帰宅した俺に、おふくろが話しかけてきた。





その話を聞いて、俺は絶句した……。





産婦人科医院を退院した妻は、

赤ちゃんと一緒に帰宅してから、


赤ちゃんのオムツを交換するとき、

オムツを全て妻の実家へ持って行ってたらしく、

自宅には、オムツが一枚もなかったらしい…。




そこで、妻は、上の子どもに、


「オムツを買ってきなさい。」


と言ったようだ…。




まだ2年生の子どもで、


それまで行ったことがないんだから、

それは無理な注文だろう…。




当然、見かねたおふくろが、


オムツを買いに行ったようだ。






問題は、それじゃない。






赤ちゃんがミルクを飲んでいるときに、

赤ちゃんがウンチをしたから、


オムツを交換するわけだけど、

赤ちゃんのおしりを拭くときに使う、


おしり拭きもなかったらしく…、


どういうつもりか、妻は、

味噌汁のお椀にお湯を入れて、


ガーゼを浸して、


そのガーゼでおしりを拭き、

その汚れたガーゼを、


お椀で洗いながら、


おしりをきれいにしたようだ…。





味噌汁のお椀だぞ!



とても考えられない…。



全く理解できない…。






しかも、妻は、ミルクの入った哺乳瓶を、


その汚れたお湯に浸して保温して、

オムツを交換してから、


その汚れた哺乳瓶のミルクを、


赤ちゃんに飲ませた………。








おふくろは、その様子を見て、


驚いて何も言えなかったらしい…。






だから、俺が仕事から帰ってきたとき、


変な雰囲気だったんだ。





お椀にお湯を入れて、


ガーゼでおしりを拭いたことも論外だけど、

ウンチのついたガーゼを洗ったお湯に、


飲みかけのミルクがある哺乳瓶を入れて保温し、

その汚れた哺乳瓶に入っているミルクを、


そのまま赤ちゃんに飲ませた………。






実の母親がすることか?




異常としか思えない……。







俺は、赤ちゃんの身体が心配になった。





俺の初めての子ども。


生まれたばかりの俺の赤ちゃん。





ましてや、妻の実家は、


臭くて、汚くて、猫がいた…。

その上で、妻の理解不能な行動……。






俺は、毎日、赤ちゃんの様子を見るために、


妻の実家へ行こうって決めた。



俺たちは、上の子どもが夏休みの間に、


妻が出産できるように、

時期を見ながら計画的に子作りをして、

その予定どおりに、


無事に赤ちゃんが生まれたんだ。





いま思えば、

なかなか計画どおりにできないと思うし、

すごいことだったんだなぁと思う。






産婦人科医院を退院したら、

そのまま妻の実家へ連れて行って、

妻と上の子どもと赤ちゃんの面倒を、

妻の実家に見てもらう予定にしていた。





俺は、妻と赤ちゃんの退院手続には、


どうしても行けなかったから、

俺のおふくろが、妻と一緒に退院手続をして、

一足早く、我が家へ帰っていた。





上の子どもは、


俺のおふくろが田舎から出てきていたから、

妻の実家ではなくて、


我が家に帰っていて、


義理の祖母となる俺のおふくろと一緒にいた。





夕飯は、おふくろが作ってくれて、

赤ちゃんを交えたみんなで、


初めての夕食を済ませた。






何となく、ぎこちない感じがしていた…。






夕食後、


妻と赤ちゃんと上の子どもを車に乗せて、

俺は、妻の実家へ3人を連れて行った。





チャイルドシートは、一番良いものを買っておいた。


このときが俺のチャイルドシートデビューだった。






妻の実家へ連れて行くと、


妻の母親が出迎えてくれた。





何だか分からないけど、


かなり感じが悪かった…。




赤ちゃんを抱っこしていた俺から、


物をむしり取るように、

赤ちゃんを取られた感じだった…。





俺は、妻に視線をやると、


妻も少しバツが悪そうだった。




つまり、俺の気のせいじゃないってことだ。







ここで、俺はあることに気がついた。





元々、妻の実家では、


猫を飼っているんだけど、

赤ちゃんを迎え入れるにも関わらず、


まだ猫がいた……。






妻の実家のすぐ近くには、


妻の姉の家族が住んでいるし、

妻の母方の祖母の家族も住んでいるし、

そこでは、猫を飼っているから、

てっきり、猫は預けているもんだと思っていた。





赤ちゃんを育てる上で、

猫とかペットが一緒にいない方が良いと、

俺の知り合いの医者が言っていた。




その医者から聞かなくても、

元々その話は知っていた。





どうなってるんだ…?



しかも、家の中は相変わらず汚くて臭かった。






俺は、とても不安で胸騒ぎをしながら、

妻の実家を後にして、我が家へ向かった……。



おふくろは、俺の買ったマンションに、


初めて来たことになる。





おふくろも、このマンションを、


かなり気に入ってくれたようだった。





週末には、親父も来るから、

俺は、赤ちゃんとマンションを


両親に見せることができて、

かなり嬉しかった。





とにかく、無事に赤ちゃんが生まれたから、


あとは名前だ。






生まれる前から、


エコーで性別は分かってたけど、

なかなか良い名前を決められないでいた。





妻は、姓名判断の本を、


3冊も買い込んできていた…。




俺と妻は、赤ちゃんが生まれる前に、

それらの本をじっくり見て考えていたけど、

なかなか決まらなかった…。






シングルマザーだった妻と結婚して、

マンションを買って、

良い転職をして、

赤ちゃんが生まれて、


全てが良い方向へ進んでいた。





これから俺の本当の人生が始まるんだ。








週末には、予定どおり、


親父が田舎から出てきた。




親父は、本当に嬉しそうに、


初孫を見ていた。




親父もマンションを気に入ってくれた。








赤ちゃんが生まれてから、


母子ともに1週間ほどは、

産婦人科病院に入院している。





その間、俺は、毎日、


仕事帰りに病院へ行って、

赤ちゃんと妻に会っていた。





上の子どもは、


また、妻の実家に遊びに行っていた。






そうして、産婦人科病院から、


母子ともに退院したんだ。



「母子ともに無事に産まれました。」





まず、俺の両親に報告の電話をした。




「おめでとう!本当に良かった。」




その日のうちに、
おふくろが実家から、


初孫の顔を見に来ると言っていた。



週末には、親父が、


初孫の顔を見に来ると言っていた。




やはり、初孫は可愛いんだろう。





次に、妻の両親に報告の電話をした。



妻の母親は、


「私に一番に教えてくれたんでしょ?」



「………。さっき俺の実家に報告しましたよ。」



「あら、そう…。」



意味が分からなかった……。



まず、


「おめでとう!」


じゃないのか…?



こんなにめでたい時にでも、


こんなセリフしか言えないのか?






両家の実家へ、


電話での報告が終わったので、


妻の元に向かった。




新生児室にいる俺たちの赤ちゃん。


初めての俺の赤ちゃん。




ちょっと見ようと思っていたら、


そのまま時間を忘れてしまった…。



早速の親バカ…。





妻の元に行って、


再び労をねぎらいつつ、


本当に感謝していた。





しばらく一緒にいて、


俺は、そのまま仕事に向かった。




妻の母親から言われたことは、


当然、伏せておいた…。







職場では、子どもの誕生を祝ってくれた。



その日は、徹夜の付添の疲れもあって、


職場の仲間も気を遣ってくれて、



「もう帰って下さい。


 あとは俺たちで大丈夫ですから。」



この会社に転職して、


本当に良かったと感じた。




職場の仲間の言葉に甘えて、


午後からは半休を取った。






俺は、帰宅する前に、


妻と赤ちゃんのいる病院へ向かった。





病院へ着くと、


妻の母親がいて、


上の子どもを連れて来てくれていた。



俺のおふくろも、既に来てくれていた。





何となく変な雰囲気だった……。






そんなことよりも、赤ちゃんだ。



何度見ても飽きない。


またもや親バカ。





俺のおふくろが、


「本当にあんたに似てるねぇ。


 どう考えてもあんたの子だよ。」



俺は、

「冗談言うにも、

 

 場をわきまえてくれよ。」





そんな冗談も交錯しながら、


みんなで赤ちゃんを見ていた。





妻は、朝から何度か寝たようで、


少し回復しているようだった。



俺は、前日から一睡もしていなかったから、


かなり疲れていた…。





そうして、面会時間も終わり、


俺と上の子どもと俺のおふくろは、


我が家に帰った。





妻の母親も一緒に連れて行って、


夕食は、近く弁当屋で買った弁当を食べて、

妻の母親は、妻の実家へ戻って行った。

2時…。


まだのようだ…。




さすがに眠くなってきた…。





3時。



妻は、分娩室に入っていった。






実は、医者から、胎盤剥離の可能性があると言われていた……。





「胎盤が無事であれば、また子どもができるけど、ダメであれば諦めて下さい。」





そんな話があった…。





今は、妻と生まれてくる子どもの命が最優先だ。



それで、できれば子宮も無事であってほしい。






4時。


もう、いつ生まれてもおかしくない。




俺は、相変わらず、病室と分娩室を行ったり来たりしていた…。




病室にいると、看護婦さんが入ってきた。





生まれたのか?






「生まれそうです。来て下さい。」






俺は、そのまま分娩室の前に行った。








5時過ぎ。



医者が出てきた。




どうなったんだ?





「母子ともに無事です。」




良かった!



ようやく生まれた!



初めての俺の子ども。



おめでとう!


誕生、おめでとう。






ハッとして、医者に聞いた。




「胎盤は無事ですか?」




「はい。大丈夫でした。」





良かったー。本当に良かった。







俺は、分娩室にいる妻のところに行った。




「ありがとう。頑張ったな。」




妻は、疲れ切っていたけど、満足気の顔をしていた。





看護婦さんが、赤ちゃんの身体を拭いて、抱いて来てくれた。




初めてみる俺の赤ちゃん。




正直言って、赤ちゃんは美的感覚だと可愛くない…。



でも、とてもいとしいと感じた。




妻は病室へ運ばれて、赤ちゃんは保育器に入って新生児室にいた。






俺は、家族へ報告の電話をしに行った。