高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。
〈私〉の意識の核に思考回路を組み込んだ老博士と再会した〈私〉は、回路の秘密を聞いて愕然とする。私の知らない内に世界は始まり、知らない内に終わろうとしているのだ。残された時間はわずか。〈私〉の行く先は永遠の生か、それとも死か?そして又、〔世界の終り〕の街から〈僕〉は脱出できるのか?同時進行する二つの物語を結ぶ、意外な結末。村上春樹のメッセージが、君に届くか?
内容「BOOK」データベースより
村上春樹の4作目の長編小説。村上春樹の物語は世に産み落とされた時点で作者のものから読者のものに変わる、そして氏は常に成長・変化するから過去の作品をもって村上春樹を語る事はナンセンスである事を先に述べたうえで、あえて分析なるものを書きたい。「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の2つの舞台で繰り広げられる物語が同時並行する、「世界の終わり」はRPG(ロールプレイングゲーム)を彷彿とさせる世界が舞台で、人々は各々与えられた役割を日々こなす、喜怒哀楽の起伏は少ないものの限りなく平等で平穏な空間であるが、高い壁で閉鎖され人は影を分離させられるという歪な均衡によって成立している街にやってきた新参者の<僕>、切り離された影は遅かれ早かれ弱り死ぬ・・・与えられた役割“夢読み”をこなしつつ街での生活を始める・・・「ハードボイルド・ワンダーランド」は限りなく現実世界に近い非現実的な世界が舞台、特殊な職業である“計算師”の一人である<私>、“計算師”と敵対する“記号師”、各々が所属する“組織”と“工場”の経済・情報戦争のダーティでハードボイルドな状況下に徐々に飲み込まれてゆくのだが、彼は特殊な事情を抱えていた・・・どちらの世界もかなりイっちゃてる印象を受けるが、非常に面白い。村上春樹が描くファンタジーにも似た世界観の事を村上ワールド等と表現する事があるが、今作品も村上ワールド全開で描かれている。一般的な感性や常識では図り知る事が出来ない2つの世界に突如として放り込まれた2人の主人公<僕>と<私>の物語、人間の深層に触れ意識レベルで交差する二つの世界が迎える結末や如何に!この世界観は村上春樹にしか出せません。
さて、2つの物語が同時進行的に発生するのは「1Q84」に通じる展開方法と言える、また「ハードボイルド・ワンダーランド」では題名通りのハードボイルドな展開を迎えるシーンが何度も登場するのだが、その度にタフにくぐり抜ける主人公の姿はレイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウもの主人公マーロウの姿に重ねて読むことも可能である。また「海辺のカフカ」や「ノルウェイの森」など様々な作品に登場する現実とは異なる次元で存在する別世界に近い存在が「世界の終わり」とも解釈できる。明確な設定説明がある訳でも解説がある訳でもないが、相変わらず色々と物議を交わせそうな作品である事だけは間違いがない。2つの世界を繋ぐ象徴的な空想の生物“一角獣の頭骨”も最後の最後まで謎なのも不思議である。村上春樹の作品は謎が多い、それが全て解明されて終わるような優しい物語は存在しない、読者の数だけ解釈が生まれ読者の数だけ回答が生み出される物語。無限の魅力の虜になる一冊といえる。「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」も実のところ男性の女性に対する愛の物語であるように感じたのは私だけだろうか?それがどんな形の愛情なのかと問われれば適切な表現を当てはめる事が非常に困難なのだけれども、世界や周囲が壊れようとも貫く愛に幾許か感動を覚えた・・・
新潮社
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