少年記/primary/杏太
1. 少年記
2. primary
主催イベント「杏祭り Vol.2 ~皐月の音~」に合わせて制作された杏太のシングル。
歌詞とインタビュー記事が収録されたA5版の冊子が付属するCDR。
2曲のみの収録ではありますが、「少年記」はおよそ6分、「primary」は8分と、ボリュームは十分です。
まず、自身の総括的なイベントで発表するだけあって、杏太さんらしい作品だな、と。
「少年記」は、ホタルで演奏することを想定して作曲したという背景もあって、バンドマンとしての杏太さんの持ち味を詰め込んだノスタルジックなアッパーチューン。
青春感を強めて疾走する王道感に、哀愁のあるギターが重なると、これだよな、となるのでは。
歌詞を変えたくないから、ホタルではなくソロに持って来たというのも、なんとなく納得。
半生を振り返りながら、生々しい部分を曝け出して今の立ち位置を確認する、近時の杏太さんの作風を強く反映していて、これは杏太さんが歌うべきだろ、と。
最後のフレーズは全員で歌うつもりだった、というインタビューを読んでしまうとホタルで聴きたかった気持ちも再燃してしまいますが、杏太さんの活動を追いかけていないリスナーが聴いたら、ホタルは解散するのか、と誤解してしまいそうですし、これが最善策だったと捉えることにしておきましょう。
そして「primary」は、ソロアーティストとしての杏太さんの集大成。
まさか、ギタリストのソロ活動がこういうアプローチに活路を見出すことになるとは、と改めて考えると意外に思えてくるのですが、前作「自戒」に続くポエトリーラップは、更に内面を深掘りして、メッセージの鋭さを増していました。
外に向かずに、ひたすら過去の自身に問いかける内省的な叫び。
しかしながら、その叫びに共感する一節を見つけてしまったら最後、心にぶっ刺さって抜けなくなるのですよ。
この熱量を、ライブでも再現できていたから圧巻。
とにかく好きなものをやってみるというスタンスが、ヴィジュアルシーンにおいて独自性の高い音楽性として昇華させることに結びついていて、ドキュメンタリー性の高さに撃ち抜かれます。
生々しさやリアリティに魅力を持つホタルと比較しても更に生々しく、ホタルにすらファンタジーを感じてしまうほどに解像度が高い現実性。
「少年記」についてはホタルについて、「primary」については音楽活動全般についてを振り返っており、"裏ホタル"的な内容とも言えそうです。
ホタルを好きな全員が聴くべき、とは言い切れない部分もあるのだけれど、杏太さんの音楽への向き合い方を知ることで他の楽曲の深みが増すという効果も間違いなくあるので、ひとりでも多くに刺されば良いな、と思わずにはいられない1枚。
<過去の杏太に関するレビュー>