The collapsing garden.-顛末には最上の花を- / amber gris | 安眠妨害水族館

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The collapsing garden.-顛末には最上の花を-/amber gris
¥2,000
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1. 不浄の樹の下で -Under an impure tree-  
2. A merchant and a red flower.

少し大きめのサイズのジャケットと、詩と写真が一体となったアートワークが特徴のart bookシリーズ。
本作は、その第三弾としてリリースされました。

第一弾、第二弾と、難解だったり、わかりやすかったり、少し実験的な要素を強めていた印象だったのですけれど、ここに来て、王道のamber gris節。
世界観たっぷりの深みのある歌詞、叙情的ながら、淡々とした語り部の顔も持つ歌唱による表現、素朴でシンプルな音使いながら、しっかりとドラマ性を持たせる曲構成・・・
玄人好みなバンドとなっていたこともあって、音の広げ方についてはハードルが高くなっていたところはあったのですが、王道に戻ってくるまでに回り道をしたためか、素直にすっと聴くことができました。
ここまでを狙いとしていたのであれば、とても策士。

「不浄の樹の下で -Under an impure tree-」は、ミディアムテンポで、展開が多め。
一見して、難解な雰囲気はあるのだけれど、キャッチーさがありますね。
キーとなる部分におけるコーラスとの掛け合いで、光が広がるイメージが、実に彼ららしい。
同じ演奏なのに、徐々に言葉を畳み込む量を増やすことで、感情が溢れていく様を表現しているよう。
歌唱力に頼るだけでなく、こうした構成における演出の緻密さも見られます。

「A merchant and a red flower. 」は、よりストレートな展開を見せるミドルナンバー。
じっくり、じわじわと盛り上げていき、キャッチーなサビでは、切なさが炸裂。
1曲目が、第一弾で挑戦した難解な構成を、自らの強みと融合させたものと例えるなら、こちらは、第二弾で試みたポップで素直な部分を、深みのある独自の世界観の中に持ち込んだといったところ。
穏やかで、優しくて、だけど、どこかもの悲しい。
シンプルなサウンドながら、絡まり方の妙で、無限のイマジネーションを生み出すことに成功しています。

さて、このart bookシリーズ、3部作ではありますが、それぞれにおけるストーリー上の繋がりはあまり見られません。
各々が独立した世界観だからこそ、1枚の作品にまとめるよりも、その物語の表現を徹底しようという発想の転換。
楽曲の世界観をヴィジュアル的にも表現しようとするヴィジュアル系の本来の理想を体現しており、面白い企画であったと評価したいですな。

一方で、3部作の合計6曲で、価格としては6,000円弱。
パッケージが豪華だとはいえ、DVDが付くわけでもない価格設定としては、新規ファンが手に取る際に、迷いを生んでしまうライン。
そういう意味では、フルアルバム以降、入門書的な作品が出てきていないので、裾野を広げるアプローチをとってみてもいいのでは。

<過去のamber grisに関するレビュー>
フラニーはご機嫌斜め/an fade
pomander