脳卒中・循環器病対策基本法成立の歴史と その危うさ
脳卒中・循環器病対策基本法成立の歴史と その危うさ
12月10日、脳卒中・心臓病その他の循環器病対策基本法が成立した。
https://www.asahi.com/articles/ASLDC33PYLDCUBQU001.html
“循環器病”となると具体的な病気が浮かんでこない人も多いだろう。それだけ多くの病気を盛り込んだ基本法である。
病気の対策基本法が成立する場合、最も大事なことは、患者さんに視点をおいたものでなければ、社会の共感を呼ぶことはないということだ。がん対策基本法設立時も、最初、患者さんは置き去りにされていた。
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-11724653527.html
この循環器病対策基本法成立の1か月前、「循環器病対策基本法」の成立を求める患者団体が参議院会館で集会を開催されたという報道があったが、実効性のある脳卒中の基本法をと訴え続けてきた日本脳卒中者友の会は、その集会に参加していない。
https://www.sankei.com/life/news/181121/lif1811210044-n1.html
http://noutomo.com/category/blog/bill/
一時期、この患者団体は循環器病対策基本法の推進停止の要望書を厚生労働委員会に提出した歴史がある。しかし、要望書を提出するにはそれなりに患者側の視点の理由があった。
神奈川県を中心に全国的に動いてきたこの活発な患者団体は、この3年で日本脳卒中協会などの脳卒中医療関係者に脳卒中の患者団体としてすっかり外されてしまったようだ。
公益社団法人日本脳卒中協会は、1997年設立当時から、この全国脳卒中者友の会連合会(前名称)と共に歩んできた。日本脳卒中協会の患者会紹介のページには、日本脳卒中者友の会は最初に明記してある。
ところが、公益社団法人日本脳卒中協会の山口武典氏は日本脳卒中者友の会に対して脳卒中・循環器病対策基本法成立を求める会への参加を促すことはなかった。
http://noutomo.com/wp/wp-content/uploads/2017/01/5fd10e478c5f65e28c7d23282215edc8.pdf
http://www.jsa-web.org/patient/245.html
http://www.junkankitaisaku-motomerukai.org/wp-content/uploads/2017/04/kokkaigiin_annai_20170419.pdf
そもそも、この基本法の前身は、“脳卒中対策基本法”であった。2011年3月、民主党政権時代、超党派の「脳卒中対策推進議員連盟」の設立総会が開催された。
この時に挨拶立たれた患者代表は、全国脳卒中者友の会連合会常務理事の石川敏一氏(横浜市片マヒ協会会長)、全国脳卒中者友の会連合会顧問である上野正氏(東大名誉教授)であった。そして、脳卒中対策立法化推進協議会代表(社団法人日本脳卒中協会理事長)の山口武典氏が講演した。
2013年12月4日、自民党、公明党からなる「脳卒中対策を考える議員の会」設立総会が参議院会館で開催された。事務局長に参議院「厚生労働委員会」の委員長である自民党石井みどり議員。会長に「がん対策基本法」の設立に奔走された元厚生労働大臣であった自民党の尾辻秀久議員が就任した。
患者団体を代表して、全国脳卒中者友の会連合会の石川敏一 全国脳卒中者友の会連合会理事長、上野 正 全国脳卒中者友の会連合会顧問。八島三男 全国失語症友の会連合会理事長、園田尚美 全国失語症友の会連合会常務理事も出席。
関係団体からは、山口武典 日本脳卒中協会理事長(脳卒中対策立法化推進協議会代表)、中山博文 日本脳卒中協会専務理事(脳卒中対策立法化推進協議会事務局長)。日本脳卒中学会小川 彰 日本脳卒中学会理事長が出席され、私もオブザーバーとして同席させて頂いた。
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-11724653527.html
ところが2年後の2015年9月16日、自民党、公明党からなる「脳卒中対策を考える議員の会」の総会で初めて、「脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法案」(以下、「循環器病対策基本法」と略記)という議案が正式に出され、脳卒中対策基本法の成立が頓挫してしまった。
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-12085721439.html
参議院の民主党議員(医師)などの反対があって、2015年の国会では法案が通る見込みがないという政治的な理由などのため、「脳卒中対策基本法」は「循環器病対策基本法」という名称に変えざる得ない状況になったとの説明であった。
山口武典氏から、この変更に納得して欲しいとの打診受けた全国脳卒中者友の会連合会は反対した。そして、2015年5月18日に以下のような文書を山口氏より受け取ることになった。
日本脳卒中者友の会の石川理事長から、「脳卒中患者団体の考えを無視して行われることは正当ではない」との意見をいただきましたが、同じく患者団体である日本失語症協議会からは賛成の意見をいただいており、患者会の中でも意見が異なっています。
また、石川理事長に訊いたところ、今回いただいた意見は日本脳卒中者友の会の理事会には諮られておらず、「昨年の総会で承認された理事長一任に基づいて意見を表明した」とのことでした。
従って、日本脳卒中者友の会の中にも異論があると思われますし、日本脳卒中者友の会に加盟していない患者会も多数あることから、石川理事長の意見をもって「脳卒中患者団体の考え」とすることには無理があると考えます。
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-12085721439.html
全国失語症友の会連合会は、この基本法に反対を唱えなかったので、脳卒中・循環器病対策基本法成立を求める会に名を連ねている。
2016年5月11日、「脳卒中・循環器病対策基本法の成立を求める会」からの要望を聞く議員の会が開催された。
そして、脳卒中・心臓病その他の循環器病の関係者などで作る団体が与野党の国会議員と面会し、予防や啓発などの対策や医療体制を充実させるために基本法を早期に成立させるよう要望したとNHKで報道された。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160511/k10010517341000.html
そこにも、2010年から7年かけて公益社団法人日本脳卒中協会と共に、「脳卒中対策基本法」制定のため歩んできた全国で最も大きい脳卒中の患者団体であるNPO法人日本脳卒中者友の会(旧称:全国脳卒中者友の会連合会)の名はなかった。
また、「成立を求める会」に賛同する学術団体は、突然名乗りを挙げたものばかりで、今まで地道に活動し苦労してきた団体・組織とは随分と様変わりをしていて、抜け落ちている学術団体もあった。
「脳卒中・循環器病対策基本法の成立を求める会」は、反対するものは排除するという体質を持っているように思えた。
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-12159689033.html
結局、成立を早めたいという政治的理由などから、脳卒中対策基本法は循環器病対策基本法に変貌。そして、この約3年の間に新たな循環器病関係の学術団体が加わっていった。
約10年間、この法案が成立に至るまでの経過を見聞きした一人の議員として、果たして、このような姿勢を示した医師などから構成される学術団体に、本当に国民に認められる実効性ある対策がたてられるのかという疑問を持っている。
この事実は国民も各学術団体の会員も知るべきである。それは、患者団体が中心となり、連携して動いたことで設立されたがん対策基本法の歴史と大きく異なると思っている。
そのがん対策基本法が成立した際も、「癌と共に生きる会」会長を務めていた島根県の佐藤均氏(故人,享年56)が「患者の視点による医療が強調される割に、今後の医療の方針を決める会議には医療界や行政の関係者だけで患者が参加していない。それでは本当の意味で患者が望む医療は実現できない。」と訴えるということが起きている。
循環器対策基本法成立後は予防や診断、治療法の開発に役立てるため国立循環器病研究センターや関係学会が協力して全国から循環器病の症例情報を集める体制整備も進めるとある。
https://www.asahi.com/articles/ASLDC33PYLDCUBQU001.html
2005年、脳梗塞の新しい治療薬tPAが認可され、革命的な治療法として登場した。tPAとは脳のつまった血管を短時間で開通させ、脳を障害から救うという薬である。
そのtPAが認可されて13年経過したが、国立循環器研究センターのある大阪市でさえ、横浜市が行っているような病院ごとの脳卒中救急医療のデータ収集と、tPAの治療実績の公表などのシステムは存在していない。
日本では唯一、石川敏一氏や上野 正氏などが市や医療機関に要望し続け、その結果、行政・医療機関の協力を得ると共に、議会とも連携し「システムを作り」進めているのは横浜市だけである。
結局、患者視点で適切な脳卒中専門の医療機関への搬送の担保指標として、病院ごとのtPAの治療実績を公表させたのが、日本脳卒中協会から基本法成立の患者団体として外された「日本脳卒中者友の会」と「脳卒中から助かる会」である。
一方、横浜市の脳卒中救急医療体制には未だ多くの問題がある。tPA治療には、脳出血という合併症がある。その合併症が起これば、死亡率も高いという問題あるが、この副作用を横浜市は患者や議会の要望に応えず放置している。
12月18日の公明新聞の「主張」という記事に、循環器対策基本法について書かれている。その中に、”実際に横浜市では、同療法に対応した救急搬送体制を整え、成果を上げている。“とあった。
https://www.komei.or.jp/komeinews/p18305/
しかし私は、この表現に少し違和感を持っている。救急搬送体制を整えてはいるが、「成果を上げている」ことには疑問である。治療実績公表の内容などが年々劣化しているからだ。
だからこそ、12月21日、横浜市の脳卒中患者団体である脳卒中から助かる会は記者会見を行い、「結果不明」の改善、治療後の「頭蓋内出血の有無」を加えるなどの要望を行った。
さて、脳卒中・循環器病対策基本法成立の歴史を振り返るとき、この法案の先行きの危うさが見えてくる。
また、横浜市の脳血管救急医療体制の歴史を見れば、患者の視点による医療が強調される割には、本当の意味で患者が望む医療がなかなか実現できないこともよくわかるであろう。
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-12036289069.html
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-12252803165.html
https://ameblo.jp/shigeo-kanou/entry-12060432469.html