3代目「特許翻訳の世界」 > 通訳翻訳ジャーナル連載「翻訳さんぽみち」
> 「翻訳会社vs.翻訳者」-2000年3月号
復刻シリーズです。
※小見出しは、2000年当時『通訳翻訳ジャーナル』での掲載時に編集部で付けて下さったものをそのまま使います。
翻訳者は翻訳会社にとって つい先日、アメリカの特許弁護士が発行しているニュースに、日本から出願された米国特許に見られる奇妙な文章についての記事が出ました。 低価格化がもたらす もうひとつ、予算について、不景気を理由に翻訳にかけるコストを大幅に削減した企業が少なからずあるようです。でも、多くの場合は数を減らすのではなく単価を落としてコストを削っています。そして、これを逆手に取って低料金で営業攻勢をかけ、業界全体の品質低下と価格破壊を引き起こしている翻訳会社も出ています。
特急加算の問題 同じように感じているのは私だけではないだろうと思って調べてみると、事態は私が考えていた以上に深刻でした。まず、翻訳者が発注側の対応に疑問を持っていることで最も多いのは「特急加算」に関する問題です。 |
【2017年の目線から】
上の記事は2000年の今頃に書いたもので、かれこれ17年を経ています。
17年を経た今からすれば表現や洞察の甘さが目につきますし、決して綺麗な文章とは言いがたいのですが、あえて引っ張り出してきたことには理由があります。
新弁理士法の施行で「弁理士報酬額表(特許事務標準額表、料金表)」が廃止されたのが2001年でしたので、2000年は弁理士報酬額表に沿った単価設定がなされていた時代です。
当時、私は十数カ所の取引先と付き合っていて、そのうち翻訳会社は3社、企業知財部が1社、大学が1つで、残りはすべて特許事務所でした。
そして少なくとも私のクライアントは、上にあげたような無理な要求は、してきませんでした。
このため、上の記事は運営していた会議室などを通して知り合った方々からの「二次情報」でしかないのですが、ただ、相当数の方々が出入りしていましたし、オフ会もわりと頻繁に行っていましたから、業界の中に荒れた側面があったのは事実でしょう。
・・・・・ところが、です。
17年前と比べて翻訳業界がどうなっているかというと、「悪化」しているとしか言えない印象を拭えません。
特許翻訳でいえば、2000年はいわゆる「ロンドンアグリーメント」が翻訳業界事情を大きく変えていった境目の年でした。
また、17年の間に、誤訳訂正の制度ができて施行された国もいくつもあります。
1994年から商用利用の始まったインターネットは、2000年以降はブロードバンドの登場で一気に浸透し、Windows NTがなくなり、文字がユニコードになったのも、同じ時期。
そしてさまざまなソフトウェアが雨後の竹の子のように、登場しました。
まさに時代が大きく変化しつつある時期で、とうとう昨日「翻訳メモリ利用、著作権はどうなる?」で言及したような側面も、出てきています。
誤解のないように添えておくと、現在でも、少なくとも私のまわりの特許事務所は、当時と同じかそれ以上の単価で仕事を外注しています。
質問などへの対応も、電子メールが普及したなどの理由で、昔よりお互いやりやすくなりました。
ですので、すべてが「悪化した」わけではないことは、わかっています。
わかっていますが、こうしてあらためて昔の状況を掘り出してきてみると、考えさせられることが多くあるのも、そのとおりではないかなと。
ただし、現状に対する否定や批判の意図は、皆無です。
ゆうべ「続・できることが増えて、よかったね」で書いたように、「ない」を指摘するのは簡単とはいえ、それだけではあまり意味があるとは思えない。
現状の業界を「翻訳会社が翻訳者から利益を搾取している」といった感じでとらえている翻訳者たちもいるのは事実ですが、翻訳会社には翻訳会社なりの理由があり、もっといえば、元請けになっている企業には企業なりの言い分が、あるはずなのです。
それが客観的に見てどうなのかは別にして、それぞれに、自らは正当だとする理由がある。
もっといえば、「○○だから、そうせざるを得ない」「○○だから、仕方がない」も、相当数で隠れているでしょう。
この「○○だから、仕方がない」が、本当に、そうなのか。
ほんの少し発想を転換すれば、関わる人すべてにとってプラスになる「違う方法」が、あるのでは?
こうしたことを考え、探していこうとしています。
これが、決して綺麗な文章とは言えないと自分で思いながらも、あえて引っ張り出してきた理由です。
■関連記事
「○○だから、仕方がない」は、本当か?
翻訳会社vs.翻訳者-(2)