数年前に知り合った
東欧君は身内に日本人がいて
でもそこらへんとの仲が
ちょっとこじれている感じ。
日本にいる祖父母と
東欧君は一度も
口をきいたことがないとか
そういう・・・
さてそんな彼らと私は
一時期まったく
顔を合わせなくなり、
あれ、もしかしたら彼ら
卒業してどこか
行っちゃったかな、と
思っておりましたら
ある日南欧君が声をかけてきて。
「おや久しぶり」
「休みの間、
国に帰っていたんです」
「ああ、なるほど」
それで彼の勉強の話など
少し聞いてから
「東欧君も元気にしている?」
「元気ですよ。あいつ
今、日本にいるんです」
「えっ。いやこんなことを
言ってしまうのはアレだけど、
彼は日本にはそれほど
行きたくないものとばかり・・・」
勉学の関係で指導教員に
留学を勧められている、
という話は聞いていて、
留学先の候補の一つが日本、
ということではあったのですが。
「そうですそうです、
あいつ最初は他の国に
行くつもりだったんですよ。
日本に行くのはすごく渋って」
「教授の意向とかそういうもので
断れない感じの日本行き?」
「いや、俺が
日本にしろって言ったんです」
南欧君曰く、東欧君は日本に
それほど興味はない、と
ずっと言っていたけれど、
日本に好印象はない、
くらいのことは言っていたけど、
「でもあいつ、Norizoさんとは
普通に話すし、むしろ
積極的に話したがるし、
あと大学でも
日本人留学生がいると
話しかけに行っていて、で、
Norizoさんもそうですけど
俺たちが話をした日本人って
皆基本的にいい人たち
ばっかりだったんですよ。
全員親切で礼儀正しくて
フレンドリー」
「お、おう、そうですか」
「だから俺は言ったんです、
なあお前、日本にいる
祖父母に対しお前は色々
思うところがあるみたいだけど、
その気持ちはわかるけど、
でもその人たちは
悪い人たちではないんじゃない?
だって俺たち、今まで
日本人で悪い奴に
会ったことないじゃんって」
「・・・は、はあ」
「俺はですね、先入観ていうか、
自分で実際に確かめずに
物事を判断しちゃうのって
よくないと思うんですよ。
だからあいつに
一度日本に行って直接
おじーさんとおばーさんに
会って来いって言ったんです、
もしかしたら全部勘違いかも
しれないじゃないかって」
「・・・東欧君は
それで納得したの?」
「いやもう行かない理由を
百も挙げてきましたよ。
だから俺は言ってやったんです、
なあお前、俺にはお前の
祖父母が悪いやつとは思えない、
だってお前はいい奴じゃん、
お前みたいないい奴の家族が
悪い奴なはずはないじゃんって」
「・・・」
「だからせめて日本に行って
おじーさんとおばーさんが
悪い人じゃないってことだけ
確かめて来いよ、確認もせず
相手が悪い奴だって信じて
それで相手を恨んで
生きていくのはよくないよ、
お前のおじーさんと
おばーさんなら絶対大丈夫だよ、
だってお前いい奴だもん!と
俺が言ったらあいつも
理解してくれました」
・・・この話を聞いた時
私は心底実感しました、
この南欧君はとてもいい子、
いい子であること・
心が清いことに間違いはない、
でもその心の清さゆえに
この子は友人に
とても危ない橋を
渡らせてしまっている、と。
いやですね、
亀の甲より年の功というか
『本人はいい奴だけど
その親はいい奴ではない』
みたいな事例、
私くらいの年になると
周囲で複数件目撃しちゃって
いるものなんですよ!
あるのそういうことは!
世界は美しくあって
欲しいけれども、でも現実は
キレイゴトばかりじゃないのよ!
私がもしも東欧君に
直接そこらへんの助言を
求められていたら
私は彼に日本行きを
勧めなかったと思うんです。
寝た子を起こすな、というか・・・
触らぬ神に祟りなし、というか・・・
大学生くらいの年頃なら
自分ももっと
南欧君みたいなことを
自信を持って
言えたかとも思うんですけど。
これが・・・
若さか・・・!
南欧君の表情から察するに
彼はもう東欧君とその祖父母の
『愛と涙の感動の対面』
みたいなことを
頭から信じている感じで、
私は東欧君の幸運と
万一の際の東欧君・南欧君
ふたりの友情の維持を
ひたすら願って
その場を去ったのです。
もしこの先また東欧君と
出会うことがあったら
私はどういう
言葉をかければいいのか・・・
そんな課題を背負いつつ
この話は明日に続く。
それにしても南欧君のこの
「お前はいい奴だから
お前の家族もいい奴に
決まっている」というのは
すごい発言ですよね
こんなことなかなか
言えないですよ、
この子本当にすごいんですよ
でも彼はたぶん自分の
そういう群を抜いた
『すごさ』に気づいていない
天才は無心って
こういうことでしょうか
ただ本当・・・
この助言は危ういと
私は思ったんですよ・・・!
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