終末の唄_024
♯06
探偵の長谷が「足立かをり」の調査をはじめて、二日がたった。
長谷は調査の初日、大胆にも直接かをりの部屋を訪れた。彼はグレーの作業着を着て、黄色いヘルメットを被っていた。
「突然すみません。じつは、この近くで電話線の工事をしているのですが、その途中に、ちょっとしたトラブルがありまして――」
長谷は、かをりの部屋のインターフォンのボタンを押しながら、言った。
「はあ」と、かをりがインターフォン越しに受け答えした。
「近隣のお宅の電話が不通になったり、調子が悪くなったりしているものですから、いま一軒一軒、チェックさせていただいているのです」
「そうなんですか」
「ええ。それで――突然で申しわけないんですが、お宅の電話も少し点検させていただきたい、と思いまして。時間はほんの十分程度で終わりますので」
「そうですか。ええ、構いませんが――」とかをりがドアを開けた。
こうして長谷は、かをりの部屋のモジュラージャックの差し込み口の中に、難なく盗聴器を設置することができた。
そしてその途中、彼は部屋のレイアウトや様子を、しっかりと目に焼きつけた。若い女性の部屋にしては飾り気のない、シンプルな(どちらかというと、ストイックな、という方が正しいか)部屋だった。
長谷はかをりを騙していたにもかかわらず、作業の途中にお茶をいれてもらったり、帰りにはお礼まで言われたりして、少し気が引けた。
かをりは昼間は勤めにでているので、長谷はその間は睡眠をとったり、尾行意外の調査を進めたりした。夕方になると会社の前で待ち伏せし、それから、かをりのあとを尾行した。
彼女は本屋やスーパーに買い物に寄ったりするくらいで、それ以外は二日とも真っ直ぐに自宅へ帰った。長谷は彼女がマンションに帰ると、マンションのエントランスがよく見えて、なおかつ目立たない場所に止めてあるクルマに乗り込み、盗聴器で部屋の中の様子をうかがいながら、ひと晩中ひとの出入りをチェックするのだった。
この二日の間、かをりにはとくに変わったところはなく、彼女はいたってまともな生活を送っている、いたってまともなOLである、というのが長谷の印象だった。
あまりひとづきあいがよい方ではないのか、ひととあちらこちら出歩くわけでもないし、夜も早くに眠りにつく。決まった時間に決まった行動をとり、すべてがとてもシステマティックに、とても規則正しく流れている――彼女はそんな生活を送っていた。
長谷にとっては――あんな大金をもらってしまったわりには――ひどく楽な調査に思えた。
To be continued.
終末の唄_023
雨の音が混じった彼らの証言を聞きながら、ぼくはずっと目を伏せていた。
「それじゃあ、あなた、どうです?」と真栄田刑事が次の女性を差した。
「わたしは、被害者の――智子の、友人です。
わたしたちは仕事を終えて、いっしょに帰宅するところでした」
その女性は俯いたまま静かに、話した。手には薄いコットンのハンカチを握っている。
「そうでしたか。亡くなられた方の、お知り合いでしたか。これは、とても残念なことでした」真栄田刑事が、言う。
「わたしは智子の右隣に並んで、彼女と今日一日の会社でのできごとや、今夜観るテレビドラマの話など、とてもたわいのないおしゃべりを楽しみながらも、不快な混雑の中で早く電車がきてほしいな、と思ったりしていました。
すると、向こうの方で、何かトラブルでもあったらしく、ひどくざわついていました。わたしと智子は、何かあったのかしら? と言い合いました。
そのさわぎは、だんだんとわたしたちの方へ近づいてきました。そしてそれは、大きなボストンバッグを抱えた作業着の男が、無理やりに並んでいるひとたちをかき分けて、ホームを移動しているためだとわかったのです。
並んでいるみんなが、眉をひそめてその男を睨んでいました。もちろん、わたしと智子も同じです。作業着の男が、わたしたちのうしろを何とか無事に通り過ぎたので、わたしと智子はほっとしました。
そのとき、うしろでどさっという何か物が落ちる音が聞こえて、わたしは振り返りました。その音は、作業着の男のボストンバッグに引っかかって、彼のバッグがホームに落ちて、中の本が散らばった音でした」
彼女はそう言うと、ぼくを差した。
「そして、彼はバッグを拾おうとしゃがみ込みました。
そのとき、彼のうしろに並んでいる、犯人の男の顔が見えました。尖った傘の先を真っ直ぐにかまえたその顔は、もう人間の顔ではありませんでした。悪魔です。思い出しただけで、怖くてぞっとします……」
その女性は両腕で自分の身体を抱きしめながら、がたがたと震えだした。
「落ち着いてください。大丈夫ですよ、犯人はもう、捕まっているんですから」
真栄田刑事はなだめるように、言った。
「男は、その悪魔のような面持ちで、雄叫びをあげながら傘を振り上げると、ためらいもなく智子の背中を突き刺しました。
そして、智子は――」
彼女はそこで声を詰まらせ、手に持ったハンカチで顔を覆った。
「どうして? どうして智子が、こんなひどい目にあわなきゃならないの? 智子は、とてもいいひとよ? 悪いことなんて、生まれて一度もしたことがないようなひとよ? それがどうして、あんな男に殺されなきゃならないのよ?」
彼女は智子を撥ねて動かなくなった電車を見つめながら、泣き崩れた。津川刑事が倒れそうになった彼女を、抱きしめるように支えた。
「ほんとうに、お気の毒です。理不尽なこってす」真栄田刑事が、言った。
「そうよ、智子は殺されるべきではなかったのよ」彼女は再びぼくの方を向き直って、言った。
「あなたが――、あなたさえ、バッグを拾おうとしてしゃがみ込まなかったら、きっと智子は、智子は、死ななくてすんだはずよ? そうよ、本当はあなたが、あの男に刺されて、殺されるはずだったんだわ」
ぼくが、殺されるはずだった?
ぼくの頭は真っ白になった。
「まあまあ、落ち着いてください。たとえ彼が立っていて、刺されていたとしても、結局彼の前にいた智子さんも、いっしょにホームから押し出されていたかもしれませんし、それに、彼にしたって、犯人の男にいきなり傘なんかで刺されて殺される筋合いなんかなかったんだから。
ねえ、そうでしょう? あなた、犯人の男、しってましたか?」真栄田刑事がぼくに、訊いた。
言葉がどうしても口から出てこなくて、ぼくはただ、頭を横に振っただけだった。
「そうなんですよ。だれも、あの犯人に恨みをかうようなことはしていない。
犯人も、ここにいる誰にも、ほんとうは恨みなんかありゃしないんだ。
つまりこれは、今、連続的に起きている、原因不明、動機不明の〝夢遊殺人〟だって、ことなんですよ」
それからぼくはどこにいって、どうやって家に帰ったのか、まったく憶えてはいない。どこかで夕飯を食べたのかもしれないし、食べなかったのかもしれない。とにかく、家に着いたときには、時刻はすでに午後十一時を過ぎていた。
ひどく疲れていた。疲れきって、すり切れていた。とにかくもう、このまま鉛のように眠ってしまいたかった。
けれども身体とは反対に、頭の中はわけのわからない思考が渦潮のようにぐるぐると際限なく渦巻いていた。先ほどの事故のことが、やはり頭から離れないのだ。そして、ひとつの言葉が耳鳴りのように響き続けている。
ぼくが、殺されるはずだった。
ぼくは眠りを誘発しやすいように、浴槽にぬる目のお湯をはり、長い時間それに浸かっていた。そして少し落ち着いてきたところで風呂からあがり、そのままベットにもぐり込んだ。
瞼を閉じる、つよく、つよく――。
そうしていつの間にか、ぼくは眠りにつくことができた。
けれど、この息苦しい眠りから、ぼくの悪夢がはじまったのだった。
To be continued.
「それじゃあ、あなた、どうです?」と真栄田刑事が次の女性を差した。
「わたしは、被害者の――智子の、友人です。
わたしたちは仕事を終えて、いっしょに帰宅するところでした」
その女性は俯いたまま静かに、話した。手には薄いコットンのハンカチを握っている。
「そうでしたか。亡くなられた方の、お知り合いでしたか。これは、とても残念なことでした」真栄田刑事が、言う。
「わたしは智子の右隣に並んで、彼女と今日一日の会社でのできごとや、今夜観るテレビドラマの話など、とてもたわいのないおしゃべりを楽しみながらも、不快な混雑の中で早く電車がきてほしいな、と思ったりしていました。
すると、向こうの方で、何かトラブルでもあったらしく、ひどくざわついていました。わたしと智子は、何かあったのかしら? と言い合いました。
そのさわぎは、だんだんとわたしたちの方へ近づいてきました。そしてそれは、大きなボストンバッグを抱えた作業着の男が、無理やりに並んでいるひとたちをかき分けて、ホームを移動しているためだとわかったのです。
並んでいるみんなが、眉をひそめてその男を睨んでいました。もちろん、わたしと智子も同じです。作業着の男が、わたしたちのうしろを何とか無事に通り過ぎたので、わたしと智子はほっとしました。
そのとき、うしろでどさっという何か物が落ちる音が聞こえて、わたしは振り返りました。その音は、作業着の男のボストンバッグに引っかかって、彼のバッグがホームに落ちて、中の本が散らばった音でした」
彼女はそう言うと、ぼくを差した。
「そして、彼はバッグを拾おうとしゃがみ込みました。
そのとき、彼のうしろに並んでいる、犯人の男の顔が見えました。尖った傘の先を真っ直ぐにかまえたその顔は、もう人間の顔ではありませんでした。悪魔です。思い出しただけで、怖くてぞっとします……」
その女性は両腕で自分の身体を抱きしめながら、がたがたと震えだした。
「落ち着いてください。大丈夫ですよ、犯人はもう、捕まっているんですから」
真栄田刑事はなだめるように、言った。
「男は、その悪魔のような面持ちで、雄叫びをあげながら傘を振り上げると、ためらいもなく智子の背中を突き刺しました。
そして、智子は――」
彼女はそこで声を詰まらせ、手に持ったハンカチで顔を覆った。
「どうして? どうして智子が、こんなひどい目にあわなきゃならないの? 智子は、とてもいいひとよ? 悪いことなんて、生まれて一度もしたことがないようなひとよ? それがどうして、あんな男に殺されなきゃならないのよ?」
彼女は智子を撥ねて動かなくなった電車を見つめながら、泣き崩れた。津川刑事が倒れそうになった彼女を、抱きしめるように支えた。
「ほんとうに、お気の毒です。理不尽なこってす」真栄田刑事が、言った。
「そうよ、智子は殺されるべきではなかったのよ」彼女は再びぼくの方を向き直って、言った。
「あなたが――、あなたさえ、バッグを拾おうとしてしゃがみ込まなかったら、きっと智子は、智子は、死ななくてすんだはずよ? そうよ、本当はあなたが、あの男に刺されて、殺されるはずだったんだわ」
ぼくが、殺されるはずだった?
ぼくの頭は真っ白になった。
「まあまあ、落ち着いてください。たとえ彼が立っていて、刺されていたとしても、結局彼の前にいた智子さんも、いっしょにホームから押し出されていたかもしれませんし、それに、彼にしたって、犯人の男にいきなり傘なんかで刺されて殺される筋合いなんかなかったんだから。
ねえ、そうでしょう? あなた、犯人の男、しってましたか?」真栄田刑事がぼくに、訊いた。
言葉がどうしても口から出てこなくて、ぼくはただ、頭を横に振っただけだった。
「そうなんですよ。だれも、あの犯人に恨みをかうようなことはしていない。
犯人も、ここにいる誰にも、ほんとうは恨みなんかありゃしないんだ。
つまりこれは、今、連続的に起きている、原因不明、動機不明の〝夢遊殺人〟だって、ことなんですよ」
それからぼくはどこにいって、どうやって家に帰ったのか、まったく憶えてはいない。どこかで夕飯を食べたのかもしれないし、食べなかったのかもしれない。とにかく、家に着いたときには、時刻はすでに午後十一時を過ぎていた。
ひどく疲れていた。疲れきって、すり切れていた。とにかくもう、このまま鉛のように眠ってしまいたかった。
けれども身体とは反対に、頭の中はわけのわからない思考が渦潮のようにぐるぐると際限なく渦巻いていた。先ほどの事故のことが、やはり頭から離れないのだ。そして、ひとつの言葉が耳鳴りのように響き続けている。
ぼくが、殺されるはずだった。
ぼくは眠りを誘発しやすいように、浴槽にぬる目のお湯をはり、長い時間それに浸かっていた。そして少し落ち着いてきたところで風呂からあがり、そのままベットにもぐり込んだ。
瞼を閉じる、つよく、つよく――。
そうしていつの間にか、ぼくは眠りにつくことができた。
けれど、この息苦しい眠りから、ぼくの悪夢がはじまったのだった。
To be continued.
終末の唄_022
しばらくすると、警察による現場検証がはじまった。
居残りさせられたぼくたちは、再び事件の起きたホームへと呼び出された。
幸い奇跡的に乗客に大きなけが人がいなかったことと、事件後の対処の仕方がよかったので、ぼくらが戻ったときには、ストの日のように、ホームの上に乗客の姿はまったくなくなっていた。
関係者だけが静かにそれぞれの役割をこなしていた。写真撮影やいろいろな検証が行われたあと、激しい雨の中、係員がぼろぼろになった遺体や、あちらこちらに飛び散った身体の一部や、その所持品などを収容していた。
「やあみなさん、お忙しいところ残っていただいて、どうもすみません。アタシ、真栄田と申します。
こっちは、津川刑事です。どうぞひとつ、ご協力のほどよろしくお願いしますよ」
ひょろっと背の高い高年の刑事はしわがれた声でそう言って、ぐっしょりと濡れた帽子を少し上にあげた。
「ええと――それでは、おひとりずつ、事件当時の状況を、憶えている限り細かく、正確に、お話してもらえますかな? ええと、それではまず、あなた、お願いします」
真栄田刑事はまず、わりに年のいったサラリーマン風の男を差した。
「わたしは、犯人の男の右隣に並んでいたのですが――事件が起きるまでは、とくに犯人の男に気を留めてもいなかったので、じつは何も憶えてはいません」と男が、言った。
「ただ、すごく混雑していて、新聞もうまく読めない状況で、うんざりしながら並んでいたんです。すると突然、その男が大きな叫び声をあげて、持っていた傘を前に並んでいた女性の背中に、いきなり突き刺したんですよ。そして、そのままその女性は……」
「いきなり、ですか? 何か、前触れみたいなものもなく?
たとえば、犯人の男とその女性の間で何か口論があったとか?」
真栄田刑事が、訊いた。その横で津川刑事が手帳に証言をメモしていた。
「いいえ。わたしのしる限りでは、そういったことはなかったようですが」
「そうですか。いや、どうもありがとうございます。
それでは、いまのお話を受けて、どなたか、犯人の男が突然叫び声をあげたそのきっかけを見た、という方はいませんか?」
だれもが沈黙していた。
雨がプラットホームの屋根を叩く音だけが、やけに大きく響いている。
津川刑事は手帳にペンを当てたまま、上目使いで全員の顔を眺めた。
「何でもいいんですよ? どんな小さなことでもいいんですよ? ほら、違っていても、ぜんぜん構わないんですから、何かありませんかねえ?」
真栄田刑事も、ぼくたちをゆっくりと見回した。
「あのう……」
「はい、お嬢さん。何か見ましたか?」
「アタシ、犯人の男のうしろに並んでいたんだけどォ――だからァ、男の表情や、その変化やらについてはあんまりよくわかんないんだけどォ――男が狂う前に、確か、黒いウィンドブレイカーのフードを被って、白い大きなマスクをした男がァ、犯人の男の横に並ぶのを見たのよォ」
雨のせいで茶色い髪がくるくるとカールしているのを気にしながら、その女子高校生は、言った。
「それでねェ――マスクをこう、下にずらしてさァ、何か話しかけていたような気がするのよォ。
それでもすぐにィ、そのマスクの男はそこから消えちゃってェ、そしたら前の男がいきなり叫び声をあげてェ、こう、傘を振り回したあとォ、女のひとを刺したのよォ」
「ほう、そいつはたいそう興味深い情報だね。いや、ありがとう、お嬢さん」
To be continued.
居残りさせられたぼくたちは、再び事件の起きたホームへと呼び出された。
幸い奇跡的に乗客に大きなけが人がいなかったことと、事件後の対処の仕方がよかったので、ぼくらが戻ったときには、ストの日のように、ホームの上に乗客の姿はまったくなくなっていた。
関係者だけが静かにそれぞれの役割をこなしていた。写真撮影やいろいろな検証が行われたあと、激しい雨の中、係員がぼろぼろになった遺体や、あちらこちらに飛び散った身体の一部や、その所持品などを収容していた。
「やあみなさん、お忙しいところ残っていただいて、どうもすみません。アタシ、真栄田と申します。
こっちは、津川刑事です。どうぞひとつ、ご協力のほどよろしくお願いしますよ」
ひょろっと背の高い高年の刑事はしわがれた声でそう言って、ぐっしょりと濡れた帽子を少し上にあげた。
「ええと――それでは、おひとりずつ、事件当時の状況を、憶えている限り細かく、正確に、お話してもらえますかな? ええと、それではまず、あなた、お願いします」
真栄田刑事はまず、わりに年のいったサラリーマン風の男を差した。
「わたしは、犯人の男の右隣に並んでいたのですが――事件が起きるまでは、とくに犯人の男に気を留めてもいなかったので、じつは何も憶えてはいません」と男が、言った。
「ただ、すごく混雑していて、新聞もうまく読めない状況で、うんざりしながら並んでいたんです。すると突然、その男が大きな叫び声をあげて、持っていた傘を前に並んでいた女性の背中に、いきなり突き刺したんですよ。そして、そのままその女性は……」
「いきなり、ですか? 何か、前触れみたいなものもなく?
たとえば、犯人の男とその女性の間で何か口論があったとか?」
真栄田刑事が、訊いた。その横で津川刑事が手帳に証言をメモしていた。
「いいえ。わたしのしる限りでは、そういったことはなかったようですが」
「そうですか。いや、どうもありがとうございます。
それでは、いまのお話を受けて、どなたか、犯人の男が突然叫び声をあげたそのきっかけを見た、という方はいませんか?」
だれもが沈黙していた。
雨がプラットホームの屋根を叩く音だけが、やけに大きく響いている。
津川刑事は手帳にペンを当てたまま、上目使いで全員の顔を眺めた。
「何でもいいんですよ? どんな小さなことでもいいんですよ? ほら、違っていても、ぜんぜん構わないんですから、何かありませんかねえ?」
真栄田刑事も、ぼくたちをゆっくりと見回した。
「あのう……」
「はい、お嬢さん。何か見ましたか?」
「アタシ、犯人の男のうしろに並んでいたんだけどォ――だからァ、男の表情や、その変化やらについてはあんまりよくわかんないんだけどォ――男が狂う前に、確か、黒いウィンドブレイカーのフードを被って、白い大きなマスクをした男がァ、犯人の男の横に並ぶのを見たのよォ」
雨のせいで茶色い髪がくるくるとカールしているのを気にしながら、その女子高校生は、言った。
「それでねェ――マスクをこう、下にずらしてさァ、何か話しかけていたような気がするのよォ。
それでもすぐにィ、そのマスクの男はそこから消えちゃってェ、そしたら前の男がいきなり叫び声をあげてェ、こう、傘を振り回したあとォ、女のひとを刺したのよォ」
「ほう、そいつはたいそう興味深い情報だね。いや、ありがとう、お嬢さん」
To be continued.