しばりやトーマスの斜陽産業・続 -95ページ目

中の人などいない!『シークレット・ジョブ』

   

 実績ゼロで解散寸前の麻薬捜査班がギャングの取引現場を押さえるためにフライドチキン屋を偽装経営するも、予想以上にチキン屋が繁盛してしまい本末転倒してしまうコメディ『エクストリーム・ジョブ』の製作スタジオ、アバウト・フィルムによる新作映画。

 

 ソウルにオフィスを構える大手法律事務所に所属するテス(アン・ジェホン)はうだつの上がらない見習い弁護士でなんとか認めてもらおうと上司に媚びまくりの日々。ある日、事務所のミン代表(パク・ヒョックオン)から廃園寸前の動物園、ドンサンパークの経営立て直しを依頼される。

 ドンサンパークは英国のガブリエルというファンドが買って3か月後に100億で売却する予定なので、3か月だけ維持していればよいのだが劇的な立て直しに成功したら正規の弁護士として雇ってやると代表に約束されたテスは一 世一代のチャンスとばかりにドンサンパークへ乗り込む。

 しかしドンサンパークは赤字のために動物すら売り払ってしまう(それじゃ見せるものがないじゃない!)ほどのどん底経営で園長(パク・ヨンギュ)を含めても飼育員が5人しかいない。残っている動物も小動物ばかりで、唯一の大物であるホッキョクグマの「クロ鼻」は獣医のハン(カン・ソラ)によると心理的な病気のためすぐに暴れるので他の動物園に買い取ってすらもらえない状態。

 正規の弁護士になる夢をあきらめきれないテスは大ばくちに打って出る。それは「動物そっくりの着ぐるみを飼育員が着込んで動物のフリをすればいいんだ!」ってそんな無茶な。

 すぐバレるよという飼育員らに「動物園の檻の中にいればお客さんは先入観で動物だと思い込むから大丈夫」と適当なことをのたまうのだった。

 ハリウッド映画のスーツを制作しているというオッサンに頼んでかなりリアルなゴリラ、ライオン、ホッキョクグマ、ナマケモノ、キリンの頭部(予算が尽きてオッサンが夜逃げしたので未完成)を手に入れる。飼育員らはインカムを装備して新園長テスの指示を聞きながら偽装動物園を開園させる。

 

 まるで落語の『動物園』(グータラな男が一日一万円のバイト代に釣られて移動動物園のトラの着ぐるみを着せられる話)みたいな話である。落語では腹をすかせた男が客の子供にパンをくれといって正体がバレそうになるのだが、『シークレット・ジョブ』ではホッキョクグマ担当の前園長が閉所恐怖症に耐えかねてギブアップ。テスが代わりに着ぐるみに入るのだが、喉が渇いたのでタチの悪い客が投げ込んだコーラのペットボトルを飲んでいたら

 

「あっ!クマがコーラ飲んでる!」

 

 と見られてしまう。これでもうおしまいだと頭を抱えるテスだが、客がコーラを飲むホッキョクグマの動画をネット上にアップロードしたことから「コーラを飲むホッキョクグマ」として話題になり、ドンサンパークには客が大量にやってくる。ピンチをチャンスに変えろとばかりにテスはコーラを飲むホッキョクグマのパフォーマンスを繰り広げて大人気に。

 ドンサンパークの立て直しに成功したテスは約束通り、正規の弁護士として雇ってもらえるのだが、はじめから動物園の土地をリゾート地に転売する計画だったんだとミン代表から聞かされたテスはすっかり愛着の沸いたドンサンパークをつぶすのはひどいと訴えるが聞き入れてもらえず、計画を知った飼育員からは裏切者呼ばわりされてしまい落胆するのだった。

 

 

 という『エクストリーム・ジョブ』の製作会社らしい同じ「偽装経営」をテーマにした奇想天外なストーリーがおかしいのだが、中盤から後半にかけて完全に話がダレてしまい、序盤の勢いが持続しないのが残念。予想外の成功を収めることで本来の目的を見失ってしまうという前作からひとひねりして、本来の目的ではなかった動物園経営に目覚めてしまうという主人公像はよかったのだけど、いくらなんでもホッキョクグマしか見世物がないんじゃあ客だってそんなにこないでしょ!

 さりげなく財閥系をイジるネタが仕込まれてるのだが時事ネタに鋭い韓国映画っぽさは不滅でしたわ。

 

 

 

 

2012年3月告知

3月予定

 

3月13日(土)

『アイドル十戒 無限列車編其の三』

 

場所:アワーズルーム

開演:19:00

料金:¥1500(1drink別)

出演:竹内義和 しばりやトーマス

 

3月16日(火)

『キネマサロン肥後橋』

場所:アワーズルーム

開演:19:30

料金:¥500(1drink別)

 

3月18日(木)

『スーパーヒーロートーク』

場所:モノガタリ紅鶴

開演:20:00

料金:¥1000(1drink別)

出演: にしね・ザ・タイガー ソエジマ隊員 花鳥風月 緒形 しばりやトーマス

 

今月も盛り上がるスーパーヒーローのトークライブ!

 

3月24日(水)

『旧シネマパラダイス』

場所:肥後橋アワーズルーム

開演:20:00

料金:¥500(1drink別)

映画コメンテイター:しばりやトーマス

 

昔の深夜映画番組みたいな企画。最新テーマは未定。

また困ってもいないのに困ってるアピールか『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』

※この記事は前ブログの過去記事(2019年04月08日)の再録です


 いわゆる『壁ドン』ブームのきっかけとなり、流行語大賞も受賞した少女漫画の実写化第二弾。一作目(2014年)は恋愛・壁ドンモノの定番俳優・山崎賢人と剛力彩芽の共演が話題にもならず、興行成績4.2億という大惨敗の結果に終わり、このまま忘れ去られるかと思っていたら、まさかの続編です。
 キャスティングは一新され、ドSで壁ドンの男にはトップコートが松坂桃李、菅田将暉に次ぐ第三の男として売り出し中の杉野遥亮、ヒロイン役には『君の名は。』の上白石萌音。

 紆余曲折ありながら同居生活を続けることになった柊聖(杉野)と葵(上白石)の元にアメリカからの留学生、玲苑(演じるは『列車戦隊トッキュウジャー』でおなじみ、横浜流星)がやってくる。玲苑は柊聖をアメリカに連れ戻そうとするのだが、そのつもりがない。柊聖の家(葵との同居アパート)に押し掛けた玲苑は葵との同居生活を知り、「なんでこんな取り柄もない、カワイイわけでもない普通の女に惚れてるのかわからねえ」とずいぶん失礼なことをまくしたてる。すると柊聖は「一緒にいれば葵の良さがわかる」と。そして三者の新たな同居生活がスタートする。スゴイ。同居に至るまで一分の隙もない…完璧な筋立てだ!ってふざけるな。

 そもそも同居生活は学校にはバレてはいけない、という設定なんだが、同じアパートの隣同士で住んでる時点で怪しまれるだろ…アイドルの住んでるマンションの向かいの部屋をオフパコ野郎があっさり借りられることが大問題になっているというのに!
 モロバレの同居生活の中で反発しあっていた葵と玲苑はやがて仲良くなって、柊聖と葵がモヤモヤする関係になっていく中、玲苑は葵に惚れ始める。ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ!

 この手の少女漫画映画でもっとも腹立たしいのは、葵が二人の同居相手から迫られてどうしよう~と困ってる風を装うところ。ホントは困ってねえだろ!イケメンハーレムでウッハウハ、というのが本音のくせして何困ったフリしてんだ。『兄に愛されすぎて困ってます』のような何の取り柄もない女子が突然イケメンハーレムになるという、こじらせ女子のどす黒い本音が駄々洩れしていた漫画ですら、主人公が困ってるアピールをしていて、ゲボが出そうでした。
 童貞男子のハーレムものには虫でも見るかのような目で見下すこじらせ女子たちは、どうして自分たちのイケメンハーレムにはうれしいくせして困ってるかのようなフリをするのでしょうか。何に対してのアピールなんですか?

 本作、唯一いいところはヒロインの上白石萌音ちゃんが「なんの取り柄もない、カワイイわけでもない普通の女」を完璧に演じていることですね。上白石萌音ちゃんて、どう見ても取り柄のない、カワイイわけでもない普通の女ですからね!剛力彩芽はしょせんZOZOTOWNですから。

 

 

 

 

 

わたしが始末してやるよ!『ハロウィン』(2018)

※この記事は前ブログの過去記事(2019年04月30日)の再録です


 記念日に人が死ぬ、いわゆる記念日スラッシャー映画は『ハロウィン』(78)からはじまった。厳密にいうなら『暗闇にベルが鳴る』(74)が最初だ。クリスマス・パーティーを迎えた学生寮で人が次々殺されていく、というカナダ映画はムーブメントを生み出すようなヒットにならなかった。カナダでは有名な都市伝説をモチーフにするという、『ハロウィン』と似ていた上に、主役どころに布施明の元嫁、オリビア・ハッセ―、『スーパーマン』のロイス・レインでおなじみマーゴット・キッダーというキャスティングだったものの、記念日スラッシャーのパイオニアの地位を得ることはできなかった。
 初代『ハロウィン』はなにしろヒットした。32万ドルで制作されたものが国内だけで4200万ドルという数字だ。このヒットの後、類似作品が次々登場した。プロムパーティーに人が死ぬ『プロム・ナイト』(80)、『ハロウィン』以上の有名シリーズとなった『13日の金曜日』(80)、誕生日に人が死に、超トンデモなオチが噴飯ものの『誕生日はもう来ない』(81)、サンタがやっちゃう『サンタが殺しにやってくる』(80)、母の日に(以下略)『マザーズデー』(80)、『血のバレンタイン』(81)、『エイプリル・フール』(86)・・・

 

 もう、記念日に人が死ぬならなんでもいい!とばかりに雨後の竹の子がニョキニョキ生えていき、残すところなく刈り取られた。『13金』が笑うしかないコメディ映画に成り下がるまで10年もかからなかった。本家『ハロウィン』もリメイクを含め、10本がつくられ、今回の11本目は初代の続編(!)として制作。これまでのシリーズを全部なかったことにしてしまう、大胆な改変が行われた。
 初代『ハロウィン』で6歳のマイケルが17才の姉を殺害。精神病院に入れられたマイケルだが、担当医のルーミス医師は「彼は生まれついての邪悪だ」とマイケルに対して厳重な警戒をするよう要請するが、一笑に付される。15年後、脱走したマイケルはゴム製マスクをかぶり、生まれ故郷のハドンフィールドに戻り、ハロウィンの夜に殺害を繰り返す。女子高生ローリー・ストロードも命を狙われるがかけつけてきたルーミス医師によって銃弾を撃ち込まれたマイケルは二階のバルコニーから転落。下を覗くと血だまりだけが残され、マイケルの姿はどこにもなかった・・・

 というのが一作目のラストだが、今回の続編ではその後、マイケルは警察に捕まり40年もの間精神病院に収容されることに。
 亡くなったルーミス医師のあとを引き継ぐ医者たちによって厳重な管理がなされていたマイケルに40年前の事件を追うジャーナリストら二名が接触。40年間静かな生活を送っているマイケルだが、二人はよせばいいのにマイケルのマスクを投げつけ、
「本当は治っていないんだろう?ホレホレまたハロウィンに人殺しをしてみろよ!」
 とけしかけてくる。なんで煽るんだよ!これが引き金になったのかマイケルは脱走、「スイッチ入れてくれてありがとよ!復帰祝いにまずはお前らを始末してやるぜぇ!」とジャーナリストらをガソリンスタンドのトイレで片付ける。マイケルが帰還したのだからこの二人も大喜びでしょう。
 マイケルの脱走を受けて警察が今も健在なローリー・ストロード(シリーズ4作品でローリーを演じたジェイミー・リー・カーティスが再び熱演)の元に報告が。ローリーはおびえるどころか「あいつは必ず戻ってくると思っていたわ」とマイケルの復帰を待ち望んでいた。「マイケルを殺るのはわたしだよ!」自宅を要塞化し、銃器で武装していた。ローリーは40年もの間トレーニング(何の?)を欠かさず、自分の娘カレンにも小さいころから「マイケルが必ず戻ってくるからね!」と銃の扱いをさせていた。母ちゃんなにしてんの!
 ハロウィンが近づくごとに「もうすぐマイケルが帰ってくるからね!やってきたら鉛玉をぶち込むんだよ!」とイカれた教育を押し付けるママに反抗した娘とは長年疎遠になるのだった(そりゃそうだよ)。
 しかしマイケルは帰還を果たす。40年ぶりにハドンフィールドに悪夢が訪れた。カレンも警察もおびえまくる中、長年の悲願であったマイケルにトドメを刺す夜がやってきた!とローリーは復讐の炎をたぎらせる。しかしマイケルが最初に狙ったのは孫娘のアリソンだった・・・!

 記念日スラッシャー映画のパイオニアがまさかのリベンジホラーになって生まれ変わったのは、スタッフの慧眼だと思う。ジェイミー・リー・カーティスは60過ぎとは思えない引き締まった肉体で要塞警察ならぬ要塞自宅でマイケルを迎え撃つ。娘カレンに孫アリソンも加わって親子三代の復讐大戦の幕が切って落とされる。これが2010年代のハロウィンだ!
 何もかもが最高なんだけど、日本ではなぜかハロウィンとは離れすぎた4月に公開されてるの。GWにハロウィンかよ!イカレてるな!

 

 

 

 

 

キン・ザ・ザ逝去

※この記事は前ブログの過去記事(2019年04月07日)の再録です

ロシアカルト映画「キン・ザ・ザ」監督、死去
https://jp.sputniknews.com/russia/201904056103904/

 ロシアの映画監督ゲオルギー・ダネリヤが88歳で死去。日本では平成元年(!)の89年に公開された不条理カルトSF『不思議惑星キン・ザ・ザ』が有名。僕もこれしか知らない。

 1986年のソビエト連邦。この年の暮れには同国が生んだ偉大な映画監督、アンドレイ・タルコフスキーが亡命先で死亡。旧ソ連のSF映画『惑星ソラリス』の巨匠が亡くなった年に公開された『不思議惑星キン・ザ・ザ』は1570万人を動員し、共産圏の国民は第二のタルコフスキーの誕生と絶賛したのであった…(想像)


 パンとマカロニを買いに出かけた妻子持ちの男ウラジミールは店先で出会った学生ゲデバンに「あそこに自分は異星人だという男がいる」と声をかけられ、裸足の異星人に声をかけると「この星のクロス番号を教えてくれ」「位置がわからないと帰れない」と話しが通じない、男の持つ瞬間移動装置にうっかり触れてしまったウラジミールとゲデバンはキン・ザ・ザ星雲の惑星プリュクに放り出されてしまう。
 あたり一面砂漠の惑星で銅鐸型の飛行船から降りてきた、「クー」「キュー」としかいえない異星人ウエフとビーに出会う二人はなんとかして地球に帰ろうとする。

 見た目は全員薄汚いオッサンだらけ(たまに女性もいる)の異星人は階級ごとに身分分けがされ、身分ごとに挨拶は二回しろだとかルールにうるさく、階級が下の人間に対する差別は異常に激しい。ウラジーミルたちはツァークという身分の低い人間であることを表す鈴を鼻につけさせられる。この星で貴重なカツェ(マッチのこと)を持っていることがわかると異星人はあの手この手でマッチを手に入れようとし、時には地球人を騙してでも奪い取る。
 
 異星人たちは利にさとく、身分が下の人間を平気で見下す。身分が上だという人間の証明は黄色のステテコを穿いているかどうか!
 楽園のようなアルファ星の住人だが、「異星人は不幸な存在で空気が汚れるからマスクをしろ」という。何様な態度にウラジミールたちは真っ向から反発する。

 これはダネリヤ監督が国家の検閲を逃れるための描写であり(意味不明な言語や奇妙な造形はそのためである)、ソビエト連邦への強烈な批判であったといわれている。ウラジミールたちは彼らに騙され、見捨てられても彼らを助けようとする。
 変なオッサンたちが「クー」「キュー」いうだけの奇妙に可愛らしい映画のイメージからは想像もできない国家批判が隠されていたのであった。当時の政府がこれに気づいていたかどうかは知らないが、国民は熱狂的に支持。その5年後に連邦は崩壊するのであった…クー!