働き方や年齢の違いを加味した鉄道需要

 

過去3本の記事にわたって、「単純に人口に連動させるのではなく、働き方や年齢による違いを加味して」鉄道需要を推計する方法について検討してきました。

本記事では、その結果を、「平日」「休日」「平日・休日合算」の順に表示します。

 

結論から書くと、単純な人口密度が高い地域・低い地域の分布と、今回掲載する鉄道需要が多い地域・少ない地域の分布は、ほとんど変わらないという結果となりました。

 

以下、ご紹介します。

 

① 平日の鉄道需要

前々回の記事前回の記事では、平日の各地域の鉄道需要を推計する式を、以下のように組み立てました。

 

平日の需要Diw

 =  0.152 × 14歳以下人口 + 0.293 × 自営業主・家族従業者数 + 1.073 × 正規の職員・従業員数 + 1.021 × 派遣社員数 + 0.535 × パート・アルバイト数 + 0.671 × 役員数 + 1.043 × 通学者数 + 0.204 × 通学者以外の非就業者・労働力状態不詳者数  

 

この式に、各メッシュの2015年国勢調査の人口をあてはめると、平日の鉄道需要が多い地域・少ない地域の分布は、以下の地図のようになります。

人口密度が高い地域・低い地域の分布と、ほぼ同じ分布パターンを描いています。

 

図 平日における自宅発着の鉄道需要

数値は、2015年国勢調査の地域メッシュ別集計による人口(「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて取得)、東京都市圏交通計画協議会「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」、および国土交通省都市局「2015年全国都市交通特性調査」より算出。

地図は、「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて提供されている「5次メッシュ(250mメッシュ)」の境界データ、および「国土数値情報(国土交通省)」の「鉄道データ」を加工して作成。

人口規模が小さい等の理由から、男女別人口以外の人口データが近隣メッシュと合算されているメッシュ(秘匿メッシュ・合算メッシュ)については、男女それぞれの人口に応じて各メッシュに按分している。

 

 

② 休日の鉄道需要

前回の記事では、休日の鉄道需要を推計する式を、以下のように組み立てました。

 

休日の需要Dih'

 =  0.197 × 男子14歳以下人口 + 0.125 × 女子14歳以下人口 + 0.302 × 男子15~64歳人口 + 0.332 × 女子15~64歳人口 + 0.228 × 男子65~74歳人口 + 0.201 × 女子65~74歳人口 + 0.180 × 男子75歳以上人口 + 0.155× 女子75歳以上人口 

 

この式に、各メッシュの2015年国勢調査の人口を当てはめると、休日の鉄道需要の分布は、以下の地図のようになります。

平日に比べると需要は少なくなるため、地図の色合いは全体に薄くなってはいるものの、分布パターンは、平日とほぼ同じ(=人口密度の分布ともほぼ同じ)です。

 

図 休日における自宅発着の鉄道需要

数値は、2015年国勢調査の地域メッシュ別集計による人口(「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて取得)、東京都市圏交通計画協議会「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」、および国土交通省都市局「2015年全国都市交通特性調査」より算出。

地図は、「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて提供されている「5次メッシュ(250mメッシュ)」の境界データ、および「国土数値情報(国土交通省)」の「鉄道データ」を加工して作成。

人口規模が小さい等の理由から、男女別人口以外の人口データが近隣メッシュと合算されているメッシュ(秘匿メッシュ・合算メッシュ)については、男女それぞれの人口に応じて各メッシュに按分している。

 

 

③ 平日・休日をあわせた鉄道需要

前回の記事では、平日・休日を合わせた鉄道需要について、平日の需要と休日の需要を、以下のように組み合わせることとしました。

 

Di = (11/16)×平日の需要Diw + (5/16)×休日の需要Dih'

 

これを計算すると、平日と休日を合わせた鉄道需要の分布は、以下の地図のようになります。

平日と休日の間を、5:11で内分した色で塗りわける形となるため、平日の地図よりもわずかに薄い色合いとなりますが、分布パターンは、やはり平日単体、休日単体のものと、ほぼ同じとなります。

 

図 平日・休日をあわせた自宅発着の鉄道需要

数値は、2015年国勢調査の地域メッシュ別集計による人口(「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて取得)、東京都市圏交通計画協議会「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」、および国土交通省都市局「2015年全国都市交通特性調査」より算出。

地図は、「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて提供されている「5次メッシュ(250mメッシュ)」の境界データ、および「国土数値情報(国土交通省)」の「鉄道データ」を加工して作成。

人口規模が小さい等の理由から、男女別人口以外の人口データが近隣メッシュと合算されているメッシュ(秘匿メッシュ・合算メッシュ)については、男女それぞれの人口に応じて各メッシュに按分している。

 

 

結論:人口構成の違いが鉄道需要に与える影響は小さい

これまで、パーソントリップ調査等の統計資料を整理し、人の働き方や年齢の違いによる需要の違いを加味した、より精緻な鉄道需要を推計すべく、いろいろ検討を重ねてきました。

しかし、結局のところ、「より精緻に推計したはずの鉄道需要」であっても、単純な人口密度の分布パターンと、ほとんど変わらないという結果となりました。。

 

もう少し、背景を探ってみます。

 

前々回の記事で見た通り、個人単位では、高校生・大学生やフルタイムの労働者の鉄道需要と、児童・自営業者・非就業者の鉄道需要との落差は、かなり大きいものがありました。

 

一方で、各地域メッシュの「人口1人当たりの鉄道需要」をヒストグラムにして、そのばらつきをヒストグラムにしてみると、平日では0.45~0.60トリップ/人日の範囲に約7割のメッシュが、休日では0.25~0.30トリップ/人日の範囲に約8割のメッシュが含まれています(下の表)。

 

狭い区間に、大半のメッシュが集中しているということは、言い換えると、働き方や年齢による差を加味しても、地域メッシュ間では、1人当たりの鉄道需要に、さほど差が出ないということでもあります。そのため、人口密度の低い地域の鉄道需要が、人口密度が高い地域の鉄道需要を上回る、といった逆転現象が、ほとんど起きていないと考えられます。

 

このように、地域メッシュ単位でみると、人口構成に多少の違いはあっても、その違いが鉄道需要に及ぼす影響は、人口密度の違いによる影響と比べて、はるかに小さいようです。

 

 


  1人当たりの鉄道需要の分布

 

人口構成の違いが鉄道需要に及ぼす影響は、大きなものではありませんが、人口の割に鉄道需要が多い地域、少ない地域がどこであるのかは、気になるところです。

 

そこで、平日、休日それぞれについて、上の地図を人口で割った、「1人当たりの鉄道需要」を地図化してみました。

 

① 平日の1人当たり鉄道需要

以下の地図は、平日の1人当たり鉄道需要が多い地域、少ない地域を塗り分けたものです。

 

図 平日の人口1人当たり自宅発着の鉄道需要

数値は、2015年国勢調査の地域メッシュ別集計による人口(「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて取得)、東京都市圏交通計画協議会「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」、および国土交通省都市局「2015年全国都市交通特性調査」より算出。

地図は、「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて提供されている「5次メッシュ(250mメッシュ)」の境界データ、および「国土数値情報(国土交通省)」の「鉄道データ」を加工して作成。

なお、人口密度が10人/ha未満のメッシュには色塗りをしていない。

 

これを見ると、埼玉県外ではありますが、とにかく目立つのは、

  • A:つくば駅周辺

の人口当たりの需要の多さです。研究機関や大学が多い関係で、フルタイムで働く単身世帯の方や、下宿する大学生が多いことが考えられます。

 

一方、埼玉県内では、0.50~0.55トリップ/人・日や0.55~0.60トリップ/人・日の地域が大半を占め、突出して多い地域や少ない地域は、さほど目立ちません。

その中において、ある程度まとまった形で人口当たりの鉄道需要が多い地域としては、

  • B:八潮駅周辺
  • C:和光市駅周辺

などがあります。

 

このうち、B:八潮駅周辺は、つくばエクスプレスの開通を機に宅地化が急速に進み、東京都心で働くフルタイムの労働者が多く引っ越してきたことが、背景として考えられます。よく見ると、千葉県流山市や茨城県守谷市など、つくばエクスプレス沿線の他の地域にも、このような地域が点在しています。

一方、これらの地域でも、今後、このような家庭に子どもが増えたり、共働き家庭の夫婦の片方がパートタイム労働に切り替えたりすると、このような「人口当たりの鉄道需要が周辺よりも多い」傾向は、次第に目立たなくなってゆくのかもしれません。

 

また、C:和光市駅周辺は、東京都心で働くフルタイム労働者が多いことに加え、研究機関が多い地域でもあるため、つくばと似たような背景があるものと考えられます。

 

逆に、ピンポイントではありますが、人口に比べて需要の少ない地域としては、

  • D:川口ジャンクション付近

があります。地図を見ると、このあたりには、特別養護老人ホーム等の、大規模な介護施設が多く立地しています。川口市近辺では、高齢化の進展に伴い介護需要も大きくなる一方、市内の大半はすでに宅地化されており、大規模な施設が建てにくい可能性があります。そのような中で、数少ない市街化調整区域であるこの地域に、集中的に介護施設が建ったのかもしれません。

 

埼玉県外に目を移すと、比較的目立つのは、東京23区の人口当たり需要の小ささです。0.45~0.50トリップ/人・日や0.40~0.45トリップ/人・日といった地域がまとまって見られます。

 

ただし、23区全体の需要が小さいというよりも、

  • 人口当たり需要が比較的多い区… E:江東区、文京区、品川区、大田区、杉並区など
  • 人口当たり需要が少ない区… F:港区、足立区、板橋区、世田谷区など
が、区や都県の境で、かなり明確に分かれています。
 

このような、「区や都県の境をまたぐと急に人口構成が変わり、人口当たり鉄道需要も大きく異なる」といった実態は、本当にあるのでしょうか。

 

これについて、私は、次のような背景があるのではないかと考えています。

 

国勢調査の際、未回答の住民や回答に不備のある住民がいる場合、調査員は、その住民に問い合わせるなどして、なるべく不明点を少なくしようとする。

一方、そのような問い合わせをどこまで行うかについては、市区町村ごとに温度差があり、年齢や労働力状態が「不詳」のまま集計される人口の割合に、差が生じる。

このうち、労働力状態「不詳」の人口には、平日の鉄道需要の算出にあたり、0.204という小さな係数が割りあてられるため、そのような人口の割合が高い市区町村の地域メッシュでは、実態以上に人口当たりの鉄道需要が少ないと評価されやすい。

 

 

② 休日の1人当たり鉄道需要

以下の地図は、休日の1人当たり鉄道需要が多い地域、少ない地域を塗り分けたものです。

 

図 休日の人口1人当たり自宅発着の鉄道需要

数値は、2015年国勢調査の地域メッシュ別集計による人口(「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて取得)、東京都市圏交通計画協議会「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」、および国土交通省都市局「2015年全国都市交通特性調査」より算出。

地図は、「政府統計の総合窓口(e-Stat)_統計GIS」にて提供されている「5次メッシュ(250mメッシュ)」の境界データ、および「国土数値情報(国土交通省)」の「鉄道データ」を加工して作成。

なお、人口密度が10人/ha未満のメッシュには色塗りをしていない。

 

 平日と比べてもさらに地域差は小さく、0.250~0.275トリップ/人・日と0.275~0.300トリップ/人・日以外の値の地域は、ほとんどみられません。


これは、地域メッシュ単位では、年齢別の人口が、「14歳以下」「15~64歳」「65~74歳」「75歳以上」の4区分でしかとれないために、たとえば「20代と50代の需要の違い」などが加味できないことも、関係しているかもしれません。


ただ、ここでも、

  • A:つくば駅周辺

の人口当たりの需要の多さがやや目立ちます。


また、

  • B:東京23区や川崎市周辺

も、需要が多めです。


人口1人当たりの鉄道需要は、子どもと高齢者で少なくなるため、これらの割合が少なく、現役世代の単身世帯や夫婦のみ世帯が多い地域で、需要が多めとなっていると考えられます。