※ この記事は、2015年12月に投稿したものです 

 

※ この記事は、ノートルダム清心学園理事長であられた渡辺和子さんの著書からの抜粋に

私なりの解釈を加えたものになります。 

 

 

あるクリスマスのこと

一人の坊やが沢山のプレゼントをもらいました。

靴下の中には、電気自動車、絵本、キャンディーなど

坊やの大好きなものが、いっぱい入っていましたが

それらに交じって、一匹の縫いぐるみの兎さんもいたのです。

ところで男の子のことですから

電気仕掛け、ゼンマイ仕掛けのおもちゃに気を取られ

ビロードの兎は、そのまま おもちゃ戸棚の中にしまい込まれ

暫くは、陽の目を見ない境遇に置かれていたのです。


おもちゃ戸棚の中でもビロードの兎は

肩身の狭い想いを度々します。

というのも、モーターボートや電気仕掛けの おもちゃたちは

自分たちが、さも「本物」のような顔をして

おがくず製で時代遅れの兎を

まるで見下すような振りをしたからです。

でも、その中で、たった一つだけ

親切にしてくれた おもちゃがありました。

それは、如何にも古ぼけた木馬さんでした。

鞍の部分は所々破れ、たてがみも尻尾も

抜け落ちて少なくはなっていましたが

彼は、戸棚の中で栄枯盛衰を眺めて来た

一番年嵩の賢い存在でした。

「 ”本物 ”って、どういうことなの?」

と、ある日のこと兎は木馬に尋ねました。

「お腹の中にジージー鳴るものが入っていたり
ネジを巻くハンドルが付いていること?」

「 ”本物 ”っていうのは
何で出来ているかじゃないんだよ」

と、木馬は答えます。

「本物には、いつか ”なる ”ものなのさ
子供たちが君と遊ぶだけでなく
君を本当に愛してくれる時、本物に ”なる ”のさ」

「 ”なる ”って、ネジが掛かった時みたいに急になるの?
それとも少しずつなるの?」

「いちどきにはならないよ」

考え深そうに木馬は答えます。

「長いこと掛かってなるのさ、だから、すぐ腹を立てて
仲違いしてしまうような者たちや、言葉にトゲがあったり
取扱注意を要するような者たちには不可能なことなのさ
大体に於いて、やっと本物になった時には
毛は抜け落ち、目は窪み、身体の節々は緩んで
外面的には薄汚れてしまっているよ
でもね、一度本物になると
こういうことが気にならなくなるんだ
何故なら本物になった暁には
”決して醜いということは有りえないんだから ”
勿論、分らない奴には汚く見えるかもしれないがね」

「木馬さんは本物になったの?」

「あぁ、坊やのおじいさんにあたる人が昔々本物にしてくれた
”一度本物になったら生涯本物でいられるんだよ ”」

兎は、いつになったら自分も本物になれるのかな?

と考えながら、でもその時

真っ白のビロードが薄汚れて

髭が抜けるなんて嫌だなとも考えました。


ある晩のことです。

坊やはベッドに入るのに

いつも抱いて寝ている犬の おもちゃが見つかりません。

乳母のナナが忙しかったものですから

おもちゃ戸棚の中から手近にあったビロードの兎を掴んで

坊やのベッドの中に押し込み

「さぁ、これで我慢しなさい」

と云うのでした。

この夜からというもの、ビロードの兎は坊やにとって

”無くてはならないもの ”になりました。

坊やの話し相手になり、何処へ行くにも連れて行かれ

夜は夜でしっかり抱かれ、時には坊やの下敷きとなって

一夜を明かすことも珍しいことではありませんでした。

痛いこともありました、息苦しいこともありました。

でも兎は幸せだったのです。

幸せのあまり、いつの間にか自分のビロードが薄汚れ

尻尾は取れかけ、髭が抜けかけて来ているのも

一向に気になりませんでした。


やがて春が来ました。

兎は坊やのお伴をして出掛ける機会も多くなりました。

そんなある晩のこと

兎を庭に置き忘れてベッドに入った坊やは

乳母のナナに向かって

「今すぐ兎を連れて来てくれなきゃ寝ない」

と云い張ります。

「兎がいなければ寝ないなんて
たかが おもちゃに過ぎないのに・・・」

不機嫌な乳母に坊やは大きな声で云いました。

『そんなことを云っちゃいけない
あの兎は おもちゃじゃなくて ”本物 ”なんだ!!』

それを聞いた兎は、とっても幸せでした。

そのガラスの眼、それも曇りがかった眼には

その瞬間から心なしか

賢げな美しさが宿り始めたのでした。


これは、マージェリー・ウィリアムズの

『ビロードの兎』という童話からの一部です。

・・・その後、物語は無情にも

兎が炎に焼かれる場面を迎えます。

何故なら、この後 坊やは猩紅熱という伝染病にかかるからです。

兎は、そんな坊やに「愛されていた」ために

炎の中にくべられるという運命を辿らざるを得なかったのです。

でも、それでも幸せだったのです。

それでも本望だったのです。

何故なら『愛されること』によって『本物』になることが出来たのですから。

・・・現在、或いは嘗て誰かに愛され本物になることが出来た方へ。

今度は、あなたが誰かを本物にする番かもしれません。

 

 

 

 

 

 

・ アマンダさん、真二さんが引き継いで下さっています!は こちら

 

・ 映画化されました!は こちら

 

・ 当方の楽曲をご紹介下さるという方は こちら

 

・ 小林洋一 YouTube動画は こちら

 

・ 小林洋一 CDアルバムは こちら

 

・ 小林洋一 略歴は こちら

 

・ ワンマンライヴ中止のお知らせは こちら

 

・ ライヴ再開の見通しについては こちら

 

・ クラウドファンディングというご提案については こちら

 

 

 

 

元ファンクラブ会長 アマンダさんのブログ