「たんぽぽのちえ」を、昨年、引き受けてしまった担任学級で、自分で授業することになり、天邪の鬼のぼくは、ここでもまた「指導書」も「赤本」もまったく見ずに、自分で授業を考えました。誰が書いたのかもはっきりしないうえに、お上の後ろ盾で”エラソー”にしている指導書に対して、ありがたがるなんてことが、どうしてもできないんです。
偏屈!?そうかもしれません。でも、現場人としての矜持です。でも、みなさんは真似などしないでください。これから紹介すること、いくらかでも参考になれば、その部分は取り入れてみたらどうかな?その程度でどうぞ。
「たんぽぽのちえ」です。光村の「国語」教科書、小2説明文教材。
たんぽぽちえ
春に なると、
たんぽぽの 黄色い きれいな 花が さきます。
こう書き出しています
いきなり「ちえ」とあります。
「たんぽぽって、知恵なんて持ってるの?」「それってどんなこと?」
そう思わせる題名です。だから、この説明文では、どんな「ちえ」なのかを読んでつかんでいけばいいと言うことになります。その「ちえ」を説明する文章です。
まず段落に分け、それぞれに何が書いてあり、それらがどのような関係・構造になっているかを明らかにすることが肝心でしょう。
そのために、段落に番号を振ってみましょう。(*これはその後の学習に便利です)
段落は行替え、段下がりで明らかです。10の段落です。
① (はじめ) 春のたんぽぽのことだよ、と語り始めます。
②~⑨ (なか) 「ちえ」が具体的にあげてあります。(4つのちえ)
⑩ (おわり)~まとめです。
なかのところを詳しくみてみます。
②、③…「ニ、三日たつと」「花はしぼんで、くろっぽい色にかわる」「花のじくはじめんにたおれる」
「たねにえいようをおくり」「たねを太らせる」
⇒<たねを太らせるちえ>
④、⑤…「やがて」「花がかれて、わた毛ができる」
「らっかさんのようになる」「たねをふわふわとばす」
⇒<たねをとばすちえ>(わた毛、らっかさん)
⑥、⑦…「このころになると」「じくがおき上がる」「ぐんぐんのびていく」
「せいを高くするほうが、たねをとおくまでとばすことができる」
⇒<たねをとおくにとばすちえ>(花のじく)
⑧、⑨…「よく晴れて、風のある日」「わた毛のらっかさんはとおくまでとんでいく」
「しめり気の多い日や、雨ふりの日」「わた毛のらっかさんはすぼんでしまう」
「わた毛がしめっておもくなるとたねをとおくまでとばすことができない」
⇒<天こうによってわた毛のすがたをかえるちえ>
まとめ⑩は?
「このように」(「なか」で書いたように)「たんぽぽは、いろいろなちえをはたらかせています」(4つのちえのこと)「あたらしいなかまをふやす」ため。
段落の関係をこうまとめた後、もう少しよく見てみます。
<④、⑤>と<⑥、⑦>は<たねをとばすちえ>で同じことです。しかし、目を向けることが違います。<④、⑤>は、わた毛に注目し、<⑥、⑦>は花の軸になります。だから「とおくに」ということが出てきます。
学習活動としては、構造を意識するために各段落に「小見出し」をつけてみたらどうでしょう。その際、「挿し絵」がヒントになりますから、それを生かします。
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ぼくが子どもたちと読むときには、細部にもこだわります。
①「黄色い きれいな 花」と「きれいな 黄色い 花」
例えば、次を比べてみたいと思います。
A.たんぽぽの 黄色い きれいな 花
B.たんぽぽの きれいな 黄色い 花
AとBではどうちがうでしょうか。語順の違いによってもたらせるイメージの違いというものです。「花」にひっぱられて、Aは「きれいな」にイメージを、Bは「黄色い」にイメージを強く感じませんか。音読してみてください。
また、「黄色い」は色がそうであるという客観性があるけれど、「きれいな」には主観性があります。「黄色い かわいい 花」という言い方だって成り立ちますからね。客観性と主観性の違いも意識したいなあ。
(ちょっとだけ。これはぼくの読み=タンテイです。このことを子どもたちとどう学ぶかは、語りやたとえなど板書にもかいて比べたりします)
②「花は しぼんで くろっぽい 色に かわって いきます」
上の写真を見てください。「くろい色」ではなく「くろっぽい色」です。些細なことのようですが、大事なところです。真理は細部に宿るのだ!
「しぼむ」も(対語の)「ひらく」とのイメージの対比で身体(手のひら)表現してみよう。
③「花のじくは、ぐったりと じめんに たおれて しまいます」
じく(軸)についてのイメージも確かめたいなあ。
「ぐったりとしたじく」を、次のようなイメージからつくってみたい。
漢字の「中」は、コマの軸をイメージしたもの。
真ん中にすっとたっている花の「じく」を、身体を使って表現してみよう。それがぐったりと倒れてしまいます。
説明文教材の読みと言っても、ことばをイメージして読むのだから、こうした「あそび」もあってもいいはずです。
《以下は昨年、現場に入って授業をしました。その時に書いた『らぶれたあ』より。
2号、3号、4号、5号 です。》
らぶれたあ №2 (授業教材研究のために)
2023.5.11
光村「国語」教科書2年の扉の詩を読みます。子どもたちの読みがもう少し深くなるようにはどうすればいいのでしょうか。
まど・みちおさんへの敬意をもって読む
扉の詩は『たんぽぽ』まど・みちおです。作者の「まど・みちお」も黒板に書いておきましょう。作者への敬意です。(教科書には題名、作者名がありません。著作者への敬意を示すことは大事です。)
以下の詩です、
たんぽぽ
まど・みちお
「たんぽぽさんって
まぶしいのね。
ひまわりさんの子で、
お日さまのまごだから。」
と、ちょうちょうがきいた。
たんぽぽは、
うふん と わらった。
これは2人の「じんぶつ」が登場します。その短い会話です。(詩や物語に出て来る、あたかも人間のように話したり、行動したりするものを「じんぶつ」という事は教えたいと思います。その後の学習で必要になりますから。)
《たんぽぽ》と《ちょうちょう》です。擬人化(人の様です)していますね。
前半は、飛んできた《ちょうちょう》が《たんぽぽ》に話しかけて聞きます。
たんぽぽ―ひまわり―おひさま
この3つの関係を、《たんぽぽ》からみたものとして、「子」、「まご」とします。
ひまわりの子
おひさまのまご
この3者に共通することを意識するために、黒板・ホワイトボードでもよい。(模造紙にクレパスで書くのもいいかな。)黄色やオレンジ、緑など使うと、イメージが浮かべやすいでしょう。
簡単だから、黒板に色チョークを使ってことばと絵をかいてみました。
下の図を見てください。
この三つ、丸くて、黄色くて、おひさまのまご、ひまわりの子みたいですね。
ちょうちょうは、たんぽぽさんを、ひまわりさん、おひさまとイメージを重ねてみて、「まぶしいのね」と話しかけてくれています。
ちょうちょうから、ひまわりへ、そして、おひさまへと、見ている視線が上がっていくようです。
たんぽぽの晴れがましいうれしさ―「うふん」
後半は、たんぽぽが「うふん」と笑います。この声は、照れたような、うれしい笑いでしょう。
ちょうちょうにひまわりやおひさまの「子」「まご」だと語りかけられたたんぽぽは、うれしくて、はれがましくて、ちょっぴり恥ずかしくて「うふん」と笑ったのです。
この「うふん」には、そういう意味があります。そこを、子どもたちと表現して、楽しみます。
(なにか、冷笑することがほめはやされる時代、「論破」することを売り物にするヒ○○キのような人が大手を振って歩く時代に、こういう互いを褒め合うことこそ大事にする温かい教室にしたいな、そう思います。2年生でも、それはできると考えています。)
子どもたちの音読を温かく聴いてあげてくださいね。
らぶれたあ №3 教材研究を授業に活かすために
2の3 霜村三二 2023.5.16
タンテイする読み
「たんぽぽのちえ」という説明文教材をどう授業するか。それを考えながら教材を研究します。教室で教材を読むことを私は“タンテイする”と呼びます。知的な、わくわくする活動にしたいからです。
まど・みちおさんの書いた教科書の扉の詩「たんぽぽ」も「たんぽぽのちえ」へと関連させて子どもたちとタンテイしました。(それは『らぶれたあ』2号に綴っています。)
もう一つのまど・みちおさんの「タンポポ」という詩も読みました。
タンポポの擬人化(まるで人間みたいにタンポポを見つめる)に触れておきたいからでした。
こちらの題名「タンポポ」はカタカナです。動物たちのいいかたからそうなっています。‟タンテイする”読みにして表現を楽しみました。
まどさんの詩を子どもたち楽しく音読しました。詩やことばあそびは子どものことばのセンスを育むことに生きます。
「たんぽぽのちえ」という題名について
「ちえ(知恵)」とは、辞書的には「道理を判断し処理していく心の働き」のことです。たんぽぽに「心」などないのに、題名で「たんぽぽのちえ」というのはなぜでしょう。
それは、擬人化とかかわりがあるからです。筆者(うえむらとしお氏)はたんぽぽの変わっていく様子をあたかも人間みたいだとして、その不思議さを人と同じような「ちえ」の発揮としたのでしょう。
「たんぽぽ」へ心寄せる気持ちは2つの詩を読んできたことが生きてきます。
ハンバーガーに譬えて、
中身(「ちえ」の実際)を
この説明文では、たんぽぽの不思議な変化を、たんぽぽの「ちえ」として紹介し、説明します。
説明文は、書かれていることをタンテイしながら正確に読み、全体を構造化することが大事になります。ただ、2年生の子どもたちに「構造化」などと言っても、何のことだかわかりません。
そこで、「たんぽぽのちえ」を横にしたハンバーガーに譬えてみました。
ハンバーガーはパンで挟まれていて、間に中身(例えばハンバーグ、トマト、チーズ、レタスなど)があります。段落を10に分けました。
挟まれている中身が本文のなかで「ちえ」と呼ばれているものです。ことばを手掛かりにタンテイしていくことで、それは明らかになります。
1⃣は、はじめにという部分です。(パンに当たりますね)
春に なると、 たんぽぽの 黄色い きれいな 花が さきます。
先ずは1⃣をタンテイします。以下の2つの表現を比べます。
A・黄色い きれいな 花
B・きれいな 黄色い 花
校庭や野原で、先ず目に入ってくるのは、たんぽぽの「黄色い」という視覚です。黄色い色は客観的なこと。それに対して、「きれいな」ということは、頭で思うこと=主観でしょう。客観(視覚)によって引き起こされる主観「きれいな」という違う2つのことが書かれている文です。
とすれば、Aのほうが、実際的な表現という事になるでしょう。
「校庭の向こうの方に、黄色い花が咲いている。そばに寄ってみると、きれいだなあと思うよね。そういう文になっていますね。見たから、心にきれいな花だなあと思うんだよね」
2⃣より後 9⃣までも、ことばをタンテイしながら読んでいます。(つづく)
『らぶれたあ』 №4 (子どもたちの学びをゆたかにするために)
2の3 霜村三二 2023.5.18
「国語」の教材 「たんぽぽのちえ」の続きです
説明文をタンテイする(読む)とは、書かれていることを正確につかむことだと思います。そのために、説明されている細部のこまかい表現に目を止めて読みます。
2⃣の段落で見てみましょう。
ニ、三日 たつと、 その花は しぼんで、 だんだん 黒っぽい 色に かわって
いきます。そうして、たんぽぽの 花の じくは、ぐったりと じめんに たおれて しまいます。
*「ニ、三日 たつ」とありますが、それは、1⃣段落のたんぽぽの花がさくことを受けてのことだという事を確かめなければなりません。じつは、2年生のこの時期の子どもたちには、そのことがあいまいなまま読んでいることが多いのです。
*「しぼむ」という事のイメージも、例えば風船などを思い浮かべ、それを膨らませ、それがしぼむことなどをやってみます。そうすれば、「しぼむ」の対語の「ふくらむ」も、意識できます。(しぼむ⇔ふくらむ)
*「だんだん」は、「少しづつ」と言い換えることばが子どもたちから出てきました。
*「黒っぽい色」と「黒い色」は違います。教室で黒いTシャツの子と灰色のシャツの子を並べてみました。微妙な表現ですが、こうしたことばへの感覚は、学びのなかで育てま
す。
*「花の じく」は、挿絵だけでなく、黒板に簡単な絵を描いてイメージをつくります。
そのじくが「ぐったりと じめんに たおれて」いるところが大切です。
「じく」とは、独楽(こま)の軸をかいて説明します。真ん中を貫き、まっすぐで直線のイメージです。それがぐったりしているのだから、どうしたんだろうという思いも湧きます。
ちなみに「中」という漢字は、この独楽(こま)のイメージです。
読むということは、回数多く音読することと狭く考えず、細部のイメージをつくりながら、ことばを手掛かりにタンテイすることだとして授業をつくります。
校庭脇でたんぽぽを見つけたよ
一昨日、校庭脇での写真です。
2組担任のK先生と、夕方、外に見に行って見つけました。
こんな片隅によくぞ咲いていると、たんぽぽを褒めたくなります。
らぶれたあ №5 (教材を深くたのしむ)
2の3 霜村三二 (2023.5.23)
「たんぽぽのちえ」の関連として、読む
川崎洋さんの詩「たんぽぽ」
川崎洋さんの「たんぽぽ」も子どもたちと読みあいたいと思います。一つの詩を読む時間は、授業のなかの10分足らず。料理の比喩でいうならば、メインデッシュにあたる「たんぽぽのちえ」に対し、デザートのようなものと言えばいいでしょうか。
視写からはじめるよ
「たんぽぽ」の詩は、1行ずつ黒板に私が書いたことばを視写していきます。ゆっくりと、全員がついて来れているか確かめのことばをかけます。(1マス空いたところは、メロンパンの◯を書いておきます。「1マス空き」というより「メロンパン」という方が楽しいものね。)
1連まで書き写したところで □ の中を考えて見ました。
「いのち」があるんだ、という発言がでます。すてきです。
「そうだねえ。みんないのちがある。そのうえで、一つ一つがみんな違ってるよ。教室のみんなみたいに。川崎洋さんは、他のことばを書いています。
みんなが一人ひとりが分かるためには、何があるんだろう?」
「なまえじゃない」と。
「そうだよ、川崎さんは、「みんな なまえが あるんだ」と書いたんだ。」
1連を写し終えたところで、1行空きのしるしの「ながまる」として「フランスパン」を書きます。(フランスパンといいながら、楽しそうです)
2連に1行目を「おーい たんぽぽ」と書き、綿毛の一つに「たんぽぽ」と書き添えます。
「他にはどんな名前があるんだろうか」
「た」、「ん」、「ぽ」、「ぽ」の4つの文字の組み合わせだという事を知ります。 ・ぽんぽた ・ぽぽんた ・ぽぽたん
ことばあそび
「川崎さんは、「た」「ん」「ぽ」「ぽ」の4文字を使って、名付けたんだよ。そういうことばあそびって、ぼく書く『らぶれたあ』でもよくやることがあるよ。」
らぶれたあ⇒ぶたあられ、あらぶれた、あらぶたれ、あれたぶら などと。
「川崎さんは、4つの名前を代表させましたが、ここでは、子どもの感覚でいろんな「なまえ」を出してみます。
こんな風です。
1. たんぽぽ 2.たぽんぽ 3.たぽぽん 4.ぽぽんた 5.ぽぽたん 6.ぽんぽた
7. ぽんたぽ 8.ぽたぽん 9.ぽたんぽ
もっと自由に
「んたぽぽ」という「なまえ」を出すと、「それはダメだよ。『ん』から始まっちゃダメなんだよ」の声が出ました。
ぼくは、「そういう考えもあるけれど、もっと自由であってもいいんじゃないのかなあ。もっと大らかに、大らかに」とことばを添えます。狭い常識にとらわれなくたっていいんだよ。
10.んたぽぽ 11.んぽぽた 12.んぽたぽ
これで全ての4文字のパターンです。
□ に おちるな って
「あなに おちるな」、「コンクリートに おちるな」、「石に おちるな」…。
以前学位集したとき、子どもたちから「地獄に おちるな」ということばが出たこともあります。確かにそれは、怖い。
「うみ」という考えがでます。
「そうだね」「うみに 落ちたら たんぽぽは花が咲かないよね。」「いけ もだ」「水におちたら、水に流されてしまうから」とも。
みんなで考えてみました。
いのちのある綿毛たち
一つ一つ名前のある綿毛たち、いのちがあります。そこに落ちたら、いのちが途絶えてしまう、そんな場所はどこだろうと考えました。「いけ」「うみ」「かわ」だなあ。
川崎さんはいのちを愛おしむように「かわに おちるな」と書いています。
たんぽぽは誰が植えたわけでもないのに、コンクリートの割れ目にだって咲いています。
(『らぶれたあ』4号で紹介した写真がそうでしたね。)すこしの土さえあれば生きていく花です。いのちの素晴らしさに目が向いた「たんぽぽ」の短い時間の授業です。
ことばあそび、子どもたちは大すきです。ことばへのやわらかなセンスをはぐくむ学びとして、こうした詩・ことばあそびを様々な形で紹介していきます。
*授業案より、こうした授業記録を書くことがどんなにか大事か。オリジナルな授業は、授業記録を大事にすることの積み重ねから実体化します。
**「たんぽぽのちえ」に関わる学びあいの記録は、まとめてデータにしています。希望の方は連絡ください。