シャルルの亡骸 -4ページ目

シャボン玉のように消えたその願いを探す

こんばんわ。霧堵です。


難産でした。

というか、今日中にあと一本upなんてできる、のかな?


ギブアップしてしまいそうな予感があるけど、がんばってみます。




今回は、彩花と引き離されて直ぐに雨丸です。

CPは・・・・・・ないかもしれないですが。


彩&雨です。













「・・・僕・・・・・・。どうして・・・・・・?? 一人・・・・・・」


暖かな日の光の注ぐ部屋で、ぼんやりとしつつ、日向ぼっことをしていた雨丸。


その昼下がりの暖かな時間の中で、ゆっくりと静かに眠りに落ちる。


深く。
深く落ち込んだ意識の中で。


過去の欠片が穏やかな夢を誘う。


すでに失った思いの中で、夢という名のやさしい・・・・・・残酷な、暖かい思い出を語る。











シャボン玉のように消えたその願いを探す











肩に。
かすかに小さな手の感触がある。


穏やかで、やさしい声が。


ゆっくりと。
ゆっくりと覚醒を促す。


「めぇ。おはよう。・・・おはようの時間だよ」


聞き覚えの無い。
でも、胸が温まるようなそんな思いを与えてくれるその声をもっともっと聞いていたくて。

誰が奏でているのか知りたくて。


ゆっくりと瞼を押し上げて、声のした方を振り向く。


「う、うぅ・・・ん・・・・・・。だれ・・・・・・?」




「めぇ? 僕ですよ」


「ぼく・・・・・・?」


「めぇではありませんよ」




くすくすと落とされた声がとても楽しそうで、目をパチパチと数回動かすことでぼやけていた視界が動く。


ぼんやりとした。
人形のように見えていたその影が。


ゆっくりと輪郭を持つ。


「僕ですよ。彩花です」


「あやはな・・・・・・」


漆黒の髪に、濃い・・・深い紫色の瞳が強い印象として残るだろう。


呼びかけられていた、優しい声とその姿がぴったりと重なった。











「昨日はいつもより疲れていたようでしたから起こそうか迷ったんですよ」


「きのう・・・???」


ぼんやりとしか纏まらなかった思いが。
急に明確となる。


昨日、訓練自体はそう難しいものではなかったのだけれど。
持久テストのようなものだったから。


すごく。
すごく疲れて。


そのまま崩れるように眠ってしまいたかったけれど。
彩がダメだって言って。


彩に抱きかかえられるようにして、部屋に戻って寝入ってしまったんだった。


「めぇ? 目が覚めましたか? もう少し休みたいですか???」


「だいじょうぶだよ。彩。僕も起きる」


眠い目を擦りつつも起き上がろうとすると、彩が手を掴んで止めた。


「まだ眠そうですよ、めぇ。もう少しなら大丈夫です」


「彩と一緒が良いんだもん」


さっき。


ほんの少しの覚醒前の時間。
パートナーで喪えないはずの彩が分からなかった。


あの恐怖。
あの空白の自身をもう一度体験したら。


そう思うと、眠たくてもここで目を覚ました方がずっと良いことのように思える。


「大丈夫です。僕はめぇとずっと一緒ですから、・・・ね」


でも、彩は。
怯えていることをはっきりと感じ取ってくれていて。


それでもこの言葉をくれている・・・・・・?


「ほんとう・・・・・・?」


「僕がめぇに嘘をつくはずがないじゃありませんか」


彩が声が。
安心感を呼ぶからだろうか?


なんだか、起きていられない。
起きられそうに、無い。


「めぇ・・・・・・。そんな風に無理して起きていなくても良いんですよ。そばに居ますから。もう少し休んでいて下さい」


「あやっ!!??」


彩が抱きかかえるようにして一緒に横になってくれて。
傍にある暖かな温度が安心を誘う。


幸せな思いそのままに、もう一度。


そのまま、深い眠りに落ちていった・・・・・・。











目を覚ますと、そこはおじい様に与えられた自室で。


本を読んでいたときに。
うとうとと眠ってしまったのだろうか?


でも。


このまま流れ落ちている涙はなぜか止まらずにいた。




いつも。


おじい様がいらっしゃらない時間は。
一人で本を読んで過ごしていたはずなのに。


寂しいと思うのは。


悲しいと感じるのは。


一人ということに違和感を覚えることは。


何故なんだろう―――・・・・・・

《彩雨長編》4:失われた時の中で求めたその正義とは

【3:シャボン玉のように消えたその願いを探す】の続きです。











もう、大丈夫だ―――雨丸。


私が、これからは私が、守ってやるからな―――・・・。


そう、ボクの手を強く握り締めている人が言った。


でも、ボクの頭にはただ疑問しかなくて。


いつもボクの質問に答えてくれた人が側にいなかったから何も言わなかったけど・・・。



ねえ。




貴方はボクを何から守るの―――?






【4:失われた時の中で求めたその正義とは】






「あ、WSの制服だ!」



交通課の仕事の一つでもある見回りをしている途中、聞こえてき子供の声。
その甲高い声が後ろから聞こえてきた事に、思わずWSの制服を着ていた二人―――王太と雨丸は歩みを止め、振り返った。

とたん、遊んでいた子供達は遊びを止め、集まりだし。
男の子、女の子を含めた7、8歳頃に見える5人の子供達が、雨丸達を取り囲むように立ち並んだ。



「凄い! 本物のWSだ!!」


「ねえ、何してるの? 犯人を追いかけてるの!?」


「お兄ちゃん・・・小さいね?」


「でもあんまり強そうに見えないよなー、こんなんで大丈夫なのかよ」


「ばっか、『くんれん』ってやつをやってるから大丈夫なんだよ! だってWSは正義のヒーローだぜ!!」



WSを初めて見たのか、それともこれほど近くにいることに何やら親近感を覚えたのか。
子供達は口々に、それこそ素直な感想を口にした。

決して嬉しい事だけではないその言葉に、雨丸はどうしていいかわからず苦笑を返し。王太は。



「当ったり前だろ! 俺達はWSだからな、犯人なんてボコって逮捕だっての!」



よく言えば慣れた対応をし。
少し見方を変えれば、歳相応の子供のように、無邪気に子供達を相手に会話を始めた。
王太の年齢もあるのか、それほど緊張を見せない子供達は、そんな王太に色々な質問を口にし始める。



「ねえ、今は何をしてるの!? 犯人を追ってる途中?」


「いいや、今はお前等が安全に過ごせるように見回りをしてるだけだよ」


「なあなあ! 悪いやつと戦ったりもするのか!?」


「ああ、するぜ。悪いやつを逮捕するのが俺達の仕事だからな!」


「お兄ちゃんそんなに小さいのに、大丈夫なの?」


「・・・小さいは余計だっつの。別に身長や年齢で仕事するわけじゃないからな」


「じゃあさ、じゃあさ! オレもWSに入れる!?」


「やる気と根性と気持ちさえあれば入れるぜ。でも、その前にお前等は学校を卒業しないとな! そういえば今日は平日だろ? 学校はどうしたんだよ」


「今日は学校は創立記念日で休みなんだよ! だから皆で遊んでたの!」


「そっか。あまり遅くなる前に、気をつけて帰れよ」


「「「「「はーい!」」」」」



息ピッタリに良い子の返事を返す子供達を見て。



うまい、と雨丸は思った。



WSは制服が目立つものであるし、このように話しかけられることがよくある。
そのたび、雨丸はいつもどうしていいかわからず、しどろもどろに言葉を返すしか出来ないのだが、今回のような子供は特に難しい。
子供は思ったことをそのまま口に出してくるので、下手をすれば質問攻めにあってしまい大変なことになる。
けれども王太は、質問に答えつつ、そして自然に話しを質問から逸らしていった。

もう子供達は質問のことなど忘れ、先ほどまで遊んでいたゲームへと戻ろうしている。


このような事態にも王太は慣れているのだろう。


こんな日常でさえも、自分と班長の差というものを感じてしまう。


「じゃあなー」と子供達に手を振る王太と振り返してくれている子供達を見ながら、雨丸はポツリと呟いた。



「凄いですね・・・班長」


「ん? 何がだ?」


「質問に答えられるところとか・・・」



雨丸の言葉に、王太は「ああ・・・」と呟きながら、走り去って言った子供達に視線を向けた。
幼い頃から訓練をしてきた王太にとって、あまり馴染みのない遊びをしている子供達。
どこか寂しそうに、子供達がジャンケンをしている光景を見つめながらも。
何かを吹っ切るように、笑みを浮かべ。明るい声で答えた。



「ああいう子供は大体質問してくることは決まってるんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ。WSは戦隊もののテレビみたいに、悪と戦っているイメージがあるみてぇだからな!」


「なるほど・・・」



確かに『犯人を追っているのか』や『正義のヒーロー』がどうだと、言っていた気がする。
子供達にとってWSは悪と戦っているヒーローのイメージなのだろう。
犯罪者を追っているという点では、あながち間違ってもいない気もするが・・・。




「WSは、本当に正義の味方なんでしょうか・・・?」




何気なく聞こえた雨丸の声に。

かくれんぼをして遊んでいる子供達を見ていた王太が、驚いたように雨丸を見つめた。



「前の、事件を思うと・・・どうも・・・・・・」



悲しそうな、雨丸の表情。

王太はそんな、自分が少し失いかけつつある優しさを秘めているパートナーの頬を愛しげに触れた。



前の事件。

それは、WSに勤めるものとしてはとても心苦しく、何かを思わずにはいられないものだった。


王太と雨丸の2人を含む交通課の数人が、とある人物の護衛を頼まれた。
本来なら刑事課だけで十分なのだが、その人物はWSを色々とサポートしてくれている方ということもあり、厳重に厳重を重ねるため、とのことだった。
結果としては犯人は、訓練など何も受けていない一般人―――しかも女性だったこともあり、刑事課の者にあっさりと捕らえられた。


けれども問題はその後だった。


捕らえられた女性は、捕らえられて尚、言葉を護衛の対象人へと発し続けた。
曰く『お前に殺された旦那と子供の復讐をしてやる』と。


その言葉は刑事課や交通課、他の普通部の者達にも聞こえた。
けれどもそんな言葉に惑わされるわけにもいかず、証拠も無い今、女性を捕らえるだけでその場は終わった。

その後、狼を始めとする刑事課の者達が上へ、護衛対象の者への取調べや、女性の言葉が真実かどうか調べるべきだと抗議したが。
上からの答えは『そんなものは必要ない』という簡単なもの。


その言葉は、事件など本当は起こっておらず、女性の勝手な思い込みだということに絶対の自信をもった上での言葉なのか。
それとも、金銭面などでサポートをしてくれている男性を調べる事などできないという様々な含みが込められた故の言葉なのかは判断できないが。
女性の悲痛な最後の訴えの言葉を聞いた者としては、何もせず忘れるということに後ろめたさを感じずにはいられなかった。


それは雨丸や王太も、例外でなく。



「・・・大丈夫だよ、雨丸・・・・・・今、綾っぺが頑張ってくれてるから」



上の決定を無視して勝手に人を動かすということは綾乃にも難しいが。
彼女も上層部の一人。
狼や雨丸達の話を聞いて、動いてくれると言っていた。
どうなるかは解らないが、決してその行動や意志は無駄になることはないだろう。



「・・・そう、ですよね・・・」


「ああ・・・!」



雨丸に僅かだが笑顔が戻ったことに、王太が安堵して手を頬から離す。
そして、もうこの話は終わりだといわんばかりに「早く戻ろうぜ!」と元気に笑いかけた。


クルリとWSへの方向に身体を向ける。

と、視界に。キョロキョロと辺りを見渡して何かを探している先ほどの女の子の姿が見えた。
近くのベンチには、男の子が二人と女の子一人が座っているので、かくれんぼの最後の一人を探しているところなのだろう。


それはとても平和な光景。
この世界には悪というモノがあることをなんとなく知っているけれど、その悪を退治してくれる善の正義のヒーローがいるとも信じている子供達。
犯罪などという場面はテレビの中で見たことはあるけれど。今、自分達にそんなことは降りかからないと、世界を信頼している子供達。
子供達だけで外を元気に、遅くまで遊ぶことができる幸せな光景。


こんな風景を守らなくちゃな、と。王太が心の中で新たに誓いを立てる中。



生ぬるい嫌な風とともに、耳を疑いたくなるような言葉が王太の耳に届いた。



思わぬ内容の言葉に、急いでその声の持ち主である人物へと振り返るが。
当の本人は、突然振り返った王太に一体どうしたのだろうかという疑問が満ちた表情をしており、いつもと何ら変わりない。


でも先ほどの声は―――。



「なあ、雨丸・・・・・・さっき、何か・・・言ったか?」


「え? 別に何も言ってませんけど・・・どうしたんですか?」


「いや・・・・・何も言ってないんだったら、いいんだ・・・」



やはり、自分の聞き間違いだろうか。

それはそうだ。この優しいパートナーがあのような事をいうはずがない。


きっと、自分の気のせいだ。




『自分勝手な大人なんて、皆消えてしまえばいいのに―――』なんて。




この優しい雨丸が、言う筈ないのに。



「疲れてんのかな、オレ」


「班長・・・?」


「いや、何でもねーよ。早く戻ろうぜ?」


「え・・・? ちょ、待ってくださいよ班長・・・!!」



後ろで「見つけた!」と嬉しそうに叫ぶ女の子の声を耳にしながら、王太は何かを断ち切るように走り出した。






―――ねえ、答えてよ。貴方はボクを何から守るつもりなの?






→『5:さぁ、裏切りのベルを鳴らせ!』





3:シャボン玉のように消えたその願いを探す

ああ、どうして私は素直に王道にいけないのでしょうか………lllorz

とりあえず私のネタの神様が降りていらっしゃるのは気まぐれぎりぎり、とにかく茨道……。

ちょ。どうなんだそんな神様…!!



というわけで、今回死にネタです…。しかも、登場人物かなり捏造ってかパラレルと言った方がいいかもしれない………。





**********************

 


よく晴れた快晴の空。雲ひとつない青空は、とても澄んだ空気とあいまって気持ちがいい。

すぅっと思い切り伸びをして、砂沙紫雨は大きく息を吸った。

この高原は、春になるとたくさんの菜の花が咲き乱れる観光名所だった。

今日は久しぶりに取れた休暇を使っての家族みんなでのピクニック。


「おかあさまー!」

「雨丸」


呼ばれて振り返ると、綺麗な飴色の髪の子供が駆けてくる。子供は紫雨の足にぶつかるような形で、抱きついてくる。紫雨はそのまま雨丸を抱き上げ、頬ずりをする。


「きゃははっ」


嬉しそうに笑う子供に、紫雨はとても幸せに思う。子供が走ってきた方向を見ると、愛しいあの人ともう一人の私とあの人の子供が手を振っていた。


「めぇばっかりずるいですよ。ぼくだって、おかあさまにだっこしてもらいたいのに」


ぷぅっと可愛らしく頬を膨らませ、漆黒の髪の子供が恨めしげにこちらを見つめる。この子は、私よりもあの人に似ている。この双子は正に私達の子供なのだと分かる容姿をしており、私の髪色は雨丸に、あの人の髪色は彩花にと受け継がれている。

紫雨は雨丸は降ろし、手をつないで2人のところへ戻ると今度は彩花が紫雨へと抱きついた。


「ぼくも、だっこしてください」

「そうね、雨丸だけじゃ不公平だものね」

「そうです!ふこーへーです」


年の割りに大人びた言葉遣いをする彩花が、時折見せる子供の一面を紫雨は本当に嬉しい。甘えたがりの雨丸と違って、彩花は常に背伸びをして大人ぶろうとする。

どちらも私からみればまだまだ子供なのだけれど…。

そんなことを思いながら、紫雨は彩花を抱き上げる。


「うわぁ…」


彩花は抱き上げられ、高くなかった視界で菜の花で作られた地平線に感動している。一面黄金の華が咲いている光景は幼心にどう映るのだろうか。

すると、その横に雨丸を抱き上げたあの人が並んだ。目が合って、お互い笑うと子供達もつられて笑う。

あぁ本当に幸せだ。

ずっとこうしたかった。

 

 



 

無機質な室内に不規則に電子音が落ちる。心電図から見える脈は、非常に弱く不安定だ。

部屋の中央にあるベッドに眠っているのは、白井紫雨。婚約者を亡くしたことで精神磨耗状態に陥り、そして体に支障をきたすまでになってしまった。

心身ともに衰弱状態へとなってしまった彼女の側には、誰もいない。ただ一人だけ、父である白井清十郎が最期の時が来ることのないよう祈り続けていた。

ずっと娘の手を握っていた清十郎は、不意にその手が動いたのに気づき顔を上げた。

そこには、目を開いてこちらを見ている娘がいた。


「ねぇ…おとうさ…ま、わたしね…ゆめ…みたの…」


幸せそうに。それが本当に幸せそうに言うものだから、清十郎は喋ることを止めることが出来ず、ただ黙っているしかなかった。


「あの人と…さめまると…あやはな…と…。みんなで、ピクニックに…行って…。ねぇ、……おとうさま、きっと……こどもは……ふたご…だったのよ…、でも…どうして、生まれてくれなかった…のかしら」


父に見せられたのは、雨丸の写真のみ。夢にいた彩花のことは、父から告げられてはいなかった。生まれて来れなかったのだろうか…。雨丸だけが生まれて生まれてしまったのだろうか。


「わたし…、産んであげたかった…な…。それで…あの子たちと、あの人と…みんなで…いっしょに…」


少しずつ紫雨のまぶたが落ちていく。手が力を失ってすり抜けていく。無常にも鳴り響く電子音が、清十郎の希望を残酷に奪っていく。


「紫雨えええええええっ!!」


悲痛な叫びは、いつまでも室内に木霊した。

医師が駆けつけて蘇生を施したが、彼女が二度とその瞼を開けることはなかった。



 

最後に叫んだ父の言葉は、紫雨に届いたのだろうか。

それでも最期に彼女は微笑んでいた。

 

 

シャボン玉のように

                                         消えたその願いを

                           探す

 

 

***********************
とりあえず、紫雨さん最期の時……。たとえ写真が10歳くらいだろうと一番可愛いさかりの3歳ころの姿が夢の中で出てくれたってことで、ちまい雨丸と彩花を想像してください (笑
というか!砂沙くんっていうけど、名前は出てないんじゃん!!おかげで、終始紫雨が愛しの砂沙くんを呼ぶときはあの人呼びになりました……lllorz
無理に名前作るのは苦手なので…。おそらく感情移入もしにくいだろうしさ。
いや、この話じたい感情移入しにくいんだろうけどさ……。
とりあえず読んでくださった方に感謝!!

《彩雨長編》3:シャボン玉のように消えたその願いを探す

【2:身代わり人形に愛を捧ぐ】の続きです。











実際には存在しなくても。


もしも、在る事に意味があるのなら。


ボクはその存在を否定しないよ。


だって、それはきっと君が『在る』意味にも繋がるんだもんね。



それに。強く強く願って―――祈り―――信じれば―――。



叶うかもしれないよね―――――?






【3:シャボン玉のように消えたその願いを探す】






皿とカップを片付けるために部屋を出ると。
薄暗いバーのカウンターの椅子に座っている、よく見知った人物が自分へと手を振っているのが見えた。

なにやら癪に障る笑みを浮かべているその人物を無視するように、蜜歌はカウンターへ食器物を置き。
そしてそのまま彩花の待つ部屋へと戻ろうと、踵を反した時。



「あの人とのお茶は楽しかった?」



ポツリと向けられた言葉。

まるで蜜歌の心境を知った上での嘲笑うかのような質問に、蜜歌の足がピタリと止まる。
そんな蜜歌の様子にクスリと笑いながら、カウンターに座っている人物―――氷魚は、「ああ、ごめんね」と何とも心にも無い言葉を口にした。




「お茶・・・『美味しかった?』だね」




何ともワザとらしい訂正。

まるで蜜歌と彩花が先ほど行っていたお茶の意味を知っていて、バカにしているようにも聞こえるその言葉に。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、蜜歌の眼が細められた。

けれどもその程度では揺るぎはしない蜜歌は、まるで何も無かったかのように、いつも浮かべている笑みを浮かべ氷魚へ返した。



「当然でしょう?」



いつもの楽しそうな蜜歌の声が、薄暗い部屋へと響き渡る。
今この部屋に氷魚と蜜歌の二人しかおらず、静かだということも理由の一つかもしれないが、蜜歌の声は空気を渡るかのように辺りへと広がった。
いつもの、彩花も綺麗だと称しているその音色。


けれども、その声がいつもとは僅かに違うことを。
聴力の優れている氷魚は、聞き逃しはしなかった。



「でも、そのわりにはあんまり機嫌がよくないようだけどね?」



暗に『機嫌が悪くなっている』と含んでいる言葉。
ニコリとは笑っているが、その心を探るかのような氷魚の質問に。
今度は、蜜歌から笑顔が消えた。



「・・・・・・何が言いたいの? 氷魚」


「いいえ、別に。ただの興味本位だよ。ほら、いつもこの辺りで銃が使われたら、一部のメンバーが顔を顰めるから何かあるのかと思ってv」


「氷魚には関係ないことだよ」


「でも―――あの人には関係あるんでしょう?」



やんわりとした言葉。

けれども蜜歌を見つめる視線には、確かな確信と悦楽が込められており。
蜜歌は、氷魚が事実を知っていると確信した。

理由を知っていて尚、探るような言葉を投げかけて楽しむなんて。



「・・・相変わらず、最低な趣味だね」


「あはは、気付いちゃった?」


「・・・どこで聞いたの?」


「さっき、ね。ケーキをボクに頼んだ子達が話してるの聞こえちゃった♪」


「聞こえた、じゃなくて聞いたの間違いじゃないの?」


「あはは♪ ボク、昔から聴力とかいいから」


「なら、もう好奇心は満たされたんでしょ。氷魚には関係ないんだから、関わらないでくれる?」


「いいじゃない、別に♪ ねえ、あの人のパートナーってどんなの子だったの? もちろん知ってるんでしょう?」


「・・・・・・」


「何、無視? ・・・ま、いいや。あの人の機嫌を損ねる事になってもゴメンだしね。でも、パートナーって凄いんだね。あの人がまさかパートナーが理由でオカシクなっちゃうなんて」


「・・・・・・氷魚には一生解らないだろうね。ボクたちにとってパートナーはかけがえの無いものなんだよ。それこそ・・・失ってしまえば、生きられないほどに」



パートナーと一言でいえど。その言葉の意味と重みは、人によって大きく変わる。
一時的に協力し合う者をパートナーと呼ぶ者もいれば、生涯ただ一人だけにその繋がりを求める者もいる。

そんな中、蜜歌達が持つパートナーという意味は、後者。
自分の命よりも大切な。
そして同時に自分が生きるために必要なモノ。


今までにも何度か、パートナーを失った者達を蜜歌は見てきた。


パートナーを失った瞬間。
残された者は、まるで自分の死の光景を見たかのように絶望し。
発狂し、壊れ。
すぐさま追いかけるように、けれどもいつも一緒だと示すようにしっかりと手を重ねあって死んでいった。



きっと、彩花も。



めぇ―――いや、雨丸が死んだところを見ていたら同じように命を絶っていたのだろう。



だから、蜜歌は言わなかった。


あの時、蜜歌だけ聞いていた言葉を。




『この子供は、もう死んでいる―――』




WSの制服を着た者が、雨丸を見て呟いた言葉。

それは、同時に彩花の命をも終わらせる言葉で。


彩花を失いたくなかったボクは、その事実を彩花に伝えなかった。


最低な、行為だと思う。

でも、どうしても・・・彩花に死んでほしくなった。

一度失ってしまえば、消えてしまえば。
どれだけ願おうとも探そうとも戻ってこない。


それを知っているボクだからこそ。



「へぇ? じゃああの人も、君が死にそうになったら助けるのかな?」


「助けるよ。だってボクは彩花のパートナーだもの」



強がりではなく、真実。
ボクが彩花のパートナーという存在の代わりであり続ける限り、彩花は命を呈して『パートナー』を助けるだろう。
『ボク』という個人ではなく。



「へぇ~。パートナーって、素敵なんだね♪」


「・・・・・・どうして急にパートナーのことを気にし始めたの?」


「最近、素敵な子達を見つけたんですよ。可愛くて、強くて、パートナーを大切にしている素敵な子達を、ね」



その子達を思い出しているのか、氷魚が楽しそうに笑いながら『見ますか?』と蜜歌に尋ねた。
蜜歌はたいして興味も無かったのだが、蜜歌の答えを聞く前に氷魚が勝手に準備をしだし「この子たちですよ」と楽しそうに映写機にデータを差し込んだ。


部屋は暗く、スクリーンがなくとも、平らな壁に映像は綺麗に映しだされる。


そこに映っていたのは。




「ッ・・・・・・!」




―――よく知った色とまったく同じ色の瞳をした一人の青年。



たとえ10年の月日が経っていたとしても、その面影は変わっておらず。
10年間、一度も忘れる事が無かった姿がそこにはあった。


氷魚が何かを説明をしているが、蜜歌の耳には入らない。


それもその筈。
なぜならその映像に映し出されている青年が、彩花の本当のパートナーであり、それと同時に。

生きていることがオカシイ人物でもあったからだ。


確かに蜜歌は聞いたのだ。



『この子供は、もう死んでいる―――』というWSの隊員の言葉を。



死んだ者は生き返らないことぐらい、死に触れて生きてきた自分達が良く理解している。


なのに・・・、何故。
何故、この姿が今、この映像に映っているのだ―――。


別人、という事はありえない。
彼―――彩花と同じ瞳の色を自分が見間違える筈がなく。
映像の中の彼の動きはどこかぎこちないものではあるが、身体は自分達が教え込まれたものと同じような反応を僅かだが示している。



ああ―――・・・生きていたんだ―――。



何故生きていたのかなんて、今の自分には説明する事などできないが。
別人だという理由を探そうと必死に映像を見たところで、見つかるのは、本人だということが確信に変わっていく証拠だけ。


意外なほど簡単に『雨丸が生きていた』という事実は蜜歌の胸に落ち、蜜歌はそれを受け入れた。


本当は、ずっと・・・少しだけ、わだかまりがあったのだ。


『死んだ』という言葉を聞いてはいたが、それは直接自分が確認したわけではない。
『雨丸』という存在が消えてしまったことを、他者から聞いただけでその言葉が事実なのか確認できてはいないのだ。

けれども自分は、この今の状況に満足してしまっていて。
ずっと、ずっとこの状況が続くと思っていて。

ずっと、心のどこかで。この世界を壊してしまう唯一の可能性を秘めている『雨丸』の存在を怖がっていた。


だから、あのWSの者の言葉をずっと信じて。
雨丸の代わりは自分しかいないのだと、信じて生きていた。


でも、雨丸という存在は消えてなくなってしまっているという事実を知らない彩花が、必死に雨丸を探しているのを見ているうちに。


自分も彩花と同じ、第三者からのあやふやな言葉でしか、雨丸の消息を確認していない事に気付かされた。思い出させられた。


もし生きていたら?
もし生きていて、彩花の隣に戻ってきたら、自分はどうなってしまうのだろうか?



ずっと、ずっと・・・抱えていたわだかまり。



けれどもずっと、雨丸はいないのだと。

信じていた。
願っていた。
祈って、いた。



でも結局は―――。



「・・・・・・想いが強い方が、叶うんだね」



ポツリと呟かれた蜜歌の言葉に、氷魚が「え?」と返したが。
蜜歌は気にする事なく、機械から雨丸のデータが入ったものを抜き取り、彩花がいる部屋へと歩き始めた。



「どうしたんですか? 突然」


「・・・・・・氷魚。もうすぐ、君が気にしていた彩花のパートナーに会えるかもよ」


「・・・え・・・?」



このまま、この事実を蜜歌はもみ消すことも出来る。
そうすれば、これからもずっと今までどおり偽りのパートナーの生活が続くのだろう。

それはとても甘美な誘惑。



でも。




「パートナーの幸せを望んでこそ、本当のパートナーだよね・・・?」




涙などは流れていないが、まるで泣いているかのような声で、自分自身に向かって呟き。



蜜歌はパートナーの待つ部屋の扉を開けた。






―――最後の最後まで、ボクは君のパートナーであり続けたい。






→『4:失われた時の中で求めたその正義とは』




2・身代わり人形に愛を捧ぐ

数号前辺りのネタバレになります・・・?

蜜架さんと彩花さんと+αで。


ぎ、ぎりぎりまにあ・・・・っ!!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






――――殺してくれる、と。


「わっかんない。全然わかんない!」


思っていたのに。
蜜歌はけして思った通りには動いてくれなかった。
それどころか彩花が言った言葉に、嬉しそうに頷くばかりで。


「どうして!?あの人が真音を殺したんでしょっ」
「正直、そんな奴のパートナーになるなんて、気が知れないな」
「ぁ、もしかして復讐とか?けど普通そこまでする~?」


今だって。
その首には爆弾が。
ある程度成長してからとも思ったが、蜜歌の要望でそれはすんなり取り付けられた。
起爆装置は、声帯。
彼が声を出しさえすれば、簡単に起動するようになっている。
困ったように、はにかんだ笑みを浮かべて首を振る蜜歌の顔は晴れやかで。
他の子どもが言っているように、どうしてそこまで出来るのかだなんて、こっちが聴きたいくらいだ。


「蜜歌っ!」


『くるくる』の片割れがついに蜜歌に掴みかかっても、周囲は止めようとはしない。
彩花がその光景を見ていると気付いているものは一体あの中で何人いるだろう。
『ENISHI』の子どもたちだけではなく、他所から連れてこられた子どもたちもいるが、
興味を示しているもの、いないもの様々だ。
その中の好奇心溢れた視線に、己の物を混ぜて気配を少しだけ薄めれば、
注意深く神経を尖らせない限り、まぁ気付かれる事はほぼないはずだ。
偶然目に止めたりしない限り。


(・・・殺してくれると、思ったんですがね)


真音を殺せば。
自分を中継にイザコザが起きていても、少々相手を疎んでいる気があったとしても。
いざ真音を殺されれば蜜歌はきっと殺した奴を憎むはず。
なのに、結果はどうだ。
彼はこともあろうことか『嬉しい』とまで言い放つ始末。
その後の無理難題すら、嬉しそうに微笑んで。
―――あの子と、同じところにいけるかと思ったのにとんだ計算違いだ。
顔を少しだけ下げれば、紫の髪が表情を隠した。
少し離れ所から、また『くるくる』の声が耳に聴こえる。


「あんな仔の言いなりになんかっ、なってるんじゃないわよ!」


言いなりになんかなっていない。
蜜歌はいつでも、ボクを裏切る。

























「そうですね、あの声がスキでしたよ。
 聞いても損がないような、あの空気を渡る歌声」


問いかけは、とても陳腐なものだった。
爆発はなく、子どもは今目の前で自分たちの行方を塞いでいる。
蜜歌が失敗したのだと知ったとき、思わず腹のそこから笑いがこみ上げてきたほどに。
その事実はおかしくてしょうがなかった。


「『めぇ』として愛していましたし、『めぇ』として十年間一緒にいましたから、
 それなりに独占欲と執着心もあったでしょうね」


過去形なのは、本物がもう傍にいるから。


「けど」


約束した、幼い日の。
傍から視れば狂気の沙汰としか思えない、
それこそ電脳の双子の片割れが言った『気が知れない』と言葉がピッタリの。
WSの、目の前の子どもを巻き込んで、自身と共に爆発を。
彩花に祝福を。
再開と言う名のパレードの花火。
上がることは、なかったけど。


「あの子はけして、『めぇ』に足りえる事なかったんです」


いつだって蜜歌はボクを裏切る。
真音の時だって。
今だって。
自分の思ったとおりに、彼はいつも動いてくれない。


「蜜歌は、ただの身代わりですよ」


歌うことの出来なくなった、壊れかけの人形のように。








壊れてしまった身代わり人形。
  注いだその愛すらも偽りだけど。