九相図/蘭図
1. 浄相
2. 喪の黒
3. 白痴
4. 視姦あるいは恋愛体質
5. 停止臍帯
6. 夕べは自殺を仄めかす
7. 36.5℃の綾取り
8. 鞦韆
9. Q
蘭図としては初となるフルアルバム。
SE2曲を含む全9曲、収録時間は約25分と、フルレンスとしてはかなりコンパクトな構成となっています。
お経のようなSE「浄相」から、リードトラックの「喪の黒」へ繋がる流れや、喪服を下地としたアートワーク。
90年代の名古屋系バンドを再興させるようなスタンスでスタートした彼らですが、1stフルアルバムを完成させるにあたり、和の要素を個性として取り込むことで現代シーンとの融合を図ろうという狙いが見えてきたでしょうか。
サウンドアプローチについては90年代風を貫いている一方で、世界観への没入という意味では、ここ数年の流れで普遍化した和風コテ系に寄せることで、とっつきやすくなったと言えるのでは。
基本的には、バンドサウンドを前提とした音作り。
その中でメリハリをつけて、ギミックも入れて、となってくれば、90年代シーンでの試行錯誤に立ち返るというのもひとつの手段。
本作では、当時のコテコテ系バンドの良いところを、かなり網羅的に取り込んでいます。
部分的にオマージュ的なフレーズを組み込みつつも、しっかりと蘭図として昇華。
まるで、初期衝動的な勢いまで再現しているようですね。
ダークに疾走していくメロディアスナンバー「喪の黒」、ツタツタ発狂系の「白痴」という流れは、90年代コテコテ系のセオリーに則ったもの。
どちらも、楽曲そのものには和の要素を足しているので、オマージュがあったとしてもオリジナル性が薄まることがないのは強みとなるかな。
ぼそぼそと語るようなフレーズがディープな名古屋系を踏襲していると言える「視姦あるいは恋愛体質」、ひたすら煽るパートが挿入されている飛び曲「停止臍帯」、動と静が複雑に切り替わるカオティックな「夕べは自殺を仄めかす」も、こういうのってアルバムに1曲はあったよね、というベタなアクセントなのだが、ひとつひとつがバラバラではなく、流れとして成立。
当事者としての視点と、俯瞰したメタ的な視点の両方を持ち合わせているからこそ、洗練されたドラマ性を生み出し、新鮮さを連れてくることができるのだよな、と。
「36.5℃の綾取り」、「鞦韆」については少しセオリーからはみ出て、退廃的な歌モノを続けることで、蘭図としてやりたいことを印象づけているのもポイントでしょう。
ある程度、現代受けも考慮したバランス感覚を維持しつつ、暗くて、内面的で、ドロドロとした情念と淡々とした表現とのギャップが肝となるリスナーを突き放したアプローチを現代に。
彼らのV系ルネサンス的なチャレンジは、中長期的な目線で成果が上がってくると面白そうです。
後半にミディアムナンバーが固まることから、大人しい作品というイメージに収束しがちなところ、初期衝動性が最後まで維持されていたと感じるのは、コンパクトさが奏功しているのかも。
曲数を絞って、実質的にはミニアルバムサイズと言えるほどのボリューム感に抑えたことで、勢いのまま押し切ったという印象を与えることができているのですよ。
なんというか、どこまでが考え抜かれた戦略上のものかは未知数としか言いようがないのですが、結果的には黄金比。
今後の飛躍に期待できる1枚に仕上がっていました。
<過去の蘭図に関するレビュー>