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先週からはじまった、毎週火曜日連載の、『大人がバレエを習うということ』シリーズ。
これからバレエを習おうかしら・・・と思っている大人の方へ向けて書いて行きたいと思います。
2回目となる今回のテーマは、
『バレエを習う覚悟は出来ていますか? ~バレエは気軽に習うものではない~ 前編』
です。
少し長くなりそうですので、前編と後編の2回に分けて、お送りしたいと思います。
◇
ここで、私の体験談をひとつ。
今から15年以上前になりますが、まだバレエというものを知らなかった私が、はじめてバレエ教室というところに見学に行った時のお話です。
12月の寒い日でした。私は人生で初めて“バレエ教室”という場所に足を運び、その独特の雰囲気に戸惑い緊張しながら、椅子に座って大人しくレッスンを見学しました。
当時まだめずらしかった、出来たばかりの大人だけのクラスで、年齢が近い人もいたし、みんな優しそうな人達だったので、(これなら私にも出来るかも・・・)と思い、レッスン終了後に助教師の方から「どうでしたか?」と聞かれて、私はすぐに「入会します!」と答えました。
すると、その助教師の方は首を横に振って、
「いえ、今決めずに、一度家に帰ってよく考えてみて下さい。そして、それでもやっぱり習おう!と思ったら、入会して下さい。バレエは簡単なことではないですから。」と言われたので、その日は入会せずに帰りました。
その時は(ええ?どういうこと??)と思ったのですが、今考えてみると、あの一言があったからこそ、私は10年バレエを続けることが出来たのかなと、ありがたく思っています。
なぜなら、そう言ってもらうことで、入会する前に
(私は本当にバレエが習いたいのかしら?)と自問自答して、
(やっぱり習いたい!)と、ある程度、覚悟を決めることが出来たからです。
そう、今回のテーマにも取り上げているように、バレエを習うには、覚悟がいるのです。
さて、それがなぜかということになりますが、その理由として、
①バレエという文化・芸術は、日本で言うと“歌舞伎”と同じで習得することが簡単ではないから
②簡単ではないバレエは一度やめてしまうと、(よほどの覚悟がなければ)何度もやめてしまうから
今回はこの2つの観点から、お話させて頂こうと思います。
◇
まず①について。
これは、長年バレエを習っている人でも、海外で踊ったり、海外の講師に習ったりしていない人にはあまりピンとこないかもしれませんが、とても重要なポイントなのです。
たとえば、世界の中でも代表的なバレエ団がある国。
ロイヤル・バレエ(イギリス)
パリ国立オペラ(オベラ座)(フランス)
マリンスキー・バレエ(ロシア)
これらの国では、バレエ団やバレエ学校は基本的に王立、または国立・国営、つまり国が保護しているのです。
日本では歌舞伎という伝統ある舞台芸術が国に守られているように、
海外のこれらの国では、バレエという伝統ある舞台芸術も国に守られています。
今でこそ、平民がバレエを踊れる時代になりましたが、もともとバレエは貴族や王族など、限られた人達だけが踊る事が出来るものであり、国の豊かさや勢力を海外に示すために国が力を入れた国策だったのです。
武力以外にも、我々の国には、ここまで文化を育てる余裕があるんだよ、ということを広く国外に知らせるためのものだったのです。
ただ、日本には王侯制度はありませんし、一概には比べられませんが、クラシックバレエというものは、歌舞伎や日本舞踊と同じくらい歴史があり、文化があり、伝統があり、型があるものだ、ということなんですね。
さあ、では、ここでわかりやすくたとえ話を。
ここに、市川海老蔵さんに憧れている20代くらいにしましょうかね、男性がいたとしましょう。
海老蔵さん、格好良いなぁ、素敵だなぁ。凛としていて品があるなぁ。
言葉に重みがあるし、立ち居振る舞いが美しい。
ストイックで尊敬しちゃうなぁ
自分もあんな風になりたいなぁ、少しでも近づきたいなぁと憧れて。
その人は、市川海老蔵さんからは直接習えなかったとしても、海老蔵さんの先生の先生のそのまた先生に習った、お弟子さんのそのまたお弟子さんに歌舞伎を習うチャンスがあったとしましょう。
けれど、仕事もしているし、通えるのは週1回が精一杯。
休みがちになってしまったりもしますが、それでも3年、頑張ってお稽古に通いました。
(はぁ、なかなか、上手にならないなぁ・・・)と、もし、その人がつぶやいているのを聞いたとしたら、あなたはどう感じるでしょうか。
「大丈夫!きっとそのうち、海老蔵さんみたいになれるよ!」と思う人も中にはいるかもしれません。
けれど、それを聞いたほとんどの人が「いや、まぁ、そりゃぁ、そうでしょう。」と思うのではないでしょうか。
歌舞伎の世界では、ほとんどの人が小さい頃から師匠について、毎日休みなくお稽古を積み重ねて来ているのです。
それでも、一人前の歌舞伎役者になれるかどうか、という世界です。
バレエも、それと同じようなことなのです。
バレエ教師がよく質問されることに、
「バレエは週に何回くらいレッスンすれば、上手になりますか?」というのがあるのですが、
この例から考えてもらうと、答えは自然に出てくると思います。
「そりゃぁ、毎日でしょう。」と。
これは、バレエを習っていない人でも、バレエというものをきちんと知っている人ならば、おそらくそう感じるのではないかな、と思います。
ただ、学生さんにしろ、仕事を持っている人にしろ、主婦の方にしろ、子育て中の方にしろ、皆さん毎日忙しいでしょうし、それがバレエに限らずどんなことであれ、それを職業としていない限り、限られた時間の中で毎日それをする、という事はとても難しいと思いますが、大切なことは、バレエというものが、本来は毎日何時間もお稽古を積んで、師匠に手取り足取り、目線から呼吸の仕方まで指導してもらって、10年かけて一人前になれるかどうか、というものである、ということを知っている、ということなのです。
このことを知らなければ、月1回のレッスンでもまぁいいか、となるでしょうし、
「バレエ、やってみたけど、むずかしくてやめちゃった~。あはは。」ということになり、手元に残ったのは、まだ新しいレオタードとタイツとバレエシューズと、途中で投げ出しちゃった後悔だけ、ということになってしまいます。
本来、毎日何時間もするはずのレッスンを、月1~2回受けて、レッスンについて行けたら、その人は天才です。間違いありません。
普通は、ついていけなくなって、やめてしまうのが当たり前なのではないでしょうか。
だけど、それでは、あまりにももったいない!
けれど、もしそのことを知っていれば、今、自分がやっていることがどういうことなのか、ちゃんと意味があることなのかどうかを考えることが出来る、と思うのです。
私達は歯磨きは毎日するもの、ということを知っています。
それがなぜかと言うと、歯磨きを毎日する目的や、歯磨きをする意味を知っているからですよね。それを知っている人からすると、月に1回歯を磨いても、全く意味がないとは言わないけれど、歯を磨くということの目的や本質から大きくずれていることには気がつけると思います。
また、ある程度覚悟を決めてバレエ教室に飛び込んではみたものの、自分が無理をせずに続けるためには、週1回が精一杯…という人でも、このことを知っておけば、週1回のレッスンでの集中の仕方や、レッスンに行けない日の過ごし方なども変わってくるのではないかと思います。
そして、いつか時間が出来て、週2回、週3回とレッスン出来る人を夢見て、憧れの海老蔵さんに少しでも近づける日を夢見て、毎日を活き活きと過ごせるのではないかと思うのです。
繰り返しになりますが、バレエを習う時に大切なことは、バレエというものに人生をささげるかどうか、ではなく、バレエというものの、本質を知っているかどうかだと思います。
そして、バレエを習ってみようかな?と、思っているけれど、この話を聞いて、
(う~ん、バレエは歌舞伎と一緒か…大変そうだな。10年とか出来るかどうかわからないし、ちょっといいな、と思っただけだし、やめておこうかな・・・)
と、もしそう思って、そしてやめられそうな人は、それほどバレエに熱量がないということになりますから、それなら、バレエの大変さや奥の深さを知っている私達としては、その人のために正直に言うとすると、もしかしたらその人は、バレエじゃなくても良いのかもしれません。
バレエだけが人生じゃないし、バレエだけがダンスじゃないし、バレエだけが習い事じゃない。
バレエを習わなければ出来ることは沢山あります。
踊って自己表現したいなら、沢山の種類のダンスが習えるし、
身体を柔らかくしたい、スタイルが良くなりたいなら、ヨガやピラティスがありますし、
音楽にあわせて気持ちよく踊りたいなら、フィットネスに行けば色々なクラスがありますから。
それでも。
なぜか。
なんだかバレエが気になる。
バレエを習ってみたい。
どこまで行けるかわからないけれど、バレエを習わなかったら後悔する気がする。
そんな風に思った人は、バレエ教室の見学または体験レッスンへGO!なのです。
習うと決めたのなら、一日でも早くはじめるに越したことはありません。
なぜなら、今日より若い日はないからです。
◇
バレエを習うのに覚悟がいる理由その②については、次回の後編へ続きます。
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