シャルルの亡骸 -6ページ目
<< 前のページへ最新 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6

1、きっかけは一発の銃声

な、なんか頭の中で『異色を極めよ』っていう悪魔のささやきが・・・


というわけで『1、きっかけは一発の銃声』ですが『彩雨+彩←蜜で彩花死にネタ』でいきます。

・・・・石投げられそうな内容だ。

大丈夫な方はスクロールどうぞ!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








サイレンサーを付けた銃の発砲音が、静かに耳朶を叩いた。
薄暗い部屋の中、頑丈な壁と鉄格子に囲われた部屋で、蜜歌は膝を抱えて蹲っていた。
まさに『牢屋』と言うイメージがピッタリのそこに似つかわしくない首元の包帯。
あれから、自分は、あの後どうなったか、しらない。
気がついたときには声帯の爆弾は撤去され、自分はこの部屋のベッドの上で横たわっていて。
数回だけ白衣を着た医者らしきものが容態を視に訪れるだけで、他に来訪者なんていなかった。
別にそれでも構わなかったのだけど。
誰が来ようどうでもよかった。
ただ、あの後どうなったかが知りたかった。
彩花は『めぇ』と一緒に逃げれただろうか。
電脳の双子はどうなっただろう。
皆、容易くつかまるような事は無いだろうけど。
逃げ切れたんだと思っていた。
逃げれたと思っていた。
グリーンの蛍光灯にボンヤリと姿を映し出された、その姿と。
彼が、常に傍に控えている看守を銃で撃つ所を見るまでは。


「・・・めぇ?」


どうして、ここにいるのだろう。
そんなことは思わず、頭の中でただ『失敗したんだ』と何処か達観した言葉が浮かんで。
ぼんやりと彼を見つめて、不意に涙が溢れる。


「彩花、は」


彼の傍に彩花がいない。
隣には、いつも。
十年前のように寄り添っていた姿がない。
あぁ。
あぁ、彩花。


「死んだんだね・・・?」


下を向いていた銃口が、自分の額へと突きつけられた。
がしゃり、と重たい音がしても、照準は揺るがない。
一度よく表情が見えないが、彼の顔を見つめて、瞬きをする。
撃たれるなら、それも良いかもしれない。
心残りは、あの子の願いを叶えれなかった事だけで。
止まらない涙を無理矢理塞き止めるように、蜜歌は瞼を重く降ろした。
撃たれるなら、それも良い。



(・・・約束、果たせなかったな)



―――けれど、いつまでたってもその気配は無く、

蜜歌が訝かしんで目を開ければ、どうしてか、今度ははっきり『めぇ』の顔が見えて。

無意識に息を呑んだ。

その表情は、だって。



「ねぇ、蜜歌」


昔見たことがある。
真音を殺した時、彩花が。


「蜜歌は、彩花のことが大好きだったんだよね?」


彩花が、彼が。


「十年間、ずっと傍にいて。多分、オレより彩花のこと、知ってるよね?」


自分に見せた表情と、全く同じ―――


「だからさ、蜜歌」


めぇは微笑みながら、泣いていた。

苦しくて仕方がなくて、それでも胸の奥で歓喜が湧き出る。

笑うことしか出来ない、表情。
一度WSに引き千切られた鎖は、同じ瞳と微笑で繋ぎなおされた。


「オレの『彩花』にならない・・・?」



今度はきっと、喉を潰すことはしないだろう。
これからはずっと、誰かを探すこともなく。
『蜜歌』が『彩花』に。
そしてずっと、もう『蜜歌』が帰ってくることはきっとない。
それもいいだろう。
真音が死んだとき、蜜歌も一緒に死んだんだから。
銃口が微かに上にあげられたと認識したときには、静かな音と共に手錠は切れ、ドアは開いていた。
開いている左手を伸ばされて、静かに自分のそれと手の平を重ねれば、もう。


「めぇ、」
「どうしたの?」


血のニオイから逃げる様に走り出した。
薄暗い廊下を、繋いだ手の平の感覚だけ頼りに。
静かな銃声で始まった、もう一度だけ『彩花』の傍にいられるチャンス。
大丈夫と、小さく呟いて蜜歌は淡く微笑んだ。


「・・・おかえりなさい」


一番最初の『彩花』の言葉は、きっとこれが正解だよね?












何からはじめようか?

とりあえずさ、もう少し髪の毛伸ばしてみようか・・・あ、みましょうか、だよね?


《彩雨長編》1:きっかけは一発の銃声

青柳です。


えー…っと、ごめんなさい。

これっていいのかな?と思いつつ、お題を長編で書きたいなと思ってしまったため。


続きます。


皆様の素敵なお題の言葉を守れるかどうか、そして書いていけるかが非常に不安ではありますが。

ま、読んでやるよ。という方はどうぞ。

因みに《彩雨》ですので。










聞き慣れている筈のその鈍い音は。

何故かこの時のモノだけ―――今も耳に残っている。






【1:きっかけは一発の銃声】






「彩花ッ!!」



大好きな声がボクの名を呼んだ次の瞬間に聞こえてきた『ドンッ』という鈍い銃声音。


反射的に構えながら、音のした方向へと振り返り、音がした方向に立っていた人物を一瞬で殺す。
殺した人物は一人で、他にはいないか気配を探っても他には誰もいない。


しかし、何故か地面に倒れた人の数は二人だった。


一人は、先ほど自分が殺した者。


そして、もう一人は―――――。




「め・・・ぇ・・・・・・?」




すぐ傍にいた、ボクの一番大切なパートナーであるめぇ。


何が起こったのかわからないまま、身体が動くままに行動し、めぇを抱き起こす。
ボクの大好きな茶色のふわふわとした髪の下にある表情は、今まで見たこともないような辛い表情で荒い呼吸を繰り返していていた。



「めぇ!」



先ほどの銃弾に当たってしまったのだろうかと冷静に考える前に、身体は勝手に動き出しており、めぇが撃たれた場所を探していた。
血の香りと共に、生暖かい血が染み込んでいる背中を見つけ。
すぐに表面部分の血を止め、出血を防ぐ。



「しっかりして、めぇ・・・!」



今にも眼を閉じて眠ってしまいそうなめぇの表情が恐怖を大きくする。

いつものような、眠りではない眠りなど絶対に許さない。



「お願いめぇ、眠らないで・・・!ボクを、一人にしないで・・・!!」



もう少し。
もう少しで、二人共自由になれるのに。


たとえ自由になれたとしても、一人きりだなんて意味がない。

めぇが傍にいて、二人一緒にいることに意味があるのだ。


ひとり・・・独り、なんて・・・・・・絶対に嫌だ。



「めぇ・・・!」



手をしっかりと握りしめる。

血は止めたけれども、依然めぇの呼吸は荒いままで。
めぇが手を握り返そうとするが、その手にいつものような力は込められていない。


その、弱弱しい手に。




初めて―――コワいと思った。




今まで、何度も危険な任務をこなしてきたし。
たくさんの死に触れてきた。


けれども、今までコワいなんて感情を持ったことなど無くて。


初めて、コワいという感情を知った。



「やだ・・・、やだよ、めぇ。・・・ボク、コワい・・・・・・」



身体や声が勝手に震えて、何かが頬を伝って手に落ちる。


めぇが隣からいなくなるなんて、今まで考えたこともなくて。
もしもこのまま―――なんて、考えたくもなくて。


ただ必死に、この手の温もりを手放さないように強く握り締める。




「・・・彩花、・・・泣いてるの?」




小さく、けれども自分が決して聞き逃すことなどないめぇの声が聞こえた。
急いで顔を伺えば、依然辛そうではあるが、まるでこちらを安心させるように微笑んでいる表情が見えた。


いつもなら。

泣くのはめぇで、安心させるのがボクの役目。



「・・・・・・大丈夫だよ、彩花」



めぇがゆっくりと手をこちらに伸ばし、頬に手の平を当てる。



「ねえ・・・・・・『―――――』しよ?」



突然聞こえてきた言葉に、思わず「え?」と返す。
それほどに、めぇが口にした言葉はこの場には相応しくない言葉だったのだ。

けれどもその言葉の意味はすぐに。
雨丸が何かを言う前に、解ってしまった。



「ヤダ! 嫌だよ、めぇ・・・!」



手放さないとばかりに、彩花が自分の頬に在る雨丸の手を掴む。



「っ、ヤダよ・・・めぇ・・・。お願いだから、そんなことを言わないで?」


「・・・・・・お願い、彩花・・・しよ?」


「・・・どうしてっ!」



ボクとめぇはパートナー。
二人で一つの存在。

そんなボクたちが、離れ離れになるなんて―――。


表情から、彩花が何を考えているのか解ったのか。
雨丸が綺麗な笑みを浮かべる。



「大丈夫だよ・・・離れ離れになんて、ならないよ?」 



だって、これは『―――――』だもん。




綺麗な笑みを浮かべながらも、めぇの眼から涙が零れ落ちる。


その涙を見ながら。
やはり自分達はパートナーなのだと改めて感じた。



だから、きっと大丈夫。

めぇが大丈夫だというのだから、自分もきっと大丈夫だ。




「そう、だね・・・・・・」




心の底で叫んでいる何かに気付かない振りをして、自分に大丈夫だと言い聞かせる。



「めぇ・・・ボクとの約束覚えてる?」


「覚えてるよ」


「絶対に、見つけるから。絶対ボクが見つけるから」




「知ってるよ―――。だから、ちゃんと彩花を待ってるね・・・?」





―――――――――



―――――



―――






パァン・・・ッ!




遠くに、やや音が高い銃声音が聞こえた。



この建物の周りでは銃を使うことを禁止しているので、おそらく余所からの何も知らない流れ者が銃を乱射しているのだろう。
あの時から銃声を聞くと反射的に殺してしまう癖がついてしまったらしく、自分を知っている者は周りで銃を撃つことなどないからだ。


今は遠くから聞こえているものなため、身体が勝手に動く事はない。


けれども、たとえ離れているところであろうと、鳴り響いている銃声は耳に障る。



「蜜歌」



傍に立っている人物の名を呼ぶ。



「何、彩花?」


「外で銃を乱射している連中を止めてきていただけませんか?」


「うんわかった。すぐに、もどるね?」



扉の音と共に、気配が部屋から無くなる。


当然のこと、今彩花の傍には誰もいない。




そう。




誰も、いない。






―――きっと、あの音が始まりの音。






→【2:身代わり人形に愛を捧ぐ】



きっかけは一発の銃声

はじめまして☆


初投稿!!の霧堵です♪


まずはじめに・・・?

特に突起するべきことは無いと思うのですが・・・一応?


王太視点ですが、彩雨です。

王⇒雨?かも・・・・・・。

そして、結構王太には酷いかな。


興味がある人はそのまま続いてください。

でわ。










なぜこんなことになってしまったのかと。

言葉を投げかけてみても。

返答などありはしない。


まるではじめから存在しなかったかのように。


データ上から『砂沙 雨丸』の名前は消え失せた。


共にあったこの部屋の中ですら。

もう、痕跡を探すことはできないのだろう・・・・・・。











<<きっかけは一発の銃声>>











パートナーであった雨丸に。

違和感を持ち始めたのは、いつ頃からだっただろうか?


思い返してみれば。

氷魚との戦いの後のような気もするけれど。


はじめから、雨丸は『雨丸』という人間を演じていただけなのかもしれない。


つくろわれたその表情。

演技としての感情。


それを。

感じ取れるものが居なかっただけなのかもしれない。


それなのに気づきもせず。


ただ。

盲目的に信じていた。




パートナーだから、と。




今までとは違う。


共に過ごして。

共に成長していく。


そんな未来を望んだ。

大切な片割れなのだから。


それが自分の独りよがりだなんて考えもしなかった・・・・・・











その雨丸が演じていた『雨丸』という偽りが剥がれ落ちたのは、縁が式典に乱入してきた時。


雨丸が。




祖父であった、白井 晴十郎を。


あっさりと撃って見せたときだろう。











なぜ? どうしてという言葉を掛けることすらできなかった。


見たことも無い。


そう。

とても楽しそうな表情で。


無邪気に。 傍らに立つ黒髪の青年に抱きつき、微笑んだとき。


今までの関係が、偽りだったのだと気づいた。




いや。

気付かされたというべきなのだろう。


今までとは全く違う。


雨丸の姿で。

その表情で。

その声で。




手を伸ばそうとして。


でも。

振り払われるのが怖くて。


差し伸べることを躊躇して。




その間に、雨丸は居なくなってしまった。




ただ一言。


『はじめまして。そして、さよなら。王太班長』と残して。











失った以上。

もう追い求める事は出来ない、パートナー。


追いついたとしても。

雨丸は、もうエイジではない。


縁の一人として、WSの前に立ちふさがるのだろう。


喪った絆。

取り戻した絆。


どちらも同じ強さだったら良かった。

そうすれば、雨丸はこちらに残ったかもしれない。


そんな愚かな想いを考えては消して・・・。


初めて望んだパートナーとの関係は。

最悪の形で幕を閉じることとなった。


そう。

残ったのはもう。




追うものと追われるものの関係。




雨丸を追い詰め殺すか。

雨丸に追い込まれ殺されるか。


そんな。

無価値な、愚かしい関係だけ―――・・・・・・

《彩雨》 ナマエ

注意

・蜜歌さんの扱いが少し酷いので、好きな方はお気をつけ下さい。











硝煙の香りと血の香り。

建物が崩れる音と人が苦しむ音。


―――そして。


懐かしい表情と、愛おしい温度。



―――――ああ、昔に戻ったようだ。



でも。



でも、どうして?



どうして―――ボク以外のモノが隣に立ってるの?






【ナマエ】






「ねえ・・・・・・君、だれ?」



ボクの大好きで大切な彩花。

その隣を。

まるで自分の居場所のように居る君は誰?


そこはボクの場所なのに―――。


産まれた時から。存在した時からその場所はボクの場所だと決まっているのに。
どうして、ボクじゃないモノがその場所にいるの?



「ねえ・・・・・・答えてよ?」



近づいて質問をする。

けれども、何も答えてくれなくて。
下を向いているから何もいえないのだろうかと思い、下に向いている頭を、髪を引っ張って上へと向かせる。
これで、遮るものが何も無くなったから答えられるはずだと思った。

けれどもそれにも関わらず、その人は何も言ってくれなくて。


余計、イライラした。



「・・・何で? なんで何も答えてくれないの?」



そんなに言えないことなの?
そんなに大切な名前なの?
君は、そんなに大切な名前を持っていて・・・それをボクには教えられないの?



「ねえ・・・・・・君の名前を、彩は知っているの?」



彩花の隣にいた子。


ならば当然、彩花はこの子の名前を呼んだことがあるだろう。



「そうだよね? もちろん知ってるよね。知ってなくちゃ変だもんね?」



なら、どうして自分には教えてくれないのだろうか?



―――ボクの彩花は、ボク以外のモノを傍に置く事を嫌った。


ボクさえ居てくれればいいって。
ボクだけが大切で特別な存在なんだって。



「ねえ・・・答えてよ」



彩花の大切で特別な存在であったボクだけが居れた場所に居た君。

君はだぁれ?

君の名前はボクには教えられないほど特別? 大切?


ねえ。


君は―――彩花の大切で特別な存在になってるの?



―――ボクの、代わりに。




「・・・・・・・・・・・・・・・やだ」




居場所がないのはボクの方?

もう、彩花の隣はボクの場所じゃないの?

彩花はもう、ボクのことを大切で特別だと思っていないの?


もう。


もう・・・彩花がボクのことを特別に呼んでくれることもなく、この子が・・・ボクじゃない誰かが彩花のことを特別の名で呼ぶの?



―――いや。


―――やだ。




「そんなのヤダ・・・・・・ヤダヤダヤダ! 彩の隣にいるのはボクだもん!ボクだけだもん! あげない・・・!誰にもあげない!絶対にあげない!!『彩』って呼ぶのはボクだけだもん!!ボクだけが・・・!!」




狂ったように、両手で頭を押さえ叫んでいた雨丸が、ピタリと動きを止めた。
そして力が抜けたようにその場にへたり込み。
先ほどまでの騒ぎなど無かったかのように、静かに視線を下を向けた。


焦点の合っていないその眼は、何も映してなどいない。


雨丸の向ける視線の先には、地面に俯いた形で倒れているモノがあるが。
視界に入ってはいても、雨丸の眼に映ってはいなかった。


そして、静寂とさえ称せるようなその冷たい空気の中。



「―――だめ・・・・・・」



ボソリと呟いた雨丸の声だけが、空気に乗るように。
あたりに波紋のように広がった。



「―――だめ・・・だめ・・・! ボクが呼んだって、ダメ。他に呼ぶ子が居たらダメ・・・!!」



昔。彩花が雨丸だけに呼ばせてくれた『彩』という名前。
雨丸が彩花だけに呼ばせる名前と同じように、その呼び名には他とは比べられない『特別』が篭っている。

けれども、雨丸がどれだけその名で彩花のことを呼ぼうとも。
雨丸以外の者がその名で呼べば、それはもう・・・特別の名ではない。




「ダメ。そんなのダメ。―――『彩』は・・・『彩』は・・・・・!」




―――――ボクだけの特別。




雨丸が傍に散らばっていたガラスを手に取った。

強く握り締めたためガラスが手に食い込み、血が汚れたガラスを染め、振り上げた腕を伝っていく。

そしてそのまま視界に映したモノへと振り下ろそうとした―――時。




「ボクを呼んだ? ―――『めぇ』」




聞こえてきた声に、雨丸が動きを止め。
ゆっくりと後ろを振り向いた。


そして、同時に感じる。



―――懐かしい香り。


心に響く心地よい声。


幼い記憶と同じ優しい表情。


自分の手に触れる―――愛しい温度。



「危ないよ、めぇ。ガラスなんか強く握っちゃ。・・・ほら、血が出てる」



彩花が、雨丸の手から優しくガラスを取り除いた。


二人の手を重なり。
まるで幻のように感じる彩花が雨丸の眼と合わさる。


―――懐かしい漂いと共に、雨丸は自分の血が止まるのを感じた。




「・・・・・・・・・彩?」



「何? めぇ」




ああ―――――彩花だ。

この香りが、声が、表情が、温度が・・・幻であるはずがない。



「・・・彩・・・!!」



眼に何かが湧き上がってくる。
彩花に会ったら言いたいことや聞きたいことがたくさんあったはずなのに、思い出せない。

でも考えることは出来なくても、自然と言葉が口から出てきた。



「彩・・・! 大好き!!ボクは彩のこと大切で特別だよ? 彩は違うの? もうボクのこと特別じゃない? ボク以外に特別な人が出来た? もうボクはいらない?」



何を言っているのか理解しないまま、雨丸は彩花に問いかけた。
理解はしていないが、出てきた言葉は自分の聞きたかったことだと知っている。


突然のたくさんの質問に、彩花は瞠目したが。
すぐに何かを理解したように、雨丸だけに向ける笑顔を見せた。



「ボクが大切なのはめぇだけだよ。他になんてあるはずがない。ボクの特別はめぇだけだし、めぇの特別もボクだけのもの」



そうでしょう? ―――『めぇ』


『めぇ』は雨丸が彩花だけに許した特別な名前。
他の誰にも呼ばせはしない、大切で特別を示す名前。



ああ―――・・・。



彩花が『めぇ』と呼んでくれるたび、雨丸は自分の中の何かが溶けていくように感じた。

自分は彩花の特別なのだという安心が、身体に染み渡っていく。


雨丸は彩花を強く強く抱き締めた。
愛しい温もりを確かめるように、というよりは、彩花は自分のモノだと示すように強く。



「ふふ。変わらないね、めぇ。―――でも、どうして蜜歌も殺しちゃったの?」


「・・・・・・蜜歌?」


「さっき、めぇがガラスで刺そうとしていた子だよ」



彩花が視線で示したそれは、雨丸が何度名前を尋ねても答えてくれなかった子。



―――蜜歌・・・って、いうんだ・・・。



自分が何度尋ねても教えてくれなかった名前を、彩花は知っていた。

それは当然といえば当然で。
当たり前だといえば当たり前のこと。


だけど。



「・・・・・・ねえ。彩にとって、蜜歌は大切? 特別?」



彩花が傍に置いていたという事実は変わらない。

だから、雨丸は何度も何度も蜜歌に尋ねたのだ。

けれども蜜歌は何も答えてくれず、更にそれが雨丸の不安を煽っただけだった。




「ねえ、答えて―――?」




不安が込められた瞳で、雨丸が真正面にいる彩花に尋ねる。

と。


クスクスクス。


彩花が楽しげに眼を細めて笑った。
流石に声を出してはいなかったが、とても楽しそうだ。



「・・・・・・何がそんなにおかしいの?」


「ふふ。ごめんねめぇ。―――だって、とても嬉しいことを聞くんだもん」


「・・・嬉しい?」


「ねえ。めぇがこの子を殺したのは、この子がボクの特別だと思ったから?」



いつもなら、すぐに自分の質問には答えてくれるのに。
なぜか今回は答えてくれず、逆に質問された。

けれども雨丸自身、彩花の言葉が気になったこともあり、何も言わず視線を『蜜歌』という名のモノに視線を向ける。
そして気になったことを彩花に尋ねた。



「この子・・・死んじゃってるの?」


「うん。もう死んでるよ」


「そっか・・・だから何を聞いても答えてくれなかったんだ・・・」



どれだけ尋ねても、何も言わなかった。
だから色々してみたのだが、結局答えてくれなくて―――。



「でも、初めは生きていた気がするから、彩花の言うとおりボクが殺しちゃったんだろうね」



そう、雨丸が事実を口にした瞬間。


なぜかもの凄く恐くなった。



―――彩が怒ってたらどうしよう・・・・・・。



大切で特別な存在が傷ついたら、彩は怒る? 悲しむ?


もし彩花の表情を見て、その時彩花が怒っていたり、悲しんでいたら。

それは―――この子が大切で特別な存在だということになってしまう。


そう考えてしまうと彩花の顔を見ることなんて出来なくて、雨丸は下を向いてしまった。
でも。



「ねえ、めぇ。今度はめぇがボクの質問に答えて? めぇがこの子を殺したのはこの子がボクの特別になっていると思ったから?」



彩花が雨丸の頬に手を当て、優しく自然な動作で雨丸を自分の方へと向かせた。

そのときの彩花の表情は、笑顔。
雨丸が考えていた怒りも悲しみが一欠けらも含まれていない、とても嬉しそうな表情。



「・・・・・・うん。・・・だってこの子、彩の隣に居たし、名前を聞いても答えてくれなかったんだもん」



あまりに嬉しそうだったため、雨丸が素直に答えると。
彩花は嬉しそうな顔を崩さないまま、「そう」とだけ答えた。



「じゃあ今度はボクが答える番だね。この子は―――『大事』ではあったけど『大切』ではなかったよ。もちろん特別なんてなり得ない」


「・・・・・・大事だったの?」


「めぇがボクの隣に戻ってくるまではね。でも、今はめぇがボクの隣にいるから、『大事』ですらないよ」


「・・・・・・本当?」


「本当だよ」



きっぱりと彩花が断言する。
彩花が嘘をつかないことは解っているため、本当だろう。

けれども、いまだ不安は胸の中にくすぶっている。


大事は大切にいつかなってしまうのだろうか?
この子以外にも大事に思っている子はいるのだろうか?
彩花のことを『彩』と呼べるのは自分だけだろうか?


尽きない不安が胸を覆う。


たくさんありすぎて、どうしていいかわからなくなったとき。



「ねえ、めぇ。ボクたちは少し―――離れすぎたのかもしれないね」



彩花の言葉が、グサリと音をたてて、不安を激しくさせた。



・・・・・それは、―――どういう意味?



雨丸の不安に囚われた瞳を見て、彩花がクスリと笑った。
そして自分と同じ色の瞳をじっと見つめながら口を開く。



「だから。ずっと傍にいよう? 離れていた分、めぇも不安がたくさん出来て。ボクにも不安がたくさん出来た」


「・・・・・・彩も不安・・・?」


「そうだよ。めぇが・・・ボク以外に大切で特別な存在を作っていたりしないか。ボクはまだめぇの中で特別でいられているのか。ボク以外にも『めぇ』と呼ばせていないか。・・・尽きないほどの不安があるんだ」



―――それは、自分と同じ不安で。



「でも、めぇが『彩』とボクの名を呼んでくれて、すごくほっとした。そして・・・ボクと同じように、不安でいてくれていることが嬉しかった。あの子に不安を抱いてくれていることが嬉しかった」



やっぱり自分と彩花は同じなんだと思った。



「だから、ずっと一緒にいよう? 一緒にいれば、ボクたちの不安なんて消えるよ」



彩花がギュッと雨丸を抱きしめる。


伝わるのは心地よい体温。
眼に映るのは自分と同じ、喜びと同時に不安が込められた瞳。
聞こえるのは昔よりも少しだけ低くなった、それでも優しさは変わらない声。

感じるのは、懐かしく愛しい存在。



「・・・うん! うん!! 一緒に、ずっと一緒にいる!」



彩花と自分は同じだから。

きっと、今自分が感じていることを。

彩花も今、感じているのだろう。


そして、今自分が思っていることを。

彩花も今、きっと思ってる。



「ねえ、めぇ。そろそろ場所を移動しようか?」


「うん! でも彩、何処に行くの?」


「ボクたちの家だよ。きっとめぇも気に入ってくれる」


「彩が気に入ってるなら、絶対ボクも気に入るよ!」



だって、ほら。やっぱりボク達は一緒だもの。

同じことを感じて。
同じことを思っているもの。



「そうだ、遅くなったけど・・・・・・お帰り―――『めぇ』」




特別な名で、ボクを呼んで?

ボクを大切で特別だと伝えて?




「ただいま! ―――『彩』!!」











ボクだけが君の特別な存在で。君だけがボクだけの特別な存在なのだと教えてください。











《あとがき》

あ、あの…ごめんなさい。

勝手に、しかもこんなの載せてごめんなさい。アレでしたら、すぐに下げますので(汗)

それでは、企画という事で色々とオカシイ青柳でした。



一例のつもりだったんですが

雨が彩に対して少し酷目です。
彩雨さん好きはお気をつけて!














毒の声だ。
言葉を共有したのはおそらく自分と彼だけ。
常人より半ばその器官が優れていただけで、

聴こえるはずのない声を聞き取ってしまい、優菜は身を震わせた。
隊の後ろに居た優菜の視界には身構えていたり、呆然としていたりする班員。
小さな子どもは、二人。
表情は見えないが、きっと眉を寄せている。
垣間見る事は出来ないが、おそらく悲しそうな顔をしているだろう。
沈黙と緊張の中、双方が待っているのは彼の覚醒。
数拍前に微かに瞼を震わせた彼の覚醒は、
誰もが待ち望み、そして、どちらかの絶望をより深くするはず。
そう、待ち望んだはずだったことなのに。


「うらぎりもの」


するりと、涼やかな空気の中その腕が白い首へと絡みつく。
班員の『どうして』の言葉と一緒に絶望が徐々に侵蝕していくのを肌で感じ、
それと同時に、彼らが自分と世界を共有していない事に気がついた。
あぁ、その言葉を言いたのは、きっとあちらの方だろうに。
寝起きのような甘い声が、もう一度耳元に寄せられ紡がれる。

あまいあまい、毒の声。


「うらぎりもの」


より一層腕が首に絡められ、ついに紫紺の髪を持つ者がピクリと震えた。
雨丸の表情は、優菜からは見えない。
けれど、紫紺の表情はとてもよく見えた。
だから。
呆然とする。
混乱した顔。
緊迫した空気の中、囁かれる想像していたものと全く違う想いの言の葉。
表面上だけなんとなく関係を理解していただけあって、胸の奥に憐憫の情が浮かんでは消える。

犯罪者であっても、あんな表情を見るのは忍びない。


「ねぇ、どうしてあの時手をはなしたの?」


手をはなしたのは、ふらふらなパートナーを安全にヘリへ誘う為。


「ねぇ、どうしてひとり置いていったの?」


空へ浮いたヘリは、引き離された手は、否応なく離れていった。


「どうして、ヘリから飛び降りてくれなかったの?」


一瞬の出来事だった。
気がついたらもう降りれない高さまで上昇して。


「 う そ つ き 」


提案したのは、自分。
手をはなしたのも、自分。
だったら。


「ずっといっしょだって やくそく したのに」


ねぇ。
泣きそうに歪んだ紫紺の表情。
それを歓喜と班員たちは思うのだろうか。
声が聴こえない者の誤解はますます深まっていき、
ついに飛び出そうとした東の襟を優菜は無理矢理引きずり戻した。
行ってはいけない。
優菜が視線を固定したまま呟けば、怒鳴るような声で反論が帰ってくるが。


(手を出したら、いけない)


アレは誰?
愉悦を含んだ笑みで毒の声を紡ぎ出している、あの青年は。
近づけば、その刃で全てを傷つけてしまうような瞳をしている彼は、ダレ?



「――――やくそくしたよね?」


あぁ、過去の、自分と一緒に過ごした彼は誰だったのだろうと。
二人だけ。
毒の声を聴きながら、ゆっくりと狂気に侵蝕されて。


「うらぎりもの」


『きっと』と優菜はそれを思って泣きそうになった。
きっと、彼がこちらへ戻ってきても。
もう、あのころのようには過ごせない。
忌々しい能力。
これがなければ。
リミッターをしていれば。
数日後の、彼の帰還に他の隊員たちと一緒に、素直に喜んでいただろうか。



















今自分がしていることはあの輪に混ざる事でなく紫紺の彼に弔いの花を捧げることで。


優菜さんは果たしてどういった経緯であの能力を身につけたのか。

後天的か先天的か。

そこもまた気になるところです。

ちなみに5月号派生。


ここまで上が4/29から置いてあったぶつです。

それにしてもこれが一番で良いのか、御題でもリレー小説でもないのに。

とにもかくにも『シャルルの亡骸』無事とは言いがたいですが開通させていただきました。

頑張って形になるといいなぁ・・・・!

<< 前のページへ最新 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6