「学生マジックのマニピュレーション」という本の話関連で。

 スティーブ・コーエンさんという、今では「億万長者のマジシャン」(顧客に億万長者が多いのだそうです)として知られる人が居まして。
 以前、アメリカのMagic誌に連載を持っていて、そこに日本の学生マジックのウォンドについての記事を掲載しました。
 え、これって、そのまんま同じ内容?

 ・・・無断で転載しちゃダメじゃんスティーブ・・・

 いや、あの本自体の著作権は、マジック・ユニバーシアードの際にマジックランドに委託したので、(技法自体の考案者に一言断るというのは必要かもしれませんが)そこが問題ではなく。

 図が間違ってるのです。
 よりによって間違えてる所を、向こうのイラストレーターの人がそのまんま描き写してて、実行不可能なものに。
 もう、せっかく描き直すんだったら一言言ってくれれば、正しい図になったのに。


 あの本は正直なところ入稿がギリギリでしたので、間違いが後から発見された所があります。
 訂正項目も準備はしたのですが、本自体が売り切れのようです。確か350部しか刷ってなかったんですよね。

 当時はまだネット接続が相当高額で、マジック情報はインターネットではなくNIFTY-Serveのマジックフォーラムに、テキストだけで書き込まれてるような時代でした。
 最近になって「森羅万象」さんのサイトでも紹介されていたのですが、今となっては本がレアものかもしれません。
 昨日は「Dr.レオンショー」で、テーブルマジックを行って来ました。
 Dr.レオンさんは、中の人が多方面で活躍する某マジシャンなのですが、打ち上げが面白いのです。
 ものすごくわかりづらいボケ連発をテニスプレイヤーのように見事に打ち返す、とか、肝心な所だけ投げっぱなしで拾わない、とか、オチだけ違う話、とか、オチだけ隣の席の人が担当する、とか、オチが同じになるような違うボケを考える、とか、犬を連れてる人が来たら一回休み、とか、オチが来ると見せかけて最初に戻すのをさらに先読みして似て非なるリアクションを準備しておく、など、片時も安心できないようなボケとツッコみが、美味しい食事を摂りながら延々と行われます。
 今回はショーの司会の人が発した「チーム・Dr.レオンの皆様です」というコメントがツボに入ったようで、それは一体どんなチームなのかを討議する、というのをやってました。最終的に「正式名称は発音が難しい方向で」というまとまり方をしたようです。……正式名称なのに、メンバーが誰も正式に言えないものになってましたが。

 ブレーン・ストーミングと飲み会で盛り上がる話し方は本質的に同じものだ、という、「アイデアの出し方」の記事を読んだ事がありますが、リラックスが生む自由な発想という習慣が普段から培われてるんだな、と思う所です。

「聖☆おにいさん」というコミックがあります。
 聖人ブッダとイエスが、なぜか立川のアパートでリラックスしきった生活をするという、外国人に怒られそうなコメディですが、ご存知の方は、あのリラックスしたイエスと大天使がノリツッコミしてる感じを想像していただけると、かなり近いと思います。
 仕事にしてから、いろんな場所でマジックを行うようになりました。
 同じマジックでも場所によって演じ方が違う、というのを理解すると、いままでのレパートリーで対応できる現場が増えていきます。
 ただ、そのレバートリーそのものが、なかなか増えない事が悩みです。


 世の中にはマジックが何万種類ある、みたいな話は時々聞くのですが、それはいつ数えて、誰が数えたのか、みたいなツッコんだ議論はあまり聞いたことがありません。

 発想や視野を広く取れば、可能性は非常に様々ではあります。
 そのわりに、実演家が「マジック」と明記して行う、営業品目としての演目はそんなに多くありません。

 結局、マジックの種類は、言われる程多くないな、と漠然と思っていました。
 

 いまレギュラー出演しているマジックバー「ぽいんと」で、厨房を担当しているのは、少し前まで銀座で料理店を営んでいた方です。
 引退した後、暇にしててもナンだし、とその半世紀以上鍛えた腕を貸してくれている訳です。通称「お父さん」。
 和食の専門家かと思っていましたら、洋食のレパートリーも広く、今でも新たな食材にチャレンジしていたりして、「料理人の魂百まで」という感じで頭が下がります。

 食材は、その国や地域で違うものですし、料理法もまた無数にあります。
 レパートリーの種類で言うなら、料理の種類ほど多いものもないのでは?という話を「お父さん」にしたら、こんな答えが返ってきました。

「そりゃあ、同じ食材だけで1年間毎日違う事ができるくらい、料理には仕事はありますよ。でもね・・・『本当に美味しい料理』っていうのは、そんなにないんですよ」


 ああ、そうか、と思いました。


 ベストを探し当てるために工夫する事と、目先を変えて新鮮味を出す事は、似ていても根本的に違うもの。
「いちばん美味しいもの」は、そうそう生まれない。

 研究者や職人気質の人は、うなぎやてんぷらのような専門店、新しい料理にチャレンジしつづける人は創作料理レストランと、同じ料理店でも方向性はある訳です。

 どちらも根本は「本当に美味しいものの追求」であったとしても。


「専門店とは名ばかりの、それしか作れない店じゃあ全然ダメだぞ、専門家と名乗れるまでにどれだけ下地が必要かわかるか」と師の声が聞こえそうではありますが・・・

 まずは、足下を掘り下げてみよう、とあらためて思いました。
 逆に開くサークルファン、の1年前の話です。
 コインマジックが好きだった私は、今までにないコインのテクニックを考えて使っていました。
 どの分野でも、たいていの「新しいもの」は、既に誰かが考えているものですが、珍しい事にそのテクニックは前例がないものだったようで、詳しい人に聞いても「それは初めて見るなぁ」という意見でした。
 名前もついてなくて、周囲からは「ヒロシ式」とか、実にテキトーな呼ばれ方をされていました。

 後にステージで「四つ玉」の演技を行う際、そのテクニックはボールにも使える事がわかり、そのまま活用されました。

 それを見た、現・FISM審査員でもあるヒロ・サカイさんは当時、苦笑しながらこうコメント。
「……がんばって下さい」。

 まあ正直、そうとしか言い様のないもので、人に教えても関節が柔らかくないと出来ない、体質に依存するタイプのテクニックかな、という感じではありました。
 
 社会人になってから、「マジック・ユニバーシアード」という催しが行われ、学生マジックで行われているマニビュレーションの、独自のトピックを集めた、その名も「学生マジックのマニピュレーション」という、そのまんまな本を出版することになり、私が取材して書きました。
 前述の逆サークルファンも含め、自分自身のオリジナルもそこに収録させてもらいました。

 時が流れ、3年前の事でしたか。「ハラダホールド」という新しいコインテクニックのDVDが出た、という話があり、購入してみたところ・・・
 私が20年前に考えた、あのテクニックと同じものでした。

 たいていの新しいものは、既に誰かが考えているものですが、まさか自分がその先例の方になるとは思いませんでした。
「東京」の「学生マジック」の「ステージ」の本なので、関西のテーブルマジックを行う人々が読んだ事がなくても無理はないとは思いますし、正直、このテクニックを使っている人を他に見たことがないので、「我が子の埋もれかけた才能を見つけてもらった」みたいな感覚もあるのですが・・・

 なんというか、「自分が考えた」と思う事は、それを発展させる最大の原動力となります。練習の動機としても非常に強力です。前例があった事にがっかりして練習をやめてしまったら残念です。
 DVDを出したハラダさんと銀次郎さんとはお会いした事がないのですが、どちらもお若い方だと伺っています。どうかこれに懲りず、そしてまた新しいものをいろいろと考えていただきたいな、と思う所です。
 シンペイさんのブログ、マジック発創泉「なんでやノン ! ?」で、当ブログの内容が取り上げられました。
 もう随分前になるのですが、初めてお会いした頃の事も書かれていて、読みながらいろいろと思い出す事もあります。

 ブログの主であるシンペイさんは、実名を真田豊実さんとおっしゃる方で、マジックの世界最大の大会"FISM"で「最もグランプリに近い特別賞」を受賞した人です。
 なぜ特別賞かというと、もともとヨーロッパの団体のため、当時の日本はその団体に正式に所属していなかったためです。今は(社)日本奇術協会がFISMソサエティの正式な窓口となっています。
 現在に至るまで、日本を含むアジア圏からグランプリは一人も出ていない事を考えると、当時の演技の水準から離れた、相当高いレベルであった事がうかがえます。

 
 サークルファン、という、特徴的なテクニックがあります。
 トランプは通常、扇形に広げて見せるのですが、その広げる角度を、90度、180度、270度、とより大きく広げていくと、最後にはサークル、つまり円形になります。
 これ以上の角度がない究極形なのですが、このサークルファンを補助なしで片手で開く方法を最初に考えて実演し、その後も大幅な改良を続けているのが真田さんです。
 NHKの「世界のマジックショー」で流れたFISMの映像は有名なのですが、その後も信じられないような発展を続けています。

 この、サークルファンの発展にまつわる話に、私が少しだけ関わったのが今日のブログ記事で触れられています。私もシンクロして、このテクニックの事を少し書いてみます。

 ステージで行うカードマニピュレーションは、教科書がありません。
 教えてくれる人を探すか、乏しい文献や他人の演技から推測して、実演までなんとかこぎつける、というもので、伝えられたものの中には不適切なものも相当含まれていました。

 実際、人によって相当やり方が異なるので、見た目が似ていても詳しく方法を知ると、中身はかなり違う事がよくあります。
 真田さんの著書「真田豊実のマニビュレーション」は、その詳細さ、古典的な文献の疑問点と解決方法、溢れるオリジナリティと、今読んでも非常に貴重な内容が書かれています。

 難度の高い技術解説の後、未来の「発展形」について触れているのも、読む者の気持ちを昂らせます。
 サークルファンの項目の最後には「逆ファンでこのテニックが完成する日を夢見て、この章の結びといたします。」と書かれていました。

 先入観がない所に、いきなりサークルファンの「原理」を読んだのが幸いしたのでしょう。二段階に開く、という基本だけを念頭に、いろいろと試してみているうちに、その「逆ファン」は本当に出来たのです。通常のファンとはまったく違う指の使い方で。
 最初は240度くらいでしたが、少しずつ指の使い方がうまくなっていき、3ヶ月くらいでほぼ円形になりました。しかも、完成した状態では人差し指と中指だけで全体を支える形になります。あとの指で他の事ができる訳です。

 この年の学生マジックコンテストにノミネートされて実演して、この時のゲストが奇しくも真田さんでした。コンテストの後の撤収であわただしい時間の中、ご本人とお話する機会をいただき、経緯をお話してアイデアを交換した事を覚えています。


 そしてほどなく、真田さんが新たな発展形を作った、というニュースが伝わってきました。
 逆ファンのサークルファンから、「サークルファン・プロダクション」という、まさかと思うような現象が実現されていたのです。

 真田さんを中心に、サークルファンは改良されつづけ、現在では様々なバリエーションも含めて完成度の高いテクニックが実演されているそうです。
 かつてヨーロッパを湧かせ、アジアのコンテスタントが追随した真田豊実師の挑戦は、周囲に影響を与えながら現在も続いているのです。