俺と妻は、妻の実家に着いたら、


すぐに荷物をまとめて、

妻と一緒に自宅へ戻った。







俺は、赤ちゃんが入院した時点で、

すぐに田舎の両親に連絡をしていた。




次の日には、俺の両親が、


赤ちゃんの見舞いに来ることになった。






妻と自宅に帰る途中、


妻を責めるようなことは、


全く言わなかった。



翌日には、俺の両親が、


赤ちゃんのお見舞いに、


田舎から出てくることだけ、


伝えておいた。






帰宅した俺と妻は、


翌日からの赤ちゃんの看病生活に備えて、

とにかく身体を休めることにした…。





そうは言っても、


どうしても不安な気持ちは消えない……。





細菌性の髄膜炎だったら、どうしよう……。







俺は、バルコニーに出て、


神様に祈った。


「全てを失っても構わないから、


 赤ちゃんを助けて下さい。」




無神論者のくせに、


都合が良いかもしれないけど、

俺には祈ることしかできなかった………。








その晩、どういうつもりか分からないけど、

妻は、夜の夫婦生活を求めてきた……。







俺は、とてもじゃないけど、


それに応じることができなかった…。


そんな気分にはなれなかった…。



ただ、妻も不安なんだろうと思ったから、

しっかりと抱きしめてあげた。



そのときの俺には、


そうすることだけで精一杯だった……。






ようやく妻が寝付いたころ、


やっぱり俺は、


どうしても不安が強くなってきて、

またバルコニーに出て、


夜空を見上げて祈っていた…。





そのときの俺は、


本当に全てを失っても構わないから、

とにかく赤ちゃんだけは、


助けてもらいたいって思っていた。




俺の人生で、


あんなに真剣に祈ったことはなかった。





妻の実家


妻の母親


妻自身





納得できないことや、


強い嫌悪感があったけど、

今は……。



ただただ赤ちゃんの髄膜炎の検査結果が、

陰性であることだけを、


祈るより他になかった………。



赤ちゃんが入院している部屋は、


未熟児室だから、

面会は、一日2回だけで、


1回に30分しか面会ができない。






俺は、赤ちゃんが入院すると決まる前に、


万が一を考えて、


妻には、自宅近くの総合病院へ


赤ちゃんを連れて行くように指示していた。






俺と妻は、赤ちゃんの面会後に、


赤ちゃんのことについて話したんだけど、


やはり妻も自宅に戻って、

自宅から見舞いに通うことに決めた。





妻は、


「ごめんなさい。私のせいで……。」


と、自分を責めていた。






本当に分かっているんだろうか?


でも、今は妻を責めているときじゃない。







病院のロビーで待っていた妻の両親に、


「今から赤ちゃんの荷物とか、妻の荷物を取りに行って、

 そのまま妻を自宅に連れて帰ります。」


と言った。






妻の母親は、


露骨に不愉快そうな顔をして、


「ウチ(実家)からだって、


 見舞いくらい来れるでしょ!」


と言い放ってきた…。






俺は、その妻の母親の態度に、


正直、腹が立ったけど、


「赤ちゃんに何かあったら、


 すぐに駆け付けられる自宅じゃなきゃ


 困るでしょ。」


と返答した。





すると妻の母親は、


「何かあるってこと?そうなの?」


と詰め寄ってきた…。





俺は、それ以上、話す気力もなく、


「赤ちゃんは、髄膜炎なんですよ!

 まだ検査結果も出ていない状況だし、


 何が起こるか分からないでしょ?
 
 妻もそうするって言ってるんで。」


と返答して、話を終わらせた。





今は、妻の母親と議論しているときじゃない。





俺の自宅は、赤ちゃんの入院先まで、


歩いても行ける距離にある。




そもそも、赤ちゃんが入院しているんだから、

自宅に帰るなんて、当たり前のことだろう。




そんなことにまで文句を言いたいのか?




俺の中で、


妻の母親に対する嫌悪感は、

とても強くなっていった…。







とにかく俺は、妻を俺の車に乗せて、


妻の実家へ向かった……。



赤ちゃんが緊急入院してから、

間もなく、俺と妻は病院へ着いた。





妻の両親には、お礼を言って、

そのまま担当医のところへ行った。





担当医から、赤ちゃんの容体について、

いろいろと説明があった。





赤ちゃんの病名は、

「髄膜炎」というものらしい…。





髄膜炎には、


「ウィルス性」



「細菌性」



の二種類があるらしい。





新生児がかかると、

最悪の場合、死亡したり、

半身不随になったりするらしい…。






ウチの赤ちゃんは、


まだどっちか分からなくて、

検査結果を待つしかない


ってことだった……。







そんな病気にかかるなんて、

おそらく妻の実家の環境のせいだろう…。



俺は、直感的にそう感じた。






なんで妻は、まだ新生児の赤ちゃんを、

あんな環境にしておけたのか?




俺は、妻に対する怒りが、


沸々と湧いてきていたけど、

赤ちゃんの容体を心配する想いが、


その感情を抑えていた。






赤ちゃんは、


「未熟児室」という専門の治療部屋で、

「保育器」の中に入れられていた…。




細い腕に管を入れられていて、

背中には髄液を採ったんであろう


痛々しい痕があった…。





赤ちゃんは、生まれてから5日間は、


産婦人科医院に入院して、

そこを退院したら、


今度は2日間で総合病院に入院した。





俺は、赤ちゃんの痛々しい姿と、


病気と闘っている姿を見て、

心がえぐられるように苦しかった……。





せめて、

「無菌性髄膜炎じゃないように!」

と祈ることしかできなかった。






同時に、赤ちゃんに、

「ごめんな。」

って言っていた。





妻の実家の環境が、


想像以上に悪かったことを知った時点で、

俺が赤ちゃんを連れ戻していれば、

こんな病気にならなかったんじゃないか?



っていう思いが、


どうしても頭をよぎっていた………。



翌日の仕事で、

たまたま妻の実家のある町に寄った。





やっぱり、赤ちゃんが心配だったから、

その日は、そのまま直帰することにして、

俺は、妻の実家へ寄ることになった。








お昼頃のことだった。




妻から連絡があった。



その声は、明らかに動揺していた。




赤ちゃんの様子がおかしいらしい…。



熱が下がらない。


嘔吐がある。


ミルクを飲まない。


機嫌が悪く、泣いている。






俺は、すぐに病院へ連れて行くように指示した。






どういうわけか…、

妻が赤ちゃんを病院へ連れて行かないで、

妻の両親が病院へ連れて行ったらしい…。





妻は、何をしていたのか…?



妻は、実家で休んでいたらしい…。







そんなこととは知らず、

俺は、赤ちゃんの容体を心配しながら、

仕事をしていた。





すると、妻から電話があった。





なんと…。

赤ちゃんは、そのまま入院したらしい……。





妻の説明では、全く状況がつかめない。



詳細は分からないけど、

とにかく、赤ちゃんが緊急入院したことだけは、

事実らしい…。


そして、妻の両親が、病院にいるらしい…。





俺は、仕事を途中で切り上げて、

直接、妻から話を聞くために、

妻の実家へ行った。





すると、妻の実家には、

妻の姉の子どもがいた。



そして、赤ちゃんの布団の上に、

その子どもがカブトムシを乗せて、

遊んでいた……。





妻は、その様子に何も感じないのだろうか?





「虫をどかせなさい。」



俺は、その子どもを叱りつけた。





妻は、平然としていた…。



なんて無神経な女なんだ…。


だから、赤ちゃんが入院したんじゃないのか?


こんな環境にいたんじゃ、赤ちゃんが危ない…。




赤ちゃんの寝る布団に、

汚れた服を着た子どもがいて、

しかも、昆虫を乗せて遊んでいる…。



それを平然と見ていて、何も感じない妻…。





俺には信じられない光景だった…。





もはや、俺は、妻から細かい説明を


聞く気も失せていた…。






とにかく、俺は、そのまま妻を連れて、

赤ちゃんの待つ病院へ急いだ………。



赤ちゃんと妻と上の子どもを、


妻の実家へ送った翌日、

おふくろが田舎へ帰って行った。






妻は、妻の実家で産後の休養をしているから、

俺は、仕事に専念できるはずだったけど、

前日の妻の仰天行動があったので、

赤ちゃんの健康状態が、


どうしても気になっていた…。






実は、気になっていることが、あと一つあった。





まだ、赤ちゃんの名前を決めていなかった……。



妻と俺は、それぞれ姓名判断の本を見ながら、

お互いに良い名前を考えて、


メールや電話で教えあって、


あーでもない、こーでもないと、


比較し合っていた。





そうやって名前のこともあったから、

ちょうど赤ちゃんの様子を聞くことができた。





妻によると、


赤ちゃんは、ちょっとミルクの飲みが悪いらしい…。






そうそう、妻は、母乳が出なかった……。




上の子どものときも、母乳が出なかったらしい…。






ミルクの飲みが悪い…。



大丈夫なんだろうか……?







その晩のことだった。





赤ちゃんが熱を出したらしい…。



ミルクを吐いたらしい…。







やっぱりか!


どうしてくれるんだ!



と思ったけど、そうは言わなかった。






俺は、赤ちゃんの様子を聞いて、

妻から病院へ電話させることにした。



妻は、赤ちゃんが生まれた婦人科医院に

電話して相談した。






結局、その晩は、様子を見ることになった…。






俺は、イヤな予感がしていた……。