仕事にしてから、いろんな場所でマジックを行うようになりました。
 同じマジックでも場所によって演じ方が違う、というのを理解すると、いままでのレパートリーで対応できる現場が増えていきます。
 ただ、そのレバートリーそのものが、なかなか増えない事が悩みです。


 世の中にはマジックが何万種類ある、みたいな話は時々聞くのですが、それはいつ数えて、誰が数えたのか、みたいなツッコんだ議論はあまり聞いたことがありません。

 発想や視野を広く取れば、可能性は非常に様々ではあります。
 そのわりに、実演家が「マジック」と明記して行う、営業品目としての演目はそんなに多くありません。

 結局、マジックの種類は、言われる程多くないな、と漠然と思っていました。
 

 いまレギュラー出演しているマジックバー「ぽいんと」で、厨房を担当しているのは、少し前まで銀座で料理店を営んでいた方です。
 引退した後、暇にしててもナンだし、とその半世紀以上鍛えた腕を貸してくれている訳です。通称「お父さん」。
 和食の専門家かと思っていましたら、洋食のレパートリーも広く、今でも新たな食材にチャレンジしていたりして、「料理人の魂百まで」という感じで頭が下がります。

 食材は、その国や地域で違うものですし、料理法もまた無数にあります。
 レパートリーの種類で言うなら、料理の種類ほど多いものもないのでは?という話を「お父さん」にしたら、こんな答えが返ってきました。

「そりゃあ、同じ食材だけで1年間毎日違う事ができるくらい、料理には仕事はありますよ。でもね・・・『本当に美味しい料理』っていうのは、そんなにないんですよ」


 ああ、そうか、と思いました。


 ベストを探し当てるために工夫する事と、目先を変えて新鮮味を出す事は、似ていても根本的に違うもの。
「いちばん美味しいもの」は、そうそう生まれない。

 研究者や職人気質の人は、うなぎやてんぷらのような専門店、新しい料理にチャレンジしつづける人は創作料理レストランと、同じ料理店でも方向性はある訳です。

 どちらも根本は「本当に美味しいものの追求」であったとしても。


「専門店とは名ばかりの、それしか作れない店じゃあ全然ダメだぞ、専門家と名乗れるまでにどれだけ下地が必要かわかるか」と師の声が聞こえそうではありますが・・・

 まずは、足下を掘り下げてみよう、とあらためて思いました。