不穏がないとき
 

・睡眠薬のロゼレム・ベルソムラ・デエビゴを使う。重大な副作用がほとんどない。ロゼレムは効果が弱くて短い。ベルソムラは効果が強くて長い。デエビゴは効果がもっと強くてもっと長い。デエビゴは翌日の午前中も眠くなることがある。

 

・せん妄の場合はこれらの睡眠薬を寝る前ではなく夕食後に服用させる。せん妄は深夜にかけてひどくなるから早めに手を打つほうが良い。

※これらの睡眠薬は食事の影響を受けるが影響は少ない。(ロゼレム・デエビゴは夕食後に服用すると、Cmaxが少し低下してTmaxは少し延長する。ベルソムラは夕食後に服用するとCmaxが少し増加して、Tmaxは少し延長する。)ロゼレムを夕食後1時間後に服用することを推奨するガイドラインもある。

 

 

 

 

不穏があるとき

 

上記の睡眠薬にクエチアピン・リスペリドンなどの抗精神病薬を追加する。内服できないときはセレネース(注射製剤)・ロナセンテープを使う。

 

 

クエチアピン

→簡単に言うと「効果が強くて短い薬」


・静穏作用が強いので夜間せん妄に有利。

・半減期が短いので効果が持ち越しやすい高齢者に有利。
・パーキンソン病やレビー小体型認知症など、錐体外路症状が出現しやすい人向き。

・欠点は糖尿病の人や糖尿病の既往がある人には使えないこと。


<一般的な処方例>

5月6日のブログを見て下さい(↓)

 

 

リスペリドン

→簡単に言うと「効果が弱くて長い薬」


・静穏作用が弱いので夜間せん妄に不利。なかなか寝てくれない。そういうときはアタラックスPを併用すると良い。一方で昼間のせん妄には有利。あまり眠くならないから。

・半減期が長い(※1)ので効果が持ち越しやすい高齢者には不利。一方で一日中続くせん妄には有利。

・腎機能が悪い人には使いにくい。腎機能が悪いと薬の尿中への排泄が遅れて効果がさらに遷延する(※2)。

※1 正確に言うと、リスペリドンの半減期は短いけど、主代謝物の9-ヒドロキシリスペリドン(パリペリドン)の半減期が長い。パリペリドンはリスペリドンとほぼ同程度の活性を持つ。

※2 添付文書のデータでは、中等度腎機能障害の人ではT1/2に35%の延長及びAUCに2.7倍の増大、 重度腎機能障害の人ではT1/2に55%の延長及びAUCに2.6倍の増大が認められている。

cf. 糖尿病で腎臓が悪い人には何を処方すればいいか? → ルーラン。ルーランは簡単に言うと「効果が弱くて短い」。

・パーキンソン病やレビー小体型認知症など、錐体外路症状が出現しやすい人にはいまいち不向き。

・糖尿病の人や糖尿病の既往がある人にも使える。

・液剤や口腔内崩壊錠があるので服用させやすい。

 

<一般的な処方例>

5月7日のブログを見て下さい(↓)

 

 

セレネース(注射製剤)

 → 簡単に言うと「効果が弱くて長い薬」

 

詳細については、5月14日のブログを見て下さい(↓)

 

 

ロナセンテープ

→簡単に言うと「効果が弱くてとても長い薬」

 

詳細については7月12日のブログを見て下さい(↓)

 

もっと知りたい人へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薬物治療をする前の注意点

 

・がんの終末期などではせん妄の改善する見込みが乏しい場合もある。ときには積極的な薬物治療をしない方がよい。(その場合、不眠や不穏などの症状を緩和することが治療目標になる。)

 

・鎮静作用をもつ薬物は、身体状況を悪化させる場合や脳血管障害などの意識水準の評価が不確実になる場合もある。

 

・薬物治療開始前に、せん妄改善の見込み、薬物治療のベネフィット/リスクについて主治医と話し合っておく必要がある。

 

薬物治療の基本的な考え方

 

・意識や認知に直接的に作用する薬物は存在しない。睡眠覚醒周期の障害を改善するというのが基本的な考え方である。

 

・臨床的には精神運動興奮や幻覚妄想が問題となる。クエチアピンやリスペリドンなどの抗精神病薬が必要になる。

 

・せん妄の原因として、アルコールや抗不安薬や睡眠薬の離脱、悪性症候群が考えられる場合は違う治療が必要になる。離脱せん妄にはベンゾジアゼピン系薬やガバペンを使う。悪性症候群には抗精神病薬が使いにくい。

 

・低活動性せん妄の薬物治療には十分なエビデンスがない。臨床的にも薬物治療で改善させることは困難である。(エビリファイが使われることがあるが、幻覚や妄想などの一部の症状にしか効果が期待できないらしい。)

 

 

 

 

不眠症の治療

 

まずは原因の除去。対処可能な原因があれば対処する。

 

せん妄のリスクがある人にはベンゾジアゼピン系睡眠薬を処方してはいけない。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のマイスリー・アモバン・ルネスタもだめ。

そういう人には、不眠のタイプに応じて、ロゼレムやベルソムラやデエビゴの使用を検討する。

 

必ず生活指導などの非薬物療法を併用し、睡眠薬の使用を最小限にすること。

 

 

 

睡眠薬の有害事象

 

過鎮静、精神運動機能の低下、筋弛緩作用、前向性健忘、退薬症候、臨床用量依存、呼吸抑制、せん妄。

 

※一般的に高齢者では、睡眠改善の効果は統計学的には有意であるものの小さい一方で、健忘・転倒などの出現が統計学的に有意に高い。睡眠薬の使用は最小限にすることが必要。

 

 

 

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たまにあるけど、一般的に意外と知られていないのは、前向性健忘だろう。

「睡眠薬を飲んで寝て、朝起きたら、食べ散らかした痕跡があるけど、食べた記憶がないからびっくり」とか。

 

「午前2時とか3時に目が覚めてしまう」とか「朝6時に起床するまでの間に何回も目が覚める」と訴える人によく話を聞くと、夜8時とか9時に就寝している人がいる。(意外と多い。とくに高齢者に多い。)

そういう人に睡眠薬を処方してもそんなに効かない。だって睡眠時間が十分に足りているから。

不眠を訴える人に、就寝時間と起床時間を聞かないで睡眠薬を処方してはいけない。

 

個人的には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は嫌い。

ほとんど処方しない。

ロゼレムやベルソムラやデエビゴを処方している。

 

 

 

 

①不眠症とは

 

眠れなくて困っている状態。

不眠が続き、精神的・身体的に不調になったり、生活に支障が出たりすると不眠症と診断される。

 

不眠があっても困っていなければ、不眠症と診断されない。

忙しくて寝る暇がないのは、不眠症ではなく、睡眠不足。

 

不眠症は慢性不眠症と短期不眠症に分けられる。

不眠症の症状が週に3日以上あり、それが3ヵ月以上だと慢性不眠症、3ヵ月未満だと短期不眠症。

 

 

②不眠症の分類

 

・入眠障害(寝つきが悪い)

・中途覚醒(途中で何度も目が覚める)

・早朝覚醒(朝早く目が覚めてその後眠れない)

・熟眠障害(しっかり寝た感じがしない)

 

※これらは重複していることもある

 

 

③不眠になることがある病気

 

高血圧・糖尿病・前立腺肥大・COPD・気管支喘息・疼痛疾患・アトピー性皮膚炎・うつ病など

 

 

④不眠になることがある薬物

 

アルコール・カフェイン・ニコチン・降圧薬・ステロイド・甲状腺薬など

睡眠薬の急な中断など

 

 

⑤不眠症以外の睡眠障害を除外する

 

レストレスレッグス症候群・周期性四肢運動障害・睡眠時無呼吸症候群・レム睡眠行動障害

 

 

 

 

睡眠時間は人それぞれ。

4時間寝ればいい人もいれば、10時間寝ないとだめな人もいる。

また、加齢とともに必要な睡眠時間は減る。

あまり睡眠時間にこだわらないほうがよい。

 

 

 

 

 

 

①抗不安薬・睡眠薬

 

その多くは同じ種類の薬(ベンゾジアゼピン(BZD)系)である

・抗不安薬だと、デパス・ソラナックス・ワイパックスなど

・睡眠薬だと、ハルシオン・レンドルミン・サイレースなど

 

非BZD系睡眠薬

・マイスリー・アモバン・ルネスタ

・BZD系と薬理作用に大きな違いはない(どちらもBZD受容体作動薬である)

・BZD系睡眠薬に比べて依存性が少ないと言われているが、依存性がないわけではない

・アモバン・ルネスタは翌朝、口の中が苦くなることがある

 

メラトニン受容体作動薬

・ロゼレムなど

・依存性がほとんどない

・ロゼレムは「効いているのか効いていないのかわからない」と言う人がいる

 

オレキシン受容体拮抗薬

・ベルソムラ・デエビゴ

・依存性がほとんどない

・デエビゴは昼間も眠くなる人がいる

・ベルソムラもデエビゴほどではないけどそういう人がいる

 

 

②抗うつ薬

 

・うつ病・うつ状態の治療薬

・効果が出るまで2週間かかる

・ジェイゾロフト・レクサプロ・サインバルタ・レメロンなど

・不安にも使われる(全般不安症・パニック症など)

・サインバルタは痛みにも使われる

・レクサプロはQT延長には禁忌

 

 

③抗精神病薬

 

・統合失調症の治療薬

・せん妄の治療にも使われる

・セレネース・リスパダール・セロクエル・ジプレキサなど

・ジプレキサは 躁うつ病や化学療法中の吐き気にも使われる

・セレネースはパーキンソン病・レビー小体型認知症には禁忌

・セロクエル・ジプレキサは糖尿病・糖尿病の既往には禁忌

 

 

個人的にはBZD系・非BZD系は依存性があるから嫌い。最近はほとんど処方しない。

代わりにセロクエル・ジプレキサ・ロゼレム・ベルソムラ・デエビゴを使っている。