既存の駅から近い駅と遠い駅、利用客数はどのくらい違うのか

 

ある2つの地区、「地区A」と「地区B」とがあったとします。地区Aと地区Bとは、周辺の居住人口や従業者数は同程度ですが、既存の鉄道駅から地区Aまでは500mであるのに対し、地区Bまでは3000m離れています。

 

この付近に新たに鉄道を引き、駅を設置することとした場合、地区Aに駅を作るのと、地区Bに駅を作るのとでは、どちらの方が多くの利用客を見込めるでしょうか。

 

過去の記事でも、「新たな鉄道駅を作るにあたり、既存の鉄道駅の近くに作ると、新旧の駅どうしで需要を食い合うこととなる」という趣旨のことを書きました。逆にいえば、既存の駅から遠い、地区Bにある新駅の方が、既存の駅との需要の食い合いが少ない分、多くの利用客を見込みやすいと考えられます。

 

 

では実際に、「既存の鉄道駅から近くの新駅と遠くの新駅とを比べると、後者の方が利用客数が多い」という傾向が存在するのでしょうか?


今回の記事では、実際の鉄道路線を題材として、これを確かめてみることとしました。


分析対象としたのは、「既存の鉄道網の中に、後から建設された路線(以降、「後発路線」と書きます)」の駅です。

 

  住勤鉄道需要に対する乗車人員の多さ -「鉄道需要・乗車人員比」

 

既存の鉄道駅から近くの新駅と遠くの新駅の利用者数を比べるといっても、それ以前の問題として、駅の利用者数は、周辺の人口や従業者数に大きく左右されてしまいます。


既存駅からの距離が、利用者数に与える影響を把握するためには、まず、この「住んでいる人や働きに来ている人が多い地域の駅は利用者数が多くなる」という影響を、除外して考える必要があります。


なお、本ブログでは、「住んでいる人」「働きに来ている人」の多さに応じた鉄道需要の多さを示す独自の指標として、「住勤鉄道需要」を用いています。

 

 

ここでは、この「住勤鉄道需要」による影響を除去するために、駅の乗車人員(※)を駅周辺(半径1km圏内)の住勤鉄道需要で割った指標「鉄道需要・乗車人員比」を導入します。

 

鉄道需要・乗車人員比 = 駅の乗車人員(人/日) ÷ 駅から半径1km圏内の住勤鉄道需要(トリップ/日)

 

「鉄道需要・乗車人員比」が大きいというのは、「周辺の人口や従業者数の割に乗車人員が多い」状態を指すこととなりますが、この鉄道需要・乗車人員比が、既存の鉄道駅から近くの新駅と遠くの新駅とでどのように違うのかが、今回の記事の焦点となります。

 

※…これ以降、利用者数としては、乗車客のみを数え上げ、降車客は含まない「乗車人員」を用います。

これは、様々な鉄道会社の駅について調べた時に、公表値があるのが「乗車人員」であることによります。


  既存の駅からの距離と鉄道需要・乗車人員比との関係 -JR埼京線と埼玉新都市交通の場合

 

ここでは、後発路線の例として、JR埼京線(大宮~赤羽間、1985年開通)と、埼玉新都市交通(ニューシャトル、1983年)をとり上げ、乗換駅でない駅(単独駅)の「既存の駅≒他路線の最寄駅までの距離」と「鉄道需要・乗車人員比」との関係を見てみます。

 

下の散布図は、JR埼京線(大宮~赤羽間)の単独駅9駅と、埼玉新都市交通の単独駅12駅のそれぞれについて、横軸に「他路線の最寄駅までの距離(m)」、縦軸に「鉄道需要・乗車人員比」をとったものです。

 

両線の間で、鉄道需要・乗車人員比の水準は大きく異なりますが、他路線の最寄駅からの距離が遠いほど、鉄道需要・乗車人員比が大きくなる(≒駅周辺の人口や従業者数の割に、駅の利用客数が多い)」という傾向は共通しています。
 
図 JR埼京線(大宮~赤羽間)の単独駅の「他路線の最寄駅からの距離」と「鉄道需要・乗車人員比」
 
やはり、「既存の駅から遠い新駅ほど、利用者数が多くなりやすい」という傾向は、実際に存在するようです。
 
ただ、これだけでは、2路線のみから読み取った傾向にすぎないので、次の記事では、首都圏のより多くの後発路線の駅を対象に、分析を行おうと思います。