イングランドはエセックス州の
グリーン・ベルト(緑化帯)の
『デール・ファーム』と呼ばれる
区画に不法居住していた人々
(アイリッシュ・トラヴェラーズ)。
不法居住者を『活動家』が
支援したことで話が大きくなり
問題は全国ニュースになり
国連からも視察が入る中、
強制立ち退きは執行されました。
開始は10月19日午前7時。
翌日20日の夕方には完了。
ヘリまで出した警察に対し
居住者側は武器などは使わず
『座り込み』で抗議、これは
勝敗は時間の問題かとも・・・
居住者側の人数がもう少し
多ければ事態は
変わったかもしれないのですが、
当事者である居住者の一部は
暴力沙汰は困ると前日までに
現場を離れていて、
活動家の一部はその日
別の活動のために
デール・ファームを
留守にしていて、
活動家が過激な言動を
とったがために一部の支援者は
問題から距離をとっていて
・・・終わってみればこれは
警察当局側の事前準備が
優れていたということなのか。
でもここらへんは本当に
本文を、本を読んで欲しいのです。
居住者と支援者の間だけだはなく
居住者の内部で、支援者の内側で、
周辺住民の間でも
どんどん意見が相違していく。
デール・ファームに住んでいた
アイリッシュ・トラヴェラーの
多くは熱心なカトリックで、
そのツテで地元の神父さんや
信者さんが早い段階から
彼らを支援してきたのですが、
「カトリックは我々に
何も与えてくれませんでした」と
そうしたトラヴェラーズが
他派への改宗を
神父さんに告げる場面。
そこまで追い込まれた
トラヴェラーズの状況も
察するに余りあるし、
そう言われてしまった
神父さんの心境を思うと
それはそれで言葉がない。
もう万事が万事この調子。
それでもまあ
トラベラーズ側の居住が
不法であったことは
否定できませんし、
ですから行政側が
強制立ち退きに踏み切った理は
わかりますし、警察側が
強制執行の際に
『最悪の事態』に備えて
準備をして当日を迎えたことも
当然といえば当然なのですが
・・・立ち退きが完了した後、
一部の『合法的な居住者』までもが
デール・ファームから追い立てられ
自宅に戻れなかった理由は
なかなか理解するのが難しい。
表向きの理由は
『強制執行の結果、
周辺一帯の地面状態が悪くなり
健康と安全上の理由から
該当地域への立ち入りを
禁止せざるを得ない』みたいな
話なんですけど、確かに
不法家屋を撤去する際に
当局は結構荒っぽく
地面を掘り返したようで
現場は塹壕戦みたいな様子に
なっていたようなんですけど
(実際後日自宅に戻った住民が
穴に落ちて大怪我を負っている)、
でもそれは・・・それは
遵法精神が求められる行政が
「そういうことなんでヨロシク」で
済ませてしまっていい話なのか?
ともあれ強制立ち退きは完了し
周辺住民及び自治体はこれにて
めでたしめでたし、かと思いきや、
追い立てられたトラヴェラーズは
デール・ファームの横の道路に
キャンピングカーなどを停め
勿論道路なので水道はおろか
下水設備もなく、
生活排水は垂れ流し、
ゴミはそこらへんに投げ捨てられ
結果ネズミが大発生、
ついでに病気も大蔓延。
だって行くところがないんです!
一部は近所のトラヴェラーズ用
サイト(居留地)に移動したものの
トイレ数などは明らかに足りない。
「せめて簡易トイレの増設を」と
行政に依頼するも
「でもそんなことをしたら
君たちそこに長居するでしょ」
行政側もトラヴェラーズに
住居の提供はしようとしたのです、
煉瓦とモルタルで出来た家を。
でも様々な理由で
トラヴェラーズ側は
その提供を断った。
自分たちは壁に囲まれた
『家』に押し込まれるのではなく
開放的なキャラバンで暮らしたい、
『一族』から離れて生活したくない
・・・同じトラヴェラーズ仲間から
「君たちが煉瓦とモルタルの家を
受け入れてしまったら、サイトで
キャラバンで暮らす仲間の権利が
損なわれるかもしれないだろ」と
説得というか脅しを受けてしまった
事例も存在するようです。
えっ、じゃあそれは
トラヴェラーズ側の
ワガママなんじゃないですか?と
思ってしまうのはしかし早計で
・・・それは彼らが歴史的に
ずっとずっと迫害されてきたことを
無視した意見だと思うんです。
私もこれまで知りませんでしたが
何かあるとトラヴェラーズは
簡単に社会の
スケープゴートにされる。
いざという時の保険として
『仲間』のそばに住みたい、
というのは普遍的な感覚で
(我々だって歴史的に
国外に『日本人街』を
作ったじゃないですか)、
『足』としてキャラバンを
確保しておきたいのもわかる。
でも同時に行政側の対応にも
限度というか限界はある。
私はこの本を読んでいて
「これは現代の移民問題に
つながる話だな」と
ずっと思っていたんですが
途中で考えを改めました。
これは現代の『住宅問題』に
直結する話なのです。
難しいし、解決策を
簡単に提示できない話です。
歴史を振り返れば
ジプシー/トラヴェラーズは
権力・行政には基本的に
ひどい目にあわされてきて、
「子供に教育を与える」と
言われ信じたら
子どもと引き離され
二度と会えなくなったり、
「仕事を斡旋する」と言われて
信じたら奴隷化されたり
収容所に送られて殺されたり、
強制的に不妊化させられたり
無実の罪を着せられたり、
ですから「素敵なおうちを
紹介しますよ」なんて
お上(かみ)の言葉を
素直に信じるのは
ちょっと難しいんだろうな、と
でも行政側としては
そこを信頼して
もらわないことには
何もできない
自分がジプシー/
トラヴェラーズ側だったら
どうやってここから
事態の打開を図るか
行政側の一職員だったら
どうやって案件を前に進めるか
一番簡単なのは
「悪いのは相手、自分じゃない」
と開き直ってしまうことかも
しれないんですが
それでは物事は解決しない
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