鹿鳴館伝説 DISC 3/V.A.
総勢50バンドが参加し、ディスク4枚で構成された「鹿鳴館伝説」。
1. FLYING HIGH(1996.7.6目黒鹿鳴館) / GRIMM THE CAPSULE
Kneuklid RomanceのGt.TAKUYAさんや、東京YANKEESのVo.&Ba.YOSHINUMAさんが在籍していたGRIMM THE CAPSULE。
アメリカンロックの影響を受けつつ、ポップでキャッチーなメロディを落とし込む黎明期のV系シーンの醍醐味といったアプローチ。
四半世紀前のライブのノリも追体験することができ、時代故の古臭さだけでなく、同じぐらいに新鮮さも感じることができるのでは。
1996年のライブにおける記録用のライブ音源につき、音質面でのクオリティを求めてはいけないのだけれど、なんとか違和感なく聴けるようなところまで持ってきているエンジニアの努力も、しっかり評価したいところです。
2. ブレイン伯爵13世 / DEJAV
サイレンのSEに加え、主観的な台詞口調でブレイン伯爵13世の設定を行ってから演奏へ。
ある種、西洋ヨーロッパ風の世界観の先駆けということになるのかもしれません。
ただし、それをクラシカルな旋律に乗せるのではなく、コテコテの王道メロディアスナンバーと掛け合わせてしまうところが、この時代に聴くと斬新に思えますね。
現代ではあまり語られる機会が少ない彼らのようなバンドを引っ張り上げてくるのも、KISAKIさんの守備範囲の広さということなのでしょう。
3. miss【drain】 / emmurée
再結成枠を除けば、本作中、唯一当時から現役で活動を継続しているemmurée。
2ndアルバム「灯陰」からの収録ですが、あえてポジパン色の強いこの曲を選んだのが彼ららしい。
ワンフレーズを淡々と刻み続ける構成なのに、曲が進むにつれて狂気を増していくダークナンバー。
歌とも語りともつかない不気味な旋律は、ひたすら暗く、じわじわと地を這うように耳から全身を蝕んでいきます。
最近の彼らしか知らないリスナーは驚くのかもしれませんが、そうそう、この救いのなさがemmuréeだったな、と曲調とは似つかわしくないノスタルジックな感傷を抱いたのが私だけでしょうか。
4. Fall In To Die / Delasine
DeshabillzのBa.美歪さんが在籍していたDelasine。
選曲もマニアックで、よく、こんなものを引っ張ってこれたなと。
メタリックなフレーズにアングラな歌メロ、SEによる世界観の深掘りと、90年代コテコテ系のギミックが満載。
ルーツを洋楽に求めていた時代特有の、日本語の乗りにくいコード進行をサビに持ってくるハードチューンといったところかな。
どのパートもキャッチーさとは無縁のヴォーカルラインが、ある意味、この時代っぽさを物語っており、音質の悪さも相まって、おどろおどろしいアングラダークさを演出することにもなっています。
この化学反応こそ、インディーズのマイナーバンドを開拓する楽しみでしたよね。
5. Eye for you / Eye for you
ピアノのインストから、台詞調でのタイトルコールを経て、王道的なイントロへと突入するベタっぷりが気持ち良い。
マイナーコードで疾走リズム、ギターもクリーントーンで泣いていて、バンド名を冠したのも納得というド直球のヴィジュアルロック。
Bメロでのキメの連発も、掛け合いを前提としたサビも、終盤でのギターソロとサビが重なるような展開に至るまで、多くの部分で期待通りだったと言わざるを得ません。
現代であれば、ストレートすぎるという評価も出来るのでしょうが、90年代当時、こういう楽曲を持っていたのは武器だったはず。
今の解釈だと、どういうアプローチになるのだろう、というのも気になってきますよ。
6. 叙事詩 / RONDE
歌詞の中では"叙事詩"と"叙情詩"が同格で扱われているのに、タイトルでは「叙事詩」のみが括り出されていることに憤りを感じ続けて、早20年以上経ってしまいました。
La'cryma Christiを彷彿とさせるテクニカルな演奏と、緻密なアレンジ。
若干、ミックスバランスが気になるのだけれど、レベルの高さは理解できるでしょう。
ポップさのあるミディアムチューンなのだが、文学的な歌詞と異国的な世界観により、ポップなバンド=アイドル的なバンドという図式を壊していたのが彼ら。
ヴィジュアルとしてはソフヴィ系に近かったのですが、アート系の先駆けとして捉えたほうがしっくりくるのでは。
7. Period / PLÉ,SÚRE
硬派なサウンドと裏腹、派手なステージングが想像できるテンションの高さが痛快。
正統派のビートロックをベースにしつつも、メロディの良さと安定感のあるヴォーカリゼーションは、確実に個性になっていたことでしょう。
序盤は歌声が演奏に埋もれがちになっている印象だったのですが、クリーントーンでのパートになってからは迫力が出てきて、ネックどころか武器であったことが判明。
終盤ではツインヴォーカル的に、別々の歌メロを重ねるギミックもあったりして、アイディアも詰まっています。
総括としては、SIAM SHADEの直系と言ったらわかりやすいのかも。
本作のダークホース的な存在でした。
8. SABOTAGE / vellaDonna
Matinaにおける正統派メタルバンド、vellaDonna。
スピード感に振り切れたような勢いは、激しいバンドの多い本作中でも、トップクラスかもしれません。
飛び曲的なフレーズの応酬があったり、サビでメロディアスになるあたりは、レーベル内のコテコテバンドと接近したことで得たノウハウか。
いずれにしても、ヤンクロック感が前面に押し出されて、特攻隊長という肩書が似合いそうな突っ込み具合。
この勢いで5分半の楽曲を走り抜けるのだから、そりゃ、ライブハウスもさぞかし盛り上がったことでしょう。
9. J・U・D・A・S / SUTH:VICIOUS
ex-Facizm、ex-PhiliaのVo.ToshiAさんが、かつて在籍していたSUTH:VICIOUS。
どちらかと言えば、ソフトな方向に音楽性を移していく彼ですが、この頃は、まだまだコテコテ系にどっぷりだった時期。
ツタツタと激しく疾走するドラムに、荒々しく吐き捨てるような歌声を重ね、実に王道的なダークチューンに仕上げています。
ただし、メロディのインパクトが強いあたりは、その後の音楽活動にも繋がっているのかな。
単体で聴いて個性的とは言いにくいでしょうが、ToshiAさんの歴史を知るうえで聴いてみると、面白いかもしれませんよ。
10. 仮面舞踏会 / Phobia
名古屋系バンド、Phobiaの代表曲といったら、この「仮面舞踏会」。
独特なBメロの刻みから、キーを落としてサビに移っていく構成が特徴的で、サビでキーを上げていくバンドが大半を占める中、中毒的に癖になる工夫となっていました。
語りが多かったり、大事なところでアルペジオのみになったり、ギミックについては過剰な部分も見られますが、その貪欲さこそが彼らの強み。
バンドとしては、フリをつけやすいポップなメロディやミクスチャー的な要素も早期から取り込んでいて、5人編成のまま継続できていれば、もう少しブレイクスルーが見込まれたのでは、と思ってしまうほどです。
11. 人霊 / ZEDEKIAH
1分ほどインダストリアルな導入が続いたところで、バンドのリズムが重なってくる安心感たるや。
メタリックなサウンドに、プログレッシブな構成。
褒め言葉として女声ヴォーカルであることを感じさせない力強い歌唱は、当時のシーンとしては、かなり重宝されたのでは。
キャッチー性を無視して、爆音を鳴らしまくる。
方向感は確実にアングラなのにも関わらず、コアなファンが多くいることにも納得の1枚です。
12. うすべにの唄 / 雀羅
DISC 2のトリは、雀羅。
明透遊さんがヴォーカルを担当していた時期の楽曲ですね。
淡々としたダークバラードで、ほんのりと和風の世界観を感じることができる。
細く鋭い歌声も、ヌラヌラと揺らめく蝋燭の炎を消してしまいそうな緊迫感を帯びていて、リアルタイムで聴いたときは、このバンドが化けると確信していたのですよね。
雀羅というバンドのネームバリューというよりは、バラードを最後に持ってきたくて彼らを配置したのかな。
推測でしかありませんけれど。
徐々にマニアックなバンド、マニアックな選曲が増えてきている印象。
デモテープか、CDか、という選択肢だけでなく、ライブ音源まで含まれてくるので、レア度はかなり高まっています。
一方で、音質レベルが一定になっていないのが、わずかに聴きにくさに繋がっている部分はあるのかも。
マスタリングはしているのだろうけど、オリジナルが劣化していれば、それ以上は致し方なしですものね。
もっとも、安定した聴きやすさが重要であるのは前提として、まだ聴いたことがない、あるいは聴きたいと思っていても入手困難で出来なかった楽曲を聴きたいという欲求のほうが上位に来てしまうのが我々だったりするわけで。
明日はDISC 4。
まだまだあると思われる90年代V系との出会いの扉。
まさか、このアルバムで知らなかったバンドの発掘が出来るとは思わなかったですよ。
<過去の鹿鳴館伝説のレビュー>