鹿鳴館伝説 DISC 1 / V.A. | 安眠妨害水族館

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鹿鳴館伝説 DISC 1/V.A.

 

40周年を迎える老舗のライブハウス、目黒鹿鳴館。

コロナ禍による経営難を救済しようと、KISAKIさんが中心となって制作された名実ともに伝説級のオムニバスアルバムが発表されました。

 

90年代にインディーズシーンを沸かせたバンドたちが再集結、その数、実に50バンド。

税抜き価格6,500円という価格設定も、むしろコストパフォーマンスは良すぎるぐらいでしょう。

 

4枚組の作品となりますので、お盆の期間、1日に1枚ずつ紹介していこうと思います。
 

 

1. 百花繚乱~BURIAL Remix Version~ / MIRAGE

 

まずは、発起人であるKISAKIさんが在籍したMIRAGE。

2018年の復活時にレコーディングされた作品、「BURIAL」からの収録となります。

もともと、第一期のVo.TOMOさんの時代に発表されていた楽曲で、第二期のVo.AKIRAさんの歌声での再録は、実はこの2018年が初。

その意味で、レア感を高める収録、かつ現在の彼らの実力を示すには、ベストな選曲だったと言えるでしょう。

スタートにもぴったりな勢いの良さもありますね。

スピーディーに展開され、メロディの良さも堪能できるザ・ヴィジュアル系の王道的構成は、KISAKIさんが徹底して守り続けたスタイルであり、90年代を20年代に繋ぐ先導者として、何だかんだ、彼の功績は大きのだよな、と。

ドラムに、AYAMEさんがクレジットされているのも、当時のファンには嬉しいのでは。

 

 

2. 同化 / Merry Go Round

 

2番手は、名古屋系を音楽ジャンルに押し上げた立役者であるMerry Go Round。

2003年のシングル「.[ dot]」に収録されていた「同化」を収録しています。

後期は、よりゴス色の強いドロドロしたサウンドに傾倒していた彼ら。

バンド編成の頃にあったV系としての聴きやすさは薄れ、エグ味を増していたというのがよく分かるセレクトでした。

王道だったMIRAGEから一転して、地獄に落とされるような救いのなさ。

このギャップこそ、極端な楽曲を入れていかに目立つか、というせめぎ合いであり、オムニバスの醍醐味でもある。

この時期の作品は流通量が少なかったこともあり、CDで聴けるのは貴重なのかもしれません。

 

 

3. Incubus / DIE-QUAR

 

ダークでドロドロ、退廃的な美学を持つDIE-QUARは、残した作品の数に対して、根強いファンが多い印象。

インダストリアルやらゴシックやらを、おどろおどろしい陰鬱な和製ホラーに昇華するアプローチは、当時としてはかなり最先端だったのではないでしょうか。

その「Incubus」は、ボイスエフェクトにより機械的な歌声にする等、猟奇性を増す演出をあちこちに詰め込んで。

インパクトのある前2曲に、このマニアックな音楽をぶち込もうとする勇気が物凄いのだけれど、案外、Merry Go Roundが間に入ったことが奏功たのか、流れは悪くない。

彼らの音楽を受け入れてもらうには、むしろここしかないと思えるほどで、この采配には感服するしかありません。

聴くことを半ば諦めていた、デモテープ「白夜の幻想」からの楽曲というのも、本作の価値を高めた要因ですよね。

 

 

4. 震える拳を突き上げろ / 黒蝪蝶

 

ジャパメタからの流れを踏襲する、黒蝪蝶。

ある種、他のバンドとの差異を明確にする意図もあったのか、特にスピードメタルに振り切った楽曲を持ってきました。

Vo.躯さんの男らしいハスキーな歌声に、咽び泣くギターのフレーズ。

タイトルこそ、ダークで耽美な要素も持つ彼らの音楽性を誤解させる可能性はあるのですが、これはこれでV系のルーツのひとつですよね。

オールドスクールのバンドたちの楽曲を改めて聴くにつれ、王道的なサウンドという概念はありつつも、色々な小さな流れが集まって、大きな川となって合流しているのがV系というシーンなのだな、と思い知らされます。

 

 

5. Moon Kiss / Little Vampire

 

マニアックなインダストリアル、硬派なジャパメタと続いて、この極端なポップさ。

キュートとも言い換えられそうな甘い歌声と、キャッチーなメロディは、これまたヴィジュアル系のひとつの側面なのです。

その時代に受け入れやすくしていることもあって、結果的に、時代を感じやすい音楽性となってしまうのだけれど、こういうバンドが入り口になることで、新規ファンがシーンに流入しやすくなっていたのは事実。

ロック調に寄せた楽曲ではなく、あえてポップネスど真ん中の選曲にしたのも、ある種のロック魂と言えるのかも。

 

 

6. モノクローム / Ange∞graie

 

ex-L'Arc~en~CielのGt.HIROさんと、Dr.PEROさんが在籍。

音楽性としては、歌謡曲調のメロディと、ビートロックを掛け合わせた、当時のV系シーンにおけるスタンダードだったと言えるのだが、どうしても、その中にラルクの面影を探してしまう。

そして、この「モノクローム」に関しては、ほんのり初期ラルクの香りが漂っているのですよ。

ベースのフレーズを、ストレートなビートではなく、動きのあるメロディアスなものに差し替えるだけで、見違えそうなポテンシャル。

オールドスクール~コテコテ系の系譜のバンドが多いだけに、白系にルーツがあるこの楽曲は、アクセントとしても効いています。

 

 

7. 椿色の微笑み / Deshabillz

 

Deshabillz唯一とも言える、サビでのメロディが立っているナンバー。

Vo.SHUNさんが得意とする、コードラインにメロディを乗せる手法の範囲内ではあろうかと思うのだけれど、この「椿色の微笑み」だけは、キャッチーと捉えても問題ない力作なのです。

流れをブチっと止めてしまいかねない台詞からのスタートは、もはやお約束どおり。

オムニバスだからといって空気を読まないのが、まさにDeshabillzっぽくてニヤリとしてしまいますよ。

もっとレアな楽曲を、という気持ちもないわけではないのですが、正面から人気曲を入れてきたといったところ。

納得感はあるでしょう。

 

 

8. Sex Maniac / 堕天使

 

ミクスチャー色が強く、現代のセンスで再構築したら化けそうな楽曲。

こういう音楽が、90年代中盤には既に発表されていたのだよな。

フレーズのセンスや、歌い癖などは、hideさんを意識している部分もあるのでしょうか。

少しエフェクトをかけて声を潰しつつ、とにかくワンフレーズを連呼するというインパクトは相応にあり、何回も繰り返されることで中毒性が高まってしまいます。

ヴォーカルラインが単調な一方で、演奏が徐々に盛り上がっていくドラマ性も良し。

 

 

9. Cry in past / La'Mule

 

代表曲は数多くあれ、メロディアス性に特化した「Cry in past」をセレクトしてきましたね。

ファン投票で第一位になるような人気曲だから妥当と言えば妥当なのですが、必ずしも彼らのど真ん中というわけではないだけに、相応にサプライズ感が出てしまうというのがズルいところ。

オリジナルヴァージョンはメンバーチェンジの過渡期の中でのリリースだったため、フルメンバーでのレコーディングではなかったのですが、ここに収録されているのは2012年の再録ヴァージョンということで、改めての聴き比べも楽しめそうです。

当初、サビにおけるVo.紺さんのブレスのタイミングが気になってしまい、オリジナル派だと認識していたのですが、本作にて聴いてみたら、記憶の中よりも違和感がなく感じたという。

晴れて、再録によるレベルアップヴァージョンを素直に受け入れることができるようになりました。

 

 

10. 麻酔 / D'elsquel

 

出自は配布デモテープという、レア度の高さは随一のD'elsquelのミドルチューン。

新潟を拠点としながら、名古屋系の系譜を継いでいると言われていた彼らだけに、ドロドロとしたマニアック性と、ハードさ、メロディアスさが同居している佳曲であり、この楽曲がたくさんの光を浴びることなく、埋もれてしまっていたのかと思うと、収録されて嬉しかった層は少なくないでしょう。

この頃は、漾と表記していたryoさん。

名義は変われど、独特の味わいを持つ鋭い歌唱は変わることなく、エグみと深みを表現していました。

この楽曲がCDで聴けたという事実だけで、「鹿鳴館伝説」は更に伝説へとなったのですよ。

 

 

11. DA・DI・DA~魔法の扉開く三つの呪文~ / BILLY AND THE SLUTS

 

ビリスラからは、20周年のタイミングでリリースされたミニアルバム「20th ANNIVERSARY」から。

2009年にレコーディングされているため、音質的には本作中で上位にランクされるでしょう。

90年代当時のレア曲を持ってきて欲しかった気持ちはなくもないけれど、再結成している彼らにとっては、ある程度現在地に近いサウンドを聴いてほしいという意向も理解できます。

いずれにしても、彼らの魅力であるポップセンスは極めてダイレクトに伝わってくる楽曲。

年齢を重ねてもポップに立ち返ることができるバンドというのは、やはり強いな、と実感しますね。

 

 

12. Charms/Fantastic idea-demo ver. / Kneuklid Romance

 

発表済の楽曲を収録されているケースが大半を占める本作において、未発表のデモトラックを入れてくるとは。

「LINK」に入っている「Fantastic idea」の原曲の位置づけになるのかな。

第二期の彼ららしく、ストレートに疾走しつつ、ロック色がバシバシ出ている印象で、ある意味、メジャーの制約がない本来の形を聴くことができたと捉えてもいいのかもしれません。

出自が出自だけに、音質は期待できませんが、聴き比べができるコアなリスナーにとっては、これほど嬉しい選曲はない。

どうせ音質が悪いなら、という割り切りがあったのかはわかりませんが、これを世に出そうとした決断に拍手。

 

 

13. PASSAGE / 覇叉羅

 

DISC1のトリを務めるのは、覇叉羅。

Vasalla名義ではなく、漢字表記での参加なのですね。

オムニバスに収録されている別ヴァージョンの方のみ耳にしていたのですが、オリジナルでのソリッドさに驚かされた。

高まっていく鼓動のように性急なリズムに、すべてを切り刻むかのようにエモーショナルな歌唱。

シングルで聴いていなかったのを後悔するほどにキラーチューンでした。

ラストだけど、続きを暗示するという意味でも、トリにぴったり。

荒々しい勢いが、武器になっていた1曲です。

 

 

この1枚だけでも十分に伝説感はあるのですが、これがあと3枚あるのだから恐ろしい。

腹を括ってレビューを書き始めたはいいものの、ゴールが見えてきません。

もっとも、リスナーとしては、飽きずにずっと聴けるアルバムが4枚もあるのだから、こんなに嬉しいことはないのですけれど。