岡本太郎といえば、1970年の大阪万博(EXPO'70)のシンボルタワー「太陽の塔」や、メキシコで発見され渋谷のスクランブル交差点近くの屋内コンコースに復元移設された壁画「明日の神話」で知られる。また、ある程度年配の方なら「芸術は爆発だ!」のテレビCMも印象深いであろう日本を代表する前衛芸術家だ(1996年没)。
【渋谷駅の「明日の神話」~岡本太郎記念館Webより~】
私は大阪万博には行けなかったが、渋谷のIT企業に3月末まで勤務していたので大迫力の壁画は馴染み深いし、件のCMも忘れられない。とはいえその程度の関わりしかなかった私だが、ヴォーカル活動の拠点としている渋谷・SEABIRD第一金曜バンドの岩渕泰治氏(dr.)から岡本太郎の著書「今日の芸術」を紹介された。
会社役員でドラマーで絵本も描く岩渕氏が「岡本太郎は人間の生命の根本を問いただしてくれる感じがして、安牌を狙おうとふと頭をよぎる自分を蹴飛ばしてくれます。音楽でも何でも自分を表現しようとする人はそれを忘れたらアカンなと思いその度にまた読み返す…」というくらいだから、そりゃ読まない手はないでしょう。
彼は私の「自由に振る舞うことは結構難しい」という記事に対し「自由というテーマはホント奥が深く、
【光文社文庫/560円+税】
何が素晴らしいかと言えば、この本には私がこれまで当ブログで試行錯誤してきた答えが全て書いてある。「上手いかどうかじゃないんだな」「習わないからできること?」「奇跡のレッスンで分かったこと」等、私が今まで世間に対して疑問に感じてきた「創造性」や「オリジナリティ」や「教育」に関する「答え」がここにあった。
「芸術はうまくあってはならない」と喝破し、セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホ、ルソーらが当時いかに下手な絵描きだったか立証し、芸術教育の大間違いを指摘している。しかもそれらを、私が生まれる前(1954年)に、彼は堂々と著作として出版しベストセラーにしていたというから、最早知らなかった自分がお恥ずかしい限り。
岡本太郎は、現代は「芸術」が貴族やセレブの占有物から我々庶民のものになったのだから貴族のお抱え芸術家のような上手さを求めず、自らの魂の感動を自由に表現すべきだと述べる。「上手く描く必要なんかみじんもない。どんどん下手に描きなさい」そして芸術は自身の人間形成であり自らを創造することだと述べる。
また、工芸などの職人技や芸能・芸事なら教えられるとしても「芸術」は本質的に教えたり教わったりするものではなく、人生に専門家がいないように、全ての市民が創造者として参加すべきだとさえ主張している。特に、芸術は自己実現のためであって「誰かに評価されるためではない」という点は耳が痛い。
さらに私が驚いたのは、よくジャズはコール・アンド・レスポンスなどと言って演奏者は聴衆(オーディエンス)と“一緒に音楽を創る”等と言うが、彼は絵画鑑賞においても「鑑賞する、味わうということは価値を創造すること」「作品に触れ自身の精神に無限の広がりと豊かな彩りを持たせることは立派な創造」と述べている。
この著作はとても語りつくせないので、ご興味を持った方は図書館や書店で是非、手に取って戴きたい。絵画に限らず芸術に限らず自己表現や自己実現、人間教育全般にわたって実に本質的かつ根源的な問題提起と明快かつダイナミックな主張が展開されている。改めて紹介して下さった岩渕さんに感謝である!
Saigottimo

