おぉ⁉ いつの間に建ったんだろう。
近づいてみたら、どう見ても新しくはない。彫られた日付をみたら古かった。
道路と公園の間にある植え込みは草木が生えて、ちょっとうっそうとしている。
その草が刈られて初めて石碑を認識したのだ。
公園の中の植え込みも刈られて、すっきりとしていた。そしてそこに、菜の花を見つけた。
たったの二株ひょろりと生えているだけなのだけれど、それにずっと気づかずにいたのだ。
見ているようで見えていないんだな。僕は自分の目の不確かさにかなり驚いた。
自転車を押しながら日差しを避けられるベンチを目指していた時、それは現れた。
鳩の死骸だ。それも、頭の部分がない。
野良猫にやられたのだろうか。
鳩の死骸を見るのは、初めてのような気がする。

僕は近くのベンチに腰を下ろした。でも、ずっと鳩のことが気になっていた。
すると、小学校の3年生ぐらいだろうか、女の子3人が鳩の前で自転車を止めた。
その女の子3人は嫌がることもなく、怖がることもなく鳩を見つめていた。
その顔は、事件に遭遇した探偵並みに真剣だった。
「4匹目だ」
鳩はまあ、匹とは言わないけれど、子供のことだから仕方がない。
4羽というのはこの公園の中でのことだろうか。それとも他でも見たということだろうか。
鳩というと公園か駅前広場と相場が決まっているのだが。
広げた文庫本を読んでいた時だった。
「ぐわっ」と妙な声がした。
見るとグレーの作業着を着た人が黒いビニール袋を手にしている。そこにあった鳩の死骸はすでにない。
誰かが区役所にでも連絡したのだろうか。
居心地の悪さを感じた僕は、また自転車を押した。
植え込みの中にハトの羽が散らばっていた。あの鳩のものだろうか、それとも違う鳩のものだろうか。その横に黄色いタンポポが咲いている。

惨劇とありふれた日常。
日常のすぐ隣にある非日常。
僕は世界を思った。
戦争、テロ、事件、事故。
あるいはいじめ問題。
日常と惨劇の間にある越えられない壁の厚さに、命を落とそうとするひとは、きっと呆然とするに違いない。アウシュビッツのガス室の壁に残されたとされる人々の爪の跡が蘇った。

アウシュビッツのガス室
うつぶせに横たわり、浅い息をする。埃臭い道路の匂いが鼻を満たす。
うっすらと見える視界の中を、人々の足と靴と靴音が忙しなく通り過ぎてゆく。
知らんぷりで行き過ぎるその足の主たちもまた、いつか地面に横たわる。
後悔しないためにも、足を止めなければならないことを僕は知っている。
その人のためではなく、後悔しないためだというのが僕の限界を示しているけれど、それでも僕は声をかける。
「大丈夫ですか?」
後悔だらけの人生で、これ以上の後悔は自殺行為だから。
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