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毎週火曜日連載中の『大人がバレエを習うこと』シリーズ
5回目となる今回のテーマは、先週に続いて、
『10年続ける覚悟はありますか? 後編
~どんな芸術も一人前になるには10年かかる~』 です。
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前回、バレエを習うのに10年続ける覚悟がいる理由3つのうちの2つまでを上げました。今回はその続きです。
バレエを習うのに、10年続ける覚悟がいる理由。
三つ目は、クラシックバレエには『型』があるからです。
『クラシックバレエを踊る』ための、『クラシックバレエのレッスン』は、『型』を正しくおぼえる、正しい『型』を繰り返し何度もなぞって筋肉に教える、作業の連続です。
たとえば、バレエには『プリエ』という動きがあります。
バレエを習うと、一番最初にこの『プリエ』という動きを教わりますし、レッスンの一番最初に毎回するのが、この『プリエ」です。
バレエを習っていない人に説明するなら、『左右の膝を180度外に向けて膝を曲げる』、というただそれだけの動きなのですが、「バレエはプリエに始まりプリエに終わる」と言われるくらい、大切な動きのうちの一つです。(ちなみに、正しくは膝を曲げるわけではないのですが、今はわかりやすくそういうことにしておきますね)
1回のレッスンで、その『プリエ』という動きを一体何回するでしょうか。
膝を曲げないとジャンプもターンも出来ませんから、みんな無意識のうちにものすごい数のプリエを行います。
1時間で100回は超えていると思います。
では、たとえ週1回のレッスンだったとしても、バレエを10年習ったら、プリエをトータルで、一体何回することになるのでしょう
おそらく、何万回、何十万回だと思います。
週に2回、3回とレッスンしている人は、この2倍、3倍の数なわけです。
プロを目指している人は、もっともっと、すごい数になっているはずです。
これだけ沢山の回数行うものであり、すべてのバレエの動きと関係がありますから、この『プリエ』が正しく出来ているのか、出来ていないのかで、その人の踊りの質が変わります。
ですから、きちんと正しい『プリエの型』を教えてもらって、その動きを正しく行う、ということが大切なのですが、見た目がそれっぽい『なんちゃってプリエ』ではなく、きちんとした『正しいプリエ』が出来るようになるには、教師も1人ずつ、繰り返し繰り返し、丁寧に、相手がわかるまで何度でも教える必要がありますし、生徒も教えられたことをきちんと受け取って、自分のものにするために、何度もトライ&エラーを繰り返しながら、自分のプリエを掴んでいく必要があります。
その難しさは、時にプロのバレリーナでも出来ていないことがあるくらいです。
プリエひとつとっても、昨日のプリエと今日のプリエを同じようにしようと思っても出来ないし、ましてやそれが1年前、3年前、5年前となると、全く同じ動きをなぞっているのに、使っている筋肉、身体の感覚、柔軟性、筋力、感性、そのどれもが変わってくるのです。
その中で、「これ!」という自分のプリエを5年、10年かけて探りながら、つくり上げて行き、そうやって『型』を習得しながら、自分の個性を磨くのがクラシックバレエであり、芸術なのです。
そういう風に書くと、とても堅苦しく感じるかもしれませんが、こういった『型』があるものというのは、『型』をなぞることによって、自由になれるのです。
これは日本の文化である、書道や歌舞伎などでもそうですが、『お手本』、つまり『型』を何十回、何百回、何千回となぞります。
お手本とまったく同じになるように、何度も何度も、毎日毎日、型をなぞって、なぞりつづけるのです。
無心に『型』をなぞることによって、やがて自分の中に『型』が出来ます。(それらは時に、『基本』や『型』や『軸』と呼ばれます。)
そうなったら、あえて『型』を外すことで、自由に自分を表現出来るようになるのです。
また、『型』とまったく同じようにしようと思っても、どうしてもそこからはみ出してしまうもの、ほんの少しだけれど違ってきてしまうもの、それこそが、その人の『個性』であり『味』であり、『魅力』なのです。
最初から、『型』がなく、自由に表現すると、いわゆる『型なし』になります。
本当の自由とは、自分がやりたいようにやる、やりたいように踊る、自由に自分を表現する、ということではなく、
まず、自分の中に『型』を持つこと。その上で、そこからあえて型を破ったり、型を外したり、また戻ったりしてアレンジをすることで、自分を存分に表現すること。そして、自分の個性や魅力を充分に知っておくこと。それこそが『自由』だと考えるのが、クラシックバレエなのです。
社会においても、『法律』があるから、自由に行動出来るんですよね。
『無法地帯』では、かえって自由に動く事はむずかしい。
ですから、『型』を習得するには長い年月が必要であり、そして、『型』を教えてくれる『師匠』が必要であるのです。
10年かけて、『型』を身につけることが出来たのなら、そこからが、その人の踊りの始まりであり、そこが、やっとスタート地点なのです。
芸術というのは、10年近く本気で習い続けて、はじめてスタート地点に立てるものなののです。
そうなって、はじめて、お客様や人に観て頂いて、楽しんで頂けるようになるのです。
自分のために踊ったり、レッスンしているうちは、『バレエ』とは言えません。
10年からが、面白いのです。途中でやめちゃ、もったいない。
逆に、10年続けられそうにない人や、週1回しかレッスン出来ない人は、
はじめから芸術としてのバレエを踊るのは、あきらめて下さい。
そして、はじめから趣味としてバレエを楽しんで下さい。それでも、かなり楽しめると思いますよ。バレエは懐が深いですから。
その場合は、教室を選ぶ時に、大人には本気で教えない先生のレッスンを選んで下さい。
フィットネスクラブ、カルチャースクール、大人の趣味のバレエ、子供向けのバレエ教室の大人クラスだって、ほとんどが『本気風』ってだけで、大人には『本気』ではありませんから、大丈夫です。けれど、ゼロではありません。
本気でバレエを教えようとしている教師は、生徒の5年後、10年後をイメージしながら育てています。
軽い気持ちで通いはじめてしまうと、だんだん先生に申し訳なくなってきて、自分が苦しくなります。
だから、もしあなたがいつか舞台に立って、きちんとしたバレエを踊ってみたいと思っているのであれば、『バレエは10年経ってからがスタートだ』と覚悟を決めてから、習いはじめて下さい。
ちなみに、大人バレエの場合は「10年かかりますよ。」と言われても、素直に受け入れられないことがよくあります。
特に、年齢的にはじめるのが遅かった人の場合は、
「でも私には、時間がないのです。」と思うことが多いようです。
わかります。
かつての私もそうでしたから。
けれど、どんなに焦っても、がむしゃらにやっても、10年かかるものは、かかるのです。
時間は巻き戻せません。
それは、まぎれもない現実であり、ダメなものはダメなのです。
そこは、あきらめて下さい。
自分の年齢と、現実と向き合ってください。
そして、今の自分を受け入れてあげて下さい。
今の自分のありのままの年齢を受け入れて下さい。
歳をとることを、自分に許してあげて下さい。
もう充分に頑張ってきた、自分を褒めてあげて下さい。
そして、
(どうして、自分はこんなに焦っているんだろう?)
(そこまで無理をしてでも、バレエが上手にならなくちゃいけない、と思っているのはなぜなのかしら?)
(私が本当に手に入れたいのは何なのかな?)
と、いうことを考えてみて下さい。
人生は自分と向き合うことで、乗り越えられたり、道が開かれることが沢山あります。
あなたがバレエに出会ったのは大げさではなくて、運命です。
バレエと出会わなければ、そんなことを考える機会もなかったことでしょう。
バレエを通して、ぜひ、一つ前へ進んで下さい。
人は、いくつになっても成長出来ます。
自分のために、長く暖かい目で、自分ともバレエとも関わってあげて下さい。
◇
このように、バレエを習うには覚悟がいります。
『バレエを本気で習う覚悟』というのは、もしかしたら、『自分と向きあい、自分を成長させるという覚悟』なのかもしれません。
覚悟を持った人は強いです。少々のことでは、折れません。
バレリーナが美しいのは、バレエを習っているからではありません。体が柔らかいからでも、姿勢が良いからでもありません。
バレリーナが美しいのは、覚悟があるからです。
覚悟があって、凛とした強さがあるから、美しいのです。
みせかけではなく、本当の強さや美しさが欲しい人は、ぜひ本気のバレエを。
そして、それこそが、私が、大人のための本気のバレエ教室である『サクラバレエ』をはじめた理由の一つなのです。
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