スコットランドの山奥でも
子羊たちの姿を
目にするようになりました。
桜前線ならぬ子羊前線は
英国の南から北にかけ
ゆっくりと
上昇していくのが基本です。
安全なお産には
ある程度温暖な気候が
必要とされるらしく。
緑の牧草地のあちこちで
小さな子羊が
跳ねているのは
非常に心温まる
光景なのでございますが
ここで油断をしてはいけない。
この羊たちの世話をしている
羊飼いはこの時期
一年でもっとも
気が立っている・・・!
いや本当に。
普段どれだけ
おっとりした羊飼いでも
この時期だけは
洒落にならないくらい
ピリピリしている。
まあそれも羊たちを
大事に思うが故の
ことなのですが。
本年はここらへん
春の気候が穏やかで、
これは幸先のいい
スタート、と
思っておりましたら
・・・出産ピーク時に
雨と北風がきちゃって・・・
雨はともかく
気温が下がるのは
羊の出産にはよろしくない。
それでも悪天候は
2日ほどで収まり
これで一安心かと思いきや。
悪天候の名残で
割と強い雨が降っている夕方に
それまで見たことのない
ピカピカのスポーツカーが
我が家の私道に入って来て
「山向こうの牧場を
管理しているのは君たち?
すごく大きい黒い犬が羊たちを
追いかけまわしているんだけど!」
この運転手さんは偶然その場を
通りかかった善意の第三者で、
これは一大事と現場から
一番近くにある家に
飛び込んできてくれたのです。
通報ありがとうございます、
我が家の羊ではありませんが
すぐに持ち主に連絡をします、と
お礼を言って該当する
牧場主に電話を入れたものの
時すでに遅く、何頭かの羊が
『ダメになって
しまっていた』そうで・・・
付近の羊飼いの間に
非常線が張られ、
犬とその飼い主らしき人間が
乗っていた車までは
特定できたらしいのですが
身柄の確保までには至らず。
警察にも連絡済みでは
あるらしいのですが。
そしてその翌日、
その日は天気も良く
なんとか無事に一日が終わり
夕方の見回りに出る前に、と
羊飼い氏が台所で
お茶を飲んでいたら
ドアがノックされ開けてみると
都会からドライブに来ました、
みたいな若い男女が
「あの!このすぐ下の牧場で
ちょうど子羊が生まれていて、
でも出産の後、母羊が
全然動かなくて、
だからこれは非常事態だと思って
こちらに!その生まれたばかりの
子羊を持って来てあげました!」
・・・これがどういう
事態かと申しますと
たまたま分娩室の前を
通りかかった人が中を覗いて
出産を終えたばかりの母親が
ぐったりしている横に
眠っていた赤ちゃん
(下手をしたらまだ
産湯も使っていない)を
「あらあ、お母さんが
動かないとは一大事」と
持って出た、みたいな話で
刑事民事倫理的に
それは罪です!という・・・
羊飼い氏の悲鳴と悪罵は
2つ向こうの丘のてっぺんまで
聞こえたという話です。
(あ、これは
誇張です、すみません)
(でもそれくらい
『ひどい話』なんです、これ)
しかもこの子羊というのが
よりによって
『ブラックフェイス』で、
羊関係者の間ではとにかく
「出産直後の母子密着が大切」
「人工哺乳飼育が最も難しい」と
いわれている品種だそうで、
羊飼い氏は全速力で子羊を
母羊の元に
連れ帰ったのだそうですが、
母羊(その時はすでに
意識を取り戻して
ある程度
動けていたとのこと)は
子羊を見てもその子を
自分の子とは認識できず、
子羊は子羊で
体温が落ち始めていて
これはもう屋外に放置は
できない、みたいな
状態であったらしく・・・
子羊君は現在屋内で
人工哺乳飼育されていて
これまでのところ元気、
母羊も回復中との
ことなのですが、
これは本当に運が
良かっただけの結果。
そんなわけで皆様、
春の牧場の近くでは
怪しい行為・
危険な行為は慎み、
これは非常事態なのでは?
という状況に直面した場合は
下手な素人判断はせず
近くの家にその旨を
告げるだけにとどめましょう、
間違っても生まれたての
家畜に手を触れてはいけない。
・・・普通に考えたら
わかることのような気も
するんですけど・・・
ただ幼い頃から長いこと
『動物を飼えない
動物好き』だった私には
この男女の
気持ちもわかるんです、
あれでしょ?
『生まれたての子羊』を
触ってみたかったんでしょ?
子羊、可愛いものね!
でもね、それは本当に
『やっちゃアカンこと』
なんですよ!
春のスコットランド、
苛立っている羊飼いと
妊娠・出産・子育て中の
羊および牛には
最新の注意を払って接しましょう、
という話でございました。
『職業:羊飼い』という人を
よく観察してみると
彼らは皆様基本的に
すごい筋肉を保有しています
いざという時は
体重150キロとかの
雄羊の頭突きを
受け止めなくちゃならない
人たちだから・・・うん・・・
あと彼らは必要ならば
『とても恐ろしい声』を
自在に出せます
家畜に対して
気合負けだけは
避けないといけないので・・・
世の中、怒らせてはいけない
心優しき人々は存在する
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