体を乗っ取ってまで弾きたかった人~さあ デューク 第三話 | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録

よろこび製造所へようこそ!

相模の風THEめをとのダンナ

いしはらとしひろです。

 

【お知らせ】

11月22日には私のグループ 相模の風THEめをとの

配信ライブがあります。

詳しいお知らせはこのページの下部に。

 

 

さてさて。

勝手にジャズ妄想ストーリーの第4編め。

僕の大好きなジャズピアニストのデューク・ピアソンさんの物語です。

最高にセンスの良い曲を作る人なのです。

しかも昭和感もある!でも古くさくはありません。

今聴いてもエバーグリーンな曲たち。

そんなピアソンさんの物語。

 

ここまでのあらすじ

1960年代に活躍した、ジャズのピアニスト、アレンジャーのデュークピアソンさんの霊が、僕の前に現れた。恒例のジャズマン霊。

彼はなんと音を出したいという。しかもピアノで。

早速僕はリハーサルスタジオを予約し、ピアソンさんの霊と話をしながら、スタジオへ向かう。

いよいよスタジオに入り、ピアソンさんにピアノを弾いてもらおうとしたら、まさかの「霊だから実体であるピアノは弾けない」と言われ呆然。しかし、いしはらの不用意な一言から、ピアソンさんに体を貸す羽目に。いしはらの体を借りたピアソンさんは、思う存分にピアノを弾きまくる……

 

では、続きをどうぞ!

 

さあ デューク 第三話

 

「ローカーさんの切れ味のいいドラムが、よりいっそうピアソンさんのピアノのかっこよさを引きだしていますよね」

お互いを熟知していて、でも予定調和には収まらない瞬発力もある演奏。スリルとリラックスが同居しているアルバムなんて、そうそうない。

 

 この会話の間中、ピアソンさんの姿は見えず、脳内に声だけが聞こえる。なにせ体を乗っ取られているので。自分の声もどこか別なところから出ているみたいで、不自然なことおびただしい。でも、ピアソンさんに目の前で、というか同体で(?)ピアノを弾いてもらえるなんて普通だったらあり得ないことなのだから、もうちょっと弾いてもらおうかな。

「ねえ、ピアソンさん。リクエストしていいですか?」

「そうですね、せっかく体をお借りしているのだから、それくらいはもちろん」

「あ、録音もしていいですか?」

「いいですよ」

 僕はアイフォンを録音モードにして、ミキサーの上に置いた。こりゃ宝物じゃないか。ふふふ。

「ピアソンさんの曲で好きなのたくさんあるんですけど、スウィート・ハニー・ビーが最初に好きになった曲なんです」

「おおお、懐かしいですね。あの曲の入ったアルバムジャケットは………」

 照れたような声のピアソンさん。

「ええ、ピアソンさんと奥さんでしょ?」

「ふふふ」

「照れなくたっていいじゃないですか。可愛い方ですよね、ベティさん。あのジャケットはなんかピクニックにでも行って撮ったみたいで、とてもいい感じです」

 照れくさいのを打ち消すかのように、急に弾き出すピアソンさん。ああ、本物が僕の体を乗っ取って弾く、「スウィート・ハニー・ビー」

また、この曲のテーマメロディが可愛いんだ。可憐というか。ジャケットのイメージ通り。幸せいっぱいの音。

 アルバムのテイクではフレディ・ハバードさんを始め3本のホーンと、ピアノトリオという6人編成だけれど、ピアノだけで奏でられる、とってもシンプルな「スウィート・ハニー・ビー」音の隙間もまた気持ちいい。

 

 

 1966年12月7日のルディ・ヴァン・ゲルダースタジオの中では。

 彼女に振られたばかりのフレディ・ハバードが、ジョー・ヘンダーソンにぼやいていた。もちろん、デューク・ピアソンに聞こえないように。

「今のオレに、こんな甘いハッピーですっていうテーマを吹けって言うのかよ、チクショウめ」

「フレディ、まぁそう言うなって。甘いメロディだから、お前はちょいと辛いスパイスを振りかけてやればいいさ。隠し味ってもんだろ」と、ジョー・ヘンダーソンが返す。

「へえ、あんたはオトナだよな」

「さあ、本番だぜ」

 フレディのトランペットが、ハードボイルドに響くのはそんなナマな理由があったのだ。

 

「ねえ、ピアソンさん」弾き終わった彼に声をかける。

「この曲はきっと、奥さんのことを曲にしたんですよね。あるいは曲に託したラブレターとか」

「ま、まぁいいじゃないですか」弾き終わってもまだ照れているピアソンさん。図星だろうな。っていうか、ジャケットは笑顔の二人で、こんな甘い曲調だったらそりゃみんな思いますよ。このアルバムには夜の匂いも悲しみもない。幸せな午後の音。

「あの頃は幸せだったなぁ」

 過去形か。まぁそうだよなぁ、既に死んでしまっているし。でも、こんな絶頂期があったのだから、それはそれで良かったのでは。

「ピアソンさん、この曲、と言うかアルバム全体がそうなんですけど、この頃のピアソンさんの曲やアレンジって、妙に昭和感があるというか、凄く日本っぽく感じることがあるんです。日本にはムード歌謡なんて言われる音楽もあるんですけど、そのムード歌謡にも通じるというか。あるいはルパン三世か。ピアソンさんって日本に来たことはありますか?」

「いや、今日が初めてですよ。生きている時は一度もない」

「じゃあ日本人の知り合いは?」

「あの頃はアメリカに来る日本人も多くはなかったですからねえ。知り合いはおろか、町で見かけたのだって数えるほどしかなかったと思いますよ」

「そう…ですよね」

 ピアソンさんがマイナーなメロディを展開させる時に、折に触れて顔を出す昭和感。いわゆる歌謡曲などでは、マイナーペンタトニックという5つの音が多用されるのだけれど、ピアソンさんのチャーミングな曲にも、このペンタトニックの音は良く出てくる。

「でも、私は色々な国の音楽が好きだったし、結構ジャズ以外の音楽のレコードも聴いていましたからね。まぁ、仕事柄ちょっとは研究したというか」

 しかしこの親しみやすいテーマメロディ。しかもちょっと和風。なんで当時の日本でヒットしなかったのか不思議だ。

「日本の音楽に影響を受けたか、ということで言えば、多分ないと思います」

「なんだ、残念」

「無意識のうちにどこかで聴いて影響を受けた、ということはあるかもしれません。でも日本のものと分かって知っていたのは『荒城の月』と『スキヤキ(上を向いて歩こう)』くらいですから」

 1960年代と言うことを考えれば、まぁそういうものだろう。

 

「そろそろ、あなたの体の中から出ますね」

「ピアノ、もういいんですか?」

「ええ、たっぷり弾きましたし。それにあんまり長くあなたの体を借りていると、今度はあなたが戻れなくなりますから」

「え、どういうことですか?」

「生きた人間の体を3時間以上借りていると、人間の方が向こう側に行ってしまうのです」

「向こう側って、つまり………」

「ええ、ご想像の通り」

 マジかぁ。今、体を貸して何分経った?

「安心してください。まだ1時間ですから」

 ピアソンさんはすっと僕の体外に出た。CDジャケットでなじみ深いひょろっとした姿で。

「体の外へ出るときは、入る時ほどの変化はないんですね」

「そうみたいですね。いずれにしても堪能しましたよ。ありがとうございます」

 まだ、帰らないですよね?もう少し話しましょうよ。スタジオもまだ1時間くらいはいられますし。

「もちろんですよ。私も話し足りない気分です」

「ああ、よかった。しかし、ピアソンさんの作るメロディはどれも美メロですよね」

「私は覚えやすい、親しみやすいメロディが好きなんですよ」

「僕も同じです。でもジャズの場合、小難しいメロディやよく分からないアドリブなんかもありますよね」

「そうですね。だからこそ私は作曲や編曲が好きだったのです。バンド全体を一つにして美しい世界を表出させる」

 ピアソンさんの曲は、ハイセンスだけれど、意味不明の小難しいメロディはない。

「こう見えても、美意識ってやつは高いポジションに設定していましたので」唇の端をあげて笑うピアソンさん。そこにはプライド持っていたのだろうなぁ。

「ねえねえ、ピアソンさん。音に対するこだわりは相当強かったですよね。オレが気持ちよく弾ければ後はよしなに、って言う風には絶対に聞こえませんし」

「それはそうですよね。後にずっと残るものですし、録音は」

 でた!職人気質。いや、プロデューサー気質。

「そのメロディに対して、どのコードを当てるか、どの音をトップに持ってくるか。どの楽器にリードを吹いてもらうか、ちょっとの違いが大きな変化になって表れますからね」

 

 ピアソンさんは、1967年にブルーノートレコードの創業社長アルフレッド・ライオンが引退した後は、プロデュースなどもライオンさんに代わって手がけていた。ブルーノートでA&Rをやっていたアイク・ケベックさんが亡くなった1963年頃から、手伝い的なことは既にやっていたようなのだが。

 ライオンさんと共に創業メンバーであるフランシス・ウルフさんもプロデュースはしていたけれど、彼もミュージシャンではない。自ら現役バリバリのピアニストであり、作曲家、編曲家でもあるピアソンさんがプロデュースを手がけたものには独特の香りがある。

「それが良くなかったのかもしれませんね」

「えええ!なんでですか?僕もピアソンさんのアレンジやプロデュースを、全部聴いたわけではありません。でも、あなたのセンスで編曲されてより良くなったものは、たくさんあるはずです」

「そうだといいんですが。でも、現実問題としてアルフレッドがいなくなって、私がプロデュースを担当するようになってから、ブルーノート全体の売り上げがだんだんと落ちていったし、新しい才能の発掘もそれほどはできなかった…」

「いや、でも。60年代後半ってジャズ全体の人気が落ちていった時で、なにもピアソンさん一人のせいではないでしょう。それにあなたは、そんな中でも素晴らしい作品を作り続けていたわけですし」

「ふふふ」淋しげに笑うピアソンさん。

「たとえばハービー・ハンコックさんの『スピーク・ライク・ア・チャイルド』あのアルバムはピアソンさんのプロデュースですよね?」

「ああ、そうですよ」

「あの曲のホーンのアレンジ、あれもピアソンさんですよね?」

「よくわかりますね」

「そりゃ音の並びを聴けば分かりますよ。それにあの頃のハンコックさんは、あそこまでアレンジを決めることはあんまりしなさそうだし」

「それが良かったのかどうか」

「そんな過去の仕事を否定しないでくださいよ。あれは素晴らしいアレンジです。ハンコックさんの曲の良さとピアノのリリシズムみたいなものを、最大限に引き出しているじゃないですか。あの曲で好き勝手にホーンがアドリブしまくっていたら、少なくともあの静謐な素晴らしさは消し飛んでしまいますよ。過去のご自分の素晴らしい仕事を卑下しちゃダメですよ」

 

 

今日はここまで。いかがでしたでしょうか?

霊とは言え、本人が弾いてくれるあの名曲。そりゃ興奮しますよ。

体を乗っ取られたっていい、って思っちゃいます(笑)

ピアソンさんはピアニストとしても素晴らしいですが、アレンジ(編曲)や作曲の才能も素晴らしい人。

どちらかというと、僕は作曲家やアレンジの人としての彼に惹かれているのかもしれません。

粋、なんですよね。

ものすごいパワーで世界をひっくり返す、なんてことはないかもしれません。むしろパワーに頼らない。

でも、こんな素敵なメロディを紡ぐ人はそうそういません。

もう、大好き。

 

この続きは中一日おいて、来週の月曜日に掲載します。

お楽しみに!

 

 

※この物語は実在の人物、実在の楽曲やアルバムを素材にしていますが、全てフィクションです。

正確に言うと、事実に基づいた部分と、僕の勝手な妄想がマーブル状になっています(笑)

 

 

勝手にジャズ妄想ストーリー

「さあ デューク」 第一話はこちらから読めます

第二話はこちらから読めます

第四話はこちらから読めます

 

 

その1 「モブ霊~心優しきサック奏者ハンク・モブレイとの会話」は こちらから読めます。ブルーノートを代表するサックス奏者の優しさ

 

その2 「野生の緑~グラント・グリーンのしつこい魅力」は こちらから読めます。 最高のグルーヴを聴かせるギタリストの物語

 

その3 「遺作なのにエロいってどういうこと!?~アイク・ケベックのたくましさ」は こちらから読めます。 彼は『男』だ!骨太の音と山あり谷あり人生。

 

 

 

【相模の風THEめをと情報】

相模の風THEめをとの映像はこちらから見られます


11月22日(日) いい夫婦の日
相模の風THEめをと結婚14周年記念ライブ!
久々のリアルライブ+有料配信ライブ



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音楽は祝祭だ!

相模の風THEめをと と最高の音空間を楽しもう!


11月22日(日) 18時30分よりツイキャスにて配信
有料配信のお申し込み方法

料金 2000円
☆有料配信はリアルタイムでご覧になれるほか、
アーカイブとして2週間保存されますので、
ライブ当日から12月5日まで観覧可能です。
何度でも見られます。

今回はツイキャスから配信します。
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