イングランドはエセックス州の

グリーン・ベルト(緑化帯)の

『デール・ファーム』と呼ばれる

区画に不法居住していた人々

(アイリッシュ・トラヴェラーズ)。

 

不法居住者を『活動家』が

支援したことで話が大きくなり

問題は全国ニュースになり

国連からも視察が入る中、

2011年10月

強制立ち退きは執行されました。

 

開始は10月19日午前7時。

翌日20日の夕方には完了。

 

ヘリまで出した警察に対し

居住者側は武器などは使わず

『座り込み』で抗議、これは

勝敗は時間の問題かとも・・・

 

居住者側の人数がもう少し

多ければ事態は

変わったかもしれないのですが、

当事者である居住者の一部は

暴力沙汰は困ると前日までに

現場を離れていて、

活動家の一部はその日

別の活動のために

デール・ファームを

留守にしていて、

活動家が過激な言動を

とったがために一部の支援者は

問題から距離をとっていて

・・・終わってみればこれは

警察当局側の事前準備が

優れていたということなのか。

 

でもここらへんは本当に

本文を、本を読んで欲しいのです。

 

 

 

 

居住者と支援者の間だけだはなく

居住者の内部で、支援者の内側で、

周辺住民の間でも

どんどん意見が相違していく。

 

デール・ファームに住んでいた

アイリッシュ・トラヴェラーの

多くは熱心なカトリックで、

そのツテで地元の神父さんや

信者さんが早い段階から

彼らを支援してきたのですが、

「カトリックは我々に

何も与えてくれませんでした」と

そうしたトラヴェラーズが

他派への改宗を

神父さんに告げる場面。

 

そこまで追い込まれた

トラヴェラーズの状況も

察するに余りあるし、

そう言われてしまった

神父さんの心境を思うと

それはそれで言葉がない。

 

もう万事が万事この調子。


それでもまあ

トラベラーズ側の居住が

不法であったことは

否定できませんし、

ですから行政側が

強制立ち退きに踏み切った理は

わかりますし、警察側が

強制執行の際に

『最悪の事態』に備えて

準備をして当日を迎えたことも

当然といえば当然なのですが

・・・立ち退きが完了した後、

一部の『合法的な居住者』までもが

デール・ファームから追い立てられ

自宅に戻れなかった理由は

なかなか理解するのが難しい。

 

表向きの理由は

『強制執行の結果、

周辺一帯の地面状態が悪くなり

健康と安全上の理由から

該当地域への立ち入りを

禁止せざるを得ない』みたいな

話なんですけど、確かに

不法家屋を撤去する際に

当局は結構荒っぽく

地面を掘り返したようで

現場は塹壕戦みたいな様子に

なっていたようなんですけど

(実際後日自宅に戻った住民が

穴に落ちて大怪我を負っている)、

でもそれは・・・それは

遵法精神が求められる行政が

「そういうことなんでヨロシク」で

済ませてしまっていい話なのか?

 

 

ともあれ強制立ち退きは完了し

周辺住民及び自治体はこれにて

めでたしめでたし、かと思いきや、

追い立てられたトラヴェラーズは

デール・ファームの横の道路に

キャンピングカーなどを停め

そこで生活するようになった。

 

勿論道路なので水道はおろか

下水設備もなく、

生活排水は垂れ流し、

ゴミはそこらへんに投げ捨てられ

結果ネズミが大発生、

ついでに病気も大蔓延。

 

だって行くところがないんです!

 

一部は近所のトラヴェラーズ用

サイト(居留地)に移動したものの

トイレ数などは明らかに足りない。

 

「せめて簡易トイレの増設を」と

行政に依頼するも

「でもそんなことをしたら

君たちそこに長居するでしょ」

 

行政側もトラヴェラーズに

住居の提供はしようとしたのです、

煉瓦とモルタルで出来た家を。

 

でも様々な理由で

トラヴェラーズ側は

その提供を断った。

 

自分たちは壁に囲まれた

『家』に押し込まれるのではなく

開放的なキャラバンで暮らしたい、

『一族』から離れて生活したくない

・・・同じトラヴェラーズ仲間から

「君たちが煉瓦とモルタルの家を

受け入れてしまったら、サイトで

キャラバンで暮らす仲間の権利が

損なわれるかもしれないだろ」と

説得というか脅しを受けてしまった

事例も存在するようです。

 

えっ、じゃあそれは

トラヴェラーズ側の

ワガママなんじゃないですか?と

思ってしまうのはしかし早計で

・・・それは彼らが歴史的に

ずっとずっと迫害されてきたことを

無視した意見だと思うんです。

 

私もこれまで知りませんでしたが

何かあるとトラヴェラーズは

簡単に社会の

スケープゴートにされる。

 

いざという時の保険として

『仲間』のそばに住みたい、

というのは普遍的な感覚で

(我々だって歴史的に

国外に『日本人街』を

作ったじゃないですか)、

『足』としてキャラバンを

確保しておきたいのもわかる。

 

でも同時に行政側の対応にも

限度というか限界はある。

 

私はこの本を読んでいて

「これは現代の移民問題に

つながる話だな」と

ずっと思っていたんですが

途中で考えを改めました。

 

これは現代の『住宅問題』に

直結する話なのです。

 

難しいし、解決策を

簡単に提示できない話です。

 

 

歴史を振り返れば

ジプシー/トラヴェラーズは

権力・行政には基本的に

ひどい目にあわされてきて、

「子供に教育を与える」と

言われ信じたら

子どもと引き離され

二度と会えなくなったり、

「仕事を斡旋する」と言われて

信じたら奴隷化されたり

収容所に送られて殺されたり、

強制的に不妊化させられたり

無実の罪を着せられたり、

ですから「素敵なおうちを

紹介しますよ」なんて

お上(かみ)の言葉を

素直に信じるのは

ちょっと難しいんだろうな、と

 

でも行政側としては

そこを信頼して

もらわないことには

何もできない

 

自分がジプシー/

トラヴェラーズ側だったら

どうやってここから

事態の打開を図るか

 

行政側の一職員だったら

どうやって案件を前に進めるか

 

一番簡単なのは

「悪いのは相手、自分じゃない」

と開き直ってしまうことかも

しれないんですが

それでは物事は解決しない

 

皆様ならどうするか

考えながらの1クリックを


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イングランドの

『デール・ファーム』と

呼ばれる区画に居住していた

『アイリッシュ・

トラヴェラーズ』が

強制的に立ち退かされたのは

2011年10月のこと。

 

 

 

 

『No Place to Call Home』

によればジプシー/

トラヴェラーズに対する

社会的圧力はその

数年前から強まって来ており、

特に2010年の総選挙で

その傾向は

決定的になったようです。

 

「不法行為はその行為者が

誰であれ公平に取り締まろう」

イコール「ジプシー/

トラヴェラーズが不法に

居住している土地があるなら

不法行為者は

取り締まられるべきだ」、

つまり「デール・ファームに

不法に居住している住民

(アイリッシュ・

トラヴェラーズ)は

立ち退くべきである」。

 

それは確かに正論。

 

でもデール・ファームを

追い出された彼らはならば

どこに行けばいいのか。

 

 

窮地に陥った

アイリッシュ・

トラヴェラーズと

その支援者には

2つの道がありました。

 

1つは合法的な折衝を

当局と可能な限り重ねて

立ち退き決定を回避する、

あるいは立ち退き規模を

最小限に抑える、または

立ち退き期限を引き延ばしつつ

その間に合法的な次の

居住先を見つける。

 

もう1つは徹底抗戦。

 

この場合目指すは

『立ち退き回避』

一点になるので

『立ち退きの規模を

最小限化する』とか

『引っ越し先を

見つける』とかは

今後の選択肢から

外れることになります。

 

当時デール・ファーム以外の

ジプシー/トラヴェラーズの

不法居住地でも強制的な

立ち退きは実施されていました。

 

それを踏まえて折衝派は

最悪の事態

(強制立ち退き実施)の

可能性を念頭に置き

居住者の引っ越し先を探しつつ、

デール・ファームに住む人々が

最低限の医療などを

受けられるよう東奔西走。

 

しかし徹底抗戦派からすると

折衝派のそんな態度は許しがたい、

お前らどうして『敵』すなわち

『体制側』とそんな仲良く

協力なんかしているんだよ!

 

我々に必要なのは

戦う姿勢を世に示すこと!

 

世間の目がここに集まれば

強制立ち退きなんて真似

当局だってできないさ!

 

・・・というわけでここで

『活動家(activist)』が

デール・ファーム陣営に

招かれることになります。

 

活動家を構成するのは

理想に燃えた大学生や

純粋に社会正義を

実現したい市井の人や

「じゃあ合法ギリギリの

権力との戦い方を

教えてあげるね」的人々。

 

彼らはまずデール・ファームの

正面に『やぐら』を建て

「我々も皆さんと一緒に

生活することで共闘します」と

敷地にトイレ用の穴を掘り

テントを設営し、で、

何が起きたかというと

それまでトラヴェラーズの

皆さんが地域との共生を図って

定期的なゴミ拾いをしていた

敷地一帯は汚物まみれとなり、

活動家の皆さんが体制側への

敵意を露骨に示すので

医療従事者などは

敷地に入れなくなり

当局・警察機構は「おい、彼ら

一線超え始めていないか」と

いっそう警戒を強めることに。

 

強制立ち退き執行日当日、

警察は『相手は

武装している』前提で

デール・ファームに入りました。

 

ここらへんの流れを

読んでいて私は

近現代の社会運動の

難しさ、みたいなものについて

考えてしまいました。

 

力を持たない人々が

権力に物を言おうとした時は

どうしても数の力を得るしかない。

 

しかしその『数』を増やす中で

集団は一枚岩ではなくなっていく。

 

ある程度過激なことをしないと

一般大衆は問題に

目を向けてくれないけれど、

過激なことをし過ぎると

一気に世間の支持を失う。

 

少し古いですけど

日本の事例でいうと

三里塚闘争などにおいても

そういう流れが

あったと思います。

 

ここらへんの

デール・ファーム

居住者側の内部分裂の実態は

本当に本を読む価値アリです。

 

自分が当事者であったら、と

想像すると心底怖くなる。

 

・・・みすず書房さん!

 

あるいはミネルヴァ書房さん!

 

和訳を出しましょうよ!

 

ところで私、この話を

引っ張り過ぎていますね、

あと2、3日くらいで一応の

区切りは着けたいと思っています。

 

よろしくお願いします。

 

 

どのような集団・組織・共同体も

『完全に同じ考え方をする人々で

構成されているわけではない』、

これはちょっと考えれば

当然のことなのですが

我々はそこらへん忘れがちで

時々それが本当に

危険だったりしますよね

 

トラヴェラーズ側の

内部対立に関する記述は

読んでいて辛かったというか

身につまされたというか・・・

 

君らそんなこと

やっている場合じゃ

なかったでしょ、と

第三者的立場からは思いつつ

でも自分があの渦中にいたら

絶対にあの対立からは

逃れられなかったと思うんです

 

で、同じことは

デール・ファーム周辺の

地域住民側にもいえて、

トラヴェラーズの定住化に

断固反対の立場を

とる人がいた一方で

受け入れようとする人もいた

 

事象を理解するために

全体を単純化することは

有効な手法ですが

単純化が過ぎるとまた

全体理解から

遠ざかっていくと思います

 

難しいですねの

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2011年10月、

イングランドはエセックスの

『デール・ファーム』と

呼ばれる一帯に住んでいた

『アイリッシュ・

トラヴェラーズ』と

呼ばれる人たちが当局に

強制的に立ち退かされました。

 

正式な建築許可を得ず

不法に居住していたとして

立ち退きの対象と

なったのは約86世帯。

 

警察隊による立ち退き執行は

2日がかりで実施され、

立ち退き対象になった人々の

一部はその後水道も

トイレも使えない状態で

道路わきに駐車した

キャラバンの中で生活することを

余儀なくされました。

 

立ち退き強制執行を

後押ししたのは地元の人々でした。

 

これだけ聞くとまるで

デール・ファーム周辺の人々や

エセックスの人々や

イングランドの人々が

ジプシー/トラヴェラーズに

非常に冷淡であるように

思えるかもしれません。

 

ですが地元民の中でも

トラヴェラーズとの

共存をはかった人々は

存在しましたし、

エセックスは英国最大、

いえ欧州最大の

トラヴェラーズ用

居住地(サイト)を保有する

いわばトラヴェラーズ・

フレンドリーな行政区ですし、

それでイングランドというのが・・・

 

強制立ち退き実施当時

デール・ファームに

住んでいたのは

『アイリッシュ・

トラヴェラーズ』、

すなわちアイルランド系の

非定住集団でしたでしょう?

 

彼らが何故アイルランドを出て

イングランドで暮らしていたのか。

 

『No Place to Call Home』を

読み終えた私の理解としては

・・・彼らはアイルランドでの

迫害を避けてイングランドに

避難してきたんですよ。

 

イングランドにも勿論

ジプシー/

トラヴェラーズ差別はあった、

偏見もあった、迫害もあった、

でもイングランドのそれと

他地域のそれを比較すると

明らかにイングランドの状況は

格段にマシというか・・・

 

マシであるからこそ

彼らは住み慣れた祖国を捨て

イングランドにやって来た。

 

デール・ファームの問題が

顕在化してきた頃、2003年に

外で遊んでいた15歳の

『トラヴェラー』の男の子が

「ジプシーだから」という理由で

他の10代の少年たちに

襲われて蹴り殺される、という

事件がイングランドで起きました

 

当時の英国は

労働党が政権を握っていて、

一部の保守党議員は

ジプシー/トラヴェラーズに対し

厳しい発言をすることで

民衆の支持を得ようとする

傾向もあったとのこと。

 

でもそれでも

デール・ファームの

アイルランド系

トラヴェラーズたちは

イングランドに住み続けたかった。

 

というか、たとえば

イングランドに渡って来たのが

『自分のおばあちゃんが

子どもだった時代のことです』

みたいな一家・一族にとっては

もうイングランドが

『生まれ育った場所』なわけで・・・

 

 

つまりこれは現代の

移民問題にも通じる話なんです。

 

私としてはここで

デール・ファーム近辺住民や

エセックス行政や

イングランド社会を責めるのは

ちょっと違うんじゃ

ないかと思うんです。

 

「我々を責めるなら

この問題をあなたの地域に

引き受けてくれ」って話ですよ。

 

相手がジプシー/

トラヴェラーズじゃなくても、

自分の自宅の近くにある日突然

キャンピングカーが数台

停まっているなと思った

その数週間後に車数が

100台とかになっていていたら

「なんじゃこれは」と思うのが

素直な反応でございましょう?

 

それでその100台が

どうやらそこに今後ずっと

定住するらしい様子で、しかも

どんどん車の数は増えてきて、

ゴミ収集の手配を

誰もしないせいで周辺に

ゴミが散乱するようになって、

銀行屋さんや保険屋さんに

「いやあ、あの車のせいで

お客様のご自宅の不動産価値は

相当下がりましたね」とか

言われたらそれはもう

「誰か何とかしてくれ」って

気持ちになって

仕方なくないですか?

 

では誰が、どうやって

何とかすべきなのか。

 

ジプシー/

トラヴェラーズ側も別に

他の人に迷惑をかけたいと

願ってそうしている

わけでじゃないんです。

 

彼らは彼らで

「普通に、人間として、

虐げられずに生活したい」と

必死にその方法を

探しているのです。

 

まさに移民問題と同根の

難しさがあると思いませんか。

 

続く。

 

 

私が英国に住んでいるというと

「英国は非白人に対する

隠れた人種偏見が

ひどいでしょう」とか

時々言われるんですが

(それも悪意なく『大丈夫、

私はわかってますよ』

みたいな感じで)

 

そりゃ偏見とか蔑視は

どこの国でも地域でも

「絶対にない」なんてことは

有り得ないのが現状ですが、

でも本当に英国人が

そこまで白人至上主義なら

国民がスナク首相や

メーガン妃を受け入れたのは

何故なのかって話になりませんか

 

話はそれますが

英国は4つの『国』から

構成されております

 

イングランド

スコットランド

ウェールズ

北アイルランド

 

この4つの『国』の首相に

『白人男性』は現在

ひとりも就いておりません

 

英国は本当に一部の方が

想像するほど『白人男性が

牛耳っている国』なのか

一度考えていただきたい

現状であると思います

 

というかもう一歩踏み込めば

「英国人は人種偏見主義者」

という考え方がそもそも

偏見であるとも言えません?

 

ぐるぐる考えながらの

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社会学系の本がお好きな皆様に

迷いなくおすすめしたい

『No Place to Call Home』

 

 

 

 

ただこれを当ブログで

どのように

紹介していけばいいのか・・・

 

私の英語力の低さから

内容を『読みそこなっている』

危険性も怖いんですけど、

章ごとに内容をまとめるのも

「ここは大学のゼミ室じゃない」

みたいな話になっちゃいますし。

 

章立てで申しますと

こちらの本は全体14章で

構成されているんですが

うち3章が『ジプシー/

トラヴェラーズの歴史』に

あてられています。

 

この章を読んでるとき

私は本当になんというか

事前予習の大事さというか

前知識の偉大性を理解しました。

 

ジプシーと呼ばれる人々の

『祖先』がどこの出身かは

いまだに諸説あるとか

欧州における差別の歴史とか

「それはイアンさんにも

聞いています!」

「あ、そこも驍

(タケシ)さんに

教わりました!」みたいな。

 

 

 

 

 

先にハンコック氏と

水谷氏の本を読んでおいて

よかったです、本当に!

 

(なんか能天気な言い草に

なってしまっておりますが、

ジプシーが受けた

迫害の歴史は一度皆様

確認してみてください、

たぶん我々が想像している

数倍は陰惨な話です)

 

で、私が『No Place to

Call Home』を読みたかったのは

現代の英国のジプシー/

トラヴェラーズ事情を

学ぼうとすると必ず出てくる

『デール・ファーム

立ち退き事件』について

知りたかったからなんです。

 

2011年にイングランドは

エセックスの

『デール・ファーム』と

呼ばれる一帯から

立ち退きを強いられたのは

『アイリッシュ・

トラヴェラーズ』と

呼ばれる人たち。

 

そういうわけでアイリッシュ・

トラヴェラーズについて

『No Place to Call Home』は

イアンさんや驍さんの

前出の本に比べてもう少し詳しく

述べてあるのですが

(注:イアンさんや驍さんの本を

批判しているのではありません、

ジプシー問題を俯瞰的に

見ようとするか、英国の問題に

焦点を絞るかの違いです)、

そもそも英国で

『ジプシー/トラヴェラーズ』と

呼ばれる人たちは複数の

集団から構成されているのです。

 

主なところを挙げると

アジアから欧州の東にやって来て

そこから西欧に移動してきた

『ロマ』を祖先とする人々

(『ロマニチャル』

『イングリッシュ・ジプシー』

『イングリッシュ・

トラヴェラーズ』などと呼ばれる)。

 

『ロマ』ではないものの

移動生活を送っていた・いる人々

(旅の行商人や芸人、季節労働者)。

 

音楽フェスなどを追いかけ

移動生活をするヒッピー系の

『ニューエイジ・

トラヴェラーズ』と呼ばれる

集団もいます(いわば

新興勢力ですがムーヴメント

としては現在下火な印象)。

 

『スコティッシュ・

トラヴェラーズ』は

『ロマ』を祖先としたり

しなかったりするものの

やはり定住地を持たずに

スコットランドで

暮らしていた・いる人々のこと。

 

『アイリッシュ・

トラヴェラーズ』は

基本的にロマとは遺伝子上の

つながりはないとされている

アイルランド発祥の

非定住系の生活者のこと。

 

 

なんのかんので

想像力に限界がある現代人の私は

『非定住系』の生活、というのが

どういうものかいまひとつよく

わかっていなかったのですが、

今回本を読んだ感じですと

たとえば作物の収穫期に

合わせる形で

「人手はいりませんか」と

その時その時に仕事の口が

ある地域を移動していくとか、

近辺では手に入りにくい品を

遠くから運んで売るとか、

鍋や何かを修繕して歩くとか。

 

人々が電車や車ではなく

徒歩や馬で移動していた時代、

こういう集団の存在は

定住者にとってとても

ありがたかったと思うんです。

 

物質面での恩恵だけではなく、

ネットはおろか新聞も

おいそれと手に入らない社会で

移動生活者が

もたらしてくれる情報は

何物にも代えがたい価値がある。

 

同時に畑仕事なんかも

手伝ってくれて

珍しい品物を売ってくれて

遠い土地の歌や

踊りなどを披露してくれて

特にアイルランド系の彼らが

売り物にする『馬』は

本当にいい馬ばかりと評判で

・・・私が地域の有力者だったら

間違いなく彼らを歓迎しますよ。

 

子どもだったら彼らが

馬車を連ねて村を訪ねてくる日を

指折り数えて待っていますよ。

 

勿論放浪者に対する偏見は

当時もあったでしょうけど・・・

 

英国でのジプシー/

トラヴェラーズの生活を

厳しくしたのが

我々日本人も

世界史の授業で習った

『囲い込み』です。

 

それまでの共有地が

地主に囲い込まれた結果

ジプシー/トラヴェラーズが

停泊できる場所が減っていく。

 

同時に『国民意識』

みたいなものが強くなり

すると定住地を持たない人々は

「君たちは『我々』なのか、

それとも『我々』ではないのか」

「なんかお前ら怪しくないか」

みたいな目を定住者から

向けられることになる。

 

輸送手段の発展によって

個人行商より

店舗販売が力を持ち

馬も生活に密着した動産では

なくなり、じゃあ

定住化するか、となっても

囲い込みですべての土地は

すでに誰かの物になっている。

 

働き口を求めて人々は

都市部へと移動し・・・

『悪目立ち』するようになる。

 

まあざっと申し上げると

このような背景・歴史が

『デール・ファーム』事件の

根底に存在しているわけです。

 

それにしても何故

アイリッシュ・トラヴェラーズ、

すなわちアイルランド系の

トラヴェラーズは

アイルランドじゃなく

イングランドに

定住地を求めたの?

という話は明日に続く。

 

 

『No Place to Call Home』では

1章使って上述の

『ニューエイジ・トラヴェラーズ』

についても語っています

 

いわゆるカウンター・カルチャー、

ニューエイジ系の移動生活者で

彼らは定住を捨て

キャンピングカーなんかに

自分の持ち物を詰め込んで

音楽祭を渡り歩くわけです

 

それだけなら

問題はなかったんですが

・・・ほら、ヒッピー文化と

違法薬物は

切っても切れぬ仲だったじゃ

ないですか・・・


彼らが構成集団の

一つとなったことで

『ジプシー/

トラヴェラーズ』の

全体的な印象は極度に悪化

 

・・・ただこう書くと

すべての『ニューエイジ・

トラヴェラーズ』が

『悪い人』みたいですが

実際はそんなこともない

 

というか本を読めば

わかっていただけるんですが

そもそも『ニューエイジ・

トラヴェラーズ』と

呼ばれる人の中にも実は

ニューエイジ系ではない人もいて

 

それこそ生活が困窮して

家賃が払えなくなっかたら

完全ホームレスになるよりは

車に身の回りの品を詰めて

同じような生活をしている人の

集団に混ざろう、みたいな

 

この物事をひとくくりにしない

著者の姿勢、私は好きです

 

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そんなわけで

『No Place to Call Home』

 

 

 

 

これはね!

 

読む価値のある本ですよ!

 

どうして翻訳日本語版が

出ていないのかわからないです。

 

みずす書房とかが

ハードカバーの美装丁で

出しそうなのに・・・

 

晶文社も似合いそうなのに・・・

 

ジョナサン・コゾルの

『家のない家族』の隣にさ!

 

 

 

 

『家と呼びうる場所はなく』

みたいなタイトルでさ!

 

今時ハードカバーはちょっと、

というなら河出書房新社の

『河出文庫』のあの素敵な

黄色と白の背表紙で!

 

・・・日本でこの本が

あんまり注目されない

理由のひとつは

主題の一つである

『デール・ファーム

立ち退き問題』が

日本ではあまり大きく

報じられなかったからかな、

とも思うのですが。

 

『デール・ファーム』と

呼ばれる地域に

不法に住み着いた

『トラヴェラーズ

(移動民族集団、

広義の【ジプシー】に

含まれる)』を

2011年10月に自治体が

強制立ち退きさせたのです。

 

デール・ファームの

位置していたのは

『グリーンベルト』と呼ばれる

住宅規制が厳しい区画で、

すでにある家を改築したい、

みたいな場合でも

家の所有者は当局の許可を

得なければならず、

またこの許可が

なかなか下りない。

 

「お前の家より緑化が大事、

嫌なら余所に引っ越しせい」

という行政の指針を住人が

受け入れている地域なのです。

 

そこにある時

(2000年前後)から

トラヴェラーズが

当局の建築許可なしに

どっと住み始めた。

 

デール・ファームの外の

住人からしたら

「なんでトラヴェラーズは

許可なしに家を建てて

許されるんですか」

 

ただ同時に

トラヴェラーズ側からすると

「でも我々は

ここを出されたら

行くところがないんです」

 

この伝統的定住者対

非定住者の対立を

基軸にして、

その内外に存在する

様々な対立と緊張、

就労・貧困の問題、

子どもたちの教育の在り方、

宗教、女性問題、

立ち退き反対運動のありよう、と

多くの視点が詰め込まれた

まさに力作。

 

こういう本はどうしても

対立する勢力の片側に

著者が肩入れしてしまう

場合が多いと思うのですが、

クアンビーさんはその点

上手というかプロというか。

 

第一章はクアンビーさんが

デール・ファームに

『合法的に』住んでいる

トラヴェラーズの女性宅を

訪問する場面から始まり

(デール・ファームには

合法的に居住している

トラヴェラーズと

不法に居住している

トラヴェラーズがいた)、

「政府の提言に従い

私は定住の道を選んだのです」

「定住すれば教育を受けられる」

「定住によって

人として生きることが

出来るようになる」

という彼女の言葉を紹介した後に

デール・ファームの外に住む

伝統的定住民の主張を記します。

 

いわく「我々はそれまで

デール・ファームにいた

イングランド系ジプシーとは

うまくやっていました。

移民してきたアイルランド系

トラヴェラーズが彼らを

追い出す形になったんです」

「ごみの散乱、深酒、危険運転」

「人数に物を言わせて

彼らは地域を牛耳ろうとした」

 

第一章を読み終えた時点で

「あ、これは現代の

移民問題に通じる話だ」

という思いを強くします。

 

この『強制立ち退き前』から

『強制立ち退き執行』

『その後』までの怒涛の展開を

私はひとりでも

多くの人に

読んでもらいたい・・・!

 

問題提起としてではなく

これ本当に『読み物』として

ものすごく面白いんです!

 

不謹慎に聞こえるかも

しれませんけど!

 

全国の大学と公立図書館の

『社会学』の棚に

あったら似合う1冊なんです!

 

 

・・・本の内容について

明日にも続きます。

 

 

著者の名前を日本語で

どう表記するか、から

正解がわかっていない状態での

内容紹介になりますので

誤訳の危機は常に隣り合わせ

 

皆様どうかご興味あれば

原書をお読みくださいませ

 

BBCの英文記事が読めるなら

大丈夫な文体ですから!

 

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