鹿鳴館伝説 DISC 4/V.A.
4日に渡った「鹿鳴館伝説」」のレビューも、本日で最後。
90年代当時のシーンを総括的に再現するには、この辺りの規模のバンドの存在も重要だった、というラインナップが揃えられたのがDISC 4。
この4枚目があるとないとでは、印象もだいぶ違ったのではないでしょうか。
1. SO BLUE / 7 seven
WHITEBLACKのVo.TATSUYAさんが在籍していた7 seven。
シングルとしてリリースされた「SO BLUE」が、4枚目のスタートを飾ります。
1曲目に持ってくるのも納得な、ビートロックをベースとした正統派の疾走メロディアスチューン。
シンプルな演奏の中に、派手さを求めるダイナミックなギミックを挿入するセンスが良いですね。
ツインヴォーカル風のコーラスワークも気持ち良く、テンションが高められました。
2. GIZEN / ANTIQUE DOLL
メンバー全員が髪の毛を赤く染めたド派手なヴィジュアルと、ジャパメタを踏襲したサウンドが特徴だった彼ら。
1996年にリリースされたミニアルバム「PLEASURE LAND」からの収録となります。
ギターがひたすらメロディアスなフレーズを奏でる一方で、ヴォーカルラインを含めて、他のパートが勢い重視でザクザク、荒々しく刻んでいくギャップが面白い。
スピードメタルから、こういったフレーズがV系サウンドとして整理されていったのだな、という過程が見える楽曲だと思うので、この選曲は絶妙だったと言えるのかもしれません。
3. 死期の影 / CANARY
ex-DeshabillzのBa.時雨さん、Dr.JUNが在籍していたCANARY。
時雨さんと、Gt.美希さんは、後にCRADLEを経由して、Gill'e cadithを結成します。
収録された「死期の影」は、インディーズ感満載のMVでも知られることになった楽曲ですが、そもそもMVが制作されている時点で代表曲であったと捉えて良いのでしょう。
三拍子のリズムと、ドロドロしたメロディ。
決してキャッチー性はないのですが、バンドの立ち位置としては、この退廃的な世界観を求められていましたし、本作としても良いアクセントになったのでは。
4. Eternal Flame / SMOKY FLAVOR
MERRYのDr.ネロさんが在籍歴があることでも知られるSMOKY FLAVOR。
方向性としては、スピーディーに展開されるスラッシュメタルですね。
ザクザクしたリフで押し切る潔さ。
広義の意味では同系統であるANTIQUE DOLLとの間にCANARYが入ったことで、改めて新鮮な耳で聴くことができました。
5. KISS / MARY RUE
ex-pleurのDr.KYONさんが在籍していたMARY RUE。
本作中、唯一のガールズバンドとなるのですが、V系的な歌謡メロディを、80年代~90年代のポップロックに仕立て上げていて、下手に寄せるよりも差異化に割り切っているところに好感が持てます。
心地良いテンポ感と、切ないメロディを力強く歌い上げるVo.AKOさんの歌声は、男らしく硬派に染まった序盤の流れを、良い意味でリフレッシュ。
偏見を持たなければ、素直に格好良い歌謡ロックではないかと。
6. 第三の扉 / ギルト
ツタツタ発狂系の期待枠として知名度を高めていたにも関わらず、デモテープ1本をリリースしたのみで無期限活動休止。
未発表曲が多いままだったことが惜しまれていたバンドの代表格でしたが、2009年に活動再開をせぬまま1stアルバムを完成させるという異例の経歴を持っており、この「第三の扉」も、その際にレコーディングされたものが使用されていると思われます。
その意味では選曲が難しかったと理解できるのだけれど、ライブ音源もアリなのであれば、「f」とか「毒十字」とか、Wikipediaに掲載されている未発表曲を現代に蘇らせてほしかった気持ちもありますね。
もちろん、「第三の扉」そのものは、ハードさを前面に押し出しつつ、メロディの良さも武器になる佳曲。
これでギルトを知ろうとするリスナーにとっては、ピンポイントで絶妙な路線を狙ってきたな、と。
7. Lucifer-天使の羽- / 賛美歌
賛美歌としての実質的な1stCDなのに、その後のどの作品よりもミックスが聴きやすいことでおなじみの「Lucifer-天使の羽-」。
ネタのあれこれを先に見ていて、よほどインパクトがあるのかと初めて聴いたリスナーには、違う意味で"普通"を感じさせてしまったのかもしれません。
実際、正統派寄りの楽曲構成でもあり、この選曲は妥当中の妥当。
とはいえ、賛美歌側と、KISAKIさん、セレクトしたのはどちら側なのだろう、というのは気になりますね。
最終的には収録曲の決定権はバンド側にあったのか、KISAKIさんからのオファー時点である程度のリクエストはオーダーしているのか。
少なくても、Vo.Yabukiさんから、他のメンバーへの連携は図られていなそうですが。
8. Re-birth(Integral Version) / Cynthia
ダークでハードなサウンドと、耽美な世界観を武器としていたCynthia。
彼らの特徴は、その繊細なメロディ。
マイナーコードで疾走していく王道的な展開で、ひとつ抜き出ようと思うのであれば、やはり重要になるのはメロディのセンス。
それを十分に理解しており、V系リスナーにはたまらないフレーズを連発していました。
Vo.KAZUNAさんの歌声はやや細さが目立つものの、そんな音楽性にはハマっているのですよね。
9. 死セル種 / DEFLOWER
Noir Fleurirの前身バンドという位置づけで良いのかな。
ヴォーカルにTHOGOさん、ギターにTOMOさんがクレジットされた布陣での収録となります。
西洋ヨーロッパ風の世界観のバンドが流行した中にあっても、彼らの目指したスパニッシュサウンドとの融合は唯一無二の試み。
闘牛ロックとも言える作風を確立し、間違いなく個性的なバンドでした。
Noir Fleurirとして再構築される楽曲よりも荒々しく、試行錯誤の過程がうかがえるのがポイントでしょう。
10. 静寂の夜~Last Night Memories~ / LA VALLIÉRE
ex-Raputureのメンバーが在籍していたLA VALLIÉREは、配布デモテープからの音源を収録。
タイトルからはバラードを想像しがちですが、メロディアスに展開される疾走チューン。
ヴォーカルのか細さも含めて、時代感やシーンを反映しているようですね。
王道的な構成の楽曲は、代表曲として君臨することが多いので、どうしてもこの手のオムニバスでは飽和してしまうかな。
その意味では、4枚目の終盤に収録されたのは不利な側面もあったのだけれど、きちんと味わいを感じられるから面白いです。
11. 第2模倣者 / DAS:VASSER
権利的に、Gt.一狼さんの楽曲が使用できなかったのでしょうか。
Ba.秀暁さんの楽曲からセレクトしたと考えないと、この選曲の意図が理解できないのですよね。
ギターには、ex-Eze:quLの玖蘭さんがクレジットされており、実質的には再結成時の布陣となっています。
黒夢からの影響が色濃く出ており、パンキッシュに仕立てたアッパーチューン。
良くも悪くも、DAS:VASSERのイメージど真ん中ではないのですが、新たな一面を発見する機会にはなるのかも。
12. (BREAK DOWN)IMITATION / ROSE SMELL MODE
九州を拠点にしていたROSE SMELL MODE。
地方バンドがトリを飾るのは意外でしたが、目黒鹿鳴館を中心に据えるのであれば、大阪や名古屋のバンドも地方バンドなのですよね。
これは、むしろ鹿鳴館の受け皿としての懐の広さとして捉えておきたいところでしょう。
ストレートなビートロックに、キャッチーなメロディ。
そこに重なるVo.狂慈さんの硬派で男らしい歌声が個性となっていました。
ベタな大団円ではないけれど、"誰が聴いても格好良い"で締めくくれたのは大きいのでは。
本作は、ソールドアウトとなっており、再販の見込みはないとのこと。
生産枚数等は公表されていませんが、どのぐらいプレスされていたのでしょうかね。
目的が鹿鳴館の経済的救済ということであれば、下手にプレミア化させるよりも、ニーズがある限り売ればいいのに、と素人考えでは思ってしまいますが、色々と事情があったりするのかな。
まぁ、即日完売というステータスも、ある種の伝説の1ページ。
流通に乗っていないので、非公式なデータにはなってしまうのでしょうが、2020年のV系シーンでもっとも売れたオムニバスアルバムになったりするのではなかろうか。
ニーゼロ年代の最初の年に、まさか、90年代への懐古が話題の中心になるとは、誰が想像したのかって話ですよね。
V系ロックシーンも、まだまだムーブメントは起こり得るということを証明した作品。
願わくば、この勢いを、次は現役世代で巻き起こしてほしいものです。
<過去の鹿鳴館伝説のレビュー>