『うたかたの日々』 ヴィアン | ほんとなかよし

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だったらいいな・・・

青年コランは美しいクロエと恋に落ち、結婚する。しかしクロエは肺の中に睡蓮が生長する奇妙な病気にかかってしまう……。愉快な青春の季節の果てに訪れる、荒廃と喪失の光景を前にして立ち尽くす者の姿を、このうえなく悲痛に、美しく描き切ったラブストーリー。決定訳ついに登場!


内容紹介より


ボリス・ヴィアンはフランスの作家、ジャズ奏者としても名を馳せ歌手としても活躍した。アメリカ文学に精通しており翻訳家としての一面も持っておりレイモンド・チャンドラーを始めてフランス語訳した功績がある。「うたかたの日々」のフランス正式題名はL'Écume des jours、直訳すると「日々の泡」だがはかなく消えやすい物の例えとなる水に浮かぶ泡を指す“うたかた(泡沫)”を使用した邦題が定着した。

アメリカ文学を愛しレイモンド・チャンドラーを翻訳、自身は奇妙で不思議ながらも愛を描いた作品を生み出す・・・これはフランス製村上春樹ではありませんか?愛し合う二人が病魔により引き裂かれる悲哀のラブストーリーだが、シチュエーションがまた強烈といわざるを得ない、主人公コランが愛した女性クロエは右肺に睡蓮が咲く謎の奇病に冒される、彼女の周囲を美しい花で取り囲む事が治療の唯一の方法であると莫大な富を全て注ぐコランだが、やがて富もそこをつく・・・人間を機械同等に貶めると嫌悪していた労働にまで手をだし資金繰りをするコランだが・・・喪失を知り経験した男の最後の姿が胸に刻まれる物語。メタファー色の強い作品で好き嫌いが分かれそうな作品ではあるが、あとがきにあるように全てのシチュエーションを深読みせずに額面どおりに受け取って単純に楽しんでみるのも一興な作品。愛を描いた作品であるにも関わらず個人主義的で利己的な愛が描かれている印象を受けるのは何故でしょうか?主人公コランとクロエの悲哀と同時にもう一組のカップルの破局も描かれている本作ですが、主要登場人物全てが互いの事を気にかけ思いやってはいるものの結局は全て自己を中心的とした言動に沿って抗うこと無く生活を送ってしまいます、純愛と表現すれば美しいのですが愛する対象の為ならば他者を平気で傷つける事も厭わない姿を読むと人間の愛は本質的に偏狂がなせる業なのではないかな等と感じてしまいます。またクロエが自身の死に直面し医師に心境を語る場面は強烈な印象を残しました、自らが死に失われる事に対する恐怖を訴えるクロエに対し医師は、損なわれるのはむしろコランであると・・・第一人称(自ら)の死は自分で悲しむ事が出来ずに、第二人称(他者)の死として他人を悲しませるというヴィアンの死生観が如実に現れている場面ですので読者の心に訴えかける名場面ではないでしょうか?最後にヴィアン独特のセンスなのでしょうか?人間の労働に対する過度の嫌悪感が溢れ出ているのも興味深い所です、莫大な富を投げ打ってクロエの献身的介護する姿を描く為に貴族のような非労働者階級として登場したコランですが、労働に対する侮蔑の言葉が後を絶ちません、結局富が底を尽き労働に身を寄せねばならぬ事になるのですが・・・必要に迫られるまで不要なモノを排除するコランが、必要以上にクロエを愛した事はやはり素晴らしい愛の物語といえるのかもしれません。我々の泡のように儚い人生を描ききった一冊。


うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)
ヴィアン
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