泳ぐ写真家龍之介 -102ページ目

「あの黒人は今?」

どうしているのだろうか。

ニューヨークの5thアベニュとクリストファーストリートの交差点付近に

その黒人の青年はいた。


彼は、ころあいを見計らって、歩道に倒れると、胃の辺りを押さえて

苦しんでいた。いや、苦しむふりをしていた。

それを見てびっくりして、彼を助けようとする歩行者から、お恵みをいただく魂胆だったのだ。

観光客が多数を占めるその地域では

実際に、よい稼ぎになっていたらしい。


私も最初はびっくりした。しかし、空手道場の仲間から

「ああ、あいつは有名だよ」と聞かされ

その正体を知ったのだった。


帰国して2年後、ニューヨークにロケに行ったら、

その青年は同じ場所で同じことをやっていた。

あきれるというより、懐かしさにたまらなくなった。


2004年頃にニューヨークから帰ってきた友人に、

もしかして、その黒人を知らないか聞いてみたら、

驚くことに、知っていた。

彼が帰国する直前まで「仕事」をしているのを目撃したという。


アメリカのプロフェッショナルは半端ではない。

それは詐欺の世界でも同様だ。

ああ!あの黒人青年、いや黒人中年か?

彼は元気でいるのだろうか!


「大統領予備選」

ノースカロライナ州の予備選でもオバマさんが勝ったようだ。

ノースカロライナ州というと日本には、あまり縁がないところだが、

一度だけ仕事で行ったことがある。


とても裕福な州だというのが第一印象だ。

一応南部の州だが、

植民地色が色濃く残るサウスカロライナ州とは違って、

あまり南部だという感じがしない。

そこにあるデューク大学のクラブハウスで食事をしたことがある。

クラブハウスだから「クラブハウスサンド」だ。

ということで、4人で4人分オーダーした。


しばらくすると、巨大な皿に、4塊サンドイッチが乗って登場した。

サンドイッチの塊の間には、親指ほどのフライドポテトが敷き詰めてある。

「すごい!さすがアメリカ!しかし、4人で食べきれるかな?」

なんて話をしていたら、

後ろの方から、さらに同じものが3皿登場した。

目が点になっていると、

同時にオーダーしたアイスティーも登場した。

ビールのピッチャーみたいな巨大なコップに料理箸のようなストローが突き立っている。

それらがテーブルの上に並べられ、ウェイターさんが「エンジョイ!」と言って

その場を去ると、

皆無言で、テーブルの上の「あり得ない」量のランチを見ているだけだった。


ゴルフコースもすごかった。

クラブハウスも含め、規模においても、豪華さにおいても、

日本の名門コースとは比較にならなかった。

これが大学のゴルフコースなのか?と皆ため息をついた。


やはりアメリカは途方もなく豊かだ。

というのが実感だった。

「海外ロケ」

海外ロケが、2000年を境に少なくなった。

いや、ほとんど無くなった。

インターネットとADSLが急速に普及してきた時期と重なっている。

そのころ、マリクレールのフランス版の仕事をした。

東京と京都での撮影だったが、

フランスの編集スタッフと、電子メールとファクスだけで

かなり細かなやり取りができた。

チャットのような感じでやりとりしたので、

会議に参加しているような気がしないでもなかった。


だから、逆もできるということだ。

現地にカメラマンが居れば、

メールでやりとりできて、撮影データはすぐ送信できる。

パリでの撮影でも

現地にライターさんとカメラマンがいれば、

日本にいるような感じで仕事ができる。

海外ロケの必要はなくなる。


雑誌の売り上げもその頃から衰退している。

ネットと携帯の普及が始まってからだ。

雑誌広告の出広料が、ネット広告のそれに追い抜かれてしまった。


だから、私は、雑誌黄金時代の最後の証人になるかもしれない。


ただ気になるのは、雑誌に代わってネット媒体が普及してきたが、

ネット絡みの仕事は、恐ろしくギャラが安いのだ。

紙媒体絡みのネットだとギャラは、常識的レベルだが、

ネットだけだと、目が点になる。

デザインもそうだ。

ウェブデザインやコーディングの料金は、

一流のクライアントは別にして、印刷媒体から比較すると

ちょっと引いてしまう。


これでは、優秀なクリエーターが育たないのでは?と思う。

やはり、業界にクリエーターを「育てる」という意識がないと

レベルは上がってこないと思う。

ネット系の経営者に、今までのような

出版や、広告業界に見られた「若旦那」的な、パトロン性を求めるのは無理だろう。

お金のことしか頭にないようだから。


一部の優秀なクリエーターは、いつの時代でも生き残っていくが、

全体の底上げをしないと、質は落ちていく一方だ。