今自分がどんな表情を浮かべているのかわからない
※コミックス派のヒトには一部ネタバレになります。
『今、自分がどんな表情を浮かべているのかわからないんです』
四年ぶりに目覚めた孫は、病室に訪れた数人の大人たちの前で一言だけ呟いた。
『おじいさまたちは、全て知っていたんですよね?』
助けてくれたのも、記憶を封じたのも、育ててくれたのも、監視をしてたのも。
全て。
今目の前にいる五人の大人たちの手によって。
砂沙雨丸は、作られてきた。
感謝している。
今は自分と一つになった『あの子』も、ソレは同じだ。
あぁ、けれど。
班長たちが病室から出て行った後、間を空けずに五人は来た。
四年前まで解らなかった事実を告げるために。
身近に居た大人二人は、自分を育てながら、記憶を取り戻さぬように鳥かごへ。
寮母さんと普通部の時の先輩は、監視を。
優しかった人たちが、何の想いもなく自分に接していたと想っていた・・・
いや、想う事さえもなかった昔の自分が愚かに思える。
『ありがとうございます。あの十年間』
ねぇ、どうして優しくしたの。
そうすれば、恨む事が出来たのに。
ねぇ、どうして愛してくれたの。
そうすれば、未練なんて起きなかった。
『あの子を殺して、自分を生かした貴方たちに』
けして憎むことなんて出来ない、あの十年間を作り上げてくれた人たちに!
「責められると、思っていた」
晴十郎達が病室を後にし、
誰も許可なしには立ち入らない部屋に腰を落ち着かせたのは数分ほど前の話だった。
西野が紅茶を用意し、優雅な手つきでそれぞれの目の前にカップを置く。
アールグレイの上品な香りが、彼らの心を少しだけ和ませる。
「責められた方が、マシだったかもしれないねぇ」
「あの子は優しいから、そんなことはしないだろう」
「・・・昔の雨丸だったら、どうだったか解りませんね」
西野と桐生を除いた三人は、同期だった。
一人は栄児として名を馳せ、一人は普通部の影の支配者として上層部に上り詰める。
もうひとりは、普通部の古株として昔から上へは届かない情報を纏めていたやりてだ。
それぞれの場所で、この組織を支えていた。
「あの子は、微笑うだろう」
この何の力もない大人たちを、憎むこともせず。
けれど。
「―――それが、一番身に堪える事を、知っているだろうか」
「さぁて」
きっと、明日彼は笑うだろう。
若い者たちの輪の中で、何もかも終わったという風に。
『雨丸』として、笑うのだろう。
けれど、
「紫雨は、あんな笑顔を望んでいるわけでは無いだろうな・・・」
全ての事実が交じり合った今、あの子が本当の意味で自分たちを赦す事なんて。
あぁ、違う。
違うのかもしれない。
「赦されたくないのは、私達自身なのかもねぇ」
甘えているのは、断罪されたいのは。
何も出来なかった自分たちで。
「それでも」
それでも、出来ることなら。
「私は、雨丸が戻ってきてくれて、嬉しく思う」
大人のワガママ。
身勝手で、自分の意思を優先するのは、何も子どもたちの特権じゃない。
カップを戻し、窓の外へと視線を向ける。
新しいマザーコンピュータの元、WSは新しく生まれ変わる。
そこに、あの時上にいた者はもういない。
自分たちも、落ち着いたころに此処と縁を切るつもりだ。
忙しくなる。
何処もかしこも。
新しい道を繋ぐ為に。
「貴方のワガママなんて、何時ものことですよ」
さぁ、おかわりをお注ぎしましょう。
事もなく笑った西野に、一度キョトンとした表情を向け、くすくすと笑う。
「貴方の孫で、貴方たちが育てた子どもです。もう少し信じてあげてはいかがです?」
他意があったにしろ、愛情を注いでいたのは事実ですから。
桐生の言葉に、晴十郎が『あぁ、あぁそうだな!』と大仰に頷く。
きっと、明日彼は笑うだろう。
自分の名を呼び、大きく手を振って。
そうしたら、自分たちは両手を伸ばして抱きしめてやればいい。
自分たちは、大人だから。
これくらいのワガママなら、許されても構わないだろう?
きっと明日彼は微笑む。自分たちに言った事を押し隠して、彼らの前で、いつもどおりに笑うのだ。
今日、自分たちにわからないと言いながら、微笑んでいたように。
二番手笹莱です!
・・・なんでこの面子になったんのかがよく解らない。
はじめは班長とかと絡む予定で・・・・予定が・・・
心情的には本編の雨丸君はもうちょっとすっきりするかなと思ったんですが、まぁいいか。
一番手青柳様の 「今自分がどんな表情を浮かべているのかわからない」 から続きまして、
三番手霧堵様へ「これくらいのワガママなら、許されても構わないだろう?」へバトンタッチです。
青柳様とリンクさせれなかったので、せ、せめて心情的に似た感じが出てたらいいなと・・・・願います。
それでは、霧堵様よろしくおねがいします!
リレー:→曖昧な境界線の上で
曖昧な境界線の上で、俺は作り物の表情を笑顔を浮かべながら暮らしている。
だってそうでしょ?
俺はWSの制服を身に着けているけど、WSのことは大っ嫌い。
縁という犯罪組織を追いかけているけど、縁のみんなは俺の大切な仲間で友達で。彩花は俺の半身だもん。
俺が本当に笑えるのは縁の皆と居る時だけ。
彩花が傍に居る時だけ―――なのに。
「めぇ。無理して笑わなくてもいいんだよ?」
いつものように会ってお茶をしている時。突然、彩花がそういった。
「え・・・?」
「ボクはめぇが幸せならそれで幸せだから。だから、そんなに無理して笑わないで?」
困ったように彩花が笑う。
でも俺はなんで彩花がそんな顔をするのか、どうしてそんなこというのかわからなかった。
何で?俺は別に無理してなんて笑ってないのに。
彩花と居る時がいつだって一番幸せで楽しくて。唯一本当に笑える場所なのに。
どうして?どうしてそんなこと言うの?
結局その後、久しぶりのお茶会だったにも関わらず、どうしていいかわからなかった俺は思わずその場所から逃げてしまった。
「あ。雨丸!」
聞こえてきた無邪気な声に思わずビクリと反応しそうだった身体を押さえて、いつものようにと心で唱えながら声のした方へと振り返った。
そこには俺の名前を呼んで、手を大きく振っている班長の姿。
俺たちと同じぐらいの強さを持ちながらも。
俺たちとは全く違う幸せな人生を歩んで、今も幸せそうに笑っている彼。
最初、彼の存在を知った時、正直にいうともの凄く悔しかった。
WSが俺たちに勝手に与えた力のせいで、俺たちはこんなに苦しい思いをしているのに。
いまだって鎖で繋がれたまま僅かに与えられた庭を自由に歩けるようにさせられているだけだっていうのに。
彼はなんの束縛も受けずに幸せに笑っていたから。
だから彼のことは嫌い。
―――な、はずなのに。
「どうしたんですか?班長」
「喜べ雨丸!今日のオヤツはサムの作ったショートケーキだ!」
それを伝えるためにわざわざ探しに来てくれたのだろうか。
息は切らしてはいないが走っていたのだろう、僅かに頬を染めながらキラキラとした眼を王太は雨丸に向けた。
その瞳が、数日前にキウイパイがオヤツに出た時の寿と似ているその瞳と被った。
「ああ。だからそんなに喜んでいたんですね」
寿がキウイを好んでいる以上に王太はイチゴを好んでいる。
以前、大好きなイチゴとキウイの歌を二人が合言葉にしているのを目撃した時は、「合言葉なげぇ!」と突っ込む前に笑ってしまった。
それぞれの愛を綴った歌詞とその歌を歌っていた時の真面目な表情を思い出し、思わず笑いを零しそうになった時。
『無理して笑わなくてもいいんだよ?』
何故か思い出した先ほどの言葉。
「ん? どうした元気ないな。体調でも悪いのか?」
「そうですか?別になんともないですけど」
「ん~・・・?ま、気のせいならいいんだけどよ。どこかおかしいと思ったら直に言えよ!解ったな!」
「はい」
これは演技なのに。
演技な筈なのに。
俺は班長のことなんて嫌いなはずなのに!
「あ!もうすぐ三時じゃねぇか!急ぐぞ雨丸!!」
自然に繋がる右手と左手。
俺よりも少し小さいその手はしっかりと俺の手を握り締めていた。
ああ、何でだろう。
今自分がどんな表情を浮かべているのかわからない。
■□■
《あとがき》
こんにちは、一番手になってしまった青柳です。
何だかよくわからない文章でスミマセン;
雨丸的には作り物の笑顔を浮かべているつもりだったんだけど、それがいつからか本物になっていて。
罪悪感からか無意識に彩花の前で作り物を浮かべていることに、彩花様は気付いた…みたいな感じでしょうか?
最初の一文が生かせているのか解りませんし、なかなか難しいですね。
長いですが→「今自分がどんな表情を浮かべているのかわからない」
二番手、笹莱様よろしくお願いします!
リレー小説概要
ルール
・前者の作品の最後の一文を、冒頭の一文として書き始める。
ただし、最初の書き手は4番目の書き手のお題を使用する。
・回る数は二順。
・1番目から
青柳様 → 笹莱 → 霧堵様 → 奏翔様
の順番で回ります。
・特に最初のルールだけ指定であって、設定等にくくりはありません。
一つの設定に準じて・・・と言うリレー小説ではありませんので、半ば闇鍋に近い状態です。
・なお、この企画最後の作品となりますが、少しでも参加者の方も、訪問していただいている方もお楽しみいただければと思います。
お知らせ
何ヶ月かの放置プレイ。
至らない主催者で申し訳ございません。
現在、初期企画案で机上に登っていましたリレー小説の準備段階に入っております。
近日~遅くとも7月上旬には詳細等打ち出し、始動へとはいる事が可能かと思います。
今まで足を運んでくださった方々、応援のお言葉を頂いた方々には、感謝と謝罪を贈りながらも今回ご連絡まで。
リレー小説終了後には暫くこのページを残し、時期を見計らって撤去したいと思います。
参加者の皆様、ご観覧の皆様、もう暫くご協力のほど、よろしくお願いいたします。
Halloween 小説
Halloweenの話。
自分の方にもupしてたりするんだけど、ね。
出演者?はENISHIの人間が多いです。
それでは。
どうぞ・・・・・・。
時間は、嫌というほど過ぎ去ってしまったけれど。
その流れを嫌だと思ったことは無かった。
大事な片割れは、今なを。
傍らに居て。
支えあって、笑いあって過ごしているのだから。
たとえ、残酷な場所だと言われようとも。
関係などない。
場所ではなく。
人を。
求めて。
だからこそ。
この場所で、笑っているのだから。
静まり返った部屋の中。
雨丸の、くーくーとかわいい寝息が響いている。
彩花は大事な、雨丸に近づくとベッドに腰を掛けて、雨丸の頬をなでる。
大事な大事なパートナー。
家族で兄弟で、失えない人、たった一人の“人”。
ENISHIとして生み出されてから13年。
特殊部特務課に雨丸と彩花が派遣されてから、5年という時間が過ぎていた。
γ棟のメンバーもα棟のメンバーも特殊部の各部門に配置され、多くの功績を残している。
各々の。
未知数の力を理解できない者も多いようだが、気にしているものは居ないに等しい。
ENISHIという存在はパートナーを奪われることをひどく恐れるけれど、それ以外のことについては。
パートナーに害が無い限りは結構寛容であったりする。
それは彩花に対しても。
そして、雨丸に対しても言えること。
無邪気で純粋な子供のままの雨丸。
けっして、他人に心を開くことなく、全てを雨丸にささげているかのような彩花。
特務課の人間はそのことを理解しているからこそ、雨丸に関わろうとはしない。
雨丸が関わらない限り、何に心煩わされることも無く、冷徹は判断を一瞬にして行うことが出来る彩花。
その立ち位置は今も、そしてこれからも変わる事は無い。
彩花はふと雨丸のベットの枕の横に置いてある、オレンジ色の抱えるほどもあるカボチャのランタンを見つめた。
今日は、もう10月30日。
明日になれば、雨丸がずっと楽しみにしているハロウィン(Halloween) がやってくる。
それまでにいろいろとお菓子を準備して。
パーティメニューも用意もして。
たくさんたくさん笑ってもらえるように。
それに、驚かせてあげないと。
知らないことを知って。
楽しそうに笑うのだろうから―――。
雨丸がハロウィンを知っているのは。
何故かと言うと。
彩花が教えたから。
任務で外へ出た際に、黄色の大きなカボチャに興味を引かれて面白そうに近づいて。
「あれは何に使うの???」
と彩花に聞いたから。
気になったことは何でも彩花に聞く雨丸。
雨丸は彩花に答えを貰うと嬉しそうに笑うから。
彩花はひそかに読書などで知識を集めることだけはやめられないと思っていたりするのだけれど。
「ハロウィン用の。『ジャックランタン(Jack-o'-lantern)』だね」
「ジャックランタンってなぁに?」
「確か、10月31日のハロウィンの夜に家の戸口の上り段に置く外灯のようなものかな」
あれ食べるんじゃなくて明かりになるんだぁ。
「じゃあね、じゃあね。ハロウィンは何するの?」
「魔女やお化けに仮装した子供達が『トリック・オア・トリート(Trick or treat. お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)』と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねて。家では、かぶらの菓子を作って待ってて、子供たちは貰ったお菓子を持ち寄って、ハロウィン・パーティーを開いたりするんだって。日本ではあんまりしてないみたいだけどね」
「ハロウィン・・・・・・楽しそうだね」
「めぇ???」
いいなぁと呟く雨丸を覗き込むようにして彩花が伺う。
「だって、トリック・オア・トリートって言ったらお菓子貰えるんだよ。みんなで仮装して、パーティーするんでしょー!?」
いいなぁ。
楽しそうだなぁ。
僕もしたいなぁ。
と雨丸は思っていることが全て言葉になっているとは夢にも思っていないのだろう。
彩花は少し考える。
今からなら、まだ約一月あるから、準備できないことも無いだろうし。
めぇがしたいなら、僕もしてあげたいし。
「うん・・・・・・。じゃあ、ENISHIのみんな誘ってハロウィンパーティーをする?」
「ええっ・・・・・・できる、かな?」
期待に満ちた雨丸の表情に、彩花はやっぱり言ってみてよかったと思う。
殺伐とした課だからこそ、か・・・。
彩花は雨丸が笑っていることを望む。
「今から準備をすれば、大丈夫だと思うよ」
「そっかぁ。できるかな?」
「楽しみにしてて。でも、当日はめぇがみんなを迎えに行ってね」
「うん」
10月31日、当日。
「蜜歌っ!!」
ふと、扉の方から声が掛けられたかと思うと。
室内の空気が揺らぎ。
目の前に雨丸が立っていた。
「お疲れ? 蜜歌」
「ええ、お疲れ様です。めぇ」
「珍しいな、お前が一人なんて、さ」
お疲れ様と返したのは蜜歌。
常に二人、パートナーが傍らに居ないことを告げたのは真音。
「今日はね、別行動なんだよ。意味は一緒だけどね♪♪」
「はぁ??? よく、そんなわけわかんない行動をあいつが許したな」
「てか、誰だ? お前」
いきなり室内に現れたに等しい、雨丸に黒髪の少年が話しかける。
「君こそ、だぁれ?」
誰?と聞きつつも、雨丸の顔は蜜歌の方を向いている。
蜜歌も、雨丸に答える為に口を開く。
「うちの班長ですよ。特殊部交通課班長 小枝 王太。栄児です」
「ふーん。僕らより少し上くらい?」
「ああ、18らしい。・・・ま、年より子供に見えるけどな」
「どういう意味だ、真音っ! んで、お前は誰?」
「僕? 僕はね―――」
「めぇ―――っ!!! 聞いたわよっ!!!」
雨丸が名乗ろうとしたところで、いきなりツインテールの甲高い声の少女が抱きついた。
と、言うよりも押しつぶしたの方が正しいかもしれない。
背後から襲われた状態で、真音に頭から倒れこんでいる。
「ねぇっ! めぇ聞いたわよっ! パーティーするから来て下さいって本当!!??」
「だめだよ、かがり。めぇを押しつぶしちゃってるって」
「ええっ!!! やだ、ごめんね。めぇ・・・」
「ううん。だいじょうぶ・・・だよ」
「てか、俺には何にも言わねえのかよっ」
「あんたは丈夫だから良いのよ」
「んだとっ」
「落ち着いてね、真音」
「だが、蜜歌っ」
「班長をみんなで放置しちゃってるんだから、ね」
「ああ・・・・・・っ」
真音は、ばつの悪そうな表情で、言葉を飲み込む。
「とりあえず、名乗ってくれるのか?」
一騒動治まるまではと、口を挟まずに傍に立っていた王太が告げる。
ポニーテールの雨丸に抱きついたツインテールの少女に良く似た少年が、少女の肩を叩く。
少女は少しむくれながらも、ぼそり、と名乗る。
「特殊部刑事課第7班 班長補佐、かがり」
「同じく、特殊部刑事課第7班 班長。かがりのパートナーのいさりです」
「刑事課か・・・。俺らと関わりになる刑事課って言ったら狼の所だけだしなぁ」
「ああ、爆裂さん。第2班ですね」
「んで、初めに乗り込んできたお前は? 結局何処の誰なんだ?」
「僕は特殊部特務課 班長・・・」
「班長っ! お前が、あの―――っ!!!」
冷徹、冷酷、無慈悲の特務課の班長。
こんな目の前の子供が、そうだというのだろうか?
「違いますよ。僕は班長をしている彩花のパートナーで班長補佐の雨丸と言います」
班長補佐。
それでも、この王太よりも小さな子供が、WSの闇を被る者のうちの。
犯人は殺してでも捕まえろという課を統べる者の一人だというのか。
「名乗ったし、良いよね。―――てか、ENISHIの間でちょっと前から噂になってるんだけど、本当なの?」
「??? ・・・っ!! うん。本当だよ。彩が準備してくれて。これも作ってくれたんだぁ。どうぞ。かがりといさりの分だよ」
二つ折りにされた、手のひらに乗る程度の。
小さなピンクの紙切れ。
ふちには白いレースのような文様まで入っているから、紙切れと呼ぶのはふさわしくないかもしれない。
メッセージカードといったところだろうか。
「ENISHIのみんなに配ってるんだ。ここと刑事課で最後だしね。だから、はい。蜜歌と真音のぶんだよ」
「ありがとうございます」
「サンキュ」
「じゃあ、僕はこれで」
「ええ、もうちょっと良いじゃない」
「ごめんね。かがり。彩が待ってるから、僕はもう行かないと」
「そっか、じゃあ、また後でね。絶対っ! 行くからっ!!」
「うん。また後で」
部屋に入り込んできた時同様。
突然、雨丸の姿は部屋から無くなった。
「んじゃ、私達もこれで」
「お騒がせしました」
同様に、かがりといさりと名乗った刑事課の二人も悠々と部屋を出て行った。
「結局何しに来たんだったんだ?」
「班長。かがり達は多分押しかけてきただけですが。・・・めぇはこれを届けに来たみたいです」
蜜歌は先ほど雨丸に渡されたピンクのメッセージカードを王太に差し出す。
「見ても?」
「構いませんが、読めないと思いますよ」
「読めない?」
「ああ。あいつが準備したって言ってたからな、多分ENISHI専用の言語で書いてあるぜ」
「お前達には、そんなものまであるのか・・・・・・」
「ええ、まあ―――」
「俺らは生まれた時から戦うことを前提に作られるENISHIだ。栄児と同等のことが出来て当然の世界だしな」
「班長の知る、警備課や刑事課、・・・交通課とは全く違う世界に等しいと思います。けれども、だからこそ・・・・・・。パートナーを愛し、仲間を愛するのかもしれませんけれどね」
「すっげー台詞だな」
「そうですか?」
「蜜歌、とりあえず、開けて読んでみろよ」
分かったと返して、王太に差し出していたメッセージカードを開く。
王太も隣からカードを覗き込んでみるが・・・・・・。
確かに、真音の言っていたように、何が書いてあるのかよくわからない。
黒の細い縦線に横線、ジグザグになっていたり、ところどころにある○は塗りつぶされているものもあればそのままのものもある。
子供の落書きと言われればそういう風にも見える・・・ような気もする。
これがENISHIの専門言語。
「うん。おおむねかがりがさっきめぇに問いただしてた内容と一緒だよ。後は、会場と時間が書いてあるくらいかな」
「ちなみに聞くが、どのあたりにかいてるんだ?」
「この上の方がパーティーの内容ですよ」
ここを見てくれれば分かりますけどと蜜歌が指差す先を見るが、どう解釈するのかは不明。
||○―<=>>||- ―――・・・・・・
縦線が二本に○横線に<に横棒二本に>が二つで縦棒二本―――・・・・・・。
「ハロウィンパーティーを企画するから、一人一つはお菓子を持ち寄ること。仮装は好みで。・・・・・・ここからが時間です。開始は18時から。会場はここに書いてあってやっぱり彩花とめぇの部屋みたいですね」
蜜歌が指を指しながら簡単に読んでいくが。
すでに左から右に指を動かしたかと思ったら下がったり、今度は右から左に読んだり。
何処に読む順番が書いてあるんだといいたくなるようなほど色んな方向に言葉が散らばっているようだ。
「今日は真音と定時に上がりますね。せっかくの誘いですから」
「ああ、楽しんでこいよ」
「ありがとうございます」
おかえり、めぇ。
彩っ!!!
みんなに配れた?
うん。
喜んでくれたよ。
そっか。
良かった。
早く時間にならないかなぁ。
そうだね。
早く、その時間になってくれたら良いね。
ねぇねぇ。何に変装するの?
僕と彩。
後で見せますけど、黒のマントと黒のとんがり帽子を被った。
魔女??
魔法使いのつもりだったのですが。
まあ、そうですね。
かがりと被ってしまいそうな気もしてきました・・・・・・。
う~ん?
彩と僕はおそろいだよね?
そうですよ。
みんなもきっとお揃いだよ。
くすくすくす。
そうかもしれませんね。
10月31日、その夜。
一人一つのお菓子を持って。
彩花とめぇのところへ―――。
17時になると一斉に部屋を飛び出すように帰るENISHI。
交通課からも。
―――声は直ぐに消え去り。
刑事課からも。
―――赤々とした空を見上げて。
警備課からも。
―――手と手を取り合って。
電脳課からも。
―――シグラから慌てて飛び出して。
護衛課からも。
―――泣き言を零しながら。
一斉に向かう場所は、みな同じ。
雨丸に渡されたメッセージカードに書かれて居た。
彩花と雨丸の隠れ家の一つ。
特殊部へ配属が決まり、制限が減ったENISHIは各々好きなことに取り組んでいった。
そして。
WSとは関係ない隠れ家を持っているのも。
皆、同じ。
共に在れる場所を常に用意するために。
あらら、ここでみんなそろっちゃうんだ。
ね、お兄ちゃん。
まあ、同じタイミングで出れば、皆同じくらいの時間に着くからね。
がんばって急いだよね、真音。
ああ、時間になったら即出てきたからな。
僕ら、いつもより早く上がれたから一番だと思ってたのにね、比良。
そうだね。由良。
それは、私達の台詞ですよ。
そうだよね。
内緒でみんなの部屋の時間5分ずらしてあったのに。
それでだったんだね。
うんうん。
飛び出して外の時間とちょっとずれがあると思ったんだよ。
わざわざチャイムまでずらしたね!
もちろん。
てか、あんた達良く気付いたわね。
まあまあ。
それより、入ろうよ。
それもそうだね。
じゃあ、言うことは決まってるね。
せーの
Trick or treat !!!
全員が扉から飛び込んで、中にいるだろう二人に大きな声できっぱりと告げる。
カランカランと扉についたベルが鳴り響く。
いらっしゃい、みんな♪。
ああ、かわいい。魔女だね!
うん。
でも、彩は魔法使いのつもりで準備してくれたんだけど。
やっぱり魔女だと思うよね。
めぇが着ると可愛いからですよ。
う~ん。それはいえてるわ。
私より似合ってるかも。
そんなこと無いよ。
かがりのばけねこも、とっても可愛いよ。
お兄ちゃんっ。
まあ、彩花まで着てるとはちょっと思ってなかったんだけど、めぇより似合ってるかもしれないね。
そんなことありませんよ。
めぇの方が似合ってますし、可愛いですっ!
くすくすくす。
相変わらずだね。
そういえばみなさんは何を持ってきてくれました?
料理は準備しているので、お菓子ですよ。
Trick or treat って言ったのに、取られるのはこっち?
と言ってるけど、はい。
これは。
クッキーですか?
もちろん。
ハロウィン定番のあれだよ。
僕は、ケーキです。
胡桃のパウンドケーキを作ってきました。
ぼくらは被らないようにチョコだよ。
色々用意してみたんだ。
はい。
私は、アイスボックス。
お兄ちゃんに作ってもらったんだけどね。
くすくすくす。
かがりらしいですね。
彩―――っ!!
いっぱいだね。
そうだね。
めぇ、そろそろパーティーを始めようか。
うん。
そうしよう。
みんなーっ!
席についてーっ!!!
楽しい時間は、流れるのがとても早い。
まだ、もう少しと思うのに。
時間は刻々と進み、もう深夜。
もう直ぐ、24時の鐘が鳴る。
この小さなロッジに響き渡る、時計の鐘。
楽しい時間の終わりを告げる、鐘・・・・・・。
笑い声が絶えて、寝静まった時間。
彩花の腕の中には雨丸が居た。
いつものような、万歳をした格好ではなく、彩花の片腕を抱きしめて。
でも、疲れ果ててはいるのだろう。
雨丸は、ぐっすりと意識が眠っている気がする。
ねぇ、めぇ。楽しかった?
パーティーなんて久ぶりだったからね。
すごくはしゃいでたもんね。
僕もとっても楽しかったんだよ。
めぇと二人も好きだけど、みんなで会うのも。
久々だったからかな?
本当に、とっても楽しかったんだよ?
また、明日から二人だけだけど、良いよね。
ねぇ、めぇ。
いつか。
いつか、ここを出てみんなで遊びに行くのも良いかもしれないね。
僕はめぇが居れば十分だよ。
でも、めぇには笑っていてほしいんだ。
だから、これからも色々聞いてね。
僕はめぇに答えられるようにするから。
だから、これからもずっと一緒に居てね。
大好き。
大好き。
大好きだよ。
めぇ。
右手を雨丸に抱き込まれた状態のまま、彩花は左手で雨丸を包むように身を寄せる。
温かい人肌が。
彩花の眠りを誘う。
満足感に包まれて、彩花も雨丸も眠りに落ちる。
今日一日の楽しい思い出を忘れないように。
