シングルマザーの彼女を、


俺の実家へ連れて行って両親に会わせた。



親父もおふくろも、心から喜んでいないようだった…。


ただ、反対しているという感情だけは、出さないでくれていた。




息子が結婚相手を連れてきた。


その相手は、バツイチだった…。


しかも、その相手には子どもがいた……。




俺が親だったら反対しているかもしれない…。




親父とおふくろは、


あまり突っ込んだことを聞いてこなかった。



何で離婚したの?


子どもと父親の関係は?


家族は何て言ってるの?


本当は、どんなにたくさん


聞きたいことがあったんだろう…。

言いたいことも山ほどあったんだろう…。




俺の両親と彼女の顔合わせ、結婚のあいさつ、

表面上は、うまくいったようだった……。





いま思えば、


親父とおふくろは、何も言わな過ぎたようだ。



結婚に対する気構え。

結婚とは?

夫婦とは?

子どもについて。

子どもの父親について。

相手の実家との関わり方。



数え上げればキリがないくらい、


たくさん話すことがあったと思う。


こういったことは、誰と話すものなんだろう…。



教科書には書いてない。

学校では教わっていない。


本屋さんで探して勉強するものなんだろうか?


やっぱり親と話すものだと思う。



それとも、みんな、


ちゃんと考えてから結婚してるんだろうか?




俺は、どう考えても、


勢いだけで突き進んだ感があった…。



まさに、暴走特急の如く爆走していた……。





ただ、シングルマザーとの結婚って、


勢いがなきゃ、進めないんじゃないかな?

彼女との結婚について、


親父とおふくろに話したことを、彼女に伝えた。



彼女も俺と結婚することを、彼女の両親に伝えた。



彼女の両親は、俺との結婚を好意的に受け止めたようだ。




俺は、彼女の両親と面識があったので、

彼女の両親に結婚のあいさつをすることについて、

重苦しく考えてなかったし、特に緊張することもなかった。




彼女は、俺の両親と面識がなかったし、

何より子連れでの再婚になるので、緊張しているようだった。





俺は、シングルマザーと結婚することを、


ちゃんと考えてなかったのかもしれない…。



バツイチの女性と結婚する。


子連れの女性と結婚する。



考えなくちゃならないことが、たくさんあったはずだ。




子どもと子どもの父親との親子関係。


以前、深夜に会わせた事件以来、全く話していなかった。




結婚してからの実の父親との親子関係。


一度も話していなかった。




それまでの彼女は、


子どもの養育費をもらっていないと言っていた。

だからこそ、彼女と会うときは、


当座の食糧とかを買い込んであげていた。



しかし、彼女は、俺との結婚話が出てから、


「実は、養育費をもらってた…。」


と言ってきた……。




また嘘だった…。


なぜ、そんな嘘をついたのか………。



彼女は、平然と嘘をつく。

平然と嘘を繰り返す。





でも、もう後戻りできなかった…。


俺は、結婚に向かって突き進んでしまったんだ…。




彼女の子どもが小学校へ入学する前に、


籍を入れてあげなくちゃ…。



そんなことを考えるよりも、

もっと自分自身のことを、ちゃんと考えるべきだった…。



シングルマザーとの結婚について、


もっと色々と考えるべきだった…。




いま考えれば、どう見ても冷静じゃなかった……。

まだ、そのときなら、やり直せたはずなのに………。

シングルマザーの彼女との結婚を決意した俺は、


次々と行動に出た。






「今度、俺の実家にあいさつに行こう。


結婚するぞ。」




俺は、彼女に突然、電話で言った。




当たり前だけど、彼女は、面喰ったようだった。



「まず、俺の実家に話してくる。


それから、お前と一緒に実家へあいさつに行く。

その後に、お前の実家へあいさつに行く。


それで良いか?」


「うれしいけど…、何でそんなに突然なの?」



「今度、子どもが小学校へ上がるからな。


前から考えていたんだ。それで良いな?」



「うん…。」




どう考えても、


ちゃんとしたプロポーズじゃなかった…。





次に、俺の親父に話した。



帰省した時に、初めて親父を飲みに誘った。



交際している女性がいること、


その女性に子どもがいること、


その彼女と結婚する気でいること、



俺は、どんどん親父に話した。




親父は、


「お前から酒を誘ってきたから、そんな気がしていた。


子どもがいることには驚いたけどな。

本音を言えば、もちろん、反対だ。


だけど、お前が決めたんなら、俺は何も言わん……。」





意外だった…。

猛烈に反対されるものと思っていた。

何となくだけど、喜ばれていないことは、伝わってきた…。



だけど、そのときの俺は、


親父に祝福されていないことよりも、

猛烈に反対されなかったことに安堵していた。





親父に話した次の日、おふくろにも話した。




おふくろは、無言だった………。



反対されていたことは、明らかだった…。




でも、俺は、親父から猛烈に反対されなかったことで、


一気に突き進んでいった……。






あのとき、シングルマザーの彼女との結婚を、


両親に止めてもらいたかった訳じゃない。



ただ、俺は、自分が決めた道を、


一方的に突き進んでしまっただけだ…。



後戻りのできない状況に、


自分からハマっていっただけだ…。



取り返しのつかないことになるとは、全く知らずに………。

彼女の子どもは、少しずつ俺に懐いてくれた。



彼女の子どもを連れて一緒に遊ぶことは、


いつしか当たり前になっていた。


彼女の子どもを連れて、


一緒に旅館に泊まったことも何度かあった。





ある日、公園で遊んでいると、


彼女の子どもが転んしまった。



起き上った子どもの額には、小さな石が刺さっていた。


それを見た彼女は、オロオロするばかりだった…。


俺は、子どもの額から石を取り除き、


傷口を吸い出すと、血があふれてきたので、


指で傷口を圧迫し、子どもを抱きかかえ、


近くの公園事務所へ連れて行った。


そのとき、俺は、何も考えず、自然に動いていた。



オムツの取り替えも何度かしていた。




もはや、自分の子どもだという感覚でいた。




そうやって、彼女と彼女の子どもと一緒に、


時間を重ねていった。





いよいよ彼女の子どもが小学生になるという頃、


俺は、ある決意を固めていた。





そう、シングルマザーの彼女と、


結婚しようと決めていたんだ……。





それが、どれだけ苦難の道かということを全く知らずに………。

今日、裁判所から電話があった。




相手方へ送達した期日通知書が、


「届先住所地には相手方が居住していない」


との理由で返却されてきたとのことだった。






やってくれました…。






おそらく受取拒否をしたんだろう…。




少し前に、この件とは関係ない手紙を送ったときは、


返却されなかったんだから、やっぱりおかしい…。




そもそも、戸籍謄本を取り寄せた時に、


住所地を確認しているんだから、


何か企みがあるとしか思えない。






その裁判所の職員は、申立書に記載してある


相手方の電話番号に連絡して、相手方と話したようだ。







すると、相手方は、実家に送ってくれと言ったらしい。




実家に住んでいないけど、実家に送ってくれ…。






ということは、現住所地では受け取りたくないだけか。






そういえば、相手方は、俺と交際し始めた頃に、


子どもを連れて部屋を借りて生活を始めていた。






なるほど。



相手方は、男ができて一緒に生活をしているのだろう。



だから、その住所地では、裁判所からの書類だけは、


どうしても受け取りたくないんだ。



そりゃそうだ。




男から言わせれば、


裁判で係争しているようなシングルマザーとは、


安心して付き合えないだろう。






まあ、相手方の企みは関係ない。




期日通知書の送達先を、


相手方の住所地から相手方の実家住所地へ、


変更するだけの話だから、裁判は始まる。




俺の住所地の裁判所で待ってるからな!