チャイルド・フォレスト / amber gris | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

チャイルド・フォレスト/amber gris

¥2,365
Amazon.co.jp

1. 悲しみ暮れる黄金丘陵
2. over flow girl's sick
3. Amazing world
4. 海風と雨と最後の手紙
5. snoozy and roll
6. 深緑のローレライ
7.

惜しまれつつも解散してしまったamber grisの1stミニアルバム。
2010年にリリースされた作品です。

タイトルは"誰にも踏み入れることの出来ない聖域"をイメージして採用したとのこと。
事実、彼らの音楽には純粋無垢で牧歌的な世界観があり、それは大人が作り出すシステマティックな時間軸とは異なる"子供の世界"を感じられるのだよな。

本作は、シングル2枚を送り込んで、白系サウンドの継承者として口コミで名前が広まりつつあった時期に発表されたamber gris初のアルバム作品。
"どこまで濃厚な世界観を展開してくれるか"という部分に注目が集まっていたわけですが、"想像以上だった"というのが、リアルタイムで聴いていたファンの率直な感想でしょう。

バンドサウンドを活かした音楽性が特徴、と書いてしまうと、どうも誤解されてしまいそう。
ハードにヘヴィーに、という現代的なバンドサウンドという意味ではなく、同期を使わず、ツインギターの絡みという古典的な手法だけで、どこまで広がりや深みのある世界観を出せるかにこだわっているという意味において、彼らはバンドサウンドの限界に挑戦していたと思うのです。
その結果、弦楽器隊が奏でるアンサンブルは、異国情緒を表現しようとする音楽性も相まって、La'cryma Christiを彷彿とさせるものに。
この頃は特に、直系のフォロワーと言っても差し支えない類似性がありましたね。

もちろん、ただのラクリマフォロワーであれば、ここまで評価も高くなかったはず。
そこに個性を与えるのは、何と言ってもVo.手鞠さんが紡ぐおとぎ話のような歌詞と、表現力豊かな歌唱による世界観の可視化である。
タイトル通り、森の中にいるかのように、先が見えなかったり、薄暗かったり、一方で、差し込む光はあたたかく、落ち着きや癒しという面も共存。
演出過剰なサンプリング音を加えるのではなく、この景色を、シンプルなバンドサウンドだけで共有してしまったところに、本作の価値があるのかと。

また、もうひとつ本作が衝撃的だったのは、全曲がミディアム~スローテンポで構成されていること。
「Amazing world」や「snoozy and roll」が、ややアップテンポであるものの、V系シーンにおけるスピードチューンを聴き慣れているリスナーには、そう言い切ってしまっても問題ないだろう。
この界隈において、とっかかりとして有効な疾走系ナンバーを入れないことには、キャリアのあるメンバーたちだからこそ相当に勇気が必要だったはず。
まして、今後の試金石となる1stミニアルバムなのだから、なおさらですよ。

しかし、それを強行しようと決断できたのも、本作を聴いてみれば納得。
世界観は濃厚であるも、必ずしもマニアックすぎず、退屈になるということもなく、すっと聴きやすいロック作になっているのです。
とにかく、バランスが絶妙なのだよなぁ。
ミディアム曲が多いと一口に言っても、強弱というか、緩急というか、メリハリがあって、流れを感じることができる。
ストーリーを想像することができる。

そんな1曲たりとて無駄にしない緻密な計算のもとで設計されたアルバムが、この「チャイルド・フォレスト」である…というのはさすがに言い過ぎなのかしら。
個人的には、そのくらいのテンションでこの作品を聴いていたのだ、ということで何卒。

ちなみに、全曲終わったところで、40秒程度の無音トラックが収録されています。
この意味合いは、リスナーに委ねるとのこと。
データをPCやスマホに取り込んで聴く現代人は、何も考えずにカットしてしまっているのだろうな、と思うと少し寂しいギミックなのですが、アナログな音楽で頂上を目指した彼らだけに、その魅力を最大限に発揮するのは、CDをセットしてプレイボタンを押すアナログなコンポやラジカセだったりするのかもしれません。

<過去のamber grisに関するレビュー>
小さな銀貨を左手に
Across the blow
this cloudy
CHILDREN+
AROUND CHILDREN
bright or blind
The collapsing garden.-顛末には最上の花を-
フラニーはご機嫌斜め/an fade
pomander
少女のクオレ