さて大学生二人組
南欧君と東欧君とは
その後しばらく顔を
合わせない日が続きまして。
(ここまでの話は
昨日・一昨日の記事で)
最後に南欧君と
話をしたのがもう半年前、
東欧君とはそうすると
1年近く顔を
合わせていない計算か、
それこそもう
本当に卒業しちゃって
スコットランドには
いない可能性も高いな、
ふたりとも学業に関しては
優秀な様子だったから
特に問題もないだろうけど
・・・東欧君は
その後どうなったかな、
「お前みたいにいい奴の
家族はいい奴に違いない」と
友人に断言されて
それまで絶縁していたらしい
日本の祖父母に
会いに行ったという
話だけれどもその・・・
大丈夫・・・
だったのかな・・・
・・・みたいな感じに
日々を過ごして
おりましたところ。
ある日の出先で
遠くから名前を呼ばれ
振り返るとそこには
懐かしの南欧君が!
「おう南欧君!久しぶり!
相変わらずお元気そうで!」
「お久しぶりです!
僕ちょうど試験が
終わったところなんですよ!」
旧交を温めつつ
私は南欧君の背後にいる
連れらしき男の子から
視線を外すことが
できませんでした。
あれこの子は・・・
もしかして・・・
すると私の目線に
気が付いたらしい南欧君が
「そうですよNorizoさん、
覚えていらっしゃいますか
こいつ、東欧君ですよ」
東欧君はにっこり笑って
「どうもお久しぶりです」
その東欧君の顔が!
完全に面変わり
しちゃっていてですね!
かつてこけていた頬は
ふっくらと盛り上がり、
青白かった肌は日焼けして、
何より目、以前はもっと
細く切れ上がっていたのが
頬の肉が重石になったのか
なんか丸く
垂れ気味になっていて、
それで私の記憶が確かなら
この子はもっと白目の部分が
冴え冴えと光るような
三白眼だったんですよ、
それがなんか・・・なんか
黒目が大きくなっている・・・
え、この子本当に
あの私の知っている東欧君?
と混乱していたら南欧君が
「そうなんですよNorizoさん!
こいつ太ったんです!
太らない体質とか
散々言っていたくせに!
日本でうまいものばっか食って
すげえ太ったんです!」
そう言われた東欧君は
にこにこと笑いながら
「そうです、すっかり
太っちゃいました、
日本のゴハン
美味しかったです」
そ、そうですか・・・
なんかこんなこと言って
非常に申し訳ないけど
ほら、よくあるじゃないですか、
保護された猫の『保護前』
『保護後3か月目』の
写真比較、この子、
なんかそういう感じ・・・!
雰囲気が以前とは全然違う・・・!
あの礼儀正しいけれども
どこか捨て鉢な殺伐とした印象が
拭ったように消えている・・・!
「ああ、日本に
行ったらしいですね、
えーと、日本、どうでしたか」
「すごくよかったです」
そう微笑む東欧君の顔が
本当に柔らかい感じだったので
私は勇気をもってもう一歩
「えーと、なんでも日本の
ご親族に会いに行かれたと
聞いたんですけどそれは・・・」
「はい。祖父母に会いました」
「・・・どうでしたか」
「いい人たちでした。
会ってよかったです。
日本に行ってよかったです」
私はもうこの時点で
胸がいっぱいになってしまい、
だってさ!この子以前は
「僕は祖父母にとって
恥の子」って笑顔で
言っちゃうような
状態だったんですぜ?
突然家にやって来た彼を
それまで没交渉だった祖父母は
驚きつつも家に招き入れ、
色々あって彼は
日本で研究をする間
祖父母の家に住み込むことになり
「いやそれはよかったけど
大変だったでしょう?
今まで話したことのない人と
慣れない地で共同生活って」
「でもいい人たちでしたから」
「君のお祖父さまと
お祖母さまは英語が話せるの?」
「それがあんまり」
「・・・君は日本語は?」
「それもあんまり」
「よく一緒に暮らせたね」
「いい人たちでしたから」
そう言って笑う
東欧君の表情には
かつてあった
屈託みたいなものが
もうまったくなく、
私は自分の心の震えを
誤魔化すために
「まあでも君も少しは
実地で日本語を学んだでしょ」
「はい」と言った東欧君は
声の調子を少し上げて
柔らかく優しい口調で
「オイシイ?オカワリアルヨ?
オイシイ?モット食ベナサイ?」
それから声の調子を変えて
喉の奥で声を
枯らすようにしつつ
太い低い声音で力強く
「ウマイカ!ソウカ!
オレノブンモ食イナサイ!」
そう言って東欧君は
自分の日本語を誇るように
にこっと笑って
私の涙腺はもう崩壊寸前。
そうか・・・
それが君が
経験から覚えた日本語、
かの地で一番
繰り返し触れたフレーズか・・・
君のおじい様とおばあ様、
本当に君のことが
可愛かったんだな・・・
勇気をもって一か八かで
会いに行ってよかったな・・・!
それもこれもよく考えたら
すべて南欧君のお手柄だよ、
と南欧君のほうを見ると
「こいつ毎食そう言われて
パクパク食い過ぎて
現在この有様なんですよ、
それで次の休暇にまた
日本に行くっていうから
今のうちに身体を絞っとけって
俺は強く言っているんです、
いやヤバイですね日本食、
日本食はヘルシーって
あれは嘘なんですかね」
南欧君、君は相変わらず
そんな感じで最高だ。
というわけで東欧君は
また日本に行くのだそうです。
「祖父母に絶対に
また来るよう
言われましたので」
それでその時は
南欧君も日本に観光に行き
東欧君のご祖父母のお宅を
訪ねる予定なのだそうです。
このお話の総括は
明日に続くのでございますが
結論として私が申し上げたいのは
時に我々は人の善意、
善なる心を信じることも
大切でございますね!
メリークリスマスで
ございますよ!
我々日本人は
「愛してる」とか言う言葉を
普段使いしないじゃないですか
ハグもキスもしない
その代わりに自分の大切な人には
美味しいものを食べさせて
それを愛の表現とするところ、
ありますよね!あるある!
東欧君のご祖父母、
連日ご馳走を
作っちゃったんだろうな、と
『俺の分』を食べさせたいくらい
東欧君に対し愛情を
示したかったんだろうな、と
おじいさまおばあさま!
その愛、通じていましたよ!
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