。
私は、よく街の時計屋さん行き、修理をしているおじさんに、時計の内部を見せてもらったりしていたんですが、中に入り組んでる様々な歯車も、それぞれの一定方向に動いて行くのです。
針が振り子の様に行ったり来たりしたのでは、当然、時間も分からないし、時計としての役目も果たせませんが、私が本当に不思議に感じたのは、振り子が往復運動なのに、それぞれの歯車や、最後に時間を表示する時計の針は、なぜ一定の方向のみに進んでゆくのか、です。
私は、この奇妙な感覚を胸に秘めたまま大人になり、いつしか心のどこかに消え入りそうになってしまいましたが、時計の仕事を始めて、その理由が分かった時、胸の中にずっと立ち込めていた霧が一挙に
晴れた想いでした。
その秘密は時計の心臓部とも云える、「脱進機」だったのです。
私が機械式時計作りに挑戦し始めた時、当然この脱進機の製作が、大きなポイントになりました。
そして、私は歴史的にも様々な種類の脱進機が存在していることを知り、古代の人々の知恵に感動し、また深く尊敬せずにはいられない気持ちになりました。
次回はこの脱進機について、そしてその製作について、具体的にお話したいと思います。