鹿鳴館伝説 DISC 2 / V.A. | 安眠妨害水族館

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鹿鳴館伝説 DISC 2/V.A.

 

総勢50バンドが鹿鳴館を救うために集結。

KISAKIさんのプロデュースにより実現した40周年記念&経営難救済のプロジェクト、「鹿鳴館伝説」のレビュー第二弾です。

本日は、DISC2。

DISC1同様に、90年代シーンを盛り上げたバンドたちが揃えられていますね。

 

 

1. SEPIA / WITH SEXY

 

SoleilレーベルのボスであったKAIKIさんがベーシストとして在籍していたWITH SEXY。

DISC1では、KISAKIさんのMIRAGEがトップバッターを務めていたので、KAIKIさんのバンドがここに来るのは妥当といったところでしょう。

ポップネスに振り切った楽曲なので、想像していた音楽性と違うと思ったリスナーもいるかもしれませんが、デモテープ、CD、オムニバスと、実はあらゆるタイミングで収録された代表曲とも言えるナンバー。

白系由来の幻想的なサウンドと、メロディのポップさを前面に出すスタイルですね。

さすがに音質面での古さ、技術的な稚拙さは感じられるのですが、本作においては彼らに限った話でもなく、気にしないで楽しむのがベターかと。

 

 

2. 流星 / Ravecraft

 

こちらも白系寄りのサウンドですが、ソフトヴィジュアル系の系譜になるのかな。

バンドのクオリティというよりも、レコーディング環境や時代の違いによるものと思われますが、直前のWITH SEXYと比較して、圧倒的に音質が良いのですよね。

メロディは当時のJ-POPシーンとの親和性も考慮されている印象。

その分、古めかしく聴こえてしまう部分はあるのだけれど、瑞々しいサウンドがカバーした形になり、オールタイムでの聴きやすさへと昇華されていました。

安定感がありすぎて、楽曲の持つ儚げで神秘的な雰囲気が薄れてしまったのは、少しもったいないな。

 

 

3. Silvy, silver fish / GRASS

 

他のバンドと違いを作って目立ってしまおう、というピリピリした空気感を思い出したDISC1とは反対に、DISC2は白系、あるいはメロディアスなバンドという基準値を持っているかのような序盤3曲。

そのピークに挿入されたのが、GRASSの「Silvy, Silver Fish」でした。

音質、技術、曲の良さに世界観への没入、諸々の側面でレベルが高く、白系を通り越して、透明になってしまったのではないかと。

メンバーは、ex-D≒SIREの楽器隊に、Ya-fooのVo.YA-SUさんが加わった形。

透き通った歌声に、神秘的なギターのフレーズと正統派のビートが重なるのだから、この仕上がりの良さは約束されたようなものですよ。

 

 

4. AFTER IMAGE / AFTER IMAGE

 

Vo.MAD JAIL SEIJIさんは、後にMoi dix Moisに加入するSethさん。

AMADEUSの前身バンドとなりますが、AFTER IMAGEにはギタリストが在籍しており、メタル要素が強められています。

肝となるKey.HIRONさんのクラシカルな鍵盤のフレーズが、イントロの段階から十分に堪能できる楽曲構成。

X JAPANからの影響を直接的に受けつつ、中世ヨーロッパ風の耽美的な世界観を強調していた彼らは、サブジャンルである"耽美メタル"の走り的な位置づけになるのかもしれません。

Sethさんの若々しい歌声もポイントで、現在ほどの深みは感じないものの、だからこその資料的価値もあり。

これまでの流れを、一度リセットする役割ということで、このぐらいのアクはやはり必要でしたね。

 

 

5. …at LIBERTY / NéiL

 

女形のほうが多いと言われるKEY PARTYレーベルにおいて、硬派な男らしさを武器に後進を引っ張っていたNéiL。

収録されたのは、配布シングルとなっていた「…at LIBERTY」でした。

マイナーコードで疾走する正統派のV系チューンで、ギミックが多いところもたまらない。

AFTER IMAGEにNéiLと、6分台の楽曲が2曲続くのですが、アプローチはまったく異なっているのに双方飽きないというのが、本作の濃厚さを物語っているかと。

Vo.DAISUKEさんの力強い歌声は、当時のシーンにおいて、大きな武器になっていましたね。

 

 

6. CROSS MY HEART / ZeeD

 

歌謡曲的なメロディに、耳馴染みの良いギターソロ。

ルーツは洋メタルにあるのだけれど、ジャパニーズ仕様にカスタマイズしたかのようなハードチューンです。

この日本人独自のポップネスへの落とし込みは、90年代のV系シーンの醍醐味。

狙っているのか、偶発的なのか、独特のリズム感が引っかかりを残すのも、結果論かもしれませんが効いていますね。

 

 

7. Frame of mind / L'yse:nore

 

LOOP ASHを主催する未散さんがベーシストとして在籍していたL'yse:nore。

「Four leaf clover...」に収録されていた白系ナンバーで、Vo.水恋さんの艶やかな歌声が、透明感のあるギターのリフとマッチしていました。

意外性のある選曲かな、と思ったのですが、彼らの強みを分かりやすく伝えるには、案外、最適解だったりするのかも。

他のバンドの楽曲と並ぶことで、改めてこの楽曲の良さに目覚めましたもの。

リリースから20年以上経っても、まだまだ味わいが増す余地があったのだな、と感慨深くなった1曲。

 

 

8. 遊雪 / S

 

誤解を恐れずに言えば、本作の中でもっとも収録曲にがっかりしたのがSでした。

確かに代表曲であるし、知名度の高い楽曲を持ってくることで、一気にリスナーの記憶の扉を開く可能性もある。

とはいっても、あまりにベタすぎて工夫がないな、と。

ところが、聴いてみると、なんだかんだで発見があるから驚かされるものです。

諳んじて歌えるほど歌詞は頭に入っているにも関わらず、こんなにスピード感があったっけか、爆発音でのキメって結構衝撃的だったよな、と忘れていてものが補完されていく感覚。

なんだかんだ、自分も記憶の扉を開かれてしまっていました。

 

 

9. Tight or Loose / Tinker Bell

 

Tinker Bellからは、デモテープやオムニバスアルバムに収録されていた楽曲から。

お洒落でテクニカル。

白系バンドによるアダルトテイストを強めたナンバーといったところで、彼らの技術力の高さが示されています。

曲調としては、そこまで珍しいものではないものの、この手の楽曲が代表曲になるケースは少ないのだよな。

オムニバスに入ってくると逆に目立ちますね。

 

 

10. 黄黒イ斑 / babysitter

 

変拍子が満載で、とらえどころがない。

とらえどころがないのだけれど、格好良いことは理解できる。

解釈が分かれそうな歌詞にしても、難解な楽曲構成にしても、ディープでアンダーグラウンドな世界を好むマニアックなリスナー層から支持を受けていた認識で、改めて聴いても、アクの強さをとても感じるのですよ。

一方で、これだけの面々が揃った中でも、ひときわ異彩を放っている強烈なインパクトは、babysitterの個性がどれだけ衝撃的だったか、という一部始終を分かりやすく伝えています。

 

 

11. MOTHER COMPLEX / Madeth gray'll

 

Madeth gray'llは、配布シングル「MOTHER COMPLEX」での参加。

ドロドロとしたサウンドに、猟奇的な歌詞、衝動性の高いシャウトと、彼らの良いところ取りをした楽曲ではあるのですが、流通作品に収録されなかったせいか、地味な位置づけで埋もれてしまっていた印象です。

その意味で、ここにきて日の目を見る結果になったのは、素直に嬉しいという感情もあるのですよね。

シンプルに、とにかく聴きたいというリスナーもいるでしょうし、Madeth gray'llのダークネスを堪能するにはちょうど良いのでは。

歌モノバンドが多い中で、どす黒い真っ黒を突っ込んでくるのも凄いのだが、babysitterと並ぶことによって、より邪悪なダークマターを形成しているのが面白いな。

 

 

12. In A Trap / NALSIST

 

カップリング曲を収録、というマニアック度合いを試すような楽曲がちらほら入っているのも本作の特徴。

この「In A Trap」も、レア曲、マニア向け曲の位置づけになるのだと思われますが、だからといって邪道ではないのが興味深い。

ダークなリフに、耽美なメロディが重なり、官能的な世界観を作り上げています。

艶っぽい歌謡メロディと、台詞やコーラスによって空間を埋める演出が絶妙に絡み合い、隠れた名曲であることを証明していましたね。

どこかインディーズ時代のLAREINEに近しいイメージも受けたので、その辺りの音楽性が好きな人であればハマったりするのでは。

 

 

13. Bark at the moon(for "ROCKMAYKAN"-special digital remastering-2020) / [zo:diaek]

 

何故かしっかりリマスタリングを施されていることが明言されている[zo:diaek] は、「Bark at the moon」を収録。

裏拍で刻むリズムがダンサブルな雰囲気を作り出す一方で、ドロドロと蠢くギターのフレーズが同時に奏でられていたり、丁寧に構築されたサウンドアレンジが緻密に張り巡らされています。

何より、リマスタリングによって、音がある程度現代的に生まれ変わったことも大きいのかも。

一部の音だけ大きい、小さい、聴こえないが要素として入ってきてしまうと、どうしてもストレスが溜まってしまう。

ストレスフリーで90年代V系のサウンドワークに向き合うことができるメリットは、何気に大きいと思うのだけれど。

 

 

全体的には、白系バンド、それに準じるメロディアスなバンドが多かったですかね。

AFTER IMAGE、NéiLの長尺曲コンボや、babysitter、Madeth gray'llのダークネスにどっぷり触れるパートを作って、一辺倒になりすぎないように工夫しているのも好印象。

これで気になったバンドがいて掘り下げようとしても、既に解散済み、音源もなかなか手に入らない、というケースが多いことだけがもったいないですが、歴史の教科書的にまとめておさらいができる教材としては、やはり非常に優秀な作品となるのでしょう。

 

さて、これにて折り返し。

明日は、DISC3を聴いていきます。

 

<過去の鹿鳴館伝説のレビュー>

DISC 1