終末の唄_022
しばらくすると、警察による現場検証がはじまった。
居残りさせられたぼくたちは、再び事件の起きたホームへと呼び出された。
幸い奇跡的に乗客に大きなけが人がいなかったことと、事件後の対処の仕方がよかったので、ぼくらが戻ったときには、ストの日のように、ホームの上に乗客の姿はまったくなくなっていた。
関係者だけが静かにそれぞれの役割をこなしていた。写真撮影やいろいろな検証が行われたあと、激しい雨の中、係員がぼろぼろになった遺体や、あちらこちらに飛び散った身体の一部や、その所持品などを収容していた。
「やあみなさん、お忙しいところ残っていただいて、どうもすみません。アタシ、真栄田と申します。
こっちは、津川刑事です。どうぞひとつ、ご協力のほどよろしくお願いしますよ」
ひょろっと背の高い高年の刑事はしわがれた声でそう言って、ぐっしょりと濡れた帽子を少し上にあげた。
「ええと――それでは、おひとりずつ、事件当時の状況を、憶えている限り細かく、正確に、お話してもらえますかな? ええと、それではまず、あなた、お願いします」
真栄田刑事はまず、わりに年のいったサラリーマン風の男を差した。
「わたしは、犯人の男の右隣に並んでいたのですが――事件が起きるまでは、とくに犯人の男に気を留めてもいなかったので、じつは何も憶えてはいません」と男が、言った。
「ただ、すごく混雑していて、新聞もうまく読めない状況で、うんざりしながら並んでいたんです。すると突然、その男が大きな叫び声をあげて、持っていた傘を前に並んでいた女性の背中に、いきなり突き刺したんですよ。そして、そのままその女性は……」
「いきなり、ですか? 何か、前触れみたいなものもなく?
たとえば、犯人の男とその女性の間で何か口論があったとか?」
真栄田刑事が、訊いた。その横で津川刑事が手帳に証言をメモしていた。
「いいえ。わたしのしる限りでは、そういったことはなかったようですが」
「そうですか。いや、どうもありがとうございます。
それでは、いまのお話を受けて、どなたか、犯人の男が突然叫び声をあげたそのきっかけを見た、という方はいませんか?」
だれもが沈黙していた。
雨がプラットホームの屋根を叩く音だけが、やけに大きく響いている。
津川刑事は手帳にペンを当てたまま、上目使いで全員の顔を眺めた。
「何でもいいんですよ? どんな小さなことでもいいんですよ? ほら、違っていても、ぜんぜん構わないんですから、何かありませんかねえ?」
真栄田刑事も、ぼくたちをゆっくりと見回した。
「あのう……」
「はい、お嬢さん。何か見ましたか?」
「アタシ、犯人の男のうしろに並んでいたんだけどォ――だからァ、男の表情や、その変化やらについてはあんまりよくわかんないんだけどォ――男が狂う前に、確か、黒いウィンドブレイカーのフードを被って、白い大きなマスクをした男がァ、犯人の男の横に並ぶのを見たのよォ」
雨のせいで茶色い髪がくるくるとカールしているのを気にしながら、その女子高校生は、言った。
「それでねェ――マスクをこう、下にずらしてさァ、何か話しかけていたような気がするのよォ。
それでもすぐにィ、そのマスクの男はそこから消えちゃってェ、そしたら前の男がいきなり叫び声をあげてェ、こう、傘を振り回したあとォ、女のひとを刺したのよォ」
「ほう、そいつはたいそう興味深い情報だね。いや、ありがとう、お嬢さん」
To be continued.
居残りさせられたぼくたちは、再び事件の起きたホームへと呼び出された。
幸い奇跡的に乗客に大きなけが人がいなかったことと、事件後の対処の仕方がよかったので、ぼくらが戻ったときには、ストの日のように、ホームの上に乗客の姿はまったくなくなっていた。
関係者だけが静かにそれぞれの役割をこなしていた。写真撮影やいろいろな検証が行われたあと、激しい雨の中、係員がぼろぼろになった遺体や、あちらこちらに飛び散った身体の一部や、その所持品などを収容していた。
「やあみなさん、お忙しいところ残っていただいて、どうもすみません。アタシ、真栄田と申します。
こっちは、津川刑事です。どうぞひとつ、ご協力のほどよろしくお願いしますよ」
ひょろっと背の高い高年の刑事はしわがれた声でそう言って、ぐっしょりと濡れた帽子を少し上にあげた。
「ええと――それでは、おひとりずつ、事件当時の状況を、憶えている限り細かく、正確に、お話してもらえますかな? ええと、それではまず、あなた、お願いします」
真栄田刑事はまず、わりに年のいったサラリーマン風の男を差した。
「わたしは、犯人の男の右隣に並んでいたのですが――事件が起きるまでは、とくに犯人の男に気を留めてもいなかったので、じつは何も憶えてはいません」と男が、言った。
「ただ、すごく混雑していて、新聞もうまく読めない状況で、うんざりしながら並んでいたんです。すると突然、その男が大きな叫び声をあげて、持っていた傘を前に並んでいた女性の背中に、いきなり突き刺したんですよ。そして、そのままその女性は……」
「いきなり、ですか? 何か、前触れみたいなものもなく?
たとえば、犯人の男とその女性の間で何か口論があったとか?」
真栄田刑事が、訊いた。その横で津川刑事が手帳に証言をメモしていた。
「いいえ。わたしのしる限りでは、そういったことはなかったようですが」
「そうですか。いや、どうもありがとうございます。
それでは、いまのお話を受けて、どなたか、犯人の男が突然叫び声をあげたそのきっかけを見た、という方はいませんか?」
だれもが沈黙していた。
雨がプラットホームの屋根を叩く音だけが、やけに大きく響いている。
津川刑事は手帳にペンを当てたまま、上目使いで全員の顔を眺めた。
「何でもいいんですよ? どんな小さなことでもいいんですよ? ほら、違っていても、ぜんぜん構わないんですから、何かありませんかねえ?」
真栄田刑事も、ぼくたちをゆっくりと見回した。
「あのう……」
「はい、お嬢さん。何か見ましたか?」
「アタシ、犯人の男のうしろに並んでいたんだけどォ――だからァ、男の表情や、その変化やらについてはあんまりよくわかんないんだけどォ――男が狂う前に、確か、黒いウィンドブレイカーのフードを被って、白い大きなマスクをした男がァ、犯人の男の横に並ぶのを見たのよォ」
雨のせいで茶色い髪がくるくるとカールしているのを気にしながら、その女子高校生は、言った。
「それでねェ――マスクをこう、下にずらしてさァ、何か話しかけていたような気がするのよォ。
それでもすぐにィ、そのマスクの男はそこから消えちゃってェ、そしたら前の男がいきなり叫び声をあげてェ、こう、傘を振り回したあとォ、女のひとを刺したのよォ」
「ほう、そいつはたいそう興味深い情報だね。いや、ありがとう、お嬢さん」
To be continued.