よろこび製造所へようこそ!
相模の風THEめをとのダンナ
いしはらとしひろです。
【お知らせ】
11月22日には私のグループ 相模の風THEめをとの
配信ライブがあります。
詳しいお知らせはこのページの下部に。
さてさて。
今日は「さあ デューク」の最終話。
そのキャリアの終盤から亡くなるまでの間、彼はどんな夢を持っていたのでしょうか。はたまたそういうものは既に失っていたのか?
ここまでのあらすじ
1960年代に活躍した、ジャズのピアニスト、アレンジャーのデュークピアソンさんの霊が、僕の前に現れた。恒例のジャズマン霊。
彼はなんと音を出したいという。しかもピアノで。
早速僕はリハーサルスタジオを予約し、ピアソンさんの霊と話をしながら、スタジオへ向かう。
いよいよスタジオに入り、ピアソンさんにピアノを弾いてもらおうとしたら、まさかの「霊だから実体であるピアノは弾けない」と言われ呆然。しかし、いしはらの不用意な一言から、ピアソンさんに体を貸す羽目に。いしはらの体を借りたピアソンさんは、思う存分にピアノを弾きまくる。
いしはらのリクエストにも応え、過去の自分の名曲を弾くピアソンさん。
そして録音や曲にまつわるエピソードも。アレンジャー、プロデューサーとしての矜持も聞かせてくれて、その見識にもうなずくいしはら。
ピアソンさんの音楽に潜む、繊細さと、音の太さ、黒さを、アルバムごとに話をしながら盛り上がる二人。
では、最終回 どうぞ!
勝手に妄想ジャズストーリー④
さあ デューク 第五話 最終回
ところでピアソンさん、なんでブルーノートをやめちゃったんですか?
「なんでと言われても。私も辞めたくて辞めたわけではありません。
フランシス・ウルフが亡くなって、ブルーノートが本拠をロスアンゼルスへ移した時、経営陣も大幅に変わりました」
「なるほど、上が変わると色々影響出ることありますよね」
「そこまで、ブルーノートの売り上げは下降線を描いていたわけです。音の方を仕切っていたのは、ほぼ私でしたから、つまりはデューク・ピアソンが戦犯だ、と思われたのではないでしょうか。要するに辞めさせられたんです」
そうだったのか。でも、確かに素晴らしい音作りが、イコール売り上げにつながるとは限らない。ピアソンさんは素晴らしい音楽を作るけれど、商売人としての才覚はあんまりなさそうだ。
「そういう意味ではクインシー・ジョーンズは素晴らしいですね。良質な音楽と売り上げとをどちらもモノにしていたのですから。
まあ、彼は私の3倍くらい働いていましたからね。そこも大事なところ。私はちょっと体も弱かったので、仕事量自体もそこまではバリバリできなかったし」
「クインシーさんも素晴らしいですが、ピアソンさんの素晴らしさだって負けちゃいませんよ」
「まあまあ、音楽は勝ち負けではありませんから」
うーむ、クインシー・ジョーンズも僕は好きだけれど、彼の大成功ぶりを70年代以降のピアソンさんにも分けて上げたい。失礼かな、そんなこと思うの?
「やめる時、まあ、ここからは下り坂かもな、とは思いました。自分が流れから取り残されているかも、と自覚するのは結構怖いモノです。でもね」
「でも?」
「下り坂と分かっていても、その道を進んで行かなきゃいけない時もありますからね」
しかしブルーノートをやめる時点で、そんなことを思っていたのか。でも、まだ30台後半。老け込む歳ではないじゃないですか。
「時代もいわゆるクロスオーバー・フュージョンに向かっていて、それも今ひとつ私にはピンとこないスタイルでしたし。でも、一番大きいのは、ああ、何かが終わったんだな、と自分で思ってしまったことかもしれませんね。」
そんな、ピアソンさん。
ピアソンさんはその後、自分の故郷のアトランタにあるクラーク大学で音楽の教鞭を執る。音楽の現場の仕事としては、ジョー・ウィリアムスなど何人かのシンガーの歌伴をやっていたことくらい。
その時だってきっと幸せだったと信じたい。
でも1960年代に残したピアソンさんの、きらめくような音作りを知っている僕は「その先」にあったはずの音楽も聴いてみたかった。
「私は多発性硬化症を患って死に至りました」
「はい」
「この病気についてご存じですか?」
「いえ、名前だけしか」
「私も自分の症状でしか語れないのですが、私の場合、視覚障害、運動障害、という形で症状が現れました。つまりはピアノが弾けない。楽器が演奏できない状態がしばらく続いて、そのまま寝たきり」
僕は返す言葉もない。
「でも私はもっと音楽を作りたかった」
「そうですよね」
頷くだけしか、当たり障りのない返事しかできない自分が腹立たしい。
あ、そうだ。
「ピアソンさん、ちょっといいこと思いつきましたよ」
「なんでしょうか?」何を言い出すんだ、この男はという顔で僕を見る。
「さっき、3時間以内なら体を貸しても大丈夫、とおっしゃいましたよね?」
「ええ、でも絶対大丈夫かどうかはなんとも。でも、多分」
多分か。まぁいい。
「ピアソンさん、これから僕の家に行きましょう。そこであなたに体を貸します。今はコンピューターって便利なもので、一人でも音楽作れちゃうんですよ。
もちろん素晴らしいプレーヤーと一緒にやってたピアソンさんには、物足りないかもしれません。でも、一人でアンサンブルも作れちゃうんです。ちゃんと音源として残せるんです。やり方は僕がお教えします。そして体を貸します。そこから3時間以内にあなたの音楽を作ってください」
「いしはらさん………いいんですか?もし私が音楽に夢中になって3時間経つのに気がつかずにいたら、大変なことになるのですよ」
「えーっと。そこは気をつけていただくとして。すいません、僕のエゴなんです。ピアソンさんが今作る音楽をどうしても聴きたくて」
「いや、私の方こそエゴの塊です。もうとっくに死んだというのに、まだ音楽を作りたいだなんて」
「いいんですよ、ピアソンさん。だってあなたは天才ですから。世に天才は何人かいるかもしれませんが、僕が体を貸してでも続きを聴いてみたいのはあなただけですから」
「ははは」力なく笑うピアソンさん。
「私はそこまでの男じゃないって。買いかぶるのもいい加減にしてくれ。それに私のエゴで君の命を奪うことにもなりかねないんだ。まっぴらごめんだよ」
聞いているうちに何かが僕の中でムクムクと膨らんでいく。
「なんだよ!」思わず大きな声が出る。
ちょっとビクッとするピアソンさん。
「さっきは自分がピアノを弾きたいってだけで、オレに断りもせず勝手に体を乗っ取ったじゃないか」
「そ、それは」
「いいんだよ、あんたの音楽が聴きたいだけなんだ。デューク・ピアソンの音楽をもっと聴きたいだけなんだ。オレの勝手な都合なの」
「いしはらさん、落ち着いて」
「だからさ、つべこべ言わずにオレの家に来いよ。オレの体を貸すから、オレが向こう側に行く前に、3時間以内にあんたの素晴らしい音を形にするんだ。あんたなら簡単だろ?そんなこと」
唇をかんでうつむいてしまうピアソンさん。済まない、今のオレ変だ。でも止められないんだ。
「それで、少なくともあんたとオレはハッピーになる。オレとあんたのエゴは満たされるんだからいいじゃないか」
ピアソンさんは顔を上げた。
「やれやれ。わかりました。分からず屋の偏屈同士が顔を合わせていたって訳ですね。考えてみたらありがたい申し出だ。行きましょう、あなたの家へ。甘えますよ、あなたの気持ちに」
スタジオから僕の家まで30分。電車に乗っている間、ピアソンさんは音楽の構想を練っているようだった。彼の邪魔をしないよう、話しかけたりもしなかった。
家に帰るなり、音楽部屋に案内してDTMソフトを立ち上げ、コンピューターや機材の使い方を説明する。そして僕が向こう側に行ってしまわないように、2時間45分後の午後7時に目覚まし時計をセットする。
「さあ、どうぞ、ピアソンさん。僕の体をここからレンタル致しますので、どうぞご自由にお使いください」とエラそーに目の前の彼に告げる。
ピアソンさんは、にやっと笑ってうなづく。
体の奥の方で何かがぐるっとねじれるような感覚がした。それが上の方に来て、視界がぐるっと一回転した。そして脳みそを誰かに掴まれて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような。
「うわーーーーー!」と声を出したような気がして………僕は気が遠くなる寸前に思ったよ。ピアソンさん、頼むぜって。
目が覚めたら、室内は真っ暗だった。パソコンだけが皓々と光っている。机に突っ伏して寝ていた、というか気を失っていたようだ。僕は僕に戻っている。僕の体内にも、近くにもピアソンさんはいない。そして僕は生きている。
目覚まし時計を見ると、もう午後8時だ。あれ、目覚ましをセットしたはずなのに。目覚ましベルのスイッチを見ると切ってある。ははぁ、ピアソンさんが切ってくれたんだ。
パソコンの画面を見る。曲はちゃんと録音されているようだ。6つほどトラックを使ったようで波形が綺麗に並んでいる。曲の長さは3分18秒。この演奏時間で3時間の作業。6トラックなら、相当早い。
「やったね、ピアソンさん」
ちゃんと曲名も打ち込んである。もちろん日本語で。
「さあ、デューク」だってさ。おいおい、スティービー・ワンダーがデューク・エリントンに捧げた曲のもじりかよ。今時このネタの意味、分かる奴いないなぁ。
パサッと紙が落ちた。拾ってみると手書きの文字が書いてある。
「無理を言ってしまったね。2時間40分でできたよ。君を死なせたらシャレにならないからね。曲名はこれからも作り続けるぞ、って言う気持ちを込めてつけた。ここからだ」
ここからって、まだ来るつもりですか?ピアソンさん。あるいは僕みたいなおっちょこちょいを見つけて、体を乗っ取るつもり?まぁ、でも創作意欲に溢れる幽霊なんてのは、世のためになるのかもしれないな。大歓迎だ。
さあ、デューク。行きましょう、ここから。
僕はカーソルを曲の先頭に戻して、リスニングスタートのボタンを押した………。
了
五回にわたってお送りした、デューク・ピアソンさんの物語。
この物語を読んで、少しでもピアソンさんの物語に興味を持ってくださったら嬉しいです。
最高にセンスの良い格好いい音をちりばめまくって。
でも、今はさほど評価もされず、記憶にも残らず。
もちろん音楽の世界には彼の音楽意外にも、素晴らしいもの、たくさんあります。
でも、デューク・ピアソンの音楽がない世界は、僕にとってはかなり味気ない。
そんな想いが、死して長い年月が経つ彼を、無理矢理呼び起こして、新曲?まで作らせてしまいました。
妄想のしがいがありました。この方は。
素晴らしい音楽家のことを書けて幸せです。
勝手にジャズ妄想ストーリー
その1 「モブ霊~心優しきサック奏者ハンク・モブレイとの会話」は こちらから読めます。ブルーノートを代表するサックス奏者の優しさ
その2 「野生の緑~グラント・グリーンのしつこい魅力」は こちらから読めます。 最高のグルーヴを聴かせるギタリストの物語
その3 「遺作なのにエロいってどういうこと!?~アイク・ケベックのたくましさ」は こちらから読めます。 彼は『男』だ!骨太の音と山あり谷あり人生。
【相模の風THEめをと情報】
相模の風THEめをとの映像はこちらから見られます
11月22日(日) いい夫婦の日
相模の風THEめをと結婚14周年記念ライブ!
久々のリアルライブ+有料配信ライブ
相模の風THEめをと と最高の音空間を楽しもう!
11月22日(日) 18時30分よりツイキャスにて配信
有料配信のお申し込み方法
料金 2000円
☆有料配信はリアルタイムでご覧になれるほか、
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ライブ当日から12月5日まで観覧可能です。
何度でも見られます。
今回はツイキャスから配信します。
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