佐藤嘉洋オフィシャルブログ「明るく生こまい」Powered by Ameba
↑この日のために腹筋を割ってきたヨサポンと横地

(キックオタクの目線から語りたいので引き続き敬称略は続く)

第1話「立場のない人間に、一番与えられたいモノ
第2話「今までも、今も、これからも
第3話「苦しみの向こうの境地
第4話「同じ志を見つめたDNA
第5話「妥協と拘りの境界線
最終話「レジェンドたちから受け取ったモノ

ちなみに私が中学3年生のときの話。
大和ジムでのスパーリング大会のことだ。
ちょうどいい相手が見つからず、プロデビューしたての高校生ファイター新美友恒氏に胸を借りて試合をしたことがあった。
……ボッコボコにされた。長島自演乙風にいえば「フルボッコ」というヤツである。
パンチを幾度も打ち込まれ、
鼻の奥がキナ臭い匂いでツーンとしていた。
そして首相撲の攻防になったとき、
リングサイドで腕組みをしている人が目に入った。
ヨサポンである。
「おい新美、もうちょっと手加減してやれ。かわいそうだろうが」

……ああ、かわいそう、かわいそう、かわいそう……

朦朧とする意識の中で、その憐れみの言葉が脳内にこだまする。
その後も軽くいなされ試合は終了。
この試合は胸を借りる、
というものだったので勝敗はつかなかったが、
どちらが勝者かは歴然としていた。
試合後、「ふんっ」といった感じで、
ちょっと小馬鹿にしたような目で、
新美氏からニヒルに笑いかけられたような気がした。
多分被害妄想だけど……。
ただ間違いないのは
「クソガキ、なめんじゃねーぞ」というキツイ洗礼を受けた、
ということだ。

私がWKAの世界王者になって、
「焼き鳥のやまとや」に彼女と行ったとき、
「あの佐藤嘉洋に手加減してやれって言ったことが懐かしいよ」
とヨサポンが言い、この話で一同盛り上がったのは良い思い出だ。
確か2002年清水貴彦戦の前だったような気がする。

今でも、私をボコボコにした新美氏を見ると身体が硬直する。
あのときの苦い苦いスパーリングを思い出して……。
これがトラウマというヤツなのだな。

そんな懐かしい思いを頭に浮かべながら見ていたエキシビションの第二試合も大いに盛り上がることに。
ヨサポンと現BodyBox(レベルズの不可思やNAGOYAKICKのガンプ小島などを輩出)代表の横地健至のパンチの打ち合い。
互いのパンチが交錯し、
両者共に腰が落ちる場面も。
試合後、横地氏は「アゴが痛い、あのヤロー」。
ヨサポンは「デコが痛い、あのヤロー」。
とそれぞれにダメージを受けた模様。
身体張ってるなあ……ってエキシビジョンだからね、これ。

この二人に限らず今回のエキシビションに出た全(元)選手に言えることなのだが、
リングに上がることが心から楽しそうに見えた。
もちろん緊張もあっただろう。
だが、長い間味わっていなかった「あの」感覚を、
緊張も含めて懐かしんでいるように思えた。
私は次のブアカーオ戦で74戦目になる。
今年の私は精神的に苦しくて試合を楽しめていない自分がいる。
4連勝し、苦しい気持ちも少し和らいだが、
まだ「楽しさ」より「必死さ」が勝っている。
次の試合は「必死さを楽しむ」くらいの余裕を持ってリングに上がりたいな。

苦しさの向こうに、自然と笑みがこぼれる境地があることを私は知っている。

第4話「同じ志を見つめたDNA」に続く

明るく生こまい
佐藤嘉洋