2.身代わり人形に愛を捧ぐ
【身代(わ)り/身替(わ)り】他人のするはずのことをかわってすること。また、その人。
蜜歌は、そのことを理解していた。
彩花の「めぇ」になるとはそういうことだと。
電子辞書の電源を落とし、その後は興味を失ったそれを無造作に投げる。
電子辞書なんてものを持って、無駄に知識をつけてしまったら自分は「めぇ」ではいられない。だって、彩花の「めぇ」は純真無垢で何も知らない綺麗な子なのだから。知っていてはいけないのだ。
すると、投げ捨てたそれを誰かが拾いあげた音がかすかに聞こえた。昔から耳だけはいい。話すことは出来ないから、ゆっくりと後ろを振り返り、拾い上げた人物と向かいあう。
「もったいないですね。これ」
そう言って、氷魚は蜜歌が投げ捨てた電子辞書を顔の高さまで持ち上げる。蜜歌は、不機嫌そうにそれを一瞥した後、氷魚の横を通りすぎて出て行こうとした。
きっと「めぇ」ならこうするだろうと。そう思ったから。この10年間、ずっと演じてきたのだ。
自分の捨てたオモチャをわざわざ拾われたらどうするか。きっと拗ねるだろうとそう思った。それに話すことは出来ないから、不機嫌を表して立ち去るのが一番だと思った。
あぁ、彩花の側にいかなくちゃ。ほんの少しだけ興味が湧いたから、こっそりと彩花の側から離れて辞書なんてものを持ち出して調べていた。今更ながらにその行動に呆れてしまった。
たとえ自分が何であろうと彼の側にいるのが、最優先事項なのだということは変わらないのに。
「どうして無視するんですか?蜜歌さん?」
出て行こうとする蜜歌の背中に氷魚の声が降りかかる。無視してしまえばいい。
そしてそのまま出て行ってしまえばいい。なのに、たった一言。たった一言で感情は爆発した。
「身代わりのお人形さんは、話すことも出来ないんですか?」
くすくすと嫌らしく笑った氷魚が、許せなかった。
こいつは何を知っている――――?
いや、違う。例え身代わりであることを知っていたとしても、彩花へのぼくの想いは知らない気づかない気づかせない。そう思うと無性に腹が立った。「めぇ」としてではなく、蜜歌として。
何も知らないくせに。彩花とぼくの何も知らないくせに。
そう思ったら、蜜歌は氷魚を半殺しにしてしまっていた。たとえ半分が機械で反応速度が上がってしまっていたとしても、もともと遺伝子改造されているENISHIのメンバーならばその速度さえ簡単に上回ることが出来る。もともとは、10年前の段階でエイジ並みといわれていたほどだ。
床に伏した氷魚を冷たい目で見ながら、蜜歌は心の中で自嘲する。
パートナーを亡くして、声を無くして。
そうして得たのは――――。
騒ぎを聞きつけた縁のメンバーがぞくぞくと部屋に集まってくる。
当然その中には頭領である彩花の姿も。部屋の惨状を見た彩花は何も言うことなく、ただ蜜歌の頭を撫でた。
「ごめんね、彩花。氷魚が嫌なことを言ってくるから、ついやっちゃった」
聞こえてくるのは首のスピーカーから聞こえてくる「めぇ」の声。きちんと口は動いていただろうか。
ちゃんと「めぇ」であれただろうか。
「いいんですよ、蜜歌に酷いこと言った氷魚が悪いんです。さぁ、部屋に戻ってお茶にでもしましょう」
そう言って彩花は踵を返して歩きだした。それに反論もなく、自らもついていく。
部屋を出る寸前見た氷魚の口元が笑っている気がした。
身代わり人形が得たのは、偽者の愛情
それでも良かった
だって、彼の中にぼくがいることが何より重要だったのだから
《彩雨長編》2:身代わり人形に愛を捧ぐ
【1:きっかけは一発の銃声】の続きです。
「蜜歌」
彼が、ボクの名を呼ぶ。
「何、彩花?」
ボクが、彼の名を呼ぶ。
「外で、銃を乱射している連中を止めてきていただけませんか?」
彼が、ボクを見つめる。
「うんわかった。すぐに、もどるね?」
ボクが、彼の眼に映る。
彼の傍にいるのはボク。
一番近くにいるのもボク。
――――でも。
【2:身代わり人形に愛を捧ぐ】
彩花は銃声を嫌っている。
だから、彩花のことを知っている者はこの建物の周りで銃を使うことはまずない。
けれどもたまに、偶然この場所に訪れた何も知らない連中が力を誇示するように銃を扱うことがある。
今日もそんな輩が銃を乱発して騒ぎを起こしているのだろう。
よりにもよって、彩花が眠っている時に銃を撃つなんて・・・。
事の重大さを知らず、大して実力もないくせに乱射している輩に殺意を覚える。
別段理由を知ってほしくもないし、知っているのは昔からの馴染みだけでいい。
自分が、彩花の過去を知っている一人だということに対して歓喜していることも事実だが。
でも同時に知っていたくなかったという思いもある。
彩花が銃声を嫌う理由は単純。
彼のパートナーである雨丸のことを思い出すからだ。
そしてそれは同時に。
雨丸のことを忘れていないということでもある。
嗚呼・・・・・・きっと、今日も―――。
□
「ただいま、彩花?」
騒ぎを起こした連中を止めて、蜜歌が部屋へと戻ると。
何時もは暗くなっている筈の部屋は電気が付けられ明るくなっていた。
「お帰り――。さっき氷魚からケーキを貰ったんだ、食べるでしょう?」
ティーポットを手に、彩花がフワリと自分に笑いかける。
ああ――――やはり。
予想はしていた表情ではあるが、少し期待をしている部分があったのだろう。
現実を突きつけられ、何かがグラリと揺れる。
けれども、必死で表情を隠し。
胸を過ぎる何かには気付かない振りをして彩花のもとに近づく。
チラリと傍にあるテーブルの上に視線を向けると、小さなケーキが二つ入った箱があった。
氷魚がくれたと彩花は言ったが。
氷魚は彩花が銃声を嫌う理由を知らないため、おそらくこの建物にいた馴染みの一人が氷魚に持ってこさせたのだろう。
蜜歌がケーキを見ながらそんなことをぼんやりと考えていると。
「紅茶、冷ましておこうと入れておいたんだけど。まだ冷めきっていないから気をつけてね」
優しい、滅多に見られない笑顔を浮かべながら、彩花が紅茶の入ったカップをテーブルの上に置いた。
密歌は「ありがとう」とお礼を言いながらテーブルに備わっている椅子へと座る。
いつもなら、紅茶を用意するのは蜜歌の役目だけれど。
今は彩花が用意をする。
「チョコレートケーキと苺のショートケーキだね」
箱の中にあるケーキの種類を呟きながら、彩花は当然のようにチョコレートを蜜歌の前へと差し出した。
「チョコレートの方、でしょう? 好きだもんね」
好みをよく理解しているような口調と表情ではあるが―――チョコレートケーキが好きなのは蜜歌ではない。
「あ、紅茶も冷めたみたいだよ。ふふ、猫舌なんだから、前みたいに熱いまま飲んで火傷しないようにね」
懐かしい思い出にクスクスと笑うが―――蜜歌は猫舌ではないし、火傷をした覚えもない。
彩花は自分の前にショートケーキを置き、自分の分とおかわりをするであろうパートナーのための新しいカップの二つに紅茶を注いだ。
「どうしたの? ああ、大丈夫だよ。ちゃんとショートケーキも半分置いておくから。だから、食べなよ――――」
―――『めぇ。』
口には出さないが―――彩花のその優しい表情が、その声が、隠れた言葉を蜜歌へと届ける。
彩花が、優しい眼で蜜歌を見つめる。
けれども、彩花が見ているのは蜜歌ではない。
彼が蜜歌を通して見ているのは、本当のパートナーである雨丸の姿。
蜜歌の名を呼ばない事も、接し方が何時もと違って優しさが込められていることも、恐らく彩花自身は気付いていない。
けれども、その優しさを向けられている方―――蜜歌からしてみれば、違いが良くわかる。
『蜜歌』は今まで、彩花に。
こんなに優しい声をかけてもらったことは無い。
こんなに優しく接してもらったことも無い。
こんなに優しい、愛しさが込められた眼を向けてもらったことなんて、一度も無いないのだ。
そのため、初めてこのように扱われたとき、その向けられる優しさにもの凄く喜んだ。
砕けた口調が自分をパートナーとして認めてくれたようで嬉しかったのだ。
けれども、彩花が見て、大切に接しているのが自分ではないと気付いたとき、同じぐらい絶望した。
そして、理解した。
自分は決して、彩花のパートナーになれはしないのだと。
―――でも。
でも、たとえパートナーにはなれなくても。
「美味しい?」
「うん! 彩花も食べる?」
「じゃあ、一口もらうね」
彼の一番近くにいるのはボクで。
傍にいるのもボクで。
彼が眼に映しているのも、優しさい眼を向けるのも、愛しさがこめられた声を向けているのもボクだということが嬉しい、なんて。
「ねえ、彩花? そっちのケーキも一口ちょうだい?」
「ふふ。一口じゃなくて半分あげるよ」
「ありがとう!」
たとえ、雨丸の身代わりだとしても。
その愛が『ボク』に向けられているのが嬉しいなんて。
「紅茶もおかわりある?」
「はい。さっき入れておいたから冷めてると思うよ」
「ありがとう! 彩花は何でもわかるんだね?」
「パートナーだからね」
パートナーになれる日なんて来ないと知りつつも、どこかでパートナーになれる日が来ることを望んで。
身代わりとして扱われていることに悲しみながらも、身代わりであるから故に向けられる愛を受けて、喜んでいるなんて。
たとえ誰かの身代わりだとしても、彩花からの愛が欲しいだなんて。
きっと彩花は、ボクのこんな想いに気付くことなんてないんだろうね。
―――身代わりを造って幸せを感じているなんて、周りから見ればボク等はさぞや滑稽だ。
→『3:シャボン玉のように消えたその願いを探す』
身代わり人形に愛を捧ぐ
このお題達では、2つで1セットのストーリにする予定です。
4種類の話を書き上げられるようにがんばりますね。
今回は、すっ飛ばされていた、雨丸がおじい様を撃つ辺りです。
前振りが無駄に長い上に、雨丸が直ぐに去ってくし・・・・・・。
誰が主役だろう?というような状態になってますが、良ければどうぞ。
結構残酷な内容になっちゃってるかもです。
ピ、ピ、ピ、ピ・・・・・・
一定の音が、しんっと静まり返った病室に小さく響き渡る。
その中で。
白い簡素なベットの上で、機械に繋がれることで生き延びている存在が居た。
<<身代わり人形に愛を捧ぐ>>
「なんで、なんでこんなことになったんだよ」
落とされた。
痛々しいまでの感情を含んだ声に答えられる者は居ない。
唯一、この状況が分かっているだろう人物。
雨丸の祖父に当たる、白井 晴十郎は。
今もまだ。
生死の最中を漂いつつも・・・眠り続けているのだから。
式典に乱入してきた、縁の蜜歌と名乗った青年自身が、己の身を捨て駒に仕立てている気づいたのは。
もう、その身に備え付けられていた爆弾の解除が間に合わない時間になってから。
青年自身が、WSに告げたからだ。
「無駄ですよ、もう。これは・・・・・・ここ一面を巻き込んで、すべてを無に還してくれるのでしょうね」
首に取り付けられたその爆弾を愛しそうに触る青年が。
WSの人間には理解できなかった。
そう。
自身を殺すための爆弾を。
喜びと共に迎えている、その思考回路が。
他者を、まるで芥屑のようにあっさりと殺し、それを楽しんでみせる少年の思いなど。
その場に残っている、戦えるものたちで。
青年を取り押さえ、爆弾を解除しようとしたけれど。
空気の刃を操り、自分の死さえも恐れない青年に手も足も出なかった。
そんな中に、WSの裏。
影を司るといわれている、特務課が到着した。
さすがに、縁とはいえ、たって一人では。
多数の特務課の人間には対応できなくなり、徐々に追い詰められる。
後は、捕まえられ解除されるのが先か。
凌ぎきり、その爆弾によってこの場を崩壊させるのが先か。
時間だけの問題となった。
片足を打ち抜かれた青年は、その場で姿勢を崩しわずかな隙を作る。
その時を見計らったかのように、特務課の人間が左右から飛び掛り片腕ずつを取り押さえた。
しかし。
「僕の勝ちですよ。もう、間に合いはしない」
捕まえられたというのに、その余裕の表情を崩すことの無い縁の青年の前に降り立った人物が居た。
「いいや、これで間に合う」
振り下ろされたその棒状の機械が、瞬時に反応し、縁の青年に取り付けられた爆弾の解除を始める。
「白井 晴十郎・・・・・・」
青年はまさか・・・というような表情で、目の前の人物の名を呼んだ。
「やめろ、これは―――っ」
「ここで死ぬべきではない。WSの人間も・・・・・・君もね、蜜歌君」
かちり、と鳴ったその小さな音が。
縁の青年に取り付けらてていた爆弾の解除を伝えた。
「ふざけるなっ!!」
「ふざけて等いない。君達にはすまないこと―――」
「それがふざけていると言っている」
取り押さえられた状態で、なお。
青年は、憎悪に染まった瞳で睨みつける。
「やっと・・・・・・。やっと彩花の願いが叶うはずだったのに。なぜ、邪魔をするっ。こんな場所など―――っ!!」
「WSが憎いのかい・・・」
「当たり前だろうっ!! 縁を・・・・・・ENISHIを作り上げたのは、他でもないお前達WSだろうがっ」
「確かに、我々WSが君達・・・ENISHIを作り上げた。・・・・・・その性で縁が出来たといっても過言ではないだろう。だが―――」
言葉の途中で・・・。
パンっと乾いた音が響いたかと思うと、白井 晴十郎の身体がその場に崩れ落ちる。
「「認めるとは思っていませんでしたよ」おじい様」
だれも気付けなかった。
というよりも。
だれも気付かなかったという方が正しいのかもしれない。
WSの制服を着た、雨丸と、訓練生の制服を着た黒髪の青年。
違和感など無く。
その為に、だれもが直ぐに気付くことも出来なかった。
先ほどの音は・・・・・・雨丸が手にした拳銃から発せられたものだということに。
「蜜歌。遅くなってゴメンね」
拘束していたWSの人間をあっさりと蹴倒し意識を奪うと、雨丸は蜜歌の手を取った。
「めぇ・・・・・・ですね。お久しぶりです」
「うん。久しぶり。―――ううん。ただいま」
涙の滲んだ瞳で、蜜歌は告げた。
雨丸は、にっこりと笑って言葉を返す。
「お帰りなさい。めぇ」
「蜜歌、今までありがとうございます」
「いいえ。・・・彩花の役に立てたなら、僕は・・・・・・」
「もう、眠りますか?」
「そうだね。真音を待たせちゃってるから」
「じゃあ、僕が奪ってあげる」
「「めぇ?」」
蜜歌は少し、意外そうに。
彩花は少し不機嫌に。
同時に雨丸に声をかける
「蜜歌は今まで、僕の変わりに彩の傍に居てくれたから。僕が最後は奪ってあげる」
「―――じゃあ、お願いします」
「うん」
ね、いいでしょう?と聞いてくる雨丸に、彩花はめぇが望むならと答える。
「今まで、ありがとう。・・・・・・ばいばい、蜜歌」
「さようなら、蜜歌」
「さよなら。・・・・・・あや、は・・・な。・・・・・・め、ぇ・・・」
「なんで・・・・・・。―――雨丸・・・。何をしてんだ・・・・・・」
目を見開き、震える声で告げる王太に。
くすり。と乾いた笑みを零す。
「はじめまして。そして、さようなら・・・・・・王太班長」
「何を―――」
「序章は終わりと言うことですよ。次は、WSの存在そのものを揺るがして差し上げます」
黒髪の青年が、雨丸に何が囁くと。
雨丸は嬉しそうに抱きついた。
「「今回はこれで」」
目の前に居たはずの二人はその言葉を残して消えた。
唐突に。
今までいた仲間でパートナーの砂沙 雨丸は喪われた。
何一つ残すことなく―――。
1.きっかけは一発の銃声
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高校からの帰り道、雨丸は友人たちと夕日の傾く中歩いていた。
夕日が自分達の影をいつもより更に長く道路に映して、時間の流れを示している。
「なぁなぁ、砂沙って進路もう決めた?」
ちょうど足元にあった石ころを蹴りながら、友人は雨丸に尋ねた。季節は夏。早いものならば、すでに動いている季節だった。
それでも高校3年生のこの時期未だに部活に打ち込んでいたり、友人との遊びにふけっていたりと様々なものがいる。
その中で、雨丸と友人は後者に当たる。部活動は3年になると自主的にやるというのが雨丸の通う高校の規則だ。雨丸としては特に熱心にやっていたわけでもないので、3年になると早々に行くことはなくなった。
「ん~、どうしようかなぁって思ってるよ。特に何かやりたいとかってまだ決まってないし…」
本当はおじい様から大学に行けといわれているが。そもそもあの祖父は自分のことに関しては、それはもうすばらしいくらいの溺愛っぷりを披露しており、大学に進学するとしても雨丸が希望を出した時点で無理にでも意見を相手側に通してしまいそうで怖いのだ。
「だよなぁ~。第一さ、もう将来のことを決めるっていう実感が湧かないんだよな。あ、知ってるか?A組の坂野、卒業したらアメリカに行くとか言ってたぜ?」
「は!?アメリカ!?なんでまた、いきなりそんな話に…」
思わず額を押さえて、雨丸は呆れたように言う。坂野という男子は比較的雨丸とも友人とも仲の良い友人だ。が、しかし、校内でも変わり者として知られている。メカニック研究同好会なるものを1年次に自ら発足し、一人メカを相手に研究しているような奴だった。
「でもさ、いいと思わね?やりたいこと見つかっててさ。俺としては、もう少しのんびり遊んでいたいんだけどな~」
「あははは、そうだね」
出来るなら、決断する時間がこなければいい。この心地よいぬるま湯のような世界に浸かっていたいと思うのは誰だってある想いだろう。
「あ、そうだ。俺、ちょっとマックに行こうかと思うだけど、お前どうする?」
にやりと八重歯を見せて笑う友人に雨丸は、苦笑した。
「俺も行くよ。どうせまた彼女と喧嘩したんだろ?」
「ご名答…」
いつもこの友人がマックに行くというときは必ずと言っていいほど彼女と喧嘩したときだ。そしてそれを雨丸に聞いてもらい、愚痴を零すというのはもはやお決まりのパターンだった。
「じゃあ、そうだなぁ~シェイク1個で」
「了解、ってお前本当に甘いもの好きだよな」
あははと笑いながら、2人は店へと向かい歩いていった。
「それでだな!俺はこう言ってやったわけ!『俺はお前のおもちゃじゃないっ!』って。そうしたら、あいつまた泣いて、俺のことなんか大っ嫌いって言って殴るんだぜ!?もう本当に女って何考えてんのかわかんねぇっ」
うわあああと大げさに泣き真似をする友人に雨丸はいつものように軽くあしらないながらシェイクを啜っていた。本日のシェイクは抹茶味。そういえば、前回はイチゴ味だった気がする。
するというのは数がありすぎて分からないからだが。
「まぁまぁ落ち着いて。というかさ、それはお前が悪いと思うよ?もう少し彼女のことを考えてあげてもいいんじゃない?」
「雨丸までそんなこと言うのかっ!?うわああ、ひどいっひどいわ雨丸君!もう私のことどうだっていいのね!!」
劇的にというか、悪乗りが始まってしまった友人は調子に乗り、ハンカチを取り出してそれを噛み締める仕種まで始めた。雨丸としては、もう少し静かにしていただければいいのだがと思ったその瞬間。
店の中に乾いた音がぱぁんと響いた。一瞬にして凍りついた店内は、静寂に支配される。
そろそろと音のした方向を見ると、マスクを被った男達がレジの前で銃を構えていた。それを視界に捉えた客達は悲鳴を上げる寸前で、犯人たちに銃を向けられ息を呑んだ。
「全員、手を上げて床に伏せろ!!!!」
犯人の一人が大声でそう叫び、客達はいっせいに指示に従う。そうしなれば殺されると誰もが理解していたからだ。
「な……なんだよ、これ」
「強盗…かな」
こそこそと友人と身を寄せ合い、雨丸は逸る心を必死になだめながら状況を確認していた。こういったときはWSに勤めていた祖父から、動くなということをしっかり教えられている雨丸はなるべく犯人たちを刺激しないように小さく言葉を返した。
犯人達はレジにいた店員たちをガムテープで縛りあげ、レジを強引に開け、奥にいる店員の金庫のお金を持ってこさせていた。
こんなのおかしい。こんな奴らに、みすみすお金を渡すしか出来ないこの状況に腹が立った。だが自分に何が出来るんだろう。たかだか高校生というだけでしかない。こういった場合の自分の対処方法などたかが知れている。
何か出来たらいいのに…と雨丸はその時切に願った。力が欲しいと。
皆を守れたいいのにと。
犯人たちは金を詰めた袋を担いで颯爽と店を出ていく。
悔しい。こんな目の前なのにと。
思わず雨丸は立ち上がった。
「お、おいっ!!」
慌てた友人を雨丸を止めようとする。が、それと同時に窓が割れる音がした。
何かが飛び込んできて、窓の近くにいた犯人を蹴り飛ばした。咄嗟に立ち上がったはいいものの、雨丸はその突然の事に驚き、目を瞠った。
犯人を蹴り飛ばしたのは、まだ小さな少年だった。なぜか腰にパンダの人形をぶら下げていた。
突然の闖入者に驚いた犯人たちはいっせいに銃を向けるが、少年は脅えた様子もなく犯人たちへと駆け出した。
それからは、あっという間の出来事であった。
たった一人で。それも自分よりも幼い少年が、あの犯人たちをほんの数分で全員を地面に沈めたのだ。
事件の後、解放されていく人質たちの波に呑まれながら雨丸は少年の横顔を見た。
綺麗な目…。
空色をした瞳を持った少年は、すごく強い目をしていた。
解放された後、雨丸と友人はWSの人から一通りの事情聴取を受けてから帰り道についた。あんなことがあった後で、2人とも互いに交わす言葉もなかった。その口火を切ったのは雨丸だった。
「あのさ、俺、やりたいこと見つけたかも」
「……は?な、なんだよ、いきなり」
「俺、WSに入るよ」
驚いた友人が、あんぐりと大きく口を開けて驚いているのを楽しそうに見やってから雨丸は大きく一歩を踏み出した。
だって、守りたいと思ったんだ。あんな風に誰かを守れるようになりたいと。強い瞳の持ち主になりたいと。
ようやく驚きから戻った友人が追いついてくるのを待ちながら見上げた夜空には、たくさんの星が祝福しているように瞬いていた。
だって、守りたいと思ったんだ
はじめに
・此処企画ブログ『シャルルの亡骸』は高/速/エ/イ/ジの参加型企画サイトです。
おもに短編投稿又はリレー小説やお題等を参加者様で和やか賑やか且つハイテンションな
感じで随時更新されていく予定です。
基本的に無礼講なので注意書きは添える予定ですがシリアス/ギャグ等の系統は
なんでもありです。読まれる際はどうぞ注意書きをご一報。
・参加者様名簿
Gloomy toys ・・・奏翔 様
王の祝福 ・・・・・・・・・・・青柳 様
夜道の隠れ家 ・・・・・・・・基己 霧堵 様
「Parsley」・・・・・笹莱多重
なんか一匹主催が混じっておりますがこ、こんな豪華な面子で、お送りしたいと思います・・・!
今後の予定(5/25)
・お題と投稿期間
5/24~6/7
1:きっかけは一発の銃声
2:身代わり人形に愛を捧ぐ
6/7~6/21
3:シャボン玉のように消えたその願いを探す
4:失われた時の中で求めたその正義とは
6/21~7/5
5:さぁ、裏切りのベルを鳴らせ!
6:綺麗事はゆびさきで紡いだ
7/5~7/19
7:繋いでいた手、今この手には体温を感じない
8:僕の隣、君の側
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・5/31・・・高速エイジRANK様に参加させていただきました。