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サクラバレエでは、折に触れて私がよく口にする言葉があります。
それが『ベストをつくせ』です。
この言葉はサクラバレエにおいて、学校でいうところの“校訓”、会社でいうところの“社訓”のようなもの。
サクラバレエにもし生徒手帳が出来たら、1ページ目に書いておきたい、
もしここが会社なら、額に書いて飾っておいて、毎朝朝礼で読みたい、
それくらい大切な言葉です。
大人に限らず、バレエを本気で上手になりたい人にとっては、この『ベストをつくす』ということがとても重要になってきますので、今回はそのお話をしていきたいと思います。
余談ですが、この話は、スタジオ生へは今年4月最初のレッスンで“新学期のお話”として直接させてもらいました。自分の生徒達には、大切なことはやはり、自分の口で直接話してあげたいので。
それくらい、大切なお話です。
◇
私は折に触れて、生徒に「ベストをつくして下さいね。」と伝えます。
特に新学期やクリスマス会の練習がはじまるなどの節目には、必ず言います。
それはなぜか。
次の絵をご覧下さい。
これは、絵が上手なうちのスタジオ生に作ってもらったものですが、(いつもありがとう!)
バレエが上手になる道を、山登りに例えて描いてもらっています。
プロのバレリーナも小さい子供も、大人からバレエをはじめた人も、世界中のバレエを習っている人は、みんなこの山を頂上目指して登っていると想像して下さい。
うちのスタジオで言うと、初心者クラスからはじまり、最後は上級クラスの頂点を目指していくわけです。
バレエというのは、頂上につながる道はひとつしかありません。
そして、バレエの先生というのは、そのガイドさんです。
「そっちの道は行き止まりですよ。」
「こっちの道のほうが近道です。」などと、山を登る人達を道案内して行きます。
生徒はガイドさんを頼りに、頂上を目指して歩いていきます。
大人からバレエをはじめた人に多いのが、上手になりたいあまり、この山を一気に駆け上ろうとしてしまうことです。
また、サクラバレエでも私の『ベストをつくして』という言葉を聞くと、この山を一気に駆け上ろうとしてくれる人が多いのですが、前へ前へ、上へ上へと全速力で急ぐことは、実は『ベストをつくす』ということにはならないのです。
バレエというのは、山に例えると、例えば4合目から5合目へ登るように、1つ上のレベルに行くためには、扉を開かなくてはいけません。
ところが、上に行けば行くほど(特にポワント(トゥシューズ)を履く、サクラバレエでは初級クラス・中級クラスあたりから)この扉を開くことがむずかしくなります。
というのが、この扉を開くためには、それまでの道のあちらこちらに置いてある宝箱の中から鍵となる宝物をすべて手に入れることが出来ていないと、その扉は開かないようになっているのです。
その鍵とは、テクニック、経験、年数、身体的なもの、精神的なものと実に様々ですが、とにかく、すべての鍵を集めないと上には上がっていけない、ひとつひとつのことを基礎から積み上げていくようになっているシステムにクラシックバレエはなっているのです。
先生が許可しないから上のクラスに上がれない、などという物理的な話ではなく、上に上がれないというのは、そのものズバリ“きちんと上手に美しく踊れているかどうか”として、はっきりと表れてきます。
一番わかりやすいのが、トゥシューズを履いて踊ることです。
トゥシューズは、それまでのことがきちんと身に付けられているのかどうかが、はっきりとわかる、“答えあわせ”のようなもの。
きちんとした道を通って、すべての宝物を集なければ、トゥシューズで立ってきちんと踊ることは出来ません。
(バレエシューズでも、ある程度以上から、綺麗に踊る、美しく踊るということはむずかしくなってきます。)
そうなると、鍵のかかった扉の前で、扉が開くのを永遠に待ち続けるか、あきらめるか、もう一度、山のふもとから一から出直して宝箱を探して歩くか、なのです。
けれども、ほとんどの人がこの「鍵となる宝物を全て集めなければ先に進めない」ことを、知らないのです。ですから、開かない扉の前で途方に暮れても、
「最近、ちっとも上手にならない気がする・・・」
「どうすれば、トゥシューズで綺麗に踊れるようになるのかわからない・・・」
「やっぱりバレエってむずかしい・・・」
「大人からバレエをはじめると、やっぱり上手にならいね・・・」と言って、やがて踊ることをあきらめて、バレエをやめてしまうのです。
最初からガイドさんをつけずに山を登ってしまう人もいれば(遭難してしまう確立が高いです)
先を急ぐあまり、山に詳しそうなガイドさんを掛け持ちで何人もお願いする人もいます(2人のガイドさんが案内する、どちらの言うことを聞けばわからなくなり、これも途中で遭難するか、ガイドさんが案内することをやめてしまいます)
きちんとしたガイドさんがいて、「あなたは、あと5個宝箱みつけないと、先に進めませんよ」と教えてもらったとしても、急ぐからと、ガイドさんの言うことに耳をかさずに、先を急ぎすぎて遭難する人もいます。大人からバレエをはじめた場合は、“子供の頃にはじめた人よりも出遅れている”という意識や、年齢的なあせりから、このパターンにはまる人が多いのですが、きちんと時間をかけたり、とるべき手順を踏まなければ、バレエは先に進めないようになっているのです。
また、そのガイドさんのツアーは最初から、山頂に連れて行くことを目的としておらず、途中までの景色を楽しむことが目的のツアーであったり、途中の広場まで連れて行ったら、そこで解散になる場合もあります。
山を登る前に、自分が選んだガイドさんが、どこまでを案内してくれようとしているのかは、きちんと知っておいた方が良いと思います。
◇
『ベストをつくせ』ということは、『最善をつくせ』ということです。
『ベストをつくせ』ということは、『最短距離を行け』ということではありません。
『力尽きるまで走れ』ということでもありません。
今のあなたに出来る、目の前のことを、ひとつひとつ確実にやっていって下さいね、ということです。
一回のレッスンを大切にすること。
先生の言葉に集中すること。
レッスン中は一分一秒を大切にすること。
今の自分に出来ることをきちんとやっておくこと。
「私、よくがんばった。」と胸をはって言えるような日々を過ごすこと。
楽しみながら取り組めるようなコンディションを保つための余裕をボディにもメンタルにも常に持っておくこと。
自分の心や体をきちんとケアしてあげること。
仕事や家庭に影響が出るほどバレエに打ち込み、ボロボロになるのを“ベストな状態”だとは、言えませんから。
また、今受けているクラスの目標や、自分でたてた目の前の目標をクリアするべく、意識しながらレッスンをうけること。
発表会やクリスマス会で頂いた役は、どんな役でも今の自分に出来る最善をつくして練習すること。
気が向かない役でも、どんな役でも、その人に渡された役は、今のその人にとって、意味がある役、必要な役なのです。
本気できちんとその役に取り組めば、必ず成長があり、上達につながっていきます。
(こんな役、たいしたことない)と思って、それなりに踊る人は、
どんな役をもらっても、それなりにしか踊れません。
いつも自分なりのベストをつくすこと。
バレエをとおして学べる、大切なことのうちの一つです。
もちろん、大きな夢や目標を持って、向上心豊かにバレエに取り組むことも大切なことですし、必要です。
けれども、今の自分の実力以上のものが欲しいと上ばかりを見て、足元をかためられないようでは、いずれ転んで大ケガをしてしまいます。
また、「こんな下の方にいる自分」を受け入れることが出来ず、自分を否定しながら、先へ進もうとしてしまうので、成功しにくくなってしまいます。
どんなに急いだとしても、10年はかかるのが、バレエの道です。
一歩一歩、確実に、自分の成長を感じながら、周囲の人達と励ましあいながら、前へ進んでいくことが大切です。
よく、バレエ雑誌などでプロのバレエダンサーのインタビュー記事などを読んでいると、
「次の目標はありますか?」「次に踊りたい役は?」などと聞かれて、
「次は○○をしたいです。」「○○という役が踊りたいです。」と答えている人もいますが、
「今の自分の課題は○○なので、まずはこれをクリアしたいです。」
「目標はないです。今の自分に出来ることを一つずつ、丁寧にやっていきたいです。」
とベストを尽くす、最善を尽くすだけです、答えている人が多いように思います。
厳しいバレエの世界で10年20年と、常に『ベストをつくす』ことが出来た人だけが一流になれることを、彼らは身を持って知っているのです。
大人からバレエをはじめる人は、夢を持つこと、大きな目標を持つこと、上を目指す向上心を持ち続けることと共に、宝探しを楽しみながら、周囲の人達と協力して楽しみながら、一歩一歩、山を登っていくことにも、ぜひチャレンジしてみて下さい。
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