名探偵リンカーン・ライムに持ち込まれたプロの殺し屋による殺人。だが現場には犯人の痕跡が何もなかった。「犯人は犯罪の現場に必ず微細な証拠を残す」という原理を裏切る難事件を描く「ロカールの原理」他、多彩なドンデン返しであなたを驚愕させる16の物語。だまされる快感を満載した巨匠の短編集。
内容「BOOK」データベースより
長編作品を年2作品の筆の速さに加え、リンカーン・ライムにスピンオフ作品キャサリン・ダンスシリーズと大人気シリーズ作品は全て完成度が高くハズレが無い、読者を魅了し続けるサスペンス長編の巨匠ジェフリー・ディーヴァーが短編小説を手がけたらばどうなるだろう?興味津々で手に取った一冊。
“短編小説は、たとえるなら、狙撃手の放った銃弾だ”
と、ディーヴァーは言う。同感である。私ならば長編はマラソンランナーで短編は短距離トラックランナーと例えるだろうか?長編と短編は、そもそもが異なった技量を要し、違った期待に答えなければならない筈である、残念ながらランナーで最高峰を両立する事は困難と言わざるを得ないのだけど、こと作家に関しては長編と短編最高峰を両立する者がしばしば現れるものである。ディーヴァーも間違いなくその一人であろう。彼の持ち味ともいえる“どんでん返し”と“悪の描き方”は、短編になっても損なわれる事は一切なく、むしろ鋭さが増して際立って見えるから不思議だ。緻密な計算と莫大な取材から構成されたシナリオは読者を欺き騙す事にのみ心血を注がれているかのようである、彼の作品は“どんでん返し”が訪れる事が判っている(もはやどんでん返しの無い作品は皆無)にも関わらず読後に、そう来たかと唸ってしまうのだから凄い!何度も何度も騙され欺かれたのにも関わらず、先読みしようと頑張ってみるんだけど結局掌の上で弄ばれていた事に気付くときのヤラれた感が気持ちいい!一つの真相が現れただけで満足してはいけない、きっと深い深層が隠されているのだから・・・“悪の描き方”強烈で個性的な悪党を書かせると右に出る者はそうはいないであろう、世の中にはダークヒーローと呼ばれる人気の悪役が様々いるわけだけども、ディーヴァーの悪役は一味違う!完全なる悪なのである、純粋なる悪と表現しても良いかもしれない・・・シリアルキラーと呼ばれる連続殺人鬼の多くが一般的な感情や理性とは掛け離れた精神構造をしている、まさに一般人の理解の範疇を超えた“恐怖”の悪党が描かれているのだ。復讐の為に法を犯して私刑を企てる者、己の創作活動の一環に人を殺す者、ビジネスライクに悪巧みする者、そしてその全ての者が天才的な頭脳や嗅覚、時には運を身に着けて物語の中で悪事を働きのさばっていくのである。現実の世界で、こんな奴らに出会ったらひとたまりもないだろうと思われるのだけども、同時にその恐怖を共感出来てしまうリアリティーがこの世に存在している事も事実なのである。“恐怖”の虜ではないが、ディーヴァーの描く悪党は読者を惹きつける。本作品は短編作品である事からライムが登場する作品以外において正義の味方なる者が登場する作品が少ない、結果的に悪が謳歌する物語が多いのだけども、そこがまた一味違った作品を味わうという意味で意義深い一冊であるといえる。必見の一冊。
オススメの短編を二つ挙げたい。“ウェストファーレンの指輪”、とある資産家の伝承の持ち物である家宝ウェストファーレンの指輪が盗まれた、現場の微細証拠から一人の骨董商が容疑者として浮かび上がるのだが・・・世界的知名度の高い名探偵「ホームズ」(ネタバレの為反転)が登場しディーヴァーの悪役と対決する物語、息もつかせぬ罠と罠の攻防戦の結末はニヤリとせずにはいられない逸品。
表題作“ポーカー・レッスン”、熟年のプロポーカープレイヤーであるケラーの前に金髪の少年トニーが高額レートのポーカーに参加させろとの嘆願を携えて現れるところから物語は始まる、筋は良いが基本が出来ていないトニー、潤沢な資金により参加資格を与えポーカーをレッスンを引き受けるケラーだが、ポーカーは真剣勝負、伸るか反るかは本人次第とトニーの資金を根こそぎ奪う計画を実行に移す、小額レート勝負で癖や特徴を見抜いたケラーは、やがて高額レート勝負で大きな博打に打って出る。破産額同等の掛け金の勝負の行方は、そして最後に笑うのは果たしてどちらか!?
オススメを2つに絞ったが、全短編ひとつもハズレはありません!こんな短編集見た事がない、CDの中には名盤と呼ばれるものが存在する、ベストでもないのに一つのハズレ曲がなく究極に仕上がった一枚といったやつだ、本作品はまさにその名盤と呼べる代物に近い・・・ディーヴァー珠玉の短編集。
文藝春秋 (2013-08-06)
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