てれびくん方式を避けろ パンフレットは当日売らない
いよいよ今週末から全国公開となる宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』はご存じの通り(ご存じではない人もいると思いますが・・・)どんな内容なのか公表しないうえに、予告編を流さず、公式ウェブサイトすらないという、一切宣伝しないスタイルを貫いて公開日を迎えます。
そしてこの度、劇場パンフレットすら公開日には発売しないということが告知されました(それは告知してくれるんだ)。
映画『君たちはどう生きるか』の劇場パンフレットは、上映劇場および通信販売にて、後日発売予定です。発売日は、後日当アカウントほかにてお知らせいたします。
— 東宝映画情報【公式】 (@toho_movie) July 10, 2023
▼上映劇場はこちらhttps://t.co/47ZNXl16s3 pic.twitter.com/HXy0HExcIm
絶対にネタバレしてほしくないと。これって仮面ライダーの新フォームが「てれびくん」の画像が流出して先にバレちゃう、みたいなのを避けようとしているんだな。
ここまで徹底して内容を隠しているのは、最近の映画は事前に情報が公開されすぎており、観客には真っ新の状態で映画を観てもらいたいという鈴木Pの鉄の意志によるもの。
確かにそういう面はある。直近だと『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』なんて自信満々でカンヌ映画祭お披露目したものの、評論家の意見がボロクソで、公開する前から駄作ということが伝わって、それに影響を受けたせいか興行が下降線を辿っている。今思えば完全に秘匿しておけばよかったのに・・・まあ隠そうが隠すまいが、駄作ということには変わりはないんだけど。
そう考えるとここまで『君たちはどう生きるか』を秘匿にしているのは、ひょっとしたら内容に自信がないのかも・・・などというオタクのしょうもない憶測を吹き飛ばす傑作なのを期待して、公開初日に僕は駆け付けますよ!君たちはどう初日を迎えるか!?
2023年7月予定
7月予定
7月8日(土)
『アイドル十戒 デッドレコニング Ⅰ』
場所:アワーズルーム 開演:19:00
料金:¥1500(1d別)
出演:竹内義和 しばりやトーマス
新世代アイドル考現学の新章。すべてが今、繋がっていく。
7月11日(火)
『旧シネマパラダイス』
会場:アワーズルーム
開演:20:00
料金:¥500+1d別
解説:しばりやトーマス
カルトを研究する若人の会。今月はまもなく日本版リメイクが公開される台湾映画『1秒先の彼女』。
何をするにも「1秒早い」彼女が消えた一日を探し求めるミステリアスなラブストーリー。
7月15日(土)
『僕の宗教へようこそ第一六四教義~土曜ロードショー第三十八幕』
場所:アワーズルーム 開演:19:00 料金:¥1000+1D別
出演:しばりやトーマス アシスタント・トモ
遂に完結!インディ・ジョーンズシリーズまとめ&見てきたばっかりの『君たちはどう生きるか』感想大会
7月19日(水)
『スーパーヒーロートーク』
場所:なんば紅鶴
開場:21:00
料金:¥1000(1d別)
出演:にしね・ザ・タイガー ソエジマ隊員 しばりやトーマス
7月25日(火)
『キネマサロン肥後橋』
会場:アワーズルーム
開演:19:30 ¥500+1d別
解説:しばりやトーマス
※終了後にYouTube収録アリ
深夜の映画番組風の映画研究会。追悼・上岡龍太郎『ガキ帝国』を大研究。
大阪万博が迫ろうとする大阪ミナミで喧嘩に明け暮れるヤンキーたちの青春物語。
万博なんかクソくらえじゃ!
禁欲万歳!健康にはカンチョウだ!『ケロッグ博士』
アマゾンプライムで故アラン・パーカー監督のブラックすぎるコメディ『ケロッグ博士』が配信されていたので観た。ケロッグ・コーンフレークを開発した(今日伝わっているコーンフレークは弟のウィルが考案したんだけど)ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ博士が院長を務める療養所で博士が提唱する特殊な健康法に振り回される患者と療養所の顛末を描いている。
1900年代初頭。ミシガン州のバトルクリーク療養所を開設していた医学博士ケロッグ(アンソニー・ホプキンス)はそこで独自の理論に基づいた健康法を患者たちに実践させていた。そこに二人の夫婦が患者としてやってくる。ウィリアム(マシュー・ブロデリック)とエレナ(ブリジット・フォンダ)のライトボディ夫妻だ。ウィリアムは青白い顔で療養所に向かう列車の中でもまともにものが食べられず、水と何も塗ってないトーストしか口にできず、嘔吐を繰り返す。実はアルコール中毒でセックス中毒のダブルパンチに苛まれていて、ケロッグ博士の健康法を信奉している妻エレナに強引に連れて来られたのだ。
ケロッグに舌を見られただけで車いすに乗せられるウィリアム。「車いすなんて死にかけの老人しか乗らないよ!」と抗議しても「あんたは死にかけですよ!」と聞く耳持たず。夫婦は離れた部屋に入院させられて、日中会うこともできないのが不満なウィリアム。
看護婦グレーブス(トレイシー・リンド)を宛がわれたウィリアムは博士の健康法のひとつである浣腸をさせられる。一日に五回も!博士の健康法は肉を食うな、浣腸をしろ(便を見れば健康かどうかわかる)、性欲を持つな!の三つ。だから病院食として植物性のグラノーラを食べさせていた。
ウィリアムは毎日浣腸、博士考案の健康器具(ランニングマシーンの原型みたいなやつ)を強制させられ、電気風呂に入れられるが、その様子はほとんど拷問。一方エレナはミルク風呂に漬かっていた。
博士は極端な禁欲主義を貫いていて、「勃起すれば命の危険!」を提唱してセックス中毒のウィリアムが勃起する度にお怒り。こんなこと言うと禁欲を患者に押し付けて、裏ではやりまくってたんじゃないの?と思われそうだが博士は自分自身も禁欲主義を貫いてマスターベーションすらしない!(その代わりにセルフ浣腸をしている)何しろ奥さんとも性交渉しなかったぐらい!博士は生涯42人の孤児を育てたという。そのうちのひとりジョージ(ダナ・カーヴィ)は療養所で働いているけど、どうしようもないボンクラ役立たずで親父から金をせびることしか知らない。ジョージは汚い身なりでやってきて、ミルク風呂に漬かってるエレナをレイプしようとして追い回される。
ジョージは子供のころから変わり者で、上着をいつもその辺に捨ててしまうので、博士はしつけとして「外から帰ってきたら上着はきちんとフックにかけろ」と𠮟り、できるようになるまでメイドに見張らせる。朝から夕方までやってろ!というとジョージは延々とみんなが寝ている深夜までそれを繰り返す!おそらく一種のアスペルガー症候群の様なものだと思われるが、そんな病名も理解されてなかった時代なので、ジョージは博士からイカれた役立たず扱いされている。
映画には描写されてないが、当時の無茶苦茶な社会を証明するのが博士の弟、ウィルの幼少時のエピソード。ウィルは視力が弱かったというだけで将来はロクな人間にならんだろうと言われ、まともな教育を受けさせてもらえなかった!だから療養所でグラノーラを作る仕事だけをさせられていたのだが、博士は何の役にも立たんお前も使ってあげていた、とイイことをしているつもりだったのがキツイ。その過程で偶然コーンフレークを開発したウィルは商品化してビジネス展開しようとしたが、博士は医学博士を名乗る人間が商売なんてできん!と商品化をずっと拒んでいた。
療養所が火災で焼失すると、ウィルは再建のための札束を手渡した。コーンフレークの商品化権利を手放すことと引き換えに(ウィルはコーンフレークのレシピで銀行の融資を受けていた)。その時も博士は
「役立たずのお前がビジネスで成功するものか。一年で会社はつぶれる!」
と、金を受け取りながら吐き捨てた。どんだけ弟のこと嫌いなの?
ウィルの創立したケロッグ・コーンフレーク社は瞬く間に成長し、ライバル企業を押しのけてナンバーワンに。それが気に入らない博士は「会社の名前にケロッグをつけているのは権利侵害だ」とか理由をつけて裁判に持ち込んだ。長年にわたる法廷闘争の末、ウィルが勝利し博士は表舞台から消え去るのだった。
映画におけるジョージのキャラクターは明らかに博士が差別した弟ウィルをイメージしている。ウィルは健康食コーンフレークの新会社を作ろうとする野心の塊なビジネスマン、チャールズ(ジョン・キューザック)と手を組んでコーンフレークを作るが、全くうまくいかない。
拷問紛いの治療を受けるウィリアムはエレナに家に帰ろうというが、快適な治療に満足しているエレナは相手にしない。患者友達が博士の禁欲主義をバカにして、「博士はEDで、だから禁欲しろって言ってるだけよ」と笑ってるのを見て、益々頑なになり、毛皮を着た下品なおばさんに「これは動物の血よ!」ワインをぶちまけるのだった。
次第に療養所の実態が明らかになる。酷使された部下が突然死すると博士は「そりゃあ、お前をこき使ったかもしれんが、こんなことで死なれたら療養所の名前に傷がつく」と死体を蹴り飛ばす。電気風呂のパワーを上げすぎたせいでロシア人の患者、ナナシスキー氏(誰も名前を知らないし、ロシア語が分からないので会話ができない)と機械を操作していた職員が感電死。
人が死んでも誰も何とも思わない。職員たちは安月給でこき使われているだけ。博士の極端な健康法の犠牲になっているのを見たウィリアムは禁じていた酒を飲んで大荒れ。「処置が必要だ」と博士に腸を切り取られる。一方、エレナは博士と対立している菜食主義者のライオネル・バジャー博士(コルム・ミーニィ)と「クリトリスをナデナデしたら健康になります」という謎の健康法を提唱するヴォ―ゲル博士(ノーバート・ワイザー)の疑似科学も真っ青な治療を真に受けて快感に喘いでいた。バジャーはそれを見て自慰行為に耽っている。その様子を発見したウィリアムは怒り狂う。エレナは「これは健康法なのよ!」としょうもない言い訳をする。
妻に喜びを与えられなかった夫ウィリアムは謝罪、二人は仲直りし療養所を去ろうとする。だがその頃療養所でセルフ浣腸していた博士の元にジョージが現れ、火を放つのだった。
全編にわたって浣腸、ゲロ、セックスが展開する下ネタオンパレード映画で『ソドムの市』も真っ青なこの世の地獄と思いきや、アラン・パーカーはコメディとして撮っていてあっちもこっちも爆笑の嵐。ホプキンスやブロデリックが大真面目に浣腸器や自動オナニーマシーンを装着する様に腹がよじれる。
公開当時は大不評で興行的にも失敗したそうだが、日本では我らが淀川長治先生が大絶賛し、キネマ旬報アンケートのベスト1に選んでいたので、先生、さすがです!やっぱり浣腸とかにそそられたのかな・・・最後に淀川先生の『ケロッグ博士』に関する名文を載せておきましょう。
オジサン族全員全裸で電気治療を受けての全裸のお尻のブルンブルン。これをアップ移動キャメラで見せるすさまじさ。その他オトコ、オンナの全裸にヒゲの男のフンドシ姿も続々。ウンコとカンチョウと男のあそこが立つ治療。映画美術の中に見るこのお遊び。見て見て笑いたまえ。ことし一番のケッサクよ!
ほっといたれよ!『アンナ・二コル・スミス ユー・ドン・ノウ・ミー』
テキサスのド田舎からやってきた女の子がストリッパーからモデルに転身、大富豪のじいさんと結婚して億万長者に・・・まるで漫画のような人生を歩んだスーパースター、アンナ・二コル・スミスのドキュメンタリー『アンナ・二コル・スミス ユー・ドン・ノウ・ミー』(Netflixで配信中)を観た。
1967年、アンナはテキサス州最大の都市、ヒューストンで生まれた。本名はヴィッキー・リン・ホーガン。母ヴァ―ジーは17歳で彼女を生み、保安官として暮らしたが離婚、結婚を繰り返し、育児放棄していたのでヴィッキーはメヘイアに住む叔母に預けられた。幼少時の経験で母を強く憎むようになったヴィッキーは独り立ちを目指して高校を中退、フライドチキン屋で働くがバイト仲間のビリー・スミスと出来ちゃった婚。結婚をきっかけにニッキー・スミスを名乗るように。長男ダニエルを生むが夫ビリーの束縛を嫌って生後6か月で家を飛び出す。
田舎町ではまともな勤め先が見つからず、生まれ故郷のヒューストンに戻るが生活は苦しいまま。仕方なくストリップバーで働くことに。ナイーブな性格の上に化粧もロクにしたことがないニッキーだが、先輩のお姉さんたちの指導もあってわずか二か月で店のトップダンサーに。
ストリップダンサーじゃ満足できないニッキーは「モデルになりたいの。でも、胸がないのよ」ということで豊胸手術をほどこし、1メートルのバストに拡大。この時の手術の影響でニッキーは痛み止めに依存するようになる。
人生の転機が訪れたのは1991年。ストリップバーに一人の老人がやってきた。テキサス1の資産家、ハワード・J・マーシャルだ。この年86歳のマーシャルは妻を亡くし、生きる希望すら無くしていた。運転手に勧められて立ち寄ったストリップバーでニッキーのサービスを受けた老人は忽ち蘇った。店を辞めてわしと一緒になってくれ、とプロポーズを受けたニッキーはすげなく断った。「モデルになりたいの。有名になったら結婚してあげる」「なら、わしがいくらでも応援してあげよう」
モデルとして活動をはじめたニッキーに目を付けたのはプレイボーイ誌。売り込み用の宣材写真を見たデスクはさっそくスタジオにニッキーを招く。ところがシャイな彼女はスタジオに来てもオドオドしてるだけ。しかしニッキーは一枚のレコードをもってきてこれをかけて欲しいといった。マリリン・モンローの『ダイアモンドは女の親友』(『紳士は金髪がお好き』の挿入歌)。
それをかけたニッキーは忽ち変身した・・・
このグラビアでプレイボーイ総帥ヒュー・ヘフナーのお目に叶ったニッキーはデビューグラビアで表紙を飾った。キャッチコピーは‟マリリン・モンローの再来”。‟クラウディア・シファーの再来”(どっちやねん)。そして翌年にヌードデビュー。プレイボーイ誌が考案したアンナ・二コル・スミスを名乗り、93年のプレイメイト・オブ・ザ・イヤーに選出。マーシャルのご寵愛を受け、マンハッタンの高級アパートに暮らしはじめたアンナはGUESSのモデルとして世界中を飛び回り全米の都市をアンナのポスターが飾られた。「有名になったから」マーシャルのプロポーズを受けたアンナはハリウッド映画の出演も決まった。ストリップバーからここまでわずか2年。マリリン・モンローに憧れモンローの隠し子を名乗るほどだったアンナはまさに‟モンローの再来”だった。世界は彼女のために存在していた。
しかし堕落の足音はひそかに忍び寄っていた。アンナのハリウッドデビューはコーエン兄弟の『未来は今』(1994)。役は大金持ちの愛人(笑)。同じ年に『裸の銃を持つ男 PART33 1/3 最後の侮辱』に出演。モデルのような美人だが、正体は男!過剰すぎるセクシーさがドラァグクイーンを想像させるってことなんだろう(後にバイセクシュアルであると判明したように、アンナはセクシャルマイノリティから熱い支持を受けていた)。
単なるチョイ役が関の山だった彼女にハリウッドスターへの道は開かれなかった。95年、結婚から1年1か月でマーシャルは死去。遺産を巡ってマーシャルの息子ピアースとアンナは法廷で争うことに。
生前から父と折り合いの悪かったピアースはアンナを「遺産目当ての後家蜘蛛」扱いしており、マーシャルがアンナと交わした財産分与の話が口約束だけだったことを突いて無効だと訴えた。16人の陪審員のうち13人が女性という「贔屓」にもめげず、ピアースと弁護士は裁判を戦い抜き、「口約束だけの財産分与は無効」との判決を勝ち取った。
アンナは法廷でまともに答えられず、泣き崩れたりしたが、あまりの大根ぶりに失笑が漏れた。ハリウッド映画に出てたのに。アンナの留守電に「電話をおくれよ」と寂しそうな声のマーシャルに「明日も仕事だから眠いのよ!」とにべもないアンナの態度はどう見たってまともな結婚生活があったとは思えなかった。実際、同じ家に暮らしたこともなかったという。勝てなかったのも当然か。だがこの裁判は10年に渡って続けられることになる。
裁判に負けた後、アンナはドラッグ依存症だというスキャンダルが流れ、モデルの仕事は激変。豊胸手術の影響により痛み止めが手放せないアンナは医者の処方箋を利用して数種類の薬を飲み続けていた。頂点に上り詰めた人生は再び暗転していた。
2002年。メタルミュージシャンのオジー・オズボーン一家の私生活を公開するリアリティTV『オズボーンズ』が大ヒットしていたのを受け、アンナの私生活を見せる『アンナ・二コル・スミス・ショー』が放送開始。久しぶりにテレビの前に現れたアンナはクジラの様に太っていた!いくら金持ちになってもテキサスの田舎町時代と変わらないフライドチキンばっかり食ってたらそりゃそうなるよ!
ダイエットサプリのメーカー、トリムスパが彼女に目をつけ、アンナのダイエットに協力。1年かけた結果、元のモデル体型になって登場したアンナに世間は驚いた。「あなたもアンナ・二コル・スミスのような体型になりたくありませんか?」トリムスパの売り上げは2倍に跳ね上がった。
アンナのダイエットを担当したトリムスパのトレーナーはそれ以上に痩せようとして食事を絶ち、水だけで脱水症状に陥っている彼女を死の淵から救う。彼女のドラッグ依存症に紐付けて世間は「ヤバイ薬を飲んでいたのでは?」と騒ぎ立てた。
2006年。ついに裁判でマーシャルの財産分与が認められ、再びアンナは大富豪に。数か月後にアンナは二人目の子供、長女ダニーリンを出産。相手はアンナの弁護士、ハワード・K・スターン。パパラッチに追い回される日々にうんざりしたアンナはバハマに土地を買って家族ともに移住することにした。そこでハワードと結婚する予定だと。
直後、20歳になる長男ダニエルが急死。理由は薬物の過剰摂取。ダニエルは有名になりたくてたまらない母親に比べて控えめな男だった。知人もこんなこと言ってるし。「あんな母親の子供だからああいう性格にもなるよね。学校でお前のかーちゃん、やらしいな、って言われてるだろうし」(ひどい言われよう)
ダニエルの死で失意のどん底に落ち込んだアンナは数か月後、まるで後を追うように亡くなった。ハードロックホテルの一室で倒れていた彼女は救急車で運ばれたが、病院に着く前に息を引き取っていた。全米のテレビが救急車が病院にたどり着くのを生中継するなど、アンナは死の瞬間まで世間を騒がせ、そして死後もそれは続いた。生後6か月の長女ダニーリンの父親は誰?
ダニーリンの親権(と彼女が受け継ぐ財産)を巡って様々な男が「父親だ!」と名乗り出た。ハワード、カメラマンのラリー・バークヘッド、女優ザ・ザ・ガボールの9番目の夫、フレデリック・プリンツ・フォン・アンハルト・・・ありとあらゆる男どもが目をぎらつかせアンナの遺産に手を伸ばした。本当にどいつもこいつも・・・
私生児からハリウッドスターにまで上り詰めたモンローに憧れたテキサスの少女は、謎の死を含めて本当にモンローになってしまった。
彼女の生きざまはあまりに漫画的だったから非難も浴びた。ヒューストンで貧しい暮らしをし、父親に虐待され、母親からは育児放棄。成り上がりを目指して富豪の妻に・・・
だが、のちにアンナが語った幼少時代の暮らしはそのほとんどが作り話だったと明かされた。親に虐待され、レイプされたなどという話はストリップバー仲間から聞いた話をそっくりそのまま自身の体験として伝えていたのだ。母親ヴァ―ジーの家は寝室が3つあり、2台の車が入れられるガレージを持つ中流家庭だ。生前のヴァ―ジーの肉声が残っている。
「彼女(アンナ)の幼少期が如何に惨めだったのかの話をよくしていたから、一度聞いたの。‟なぜそんなウソをつくの?”」
「彼女は言った。‟わかってほしいの。良い話をするよりも悲しい話をした方がお金になるの。誤解しないで、私の名前が出ていればお金を稼いでいる証拠よ”」
「‟お金を稼ぐことがわたしの人生の目標なの。でも悪いことで取り上げられれば、よい事で取り上げられる時よりも50倍は稼げる”」
「人にいいように思われたくないの?って聞いたら‟悪く思われて稼げるならそれでいい”」
「恥ずかしくないの?‟稼いでいる額から言えば全然恥ずかしくないわ”」
「家族である私たちは恥ずかしいといえば彼女は‟ママ、わたしの人生よ。ママの人生じゃない。わたしの伝えたいように伝えるわ。嘘でも関係ない”」
完全に割り切ってるんだ。すごいね。アンナは生涯、パパラッチに追い回され、マスコミと戦ってきた。「あなたたちを信じてたのに、裏切られたわ」とパパラッチに切れる映像が残ってるんだけど、全部分かった上での演出だったんだ!
彼女の純粋なまでのシンプルさに比べりゃ、周囲の人間の薄汚さときたらねえ。日本でも広末涼子が不倫してようがなんだろうが、どうでもいいじゃないか。彼女の人生なんだから!
サブタイトルのYou Don't Know me(あなたはわたしを知らない)とは言い得て妙だ。
中島貞夫監督追悼、『鉄砲玉の美学』
中島貞夫監督が亡くなった。享年88歳。
中島監督はKBS京都で映画番組『中島貞夫の邦画指定席』をやっていて、そこで自身の監督作『狂った野獣』を放送していた。当時ソフト化の機会がなかった(のちにDVD化)ので食い入るようにテレビを見つめた。事故を起こしてレーサーになる夢を砕かれた渡瀬恒彦が恋人の星野じゅんと宝石強盗を企み荒稼ぎ。高跳びするために恋人と落ち合う場所まで路線バスに乗るが、偶然銀行強盗に失敗した二人組が乗り合わせ、バスがジャックされる。バスジャックに巻き込まれた渡瀬はなんとかして窮地を脱しようとするが、運転手が心臓発作を起こして倒れるなど、事態は悪化する一方。渡瀬は仕方なくハンドルを握り、テストドライバー仕込みのテクニックで警察の追跡を振り切ろうとする。
珍しい和製カースタント映画で、後半のカーチェイスは渡瀬本人がハンドルを握ってえげつないスタントを演じている。ラストの人を食ったような展開といい、最高にパンクな映画で渡瀬が骨折り損のくたびれ儲けに終わる、チンピラが一世一代の賭けに負けちゃうのもアメリカン・ニューシネマっぽい主人公の敗北だった。
そんなみじめでカッコ悪い主人公の映画をやらせれば中島貞夫監督はピカイチだった。『仁義なき戦い』で東映が実録ヤクザ映画に乗り出した同じ年に公開された『鉄砲玉の美学』は中島イズムが溢れた傑作。
DVDジャケット
東映とATG提携した映画で、冒頭、大都会と飽食を貪るロクデナシどものカットに頭脳警察の「ふざけるんじゃねえよ」が鳴り響く。たまんねぇ~オープニング!
〽まわりを気にして 生きるよりゃ
ひとりで勝手きままに グラスでも決めてる方がいいのさ
だけどみんな俺に 手錠をかけたがるのさ
ふざけるんじゃねえよ 動物じゃねえんだぜ
バカに愛想をつかすより ぶんなぐるほうが好きさ
俺をじゃまするしきたりは 人が勝手に決めたもの
それでやられたって 生きてるよりゃましさ
ふざけるんじゃねえよ やられる前にやるさ
関西で勢力を誇る天佑会の構成員、小池(渡瀬恒彦)は冴えない下っ端で、仕事はウサギを扱うテキヤ。トルコ嬢のよし子(森みつる)のヒモで、彼女に依存しているだけ、達者なのは口先だけ。
西日本へ進出を目論む天佑会会長(遠藤辰雄。声だけの出演)はその足掛かりとして鉄砲玉を用意させる。兄貴分の命令で鉄砲玉にされた小池はチャカと100万円を持たされて宮崎県へ。
これでワイもいっぱしの男や!と粋がって乗り込み、歓楽街で肩で風切り「わしは天佑会の小池清やぞ!」と九州のヤクザ、南九会の傘下にある高級クラブ・アモールに乗り込み、オーナーの杉町(小池朝雄)を引っ張り出そうとする。
小池の役目はわざと暴れて、反撃されたらそれを理由に天佑会が乗り込んでくるという筋書き。しかし杉町はヤクザとしても、男としても上手である。小池にドンペリを入れて「挨拶を欠かして失礼しました。ゆっくりしていってください」と余裕の態度。宛てが外れた小池は尾行してきた杉町の配下のチンピラ(川谷拓三)をボコボコに。ところがそのチンピラをつきつけても杉町は動ぜず、袋叩きにした後で「こいつはどうにでもしてください」とドスを小池に手渡す。チャカをチンピラに突き付ける小池だが、引き金を引く勇気がない!
こんな感じで小池は根性が座ってないので結局兄貴分から渡された100万円を無駄遣いして、杉町の周辺の女たちに手を出しまくっていっぱしの大物気取りをするだけ。
その間、杉町は関西に渡って連合会と交渉を済ませる。遥かに巨大な組織を後ろ盾にした南九会に手も足も出ないことを悟った天佑会は九州進行を諦める。
そんなことを露ほども知らない小池は神が住むという霧島連山に上ろうと女たちを誘う。しかし小池がすでに落ち目であることは知れ渡っているため女たちは誰も近寄らない。
自分を神にも等しい存在と勘違いした小池が霧島に登って高みを目指そうとする様は情けなく、悲しい。兄貴分にも突き放された小池に最後まで身を寄せるのは彼が捨てたトルコ嬢だ。
「一緒に大阪に帰ろうよ。あんたのウサギ、大きくなったよ」
商売用のウサギは大きくなったら誰も飼わない。元料理人だった小池は着飾った女たちが料理を汚らしく頬張る様(冒頭の映像)に絶望してアウトローに身を投じる。大阪とウサギは彼にとって忘れたい過去の汚点でしかない。ふざけるんじゃねえよ、動物じゃねえんだぜ!わしは帰らん、霧島に行くんや!そして・・・みじめに死んでゆく。
オチが『蘇る金狼』っぽいんですが、バリバリにカッコよく決めた松田優作と違って渡瀬恒彦は本当にみじめで情けなく(そういう演技が上手いのよ)、またそういうチンピラを描かせたら日本一の中島貞夫監督なので、別の意味で印象深い。まさに『鉄砲玉の美学』!
深作欣二などが仁義を貫こうとして、滅んでいくヤクザの美学を描いているとなりで、中島貞夫監督はもっと下のドチンピラが這いずり回ってくたばる「美学」を描いていた。
太平洋戦争で死んだ父親の仇を取ろうと竹槍突いてたら終戦になり、英霊だと思ってた父親は犬死だったと知らされた中島貞夫監督の無念が映画に現れているような気がする。






