自戒/問う今日/杏太
1. 自戒
2. 問う今日
3. 自戒(カラオケ)
4. 問う今日(カラオケ)
ソロ4周年を記念した単独公演に併せて制作された、杏太さんのソロシングル。
ジャケットを兼ねる単独公演のフライヤーと、収録された2曲それぞれの歌詞とアートワークが印刷された、合計3枚のポストカードがセットになったCDR。
CDR盤面も白地ではなく、手形と"杏"のスタンプが押してある仕様となっています。
「自戒」は、とにかく衝撃的でした。
私小説的というか、エッセイ的というか、杏太さんが音楽やソロ活動に対して抱いている感情を、そのまま吐き出したようなポエトリーラップ。
着飾るのではなく、すべてを曝け出すスタイルは、ヴィジュアル系バンドマンとしての彼を知っていれば知っているほど、そのインパクトが大きくなったのでは。
歌詞であるための比喩表現や綺麗なオブラートは一切排除して、書きすぎだよというほどに生々しく綴られた言葉たち。
杏太さんにしか当てはまらない主観的なメッセージであるにも関わらず、その行間に詰め込まれた背景から、大きな挫折こそしていなくても何者にもなれなかったな、という悔しさを炙り出し、同時に、今与えられている居場所への感謝の気持ちや、奮い立たせる何かを植え付ける、心に大きな爪痕を残す1曲になっているのですよ。
面白いのは、その過程で聴いてきた楽曲のフレーズを、そのまま朗読の中に織り込んでしまっていること。
ブルーハーツにX、Winkや尾崎豊などなど。
誰でも知っているようなヒット曲の代表的な歌詞を、真顔で淡々と節をつけずに語っていく釣り合わなさは、その歌詞に描かれた内容というよりも、その曲に心を打たれた時の自分の心境だったり、当時置かれていた環境だったりを回想する等、自分事に置き換える方向に脳を働かせるのです。
また、これは間接的にではありますが、ルーツから遡っていく楽曲でもあるので、歌謡曲やロックチューンでも良かったところ、バンドでのキャリアにおいては通っていないはずのポエトリーラップを選んだということに、直接的には語られてはいないものの、MOROHAの登場が杏太さんの音楽史においてどれだけ大きな影響を与えたか、がうかがえるのもファン目線ではポイントでしょう。
もちろん、その選択がズバっとハマっていました。
もう1曲の「問う今日」は、言わずもがなですが"東京"とのダブルミーニング。
こちらは、夢破れて東京から地元に戻ることになった主人公の心情を綴る、フォーク調のナンバーです。
忙しない東京という街と、おだやかに流れる時間とのコントラスト。
季節感や情景を浮かび上がらせる描写。
ここまでフォーキーに仕上げた楽曲となるとあまりなかったかな、という点で新鮮さはありますが、歌詞としては切なさをくすぐる杏太さんのど真ん中ですね。
じっくり聴くことで味わいが深まる1曲。
「自戒」の余韻が大きいとはいえ、さらっと流してしまうことなかれ。
4年間の集大成と呼ぶにはコンパクトすぎるのだけれど、杏太さんの本領が詰まっていると言える2曲。
継続が大きな力になっていることを示した作品です。
<過去の杏太に関するレビュー>