或いはアナーキー / BUCK-TICK | 安眠妨害水族館

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或いはアナーキー/BUCK-TICK

 

 

1.DADA DISCO -GJTHBKHTD–
2.宇宙サーカス
3.masQue
4.Devil'N Angel
5.ボードレールで眠れない
6.メランコリア
7.PHANTOM VOLTAIRE
8.SURVIVAL DANCE
9.サタン
10.NOT FOUND
11.世界は闇で満ちている
12.ONCE UPON A TIME
13.無題
14.形而上 流星-metaform-

BUCK-TICKにとって19枚目となるオリジナルアルバム。
25周年という区切りを終え、次のステージに繰り出すために、"これまでを壊す"という意図を持って制作されたという本作。
タイトル通りのアナーキーっぷりである。

テーマは、「シュルレアリスム」や「ダダイズム」とのこと。
必ずしも、本来の意味だけで使われているわけではなさそうであるが、常に最前線、常に前衛的な彼らの音楽を表現するには、もってこいと言えるでしょう。
"これまでを壊す"
その答えは、芸術の域にまで高めた"遊び心"でした。

1曲目の「DADA DISCO」から、あっと驚かされる。
今井さんがメインボーカルに近い形で、櫻井さんとツインボーカルを形成。
意味を成すのか、成さないのか。
難解な歌詞を、あっけらかんとポップでダンサブルなリズムに乗せて歌い上げてしまう。
確かに、これはこれで彼ららしくはあるのだけれど、仕切り直しの1発目にこれを持ってこれる捻くれっぷりは、さすがの一言です。

古き良きのロックンロールを残しつつ、電子音で近未来的な要素を注ぎ込んだ「宇宙サーカス」、Vo.櫻井敦司の色気あってこそ映える耽美で妖艶な「masQue」、懐かしいのか新しいのか、時代錯誤なサウンドメイクが癖になる「Devil'N Angel」、前作からの流れを継ぐ、ロマンティックで広がりのあるミディアムポップス「ボードレールで眠れない」と、それ以降も、一貫性がないようで、どれも単体で聴けば"B-Tらしいね!"としか言えない楽曲のオンパレード。
もちろん、今までどおりということではなく、現在の彼らとしての進化を重ねて、ですよ。
これだけ遊べば、まとまらず、ぐちゃぐちゃになりそうなものなのに、しっかりアルバムとしての輪郭を作り上げているのが凄いところ。

精神世界に潜り込むようなアレンジに進化した「メランコリア」、歌詞における洒落も効いた「PHANTOM VOLTAIRE」を経ると、次にやってくるインパクトチューンは、「SURVIVAL DANCE」。
B-T流のサンバですよ。
前半のスタートを「DADA DISCO」で切り、後半のスタートに、これを持ってくるセンスといったら。
ダークな楽曲が増える後半戦においては明らかにヘンテコな雰囲気なのだが、それでも馴染んでしまうから不思議です。

さて、ここからが真骨頂でしょうか。
艶やかな声にはエロティシズムすら感じる「サタン」、ダークでスリリングな雰囲気を纏い疾走する「NOT FOUND」と、世界観にどっぷり浸からすためのギアを入れると、森岡賢さんがピアノを担当したことでも話題を集めたストレートすぎるくらいのバラード、「世界は闇で満ちている」、本作中、もっともわかりやすい楽曲とも言えるポップチューン「ONCE UPON A TIME」と、クローズに向けて、王道感をしっかりと盛り込んできます。
押さえるべきところは押さえて。
あくまでバリエーションのひとつという見せ方になっているのが、なんとも渋いですな。

クライマックスで持ってきたのは、歌詞もサウンドも難解さを伴う「無題」と、シングルとして発表された「形而上 流星」。
この2曲で、本当に空気がピンと張り詰めるのだ。
不協和音を奏でるギターが、浮遊感のあるデジタルサウンドと絡まり、何か、違う世界に連れて行かれるような。
それに抗うように声を張り上げる櫻井さんの感情表現は、終盤に進むにつれて鬼気迫るものへと変貌。
シリアスでシュールな楽曲に、ストーリーをもたらします。

前作のタイトルは、「夢見る宇宙」でしたが、最後の2曲を聴いた段階で、あぁ、私はもう地球にはいないのだな、と。
そんな錯覚すら覚えるスケール感を、彼らは遂に描き切ってしまった。
すべてを理解できなくとも、なんとなく、とてつもないパワーの塊であることは理解できる。
実験作のような構成であるが、実験ではなく、芸術として完成された音楽。

ダークネスに包まれた世界観が、個人的に肌に合ったということもあって、とにかく痺れました。
進化し続けるBUCK-TICK。
次はどんな次元に連れて行ってくれるのでしょうか。

<過去のBUCK-TICKに関するレビュー>
夢見る宇宙
memento mori
十三階は月光